第二百三十八話:リザードマンの群れ
馬ほどの大きさの蜥蜴に乗って、ただ森を進む。苔の上に深く刻まれた足跡、まだ新しい糞、ここまで来ると流石に僕でも嫌というほどわかってきた。
「ご主人様」
「わかってる、かなり多いな。戦闘は始まっているか?」
「はい。しかし、今始まっているのは、陽動のようです。一番大きな群れは右翼の側面へ向かっています」
凛と輝く【精霊眼】が森の木々の先を見通す。
フクちゃんの糸を伝って常に情報を共有しているおかげで、ファスから見た戦場の地形が理解できるのはありがたい。おかげで集合しつつあるリザードマンに絡まれなくてすんでいるが、問題はこれからどうするかだ。
「じゃあ、その一番大きな群れへ行こう」
「待つだ旦那様、思ったより事態が深刻だべ」
トアが全体に待ったをかける。
「適当な側面攻撃かと思ったら、敵の陽動が思ったよりも的確だと思う。軍の急所を狙っているね。このままだと、例え相手の主力を挫いても軍の立て直しに時間がかかっちゃうかも」
ファスが伝えてくれている情報をメモしていた、叶さんも頷く。
乗り物酔いのせいかまだ調子は悪そうだが、一度吐いたおかげでかなりすっきりしたようだ。
「だべな。陽動にも対応する必要があるだ。陽動にいる変異種のリザードマンを倒すだけで十分だと思うべ」
「それに、変異種のリザードマンに私達が通用するかも確かめたいね。無謀な戦いは絶対ダメだよ」
ならやることは簡単だな。全員で方針を確認していると、ナルミがマントを脱ぎ捨てこっちを向いた。【変容】が解かれ、女性の姿に戻っている。風を受けて銀髪が靡き、褐色の肌と中性的な体躯が露わになる。
「私は右翼の司令官の場所へ行くぞ……現場は任せた。見せてやれ! 『砂漠の英雄』の雄姿をなっ!」
ナルミが返事も聞かずに、横道に入り見えなくなった。
「まったく、勝手なことを言うよな。ファス、一番近い戦闘場所はどこだ?」
「案内します」
ファスの案内で蜥蜴を走らせ、木々の隙間から飛び出ると、ちょっとした窪地になっており雨の様に叩きつけられる魔術をものともせず、槍でエルフを襲うリザードマンが数頭見えた。
ギチギチと手甲を締め直し、息を長く吐いた。
「行くぞっ! ファスっ、援護を頼む」
蜥蜴から飛び上がり【空渡り】で中空を泳ぐように進む、陽動として放たれる氷弾と共に
「ダラァアアアアアアアアアア!!」
背後からの跳び蹴りを、紫の鱗を持つリザードマンに叩き込んだ。
「ギィイイイイイイイイイ」
固いものを擦り合わせたような耳障りな鳴き声、まだ生きてんのか。
背中に突き刺さった足を引き抜いて距離を取る。
チッ、鱗のせいで蹴りの威力が削がれたか。
盛大に血が噴き出ているが、流石は蜥蜴の魔物、生命力は尋常じゃないようで槍を持って向き直ってきた。
周囲のエルフ達が何かを言っているが、聞いている余裕は無い。
向き直り、両手を体の中段において構える。
命中していた、ファスの氷弾は鱗に当たるとともに溶けており威力を発揮できていない。
「へぇ、これがリザードマンか。思ったよりデカいな」
「「「ギィイイイイイイイ」」」
周囲を確認すると、通常種のリザードマンも数頭いるようだ。変異種は正面にいる3頭だろう。
通常種のリザードマンは青い肌に体長は2メートル前後で、まんま二足歩行の蜥蜴人間である。
対して、変異種は青い肌は同じだが、薄紫の鱗が全身の至る所に見られる。体長も大きく、三メートルは確実にありそうだ。3頭とも鱗と同じ色の刃をつけた槍を握っているのも印象的だ。
そして武器を持つ以上気になったのが……。
「左構え……セオリー通りじゃないな」
尾を地面につけて、鉤爪が地面に食い込むほどの前傾姿勢。背中に穴が空いても立っていられるほどのタフネスを武器に、正面から突進してくるつもりだ。
