第二百三十五話:いざ、前線へ
「まだ、周囲に人がいるだ。迂闊なことは言うでねぇだよ」
頭を下げるサイゾウさんの肩をトアが支える。確かに、事故を聞きつけた他の冒険者もいる。
「ここまで、人が見ているなら何が起きたかは明白じゃ。ここですべきはギルドマスターとしての筋を通さねばならん。許されるなら介錯を願いたいくらいだ」
関係者でもなかなか利用しない、防音された尋問用の部屋に設置された罠、冒険者ギルドの中に裏切り者がいたことは明らかだった。
「それはできません。サイゾウさん、これからのことを考えましょう。もしかしたら、僕等が思っているよりも事態は動いているのかもしれません」
「……わかっておる」
「待てよ、ギルマス。俺達が怪しいってのはおかしい話じゃないのか」
後ろの冒険者達から、声が投げられる。
この街に来た時に僕らと戦った弓使いのエルフ、ナナセさんだ。
結った金髪を揺らし、僕等を睨みつけている。
矢をつがえることはしていないが、弓を手に持っていた。
まぁ、こうなるよな。
「ナナセ。何が言いたいのじゃ?」
「裏切者なんて話する前によ。よそ者は怪しいんじゃねぇのかって話だよ。俺達エルフがどうして自分たちの森を侵略している『結晶竜』と組まなきゃならねぇ。怪しいのは人族だ。そんで、死んだエルフに罪を引っかぶせて、自分で殺すこともができたのはそこのシンヤとかいう、冒険者だろうがっ!」
「やめよナナセ。察するに尋問の現場にはギルマスもいたのだろう。彼の眼を誤魔化す方がよほど困難だ」
後ろから出てきたレイセンさんが、そっと弓を下げさせる。
「ふざけんな! じゃあ、別室の人族か獣人だ。でなければ、商人だって怪しい。だが、一番怪しいのはやっぱ、そこのA級冒険者だっ!」
僕を指さして、ナナセさんが叫ぶ。刺さるような視線が僕らに刺さる。
それだけじゃない、ここに来た獣人やギルドに滞在していた人族の商人や数少ない冒険者達へも非難するような視線が向けられている。
「ふざけたことを……」
「コロス?」
ファスとフクちゃんが前に出るのを、手で止めて前出る。
「ご主人様?」
「ここは任せるだよファス」
トアがニカっと笑ってファス達を宥める。
さて、なんて言おうかな? こういうのは苦手だ。
ギースさんなら、ビシッと決めるのかな? いや、知らんけど。
ただ、折角美味しいご飯が食べれるようになったってのに、このままは絶対イヤだ。
「……良い言い回しが浮かばないから、感じたままに言います。ここ数日で、街の雰囲気が大きく変わったと思います。そうしたらこんな事件が起きて、また種族間で疑心暗鬼になろうとしている。つまりこれって、今のこの街の状況が相手にとって不味い状況だったってことです。一緒に卓を囲んで酒を飲むことが敵にとって恐怖だってことです。それを、敵の策略一つで台無しにされたく無いんです」
「効いてる、効いてる。って状態だよね」
叶さんがうんうんと頷く。
「テメェの都合のいいように言っているだけだろ!」
「ナナセっ。止めるんだ」
レイセンに止められている、ナナセさんの前に強がりの笑みを張り付けて進む。
「僕が信用できないってのもわかります。だから、行動で示します」
「何言ってんだ?」
「僕らが『結晶竜』を倒します。それを見て判断すればいい」
簡単なことだ。口先で理解を得れる程、僕は達者な人間じゃない。
目を逸らさずにナナセさんを見る。せめて、嘘ではないと伝わるように願って。
視線を合わせる僕等の沈黙を破ったのは、体の大きさから数人しか通路に来れなかった巨人族の一人、イグラさんだった。
「アタシは、ソイツを信頼するよっ。巨人族は酒の恩義は忘れないもんさね」
「黙ってろイグラっ。お前はいつも適当な事ばかり言う」
「黙るのはアンタだよナナセ。アタシ等がすることは犯人捜しじゃないだろう? 仲間を信じて魔物を倒すことさ」
「……もう、よいじゃろう。この場はワシが預かる! 指示はおって出す。全員連絡が行き届く場所で待機じゃ。外にいる仲間にも知らせよっ!」
冒険者達は苦い顔をして歩き出す。彼らの疑念を払拭できるだろうか。
バンっと不意に背中を叩かれる。振り返ると、名前を知らない獣人の冒険者だった。
「イテッ」
笑いながら無言で去っていく。なんだ、なんだ?
