第二百四十話:噂の二人と死線の英雄
変異種の群れの最後の一匹の頭を殴り潰した後。劣勢からの逆転、エルフ達の共闘と個人的にテンションが上がることが続いたのでつい叫んでしまった。
「ちょっと、恥ずかしいな」
レベル上げと日々の鍛錬のおかげで、叫び声もかなりデカくなっているから、木々で反響してめちゃくちゃ響いてしまった。
さて、他の場所は大丈夫かな? ファス達なら問題は無いと思うが、心配ではある。
まずはトアのもとへ行くか。トアの【位置捕捉】は僕にも適用されるので、なんとなく場所はわかるのだ。
振り返り、エルフの軍へ歩み寄る。人族なので罵声や石くらいは覚悟していたのだが、そんなことはないようだ。それどころか、近づくだけで人垣が割れる。
歓迎されている? ちょっと安心して、周囲を見るとエルフ達は膝をつき両手を組んで祈っていた。
何に祈っているのだろうか?
「化け物……」「静まり給え荒ぶる精霊よ……」「ヒィ、命ばかりは」
……うん、きっとリザードマン達に襲われて祈っているだけだ。決して僕を怖がっていないだろう。
だって、さっきの戦いなんて共闘そのものだし。怖がられる要素ないじゃん。きっとそうだ。
そう考えないと、目から汗が出そうになるからな。
「旦那様!」
トアが走ってきた。後ろには冠をつけ、ひと際目立つ装備のエルフの男性もいる。きっと、この隊の指揮官だろう。
「トア。すごかった、完璧な援護だった。めっちゃ戦いやすかったよ。ありがとう」
「オラはなんもしてねぇべ。っと、それよりもこっちは、ここいらのエライ人のオリノビさんだ」
トアが紹介してくれた。うん、こっちも名乗るか。
「冒険者のシンヤ ヨシイです」
「……」
オリノビさんは馬を降りた後、胸に手を置き深く礼をした。
「オリノビ様、相手は人族です。そのような態度は周囲への誤解を招きますぞ」
周囲のエルフが焦ったように口を開くが、オリノビさんはジロリと睨みつけ黙らせる。
「誤解だとっ! 無礼者っ! この御方が、もしここで怒りを露わにした時、誰も止められんぞ。命が惜しくば黙っておれ! 申し訳ございません冒険者殿」
「……別に怒らないですよ。それより、他の戦場はどうなっていますか? すぐにでも助けに行きたいのですが?」
「あの激戦の後ですぞ……治療をお受けください。最高の治療師を用意します」
「えっ、必要ないですよ。もう治りました」
傷は塞がっているし、疲労も回復している。なんなら、昂っている今の方が調子がいい。
強いて言うなら全身血みどろだから、水でも被って洗い流したいだけだ。
「化け物……」「オーガですらまだ平和的だぞ」「戦闘狂…」
周囲の囁きが致命傷です。
「まぁ、旦那様ならそうだろうけんども、一応ポーションは飲んでおいた方がいいべ」
「わかった。じゃあ、さっそく情報が欲しいです」
背中のポーチから小瓶に入ったポーションを飲み干す。トアが作り、叶さんが祈りを込めた代物で果汁とファニービーの蜜が入っていて、売り物とは比べ物にならないほどに飲みやすい。
呆れた顔をするオリノビさんだったが、すぐに表情を引き締め直す。
うっし、僕も走れるように、ストレッチをしておこう。
「現状を把握する。隊を立て直せ、右翼の司令官への報告と他の襲撃場所の被害を知らせよ!」
不意に、気配が近づいてくる。うん? この感じは。上を見上げると影が二つ見える。
「その必要はありませんっ!」
(マスター。おまたせー)
「……これ、本当に嫌なんだけど……」
空からファス達が【空渡り】を使って降りてくる。特に叶さんはキラキラと光の粒子を纏い、黒髪を靡かせながら降りてくる光景は人族に差別意識のあるエルフにすら神々しさを与えているようだ。
……本人はガチで嫌がっているけど。エルフが多いためか人見知りのフクちゃんは、ファスのローブの中に隠れているようだ。
「空からだと、一体、誰だ」
「すでに、リザードマン達の殲滅は完了しています。ごしゅ……シンヤも大丈夫なようで、良かったです。初めまして、私はファスと申します。シンヤの仲間です」
「ギリギリだったけどね。ファス様」
応援の必要もなく、ファス達が片付けたらしい。
ファス『様』呼びが気に入らないのか睨みつけられるが、まぁここでは勘弁してもらおう。
