第二百四十五話:メイドにガチ泣きされる
(ジー……)
「そんな目で見ないでくれ、フクちゃん」
頭に乗っているフクちゃんからの無言の抗議を受けながら、近場の拠点へと僕等は向かっている。
生き残った冒険者と、護衛対象のエルフのメイド達はポーションや回復魔術を受けてなんとか歩けるまで回復できたようだ。……先頭を行く僕にぴったりとついて来ているのは先程の重傷だった金髪エルフメイドなわけだど。
それなりに重症だったのに、元気になったようでなにより。怪我をするとダメージが回復しても精神的にキツかったりするのだけど、細身で儚そうな見た目とは裏腹にこのエルフメイドはタフなようだ。
おそらくは長い髪を、くるくるとお団子に巻いている。背丈は僕と同じくらいで、エルフらしく手足は長い、胸は……メイド服だからわかんないな。ちなみにメイド服だが、振袖のように袖が長いデザインだ。アナさんにでも質問したら詳しく教えてくれるのだろうけどな。
鼻筋はピンと通っており、目はファスに比べると丸い印象だ。なんか、エルフって皆美形だから麻痺しているけど、この人も現代日本ならばトップモデルと言われても納得できそうな容姿なんだよなぁ。
「あっ、あそこが拠点ですわね。冒険者殿」
そんなエルフメイドが前方を指さす。周囲はフクちゃんが警戒しているとはいえ、リザードマンが潜んでいる可能性はゼロではない。
「あの、メイドさん。下がってもらっていいですか? 斥候をしているので、護衛対象が傍にいると危ないんです」
「『メイド』ではなく、私のことはミ……ミーナとお呼びくださいまし。大丈夫、おかげ様ですっかり元気ですの。それに、先程も言いましたが到着いたしましたわ」
胸に手を当てて優雅に礼をする。へぇ、絵になるもんだな。
「ミーナさんですね。到着って、拠点なんて見えないですけど」
「偽装しているのですわ。あの拠点は、私……の主の先祖が作ったものですの」
「着いたぞ、エン・アルボソだっ!」「生きて戻ってこれた!」「すぐに虫を飛ばせ」
冒険者達がにわかに活気づく、そして腰の虫かごから蛍のような虫を巨木に向かって飛ばした。
虫の放つ光は、少しの時間空中に残るらしく、点滅させたり光の線を引いてサインを送っているようだ。傍から見る分には綺麗だな。
森は枝葉で日光が遮られており、光る苔で照らされているのみ、虫の光がよく見える。この国では虫のサインは有効なんだろう。
しかし、前方にはビルのような木があるだけで、拠点はおろか人の影すら見えない。
(あの木の中、人がいるよ)
フクちゃんからの念話。なるほど、巨木の内部が拠点になっているらしい。
巨木へ近づくと、幹の隙間が広がることで入り口が作られた。かすかに見える中はかなり広い、魔術で拡張をしているのだろう。虫の光がせわしなく点灯し、人影が見えた。
「どうした! 襲われた様子だが……怪我人は、すぐに治療室へ連れていけ」
中から現れた巨人族の男性が指示をだし、エルフや獣人の冒険者が怪我人を運んでいく。
「予定にあった従者達の護送だな。何があった?」
「紫鱗のリザードマンが現れてよ、元々の護衛はほとんど残っちゃいねぇ。そこのA級冒険者の助けがなけりゃ、全滅だったぜ」
獣人の冒険者が説明をして、巨人族の男性がこちらを向いた。
長い顎鬚と背中に背負った戦斧が威圧感を放っている。
一礼をして、獣人の紹介に応える。
「『特別』A級ですけどね。吉井 真也です。とにかく彼らに治療をお願いします」
「……B級冒険者のガビジオだ。人族のA級冒険者を見る機会があるとはな、彼らを助けてくれたこと、感謝する」
胸に拳を当てた姿勢で頭を下げられる。見かけによらず、穏やかな性格みたいでちょっと安心。
「偶然、通りかかっただけです。何人かはすでに亡くなっていました」
「変異種のリザードマンに関しては、こちらも把握している。被害も甚大だ。彼等を助けてくれたことに礼を言う。ここはエン・アルボソという、拠点だ。元は、どこぞの王族の別荘なんだがな。見かけは大きな木で、リザードマン達に見つかりにくい。元は要人の別荘だったことから、外側から入り口を開ける手段が限られているんだ。今は緊急の拠点として利用している」
「へぇ、冒険者ギルドが管理しているんですか」
「色々あってな。アルタリゴノのギルドは知っているか? そこから派遣されたのはよかったが、貴族達のごたごたのせいで、冒険者は待機をしながらこまごました戦場の依頼をこなしているんだ。ここはいわば、アルタリゴノの冒険者ギルドの出張拠点と言ったところだ」
「なるほど、僕もアルタリゴノからこの戦場に来ました。今は依頼を受けて鉱山砦の背後へ向かう途中です。……そうだ、モーグ・コボルト族を知りませんか?」
