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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第一章:牢屋編【奴隷と蜘蛛と救われた夜】

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閑話2:フクちゃんの願い

この話はフクちゃんについての話になります。本筋にはそれほど関わりないものです。

 ——ある魔物研究者の手記—— 


 オリジンと呼ばれる魔物についての研究は少ない。そもそも絶対数が少なく、それ故知るものは少ないからだ。オリジン種とは原種、もしくは原初を意味する種族である。特徴としては環境への適応と種として柔軟な進化が可能だということである。またこの種が生まれる魔物はおしなべて知能の低い原始的な魔物であるとされている。

 なぜそうであるかはわかっていないが、生き残ろうとする本能がより強く現れるからだと私は考える。

 オリジン種が生まれてくる理由は定かではないが、最も有力な仮説は環境の急激な変化があった際に、その環境に適応しようとする魔物の本能によって生まれてくるというものだ。


 例えば気温の上昇現象、天敵の存在、『地脈に含まれる魔力の急激な変化』などだ。

 ではこのオリジン種が魔王種のように危険な存在になるだろうか? と言われれば必ずしもそうではない、変化した環境に適応、進化するという点においては他の追随を許さない希少な種ではあるが一度環境に適応してしまいさえすればそこからの進化はしない。

 原始的な魔物の本能が持つ目的とは自らが生存することであり、種の保存である。そうであるならばある程度自らの身が安全になり生きることに困らなければ進化も適応も必要ないのだ。この危険性の低さもオリジン種の研究が進んでいない理由の一つだろう。

 

 せいぜい少し変わった特徴をもった魔物程度になるのがオチだ。

 あぁだがしかし、考えれずにはいられない。

 

 もしオリジン種が意思をもって自らの成長を限りなく望むならその進化はどこまでいくのだろうか。まぁそんなこと妄想にすぎないわけだが。

                                  

                                       ———————



 その子蜘蛛は生まれてすぐに親に殺されるはずだった。その体躯は白く小さい、それは優秀な種を残すために子蜘蛛を喰らうという性質をもつ親蜘蛛にとって、真っ先に間引きの対象となる存在であるからだ。

 突然変異で生まれ、何をするでもなく殺される。それが本来のこの子蜘蛛の運命だった。


 ところがそうはならなかった。偶然にも通りかかった少年の頭に着地した(産み落とされた)子蜘蛛はそのまま少年に連れていかれ、そして少年と主従の契約を交わした。


 少年は知る由もなかったが、魔物と契約するさいには契約者の知識の一部が魔物に反映されるようになっている。それは契約者の意図をくみ取り、円滑にコミュニケーションをとるための処置であった。このカラクリがあるからこそ本来人間の言葉を理解できない知能の低い魔物が主人の命令を聞くのである。


 子蜘蛛も例にもれず、契約者である少年の知識の一部を手に入れた。通常ならば簡潔な言葉のみを理解するだけのものであるはずのその術はオリジン種である子蜘蛛に甚大な影響を及ぼした。


 子蜘蛛は本来ならば一生得ることができない他者からの温もり、その温もりを与えてくれて、笑いかけてくれた少年をもっと知りたいと、そしてもっともっと話したいと望んだ。それが最初の進化、起きるはずのない奇跡、子蜘蛛は「知性」を手にしたのだ。


 フクと名付けられた子蜘蛛が次に願ったことは、マスターとなった少年に役立ちたいということだ。それは契約に強制されるものではなく、どこかお人好しで抜けている(フクと会ったばかりのヨシイは森で散々迷った挙句フクのナビでなんとか帰還するという情けないものだった)マスターを助けてあげなくてはというフクの思いだった。


 そのためには力がいる。力を得るためには餌が必要だ、本能が狩りの仕方を教えてくれた。巣を張り獲物をからめとり毒牙で動けなくして食べる。蜘蛛としての技術を屋敷のネズミを相手に実戦し磨いていった。考えがあったわけではないがこれがいつかマスターの役にたつと感じていた。

 そして、部屋に戻りマスターの元へ行く。マスターはいつも疲れていてご飯を食べると寝てしまう。そしてマスターが寝るとファスと呼ばれる奴隷がこっそりとマスターの頭を撫でてニヤニヤしているのだ。


(ファス、イイナー、ボクモナデタイ)


 そう言ってはフクも大好きなマスターの頭に身体を擦り付ける。


「起こしちゃだめですよフクちゃん」


 そう言った、ファスにも身体を擦り付ける。呪いのせいか少しピリピリするが問題ない。この少女は自分と同じくらいマスターのことが大好きで、そして頑張り屋さんだ。マスターが自分にとっての主人ならばこの少女は初めての友達だった。

 ファスと一緒にマスターを撫でるこの時間はフクにとってかけがえの無い大事な時間なのだ。


 ある時特訓をしているマスターが気になってこっそり後をついて行ったことがある。そこには甲冑を着込んだ男にズタボロにされるマスターの姿があった。一瞬あの甲冑の男を殺そうと思ったが、マスターが自分の意志でそうあること望んでいることがわかって止めた。

