第二百四十六話:精霊の教え
冒険者ギルドの隠れ拠点である『エン・アルボソ』から出て、迂回しながら鉱山砦の背後へと向かう。
「す、すごいですわ。と、飛んでおりますの。わ、わ、月よりも早いですわっ!」
「そんなわけないでしょ。ちょ、あんまり。動かないで、舌噛みますよ」
(コイツ、ウルサイ)
フクちゃんの糸によって、僕の背中に固定されているミーナさんは、目をキラキラさせて周囲をキョロキョロと見渡しては叫んでいる。樹上を飛んでいるとはいえ、この辺はエルフの軍がいないリザードマンの縄張りだ。フクちゃんは移動しながらの索敵はあんまり得意じゃないし、僕に至ってはまるで役に立たない。
索敵に関してはファスやトアに普段頼り切りだからなぁ。
巨人族のガビジオさんからもらった地図を参考に進んでいるが、そろそろ、地面に降りないと現在地がわからないな。月と星空は名残惜しいが、この辺で降りるか。
「フクちゃん。そろそろ、地面に降りてモーグ族を探そう」
(アイアイサー)
「へっ、きゃあああ、急に降りないでくださいましぃいいいいい」
(……喉ヲ潰シテモイイ?)
「僕が口を塞いどくから勘弁したげて」
人見知り発動中なのか、ミーナさんには【念話】を飛ばしていないフクちゃんが物騒なことを言う。イライラしているので、ちょっと片言っぽい喋り方に戻っているな。
とりあえず、リザードマンを警戒しながら地面に降りる。あいからわず、分厚い枝葉の下は発光する苔と虫の明かりが頼りだ。
「地図によると、ここいらは元々鉱石を運ぶ道があったはずだけどな」
「うぅ、ヒック、怖かったです。せっかく良い景色でしたのに……道でしたら、ええと、あの樹から少し南ですわ」
「どの樹も同じにしか見えないけど」
「エルフは、樹を読みます。船乗りが星と風頼りにするように。森の民の感覚ですの」
糸を解いて背中からおりたミーナさんは、涙を高級そうなハンカチで拭きながら一点を指さす。僕にはわからないが、その辺は流石エルフと言ったところか。
(ボクも、慣れたら、わかる)
フクちゃんがちょっと張り合ってる。
日が遮られているので草の背が低いのは救いだが、土が柔らかく歩きづらい道を案内通りに進むと、木々の間隔の広い道へ出た。
土もしっかりとしており、これなら確かに重たい鉱石も運べるだろう。
しかし、至る所に結晶の柱が生えており、リザードマンの足跡がそこかしこにある。
「ここは……長居したくないな。周囲を警戒しながら離れよう。フクちゃん【空渡り】で糸を張る準備を――」
(マスター、あいつ、あそこー)
頭から肩に降りたフクちゃんが、八本脚の一本で示す方向では、ミーナさんが結晶柱を触っていた。
「この柱が……やはり、魔力を弾きますわ。ムム……あれ? シンヤ殿? 何してらっしゃるの? 道に出たのですから、早くおいでになればよろしいのではなくて?」
「グルルルウルルルルゥ」
その後ろから、槍を持ったリザードマンがニュっと顔を出している。
「そうそう、ぐるるって鳴き声も……ってイヤァアアアアアアアアア」
「素人にもほどがあるだろっ!! フクちゃん、投げるぞっ!」
(しょうがないなー、いいよ、マスター)
秘儀、フクちゃん投擲っ! ペタリとリザードマンに張り付いたフクちゃんが一瞬で大蜘蛛へと変化し、喉笛に喰いつく。
「ヒィイイイイイイイイ」
巨大フクちゃんを見たミーナさんは泡を吹いて、そのまま倒れた。
幸いリザードマンは一匹だけみたいだし、数十秒でフクちゃんが胃袋に収納した。
相変わらず、物理法則さんはどこにいったのやら。
「けぷっ。ごちそうさま」
大蜘蛛から少女の姿になったフクちゃんは、冷めた目で僕に担がれるミーナさんを一瞥する。
「捨てる?」
「一応、依頼主だからやめたげて。他のリザードマンに見つかる前に移動しよう」
友人を助けるって約束したしな。この道は危なそうだ。ミーナさんを担いで再び森に入る、しばらく駆け抜けると森と窪地の境目に出た。鉱山砦の背後が見える場所へだ。見晴らしがよいので木の陰に隠れて、月光に照らされる鉱山砦をせっかくなので観察する。
それは、紫の滝のように結晶の柱が山肌から隙間なく生えており、虫の一匹も入ることができないように見えた。
あまりに柱が鋭いので、体の大きいリザードマンは間をくぐるのは無理だろう。どうやって出入りしているのだろうか? 遠目に観察していると、一匹のリザードマンが砦に近づいた、すると結晶と結晶の間に隙間ができてニュルリと入っていった。『エン・アルボソ』の木の幹が開くのに似ている。なるほど、鉄壁なわけだ。
結晶柱のせいで攻めることはできないし、森はリザードマンがウロウロしている。包囲ができないわけだ。近づいて僕やフクちゃんの【空渡り】でなんとかならないだろうか?