ヒルゼン老から言われた、鉱山砦に住んでいたという魔物について尋ねてみる。
「モーグ族か、彼等なら砦から離れた場所に逃げ込んでいる。ほとんどがリザードマンに殺されているが、一応群れが残っているはずだ。しかし、この状況でモーグ族なんぞ見つけてどうするつもりだ?」
「砦の内部に詳しいモーグ族がいれば案内をしてもらえます。僕は鉱山砦を背後から強襲する依頼を受けました」
「……正気とは思えんな。砦の後ろは結晶化が進み、鋼以上の硬度を持つ結晶が壁になっている。魔術は通用しないし、鉱山を掘り進んでいたモーグ族だろうとも、侵入はできないだろう……」
「やれることをやるだけです。じゃあ僕はこれで」
「待ちたまえ、我々が調べた範囲での周辺の情報が書き込まれた地図を渡そう。それと発煙筒もだ。貴族共のいさかいのせいで戦場から除け者にされて、手が空いていてな。何かあったら呼んでくれ」
「助かります」
正直かなり助かる。森は似たような景色が続くので、情報が書き込まれた地図があるだけで探索がずいぶん楽になるだろう。
丁寧にお礼を言って、隠れ拠点『エン・アルボソ』を後にしようとすると、腕を掴まれる。
「お待ちになって、あの砦の背後を突破すると聞きましたわ。私も連れて行ってください」
「へっ? いや、無理ですよ。危ないです」
グンと顔を寄せて、詰め寄ってくる。香草の匂いが鼻孔をくすぐる。
「こう見えても腕には自信がありますの、普通のリザードマンならば問題なく相手できます」
「何と言われても、連れてはいけないです。足手まとい……あの…」
ダバーとでも擬音がつきそうなほどに、漫画みたいな量の涙が流しながら、なんなら鼻水まで出してミーナさんが泣いていた。端正な顔立ちが台無しである。
「グズッ……だって、私のせいなのです、あの砦に残っているのは…私を庇って…うわあああああああああああん」
ガチ泣きである。周囲の冒険者や護衛達の視線がグサグサ刺さる。
(マスターが泣かしたー)
「いや、フクちゃん。そうは言っても、こればかりは――グフゥ!」
ミーナさんにタックルするように腰に抱き着かれる。
「わたくっ、私は、中の様子がわかります。秘密の通路も知っています。グスッ、連れて行ってくださいましっ、先の約束通り、私があなたのメイドになります。なんでも、なんでも、します。できますですわ。うわあああああああああん。私、誰も頼れませんの。そうだ、お金、お金も持っていますわ。宝石でも秘宝もなんでも差し上げますから、私の友達を、親友を助けてくださいましっ! グスッ、ズビッ、うえええええええええええん」
結局泣き叫ぶミーナさんを何とか宥めて、話を聞いてみる。
彼女の説明は支離滅裂だったが整理すると、どうやらミーナさん、あの砦に囚われているエルフの姫様の従者だったらしい。そのお姫様一行のうちの一人が親友で、ミーナさんを庇って『結晶竜』に捕まったと。
砦がリザードマンに落ちる前に、なんとか秘密の通路から逃げ出したが、自分を庇った親友のことが気になって貴族へ向かう従者一向に紛れ込んだらしい。なかなかぶっ飛んだ人である。
まぁ、ただ、なんていうか、嫌いじゃない。友達の為に泣き叫び助けを求める。
自分の命がかかった場面ですら、人に助けを求めなかった僕とはエライ違いだ。
話をすることで少し落ちついた、ミーナさんの前に屈んで目線を合わせる。
「わかりました。依頼、お受けします。ミーナさんの友達は僕が助けます。確約はできませんが、全力を尽くします」
「私を連れて行ってくださるの?」
「……危険ですよ、貴女の命を保証できません」
「構いませんわ。自分の身は自分で守ります。私、大事な友達を見捨ててまで逃げおおす気なんてさらさらありません。誇りだの価値だの、誰かに決められるのはうんざりですわ。私の価値は私だけが決めておりますの。先払い分ですわ、受け取ってくださいまし」
そう言って、ミーナさんは立ち上がり優雅にカーテシーをした。
「私、ミーナは冒険者、シンヤ様のメイドとしてお仕えいたします。何なりと御用を申し付けください、ですわっ!」
あっ、そうなるのか。……えーと、でも依頼は受けちゃったし。ここで変に訂正して、また泣かれても困るし。
「……フクちゃん。このことはファスには……」
(ダメ、マスターのうわきものー)
ですよねー。な、なんとか、うやむやにするしかないか。
こうして、砦攻略の為、ミーナさんを連れてモーグ族の元に向かうことになったのだった。
またもやメイドを抱えることに……。
更新遅れてすみません。
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