 そして自分ももっと頑張ろうと思った。そしてフクは屋敷中のネズミと周辺の小鳥をその胃袋に収め力を蓄える。そして張り巡らせた糸を使い興味深いことを聞く。


「ねぇ、あんた。ヒールサーペントの餌当番だろ? どうにかして粘液を持ってきてくれないかい? あれがあればあかぎれも切り傷もすぐに治っちまうって話じゃないか」


 給仕が新米の騎士にそう言っていた。フクはまだ言葉がうまくわからないので完全に理解はできなかったが、傷が治るという部分だけはしっかりと聞いた。


(マスターノ、キズ、ナオセル)


 頑張って特訓しているマスターの傷を治せるかもしれないと意気揚々とヒールサーペントがいる部屋に侵入した。

 そこにいたのは体長8メートルほど、胴回り25センチはあろうかという巨大な蛇だった。全身から粘液をだしテラテラと光っている。

 フクは直感で勝てないと確信した。今の自分では返り討ちにあって殺されると、幸いヒールサーペントは首輪のようなものをつけられていて離れていれば襲ってこない。このまま逃げれば死ぬことはない。


 野生であれば、自分が勝てない相手には絶対に挑まない。そいつが自分に害をなさないならばなおさらだ。しかしフクはどうしてもマスターの役に立ちたかった。役に立って褒めてもらいたかった。だから考える、考えられるように進化する。


 そしてフクが考えてとった作戦は少しずつ毒で弱らせるというものだった。そのためにはもっと力がいる。その日から数日で屋敷の周辺の小動物もフクの胃袋の中へ納まった。恐るべきはその捕食を人間に気付かれずに行ったということだ。

 ある時は穴を掘り、ある時は依存性のある毒で誘導し、ある時は奇襲し、迅速に効率的に狩りを行った。

 そうして蓄えたエネルギーとスキルで作った渾身の毒をヒールサーペントに与える。


 まずフクはヒールサーペントがいる部屋でヒールサーペントが届かない範囲のほぼ全てに糸を張り巡らせた。それは非常に細いもので人が入っても確認してもわからないように徹底されていた。

 そして手始めにヒールサーペント用に用意された餌に自分の毒を混ぜた。餌当番は気づかずにその毒を器に盛って棒を使い遠くからヒールサーペントにやる。

 その餌に混ぜたのは麻酔のような毒で、ヒールサーペントの感覚を鈍らせるものだった。餌を食べたヒールサーペントは眠りにつく、そうしたら張り巡らせた糸を伝ってフクは直接獲物に毒を注入し、そしてそれを繰り返す。あと少しで致命的なほどに毒が回ると確信し、最後の詰めの為の【戦闘形態】のスキルを作り備える。


 するとその日の夜マスターが酷い怪我を負ってきた。あの甲冑の男がマスターをいじめたのだ。許せないが、マスターは甲冑は悪くないという。そういうマスターは辛そうで、フクはいてもたってもいられず、ヒールサーペントのもとへ向かった。


 巨大な蛇は毒の耐性があり、完全に毒は回っていなかった。フクはそれを知っていたが【戦闘形態】をとりその喉笛に噛みつきこれまで貯めこんだ毒が炸裂するように毒を注ぐ。弱っているとはいえ本来ならば転移者の従魔になるほどの魔物、必死に首を振って抵抗する。身体を床に打ち付けその自重でフクをつぶそうとした。


 それでもフクはその牙を離そうとはしない。ここで距離を取られれば近づけないと思ったからだ、日を改めるという思考はこの時のフクにはなかった。

 徐々にヒールサーペントの動きが鈍くなり、そしてその動きを止めた。まだ完全に死んでいないヒールサーペントの身体に消化液を流し内側を溶かし啜る。


 一体どういう原理なのか体重200キログラムを超えるヒールサーペントの身体はその皮だけを残し全てフクが喰らいつくした。そのまま小さな体に戻りヨタヨタと部屋に戻る。ヒールサーペントの力を手にした実感があった。これを使えばマスターの傷を治せる。


 マスターは褒めてくれるだろうか? 戦闘のダメージでまともに動かせない身体を必死で操りながらフクはそのことだけを考えていた。


 意識がもうろうとする中でフクは願う、もっともっと強くなりたいと、たとえこの世界の全てが敵になったとしてもマスターを(もちろんファスも)守りきる力が欲しいと願う。それだけじゃない、ボクもファスみたいに抱きしめて欲しいし、他にもマスターといっぱいいっぱいやりたいことがあるのだと。



 それは子蜘蛛自身も気づいていない。

 その願いを叶えるだけの可能性がその小さな白い体にあるということを、「願い」を持つ進化する種族の強さがどれほどまでになるかを、今はまだ誰も知らない。


フクちゃん……恐ろしい子!!

というわけでファスとフクちゃんの閑話を挟みました。次回から本編に戻ります。

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― 新着の感想 ―
※蜘蛛がヒロインです
【一言】 従魔に『知性』が宿ったのが大きいのだろう。主人に対する想いは人化に向けて進化していく原動力になるのか? ゆっくり拝読していきたいと思います。
[良い点] 従魔視点での話が泣ける。上にしっかりと今後の展開が期待できる最後にますます今後の期待が膨らむ作品になって読み進めるのが楽しみです。 [気になる点] 特になし [一言] 今頃になって読み始め…
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