バン、バン、バン。
今度は三回、一人はエルフの冒険者からも叩かれた。表情は見えないが怒っている感じじゃない。
「ぐえっ」
振り返らず、背中越しに手を振って彼らは去っていく。屋台で見た顔もあった。
……少なくとも、ここ数日の頑張りは無駄ではなかったのだろう。
去っていく冒険者達を見て、ナナセさんは舌打ちをして詰め寄ってきた。
「そこまで言うなら、見せてみな。だが、そのA級の冒険者証にふさわしくない戦いをしようものなら後ろから射る」
「わかりました。だけど、もし、僕を信用してくれたのなら……その時は援護をお願いします」
「っ……気に食わねェ野郎だっ! 行くぞレイセンっ」
「まったく……私からも謝罪をさせて欲しい。君たちには期待している」
「はい、ありがとうございます」
レイセンさんにはお世話になりっぱなしだな。
「……」
「どうしたトア?」
これからのことを話そうと振り返ると、トアが口元に手を当てて考え込んでいた。
「いんや、なんでもないだ。それより旦那様、これからどうするだ?」
「すぐに街を出よう。ここで起きたことと砦の攻防戦が無関係ってのは考えにくいしな。戦場が気になる」
「その通りです。ナルミに頼みすぐにでも現地に行きましょう。ご主人様の偉大さをエルフに見せつけましょう!」
「そうだ、そうだー」
ファスとフクちゃんは落ち着こうか、というかファスがエルフの国に来てからキャラが壊れるほどに短絡的だ。気持ちはわかるが、ちょっと危なっかしいぞ。
「屋台も楽しかったけど、やっぱり私たちの本分は冒険だよね」
そんな話をしていると、サイゾウさんが寄ってきた。
「ウム。ならば、ワシは此度のことについて調査を進めよう。世話になるシンヤ殿。年を取ると俯くことが多くていかんな」
そうは言っているが、その瞳は鋭く先を見据えている。サイゾウさんはすでに切り替えているようだ。
「任せます。僕達は僕達のできることをします。ただ……折角街が良い雰囲気だったのに、これでまた雰囲気が悪くなるのが残念です」
本音を言えば、もう数日屋台を開いて魔力抜きの食材とか、舌で魔力を感じない食べ方とか色々普及したかったけどな。街の雰囲気が変わり始めていただけに、このタイミングで街をでるのは残念だ。
「それについては大丈夫だべ。レシピは公開したし、解体職人や街の料理人達も店で出す為に工夫しているだよ。すでに楔は打たれただ、後は勝手にあるべき姿に戻るだ。食欲はそう簡単に操れるもんじゃねぇだ」
「ギルドとしても、上層と下層の行き来がしやすいように便宜を図ろう。そもそも、今までは下層から上層へと行こうとする獣人や人族がいなかったために、そのままになっていた悪法よ。ワシ自身、カルドウスに影響されていたのかもしれんな」
「お願いします。帰ってきたら、皆で美味しいご飯を食べましょう」
「ウム。良い酒を準備しておく。ナルミ殿のおかげで貴族への話も進み、遠征組の編成もここ数日で進んでおる。此度の事件に人員が割かれるが、イグラを始めこの街の他の冒険者も今一度前線に戻せるじゃろう」
「そうと決まれば、出発の準備だな」
ということで、宿へ戻り装備や荷物を点検することにした。
狩りはしていたものの、しっかりと装備を身に着けるのは数日ぶりだ。
と言っても、普段から手入れは怠っていないし、手甲はピカピカだ。ただし、森を歩くということで細かく変えている部分もある。
「靴は柔らかいものを使いましょう。敵はリザードマンなので、武器も想定して鎧の下に着るものは厚めの布地のものをフクちゃんに作ってもらいました」
僕の服装は砂漠仕様のマントでやや動きづらかったので、今回は羽織のように前開きで紐を結ぶ服装に変えている。しっかり結べば緩まないし、ゆったりして動きやすい。
砂漠では砂が入らないように、隙間の少ないきつめの服装だったからな。
「砂漠で着こんでいたものよりも通気性がいいだな。涼しくていい感じだべ」
「私とファスさんはいつも通りのローブだけどね。一応、リザードマン以外の魔物。例えばトレントみたいな植物系の魔物も想定して、防塵装備は準備しよう」
「ローブが木々に引っかからないように、少し裾を短くしましょうか。いっそポンチョのようにしましょう」
「まかせてー」
砂漠で職人達に作ってもらった衣服はフクちゃんの糸で作られている為、フクちゃんのスキルで少しなら形を変えられる。森で仕入れた装備を参考に手直しをすれば、すぐに準備は整った。
僕は鎧の上に付けていた、マントの代わりに羽織を着て、靴は砂漠のものをそのまま使う。
うん、あんま変わらないな。
ファスは、ローブの丈を短くしてポンチョのようにフクちゃんに調整してもらっている。
いつも目深にかぶっていたフードをしていないので大分印象が違うな。
フクちゃんは、なぜか猫耳ローブだった。下はプリーツの入ったスカートでとても可愛らしい。
トアは久しぶりにオレンジの上着を着ている。花粉対策なのかゴーグルを額につけて、ズボンは上着と同じようにポケットが多くついていた。
叶さんは、本人曰く「森ガールを意識してみました」ということで、フクちゃん謹製のシャツに動きやすそうなサロペット(というらしい)を着て、その上に前開きにローブを着たゆったりとした恰好だ。普通にオシャレで、この辺は女子なんだなぁとちょっと感心。
装備も整い、叶さんがリストを片手に持ちものを確認していると、男装姿のナルミが訪ねてきた。
「話は聞いたぞ。ギルドで襲われたと……カルドウスを信奉しているものが冒険者にいるとはな」
「まだ、冒険者か分からないけどね。それよりナルミ。そういうことだから予定より早くに出発したいんだ」
「わかっている。やや強引に話は取り付けた。今すぐに出発するぞ」
ナルミに案内されて街の下層をどんどん進んでいく。
「特急便だ。予約を取るのは大変なんだぞ」
その先に見えたのは、鞍をつけた馬ほどの大きさの蜥蜴が人数分繋がれていた。
「なるほど、この子達に乗るんだね。てっきりゲジゲジみたいな虫かと期待してたよ」
「流石に僕はそれ無理だからね」
いくらなんでも、巨大なゲジは勘弁したい。
こうして、僕等は街を出て、エルフの国の深い森へと進んでいくのだった。
更新遅れてすみません。やっと章タイトルが回収できそうです。
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