どちらにせよ、やっぱり、勝手をしってるモーグ族の力を借りた方が良さそうだ。
「ううん……ハッ、先程の大きな蜘蛛の魔物は!?」
「ボクだよ」
「あら可愛らしいですわね、なぜこんな所に子供がいますの?」
「……とりあえず、安全な場所まで避難しようか」
森に入り、木々の上まで登って、フクちゃんに巣を張ってもらう。
火は起こせないので、干し肉と冷めたスープを晩飯にすることにした。
エルフなので肉に忌避感があると思ったのだが、ミーナさんはしげしげと干し肉を観察した後、躊躇なく口に入れた。
「モグモグ、美味しいですわっ。とても丁寧に調理してあって、美味です」
「……」
フクちゃんと顔を見合わせる。思えば、この人初対面の時も人族である僕に対して、差別的な反応をしていなかったな。背負う時ですら、なんか喜んでいたし。
「街のエルフは、肉を食べるのを嫌ってたんですけど、ミーナさんは平気なんですね」
「えっ? お肉は美味しいですわ。偶にですけど、お城でも季節の変わり目には食べますのよ」
「お城?」
「……えっ? えぇ、わ、私お姫様に仕えていましたから」
……なんか怪しいな。露骨に視線をそらしているし。
「そ、それに、お肉は森の恵みですわ。祝祭の時には肉を食べる儀式もありますのよ。普段から好んで食べるわけではありませんが、精霊に感謝をしながら食べるのは古くからの習わしですわ」
「僕らが知っているエルフの文化は、肉は食べないし、人族は下等な種族扱いですけどね」
「……エルフは森を守る民ですわ。その使命の為に他種族と敵対することはあっても、不当に差別するのは森の教えに反していますわ。誇りとは己の支えであり、他者を貶めるものではありません」
「えぇ……僕等が触れてきた文化と違いすぎて、どこから話せば良いのやら……」
「ミーナ、お肉あげる」
「フクちゃんがご飯を上げるだとっ!」
「いただきますわ。それにしても、本当にあなた、蜘蛛ちゃんですの? 不思議ですわー。シンヤ殿、よろしければ貴方様が経験したこの国の文化とやらをお教えくださいですわ」
どうやら、フクちゃんの中でミーナさんの評価が上がったらしい。ちなみに、巣を張るときにフクちゃんのことは説明しています。
「えと【雲港】がある。アルタリゴノの街へついてから――」
簡単に、これまでの旅で体験したエルフの様子に伝える。もちろんカルドウスによって歪められた価値観であることもしっかりと言っとかないとな。
ひとしきり話すと、ミーナはプルプルと振るえていた。ま、まさか。
「うっ、グスっ、そんなことになっているなんて、精霊の教えが無かったことになってますわ。大臣は何も……お父様がご病気になってから、私は一体……ナルちゃんと連絡も取れないし……エッグ、グスッ」
「なんで泣いているんですか? ま、まぁ、もしかしたら姫様の周辺までは、そんな話になってないし、仕えていたミーナさんも知らなかったとしてもしょうがないっていうか、多分、どっかの貴族が洗脳されてたとか……思えば、鉱山砦で姫様が囚われたのも罠だったのかもしれませんね。いいように誘導されたとか。だとしたら騙されたのは姫様だし、従者であるミーナさんは悪くないですよ」
「うわぁあああああああああん。私のせいですわああああああああ」
「だから、何で泣くんですかっ! 一応ここ危険地帯ですからねっ!」
連れてきたの失敗だったかもしれん。とか思いながら、大泣きするエルフメイドをなんとか宥めるのだった。
地雷を踏みぬく系主人公の真也君でした。そろそろ、別勢力視点とか書いていこうと思います。
ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がります。頑張ります。
感想&ご指摘いつも助かっています。メッセージなどでも元気をいただいています。ありがとうです。100万字まで後、もうちょっと、頑張ります!!!!






