第二百四十九話:小さな仲間
「モググ~」
顔に手を当てて悶える魔物をしげしげと眺める。茶色の短い毛並みに、特徴的な鼻。
衣服のようなものなのか緑の腹巻をしている。体のわりに大きな手にツルハシを持っていた。
体長は1mを少しこす位で小柄だ。うん、モグラである。なんで腹巻しているのか知らんけど。
「ミーナさん。もしかして、この魔物……」
「モーグ・コボルト族ですわ。まだ子供の個体のようです。生き残りがこんな所にいたなんて、びっくりですの」
「まずそう」
食べちゃダメだぞフクちゃん。
「モ、モモモ、モグッ」
「あっ、起き上がった」
むくりと立ち上がった、小さくつぶらな瞳でこちらを睨みつける。
「……モグ~!?」
「逃げたぞっ」
「捕まえる?」
「いや、せっかくだし追いかけよう」
この横穴がどこに続いているのか気になるしな。ペンギンのようにダバダバと歩くモーグ族を追っかけていくが、すぐに行き止まりになる。ここは鉱山砦の内部になるのだろう、周囲の壁はわずかに土を残すばかりでほとんどが紫の結晶だ。
「凄いな、どうやってここまで……」
「モググ~」
行き止まりで頭をつけて、ブルブルと震えているモーグ族を見る。臆病な性格のようだけど、どうにかならないかな? 思案しているとフクちゃんがシャツの端を引っ張ってきた。
「怖い、助けてって言ってる」
「何言っているのかわかるのか?」
「わかる」
エッヘンと胸を張るフクちゃんの頭を撫でる。流石フクちゃん……有能な子。
「よし、ちょっと話してみよう。ねぇ、そこのモグラさん」
「モ、モグ?」
モーグ族がちらりとこっちを見る。
「僕等はこの砦に入りたいんだ。この横穴を掘り進んだのは君か?」
「……モグ」
「『そうだ』だって」
フクちゃんが訳してくれる。モグしか言ってないのにどうやって聞き分けているんだろ。
というか、モーグ族側は人間の言葉が理解できているのか。
「砦の内部のことを知っている君達に協力してほしかったんだ。この横穴を掘ることだって手伝いたい」
「モ、モググ~」
首を捻って悩んでいる。可愛いな。どうにか上手く説得できないか。
そうだ、アイテムボックスから食料を並べる。何か気に入ってもらえればいいが……。
「モ、モググ!」
モーグ族が反応したのは、砂漠で回収したサソリの殻。
「ヴェノム・スコルピオの殻か、これが欲しいのか? まだまだあるからあげるぞ」
「モーグ! モグモグ」
「『ちょうだい、信用する』だって」
「意外と簡単に信じてもらえるんだな」
「ちょ、ちょっとお待ちになって。ヴェノム・スコルピオって流砂の主と言われる大型の魔物と書物で読んだことがありますわ。どうやってそんな魔物の殻を手に入れたのですか?」
「遭難先で出くわしたから、生け捕りにして調理しました」
「ほどほどに美味しいの」
「意味がわからないですわっ!」
「モググっ」
モーグ族がツルハシを掲げる。どうやらついてこいと言う意味らしい。
横穴から出て、結晶柱の隙間をぬって進んでいく。すると、結晶柱で囲われた少し広めの場所に出る。道中が狭いので体の大きいリザードマンは入れないだろう。数十本のツルハシが積み重ねられており、どうやらここが彼の拠点らしい。
「モグっ」
「ここなら、ゆっくり話ができそうだな。さて、まずは自己紹介だな。僕の名前は吉井 真也。よろしく」
「フク、ご主人様の二番奴隷なの」
フクちゃんが平な胸を張ってモーグ族の前にでる。それを聞いてミーナさんがなぜかショックを受けている。
「二番……ミーナですわ。二番、奴隷……まだ先輩がいますのね。ならば私は三番奴隷ですわっ」
「やめてください。僕は認めていませんから」
「三番、もういる」
「えっ、そんなにたくさんいらっしゃるの? では私は四番と言うことに」
「4、5、6、7、8、までいる」
「ちょ、いくらA級冒険者だからって、節操がなさすぎですわ。英雄色を好むとはいいますが、限度がありますわよっ!」
襟を掴まれガクガクと揺すぶられる。
「誤解ですっ。フクちゃん、その話題はいったんストップだ」
小清水達を奴隷にするって話は、決着がついておらず、僕としては先延ばしにしたい話題だ。
……あれ? ファス、フクちゃん、トア、叶さん、千早、紬、留美子さんで七人だ。
8人目って誰だ? ナルミは奴隷契約はしていないし……まぁ、フクちゃんの勘違いだろう。
「モグっ。モグモグ、モググ、モグモーグ」
「名前は無いって言ってる。モーグ族の砦守りだって」
「やはり砦にいたモーグ族ですのね。しかし、名前が無いのは不便ですわ」
「マスターが、名付けてあげればいい」
「僕が? まぁ、いいけど。うーん」
トアに名前を付けた時とは違う、一時の物だろうし、気軽に思い付きで良いだろう。
「じゃあ、モグ太だ」
お腹の腹巻といい、お約束くらいの名前の方がしっくりくる。
「モググっ」
「それでいいって」
「安直ですの」
ミーナさんがため息をつくがしょうがない。思いついたのがそれだったんだから。
「じゃあ、改めて、よろしくなモグ太」
「モグッ」
ちびた手を握り握手をする。こうして、小さな仲間がパーティーに加わったのだった。
短いですが、いったん区切ります。
というわけで、砦攻略メンバーが揃いました。いよいよ穴掘りが始まります。
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