リザードマン達と視線が交錯する。不思議なもんだ。種族が全く違うのに、こうして相対していると、どうしてか相手のことがわかるような気になってしまう。お互いが同じことを思っただろう。
「待ってられないよな」
言い終わると同時に、リザードマン達とほぼ同じタイミングで踏み込む、三頭は構えのまま槍を突き出してきた。鉤爪をスパイク代わりにし、カエルを想起させるような、はちきれんばかりに太腿の力を乗せた突きは、確かに必殺と呼ぶにふさわしい威力をもっていた。
刹那の交錯。空での修行で掴んだ、刃筋の感覚を思い出しながら【手刀】のスキルを発動。
魔力の刃を持って、三本の槍を逸らす。そのまま正面のリザードマンの懐に入り込んだ。
変異種のリザードマンの心臓は結晶の鱗で守られており、一瞬指先が止まるが、構わず振りぬく。
いまだ刃筋に力を乗せることは8割が限界だが、カウンター気味に入った指先は確かに心臓を貫いた。
「ギィイイイイイイイイイ!!」
左右のリザードマンが蹴りを放ってくる、腕を抜いてしゃがんで躱す。
右手の指先を見ると爪が割れていた。指先の骨もヒビが入っているっぽい。
「修行不足だな……っと」
嘆く間も無く、追撃がとんでくる。
手甲で薙ぎ払いを受けながら、杖取りの技で槍の柄をつかんで、足払い。
崩れる相手の姿勢を利用して、アッパーで顎を砕き、諸手突きで距離を空け、一足の間合いを踏み込む。
「ハラワタ打ちィ!」
内部破壊の打撃は、ブチブチと内臓を引き裂き、リザードマンの口から血が噴き出した。
打ち込みの隙をついて、最後のリザードマンが槍を投げようとするが、横から黒い爆炎が命中し爆発四散した。
「……派手にやるなぁ」
「竜の息吹は効果があるようですね。視ていましたよご主人様。実戦で無茶してはダメです。それで、リザードマン達はいかほどでしたか?」
「ごめんごめん。つい、新技を試したくて、リザードマン達は……闘技場で戦った変異種のオーガくらいはやる相手だった。【ハラワタ打ち】か鱗を避けて攻撃すれば十分やれると思う」
指はすでに治っている。骨のヒビくらいなら数秒で治るってんだから、僕も人間離れしたよなぁ。
他のリザードマン達も、トアとフクちゃんが倒し切っていた。
叶さんは少し遠くで兵士達の回復をしているようだ。人族がどうとか声が聞こえたが、叶さんの広範囲の回復を見ると、流石のエルフも黙るしかないようだ。
「真也くーん。ちょっとまってて、回復とバフ撒くから」
「マスターのアホー、ボクの敵がいないー」
珍しく出遅れたフクちゃんは、ふてながらリザードマンの足を食べていた。
蜘蛛姿ならともかく、女の子の姿でそれはちょっと怖いぞ。
「叶さんのバフを僕が受けたら、右翼の側面まで飛ばしてくれ、これくらいの強さなら前衛を務められるはずだ。ファス達は陽動を潰して回ってくれ」
「一人は危険です。私が一緒に行きます」
ファスが前へ出るが、トアが止める。
「いんや、ファスがそっちに行ったらだれが陽動している方の変異種のリザードマンを倒せるだよ。ファスとフクちゃんを陽動に当てるのが丸いべ、叶には前線の兵士を回復する役目があるし、オラが旦那様をサポートするだ」
「グヌヌ、言い分はわかりますが……」
ファスはやや不満げだが、トアの言うことが尤もだ。ということで、チームは僕とトアと他三人となった。
そしてもちろん移動は……。
「ちょ、これは想定外だべ。ま、待つだファス、別に旦那様と一緒になったことに他意はねぇべ、そんな魔力を込めなくても……ぜ、絶対怒ってるだ。あっ、ちょ、にゃああああああああああああ!!!!」
「踏ん張れトアっ!」
ファスの氷弾に縛り付けられてトアと一緒にリザードマンの群れへと飛ばされるのだった。
というわけで、またまた飛ばされるトアさんなのでした。それはもう、凄い勢いで飛ばされたことでしょう。
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