第二百五十七話:真の手刀
横穴を突破した余韻に浸る僕等だったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
「隠したよー」
フクちゃんが結晶の欠片と糸で横穴をカモフラージュしてくれた。
一度横穴に戻り、頭を寄せて話し合いを行うことになった。
「やることはたくさんですわ。すぐにメレア……囚われた私のお友達を救いますわ。結晶化はしていても中の構造は変わっていないはずですの、道案内は任せてくださいですわ」
「モグッ。モグムッ!」
ミーナさんとモグ太は、囚われているモーグ族や友達を救いたいようだ。
鼻息も荒く、すぐにでも突撃しそうになっている。
「落ちついてくださいミーナさん。まずは、状況を把握しないと……砦がどうなっているか、凡そでも調べる必要があります。できれば、横穴ができたことも冒険者ギルドやファスに伝えたい」
「やることいっぱい。どうする?」
首を傾げる少女姿のフクちゃん。ぶっちゃけ鍵を握るのはフクちゃんをどう使うかだ。
ファス達への連絡、【隠密】を使った砦への侵入。この場所にいる全員が何をできるかを考えて効率的に動かないと……。
ああでもない、こうでもないと話し合うが内容は纏まらなかった。
僕としてはとりあえず、砦の中をフクちゃんと一緒に調べようと思ったのだけど、ミーナさんとモグ太は付いてくると言って聞かないのだ。
「僕とフクちゃんなら、壁や天井を動き回れるし、忍び込むのは慣れています。まず僕らが中を調べて大まかな砦の状況を把握してルートを二人に見せるのがいいと思うんです」
「ここで待つだけなんて絶対に嫌ですわ」
「モグッ」
「モグ太もこう言っています。グスっ、私達も付いていきますの……。記憶力には自信がありますの、きっと役立ちます」
「モグモーグ、モグモ。モグモッグ」
「モグ太もそうだって言っていますの」
「何でモグ太の言っていることわかるんですか……」
「同じ想いを持っているからですわ。ふぇええええん」
ついには泣き出してしまった。横穴が空いたテンションで完全に感情が暴走している。
……しかし実際の所、大まかでも砦の内部が分かっている人がいることは助かるし、この状態のミーナさんとモグ太を置いて行くのも不安だ。しかし、内部にはリザードマンが大量にいるだろうし、危険度は飛躍的に上がるはず。どうすればよいか迷っていると、クイッと裾が引っ張られる。
見ると、フクちゃんが紅い瞳をこちらに向けていた。
「だいじょぶ、マスター。ボクが守る、連れてってあげよ」
ちょっとびっくり、人の感情に疎いフクちゃんが二人に肩入れするとは思わなかった。
絹のような白髪を撫でると、フクちゃんは微笑を浮かべた。本当に、フクちゃんの成長には驚かされるばかりだな。
「……わかった。ミーナさん、モグ太、一緒に行こう。だけど、指示には従ってくれ。それと絶対に無茶をしないこと。今回はあくまで砦の状況を調べるだけだ」
砦での僕らの任務は、背後からの奇襲と人質の解放。砦を包囲しているファス達や冒険者ギルドとタイミングを合わせる必要がある。
「かしこまりましたですわ」
「モグ」
話は纏まった。一度キャンプに戻って潜入の為の準備を整える。と言っても僕は手甲を取り出して取り付けるだけ。フクちゃんは自分の恰好をシャツと短パンの動きやすい姿にしていた。ミーナさんは匂いを隠す為の香を焚いていた。
「苔芋虫の糞から作られた香ですの。狩人はこれで体臭を森になじませるのですわ。エン・アルボソから少しもらいましたの」
少しすえた匂いと、土の香り。確かに森で嗅ぐような匂いだ。
煙を浴びて体臭を塗り替える。見ればミーナさんの金髪は土や埃で汚れている。
泣き虫でどうなるかとも考えたが、やはりこの人は強い人だ。各々が準備を完了し、再び横穴へ赴く。
「じゃあ、行くぞ」
「イエス、マスター」
「案内は、任せてくださいまし」
「モグ……モグッ!!」
モグ太がボロボロとなった父親が変化したツルハシを掲げ、それが侵入の合図となった。