「光を纏って降りた人族、それに翠眼……王族の応援でありましたか」
ファスと叶さんを見て、オリノビさんが盛大に勘違いをしている。
「私達は冒険者です。イワクラ家から応援を受けただけです。王族とは関係はありません」
「そんなはずが……いえ、事情がおありなのでしょう」
ファスの翠眼を見て勝手に納得してくれるのはありがたいな。エルフにとってはやはりファスの眼は特別なようだ。
「それで、シンヤ。これは一体どういう状況ですか? 周囲のエルフ達がごシンヤに祈りを捧げているようですが」
「……やっぱりこれ、僕に向けてなのか……僕は怖くない人族だよ」
「そりゃあ、エルフ達の渾身の魔術を物ともしないどころか、利用して戦うわ、リザードマンを素手で倒すわで、エルフから見たら悪夢みてぇな光景だったかんな。死んでも旦那様と敵対したくないからこうなってもおかしくねぇだ」
「当然です。生半可な魔術ではシンヤはビクともしません」
「あっ、やっぱり普段の光景って普通の魔術師からしたら怖いんだ」
あっけらかんと言い放つ二人の言葉がさらに胸に刺さる。もしかして、途中からエルフ達の魔術が苛烈になったのって、僕を倒そうとしていたのかなぁ。心の汗が目から止まらないんだけど。
「そこに、ファスとカナエが登場だからなぁ。もう完全に場面ができすぎだべ」
「……とにかく、場所を変えていいですか?」
リザードマンの槍衾の前に立っていた方がここにいるよりもずっと気が楽だ。
僕は心に傷を負ったが、軍へのダメージは軽微で済んだらしい。すぐに部隊を再編制して防護柵や魔術を利用して作られた堀などを作り、リザードマンへ備えているようだ。魔術主体の軍隊ってのは便利だな。普通の魔物なら相手にすらならないだろう。
僕らと言えば、オリノビさんが中央の本隊と右翼の司令官に連絡をしたらしく、右辺の本陣へ案内されている。
「そう落ち込むことはねぇだ旦那様」
「そうだよ、真也君。さっき聞いたけど、人族の英雄としてエルフの中では好意的な噂もあるよ」
(マスター。『死線』ていわれてた)
「ご主人様の名声が、ますます高まってるのは良いことです」
「悪評じゃなければいいんだけどなぁ?」
ヒソヒソと肩を寄せ合って話していると、蜥蜴に乗ったナルミが正面に見えた。
ちなみに女性姿だ。さくっと合流して、移動しながら話を始める。
「来たか、探したぞ。本陣でエルフの貴族と本隊の将軍も来ている」
「また、ややこしい話にならないといいけど」
「シンヤの噂は広まっていてな。冒険者ギルドにイワクラ家が能力を評価しているから、向こうも無碍にはしないだろう。そして、ファス、カナエ」
「はい」
「うん、何かな?」
「まずはファスだ。やはり翠眼とリザードマン討伐のことで、特別なエルフとして注目が集まっている」
「そういや、ファスはどんな感じにリザードマンを倒して回ったんだ?」
「フクちゃんの糸と毒で、一か所に誘導したリザードマン達をひたすら白竜姫の炎で焼き払いました」
(やきトカゲ、おいしかったー)
「そりゃあ、噂になるわな」
さぞや衝撃的な光景に違いない。
「次にカナエだ。お前が『聖女』であることが広まっている」
「えっ、バレちゃったの? この国は女神じゃなくて、精霊を信仰しているんだよね?」
「精霊を信仰するエルフだが、流石に星の女神のことも知っているぞ。少数だが白星教を信仰するエルフもいるからな。戦場を満たす『女神の奇跡』は広まっている。そもそも、あのレベルの広範囲回復を連発できる存在なんぞそうはいないからな。必然的に『聖女』の存在が浮かび上がる」
「あちゃあ、張り切りすぎちゃったな」
「ということで、二人は少し目立つ存在と言うわけだ。本陣による前に少し化粧直しが必要だな」
「「え?」」
ニヤリと笑うナルミに連れられ、僕等は道を外れて用意されたテントに入ったのだった。
蜥蜴に乗り、白い火炎を吐きながら、リザードマンを倒すファスの姿はエルフにとって神秘的であると同時に、羨望の的だったことでしょう。なお主人公……。
ブックマーク&評価ありがとうございます。更新頑張ります。
感想&ご指摘いつも助かっています。モチベーションが上がります。