「まず、僕とフクちゃんが先行します。二人は安全が確保できるまで動かないでください」
横穴で繋げた場所は、おそらく元々砦の備品庫だった場所だ。リザードマン達はあまり利用していない。石造りで壁や天井が補強されているが、入り口は荒々しく拡張している。
体の大きなリザードマンが通れるように、扉を取っ払ったのだろう。
「フクちゃん」
「だいじょぶ、いない」
「じゃあ、見てみるか……うわぁ…」
顔を出すと、一気に視界が開ける。見えた物は想像以上に異常な物だった。
中の部屋や通路などは大きくぶち抜かれ、吹き抜けになっていた。結晶化した外壁に沿って通路と部屋があるようだ。巨大な吹き抜けには吊り橋がかかっており、リザードマン達が行き来しているのが見える。迫り出した部分があり、そこが部屋になっているようだ。内部は外と違い、結晶化していない部分も多くあるが、一定の距離に結晶柱があり薄紫の光を放ちながら明滅している。
見えている部分以外にも空間があるようで、何がどうなっているのか把握は難しい。
「これは……大変だぞ」
「ひろーい」
ミーナさん達を連れてきたことは正解だったかもしれない。外から見ただけでも鉱山砦は巨大だと思っていた。しかし、実際は地下に広大なスペースが伸びている。
『鉱山』というものを甘く見ていた。この場所から人質達を解放しなければならないのだ。
安全を確認して、ミーナさんとモグ太を呼び寄せる。二人(一人と一匹だけど)は驚きはしたもののある程度は理解していたようだ。周囲を簡潔に調べて現在地を把握したようだ。
「結晶竜が動くために、中央のフロアを吹き抜けにしたのでしょう。砦の後ろ側は吹き抜けになっていますわね。右はここからはわかりませんの」
「モグ、モグメメ~」
「この下、穴掘ってる。だって」
「えっ、見えているのって半分なのか」
てっきり、砦そのものをぶち抜いたのかと思った。
「鉱石が取れる場所を探して、掘っていましたから上も下も穴だらけですの。もちろん、鉱山部分も多くあるので、まだ掘っていない場所が上にもあったのですわ。あくまで外に面している部分を中心に砦にしているだけですの。下にはさらに広大な空間が広がっていますの」
「モグっ」
「人質解放が優先だ。どこにいるか見当はつきますか?」
「……正直、構造が変わりすぎていて難しいですわ。でも、檻や食料の貯蔵庫のような部分は砦の前面にあったはずですわ。この地下に続いている巨大な空間はおそらく聖宝が置かれている場所へ続いているのですわ」
「グランド・マロと同じなら、ダンジョン化の儀式も核は地脈に近い地下でした」
「下に、気配かんじる。強い力がある」
巨大な穴を覗く、この下に結晶竜がいることは間違いないだろう。ダンジョン化の儀式もそこにあると考えるのが自然だ。
「モグ~」
モグ太がツルハシで数十メートル上にかかる、幅が5メートルはありそうな大きな吊り橋を指し示す。
リザードマンが森で狩った獲物を運んでいる最中のようだ。
「やはり、砦としての機能は軍と相対している砦の前面に集中させて、儀式は結晶壁で守られている背の部分に集中させているようですわ。穴掘りならモーグ族は地下に連れられていますの。結晶化のせいで砦に取り残されていたエルフは……砦の前面にいる可能性が高いですわ。正直、地下は大きく変わっていて、道はわかりません。でも砦の様相が残っている前面なら攻略しやすいですわ」
ミーナさんの友達を助けるなら砦の前面、モーグ族を助けるなら砦の背面から地下を探す必要があるってことか。さて、どこから手を付けるか。
「モグっ。モググ、モグメ」
「仲間、穴掘り得意、元気、エルフ助けるべき。だって」
悩んでいた僕達にモグ太が提案する。
「……モグ太。貴方も仲間が心配のはずですわ」
「モグム」
掲げられたのはツルハシは吊り橋の先から繋がる、砦の前面を示されていた。
小さな瞳は真っすぐにミーナさんを見ていた。
「感謝します。貴方こそはこの場所の聖獣、エルフの民は決してモーグ族への感謝を忘れませんわ」
優雅なカーテシー。今度は涙を流さずにミーナさんは決断した。
「砦の前面を調べましょう。人質とエルフの軍の攻め手も見つかるかもしれません。リザードマン達の情報を持ち帰るのですわ。その後に地下を調べて、モーグ族を解放しますの」
「了解。前面上部を目指そう」
とは言ってもリザードマンはあちこちにいるからな、吊り橋を使うと一発で見つかってしまう。どうするか……。
「マスター。あそこー」
フクちゃんが指差すと、吹き抜けから見える部屋が目に入った。この場所からは近く、吊り橋がかかっている場所からは角度的に中をのぞくことができなさそうだ。
数体のリザードマンが出入りしている。詰所だろうか? 確かにあそこを経由すれば、そのまま僕等でミーナさんとフクちゃんを背負って砦の前面まで行けそうだ。あちこちにリザードマンがいるのなら減らすのが手っ取り早い。
「正面のちょい上に見えるあの部屋を制圧して、そこから上に昇りましょう。あそこなら上にいるリザードマン達は気づかないはずです」
「へ? 制圧って、あくまで砦の状況を調べるだけだと……潜入でしてよ? 見つかっては元も子もないですの」
「モグモ?」
ハハハ、何言っているのだろう。状況を調べるためにしているに決まっているじゃないか。
全員倒せば、見つからないのと同じだ。
ギチギチと手甲を締め直す。ちょっとだけストレッチ。タイミングを見計らって
「フクちゃん、中に何体いるかわかる?」
「わかんない。10か20」
入り口から中の広さを考えるとそのくらいか。
「5秒、一声もあげさせずにいくぞ」
「3秒でいい」
フクちゃんが糸を織り込んでロンググローブを両腕に纏わせる。その目は紅く爛と輝き、捕食者の表情となっている。
「ふぇ、何をするつもりですの?」
「潜入です」
地面を蹴る。フクちゃんとの連携に合図はいらない。周囲に警戒しながら、音を出さない【流歩】で壁を走り、天井から部屋に入る。中は獲物の解体場となっていた。助かる、ここなら血の匂いは誤魔化せるだろう。
中にはリザードマンが13体、うち紫鱗種は3体。
まずは、こいつらからだ。天井を蹴り、体の大きい紫鱗種の眼球に手刀を突き刺して脳を潰す。
もう一体の紫鱗種はフクちゃんが毒牙を突き立てていた。残り一体。【ふんばり】で姿勢を整えて飛び掛かる。【手刀】を横面に構え、全開の魔力を注ぎ込む。極限まで研ぎ澄ました薄氷のような魔力の刃。その脆さ故、正しく刃筋を立てないと使えなかった真の手刀。
「疾ッ!」
急所を守るように首に生やされた紫の鱗、そこをめがけて手刀を振り切った。抵抗はほとんど感じなかった。
ズルリと首が落ちる。そのまま【空歩】で移動し、通常種のリザードマン達に【呪拳:鈍麻】をかけながら声を出させず、心臓を貫いてまわった。
といっても、すでにほとんどがフクちゃんの糸と毒で行動不能だったけどね。フクちゃん……恐ろしい子。
「……2秒でよかったな」
「だねー。マスター、おめでと」
「うん。モグ太にも改めてお礼を言わなくっちゃな」
血を払い、今の手刀の感触を振り返る。真っすぐに自分と向き合う。弱さや後悔を強さに変えていく。
穴掘りを通じてモグ太から教わったことだ。空の旅を経て、ようやく一つの答えにたどり着けた。
さぁ、二人を呼ぼうか。
「……化け物ですの。グスッ、怖いですわ……化け物…」
「……モグゥ」
意気揚々と二人を呼んだ後、リザードマン達の死体を見てパニックになった二人を慰める羽目になった。ちなみにリザードマン達の死体はフクちゃんが美味しくいただいており、その様子をみたミーナさんが気絶をしたので、少し時間を取られてしまうのだった。
潜入()というわけで、砦の内部に潜入です。
更新が遅れてすみませんでした。頑張ります。
ブックマーク&評価ありがとうございます。もしよかったら、ポチって頂けると頑張れます。
感想&ご指摘いつも助かっています。感想がモチベーションです。一言でもいただけると嬉しいです。






