第二百三十二話:屋台している場合じゃなかった
上層と下層で屋台を開いたことで、街のほとんどの住人が僕らのことを知ったようだ。
それに、目に見えてエルフ達の獣人や人族に対する視線が和らいでいる気がする。
うちのパーティーのメンバーの見た目が良すぎるから、どうしても目を引くしね。
屋台の骨組みを片付けて、片付けを終わらせると【念話】が飛んできた。
(皆さん、今日のことで気づいたことがあります。人気の無い場所へ移動しましょう)
指先に巻き付けた、フクちゃんの糸を経由してファスがアナウンスをしてきた。
気づいたこと? なんだろうな?
宿は壁が薄いので、冒険者ギルドの一室を借りることにした。
「A級冒険者ともなれば、人族でも一部屋を注文一つで用意できるものだ」
とナルミが言ったので、試しに受付で頼んでみたら普通に案内された。すごいなA級冒険者。
ファスは周囲を念入りに見ている。
「盗聴はされていないようです。ナルミ、できればギルドマスターを呼んでもらいたいのですが……」
「もうおるわい」
天井から声がして、音もなくサイゾウさんが着地する。
「……見えませんでした【隠密】だけではありませんね」
「匂いもしなかったべ」
(やるー)
トアや子蜘蛛状態のフクちゃんも気づかなかったようだ。
「霞蜥蜴の忍び装束よ。もっとも、身動き一つでもすればたちまち看破されるであろうがな」
「先に部屋に潜んでいたんですね。勉強になります」
天井に張り付いて、装備とスキルの二重がけでファスの目を欺いたのか、ちょっとした遊び心のようなものだろうけど、やはり高レベルの冒険者は一筋縄ではいかないようだ。
「悔しいです」
「何、ファス嬢であればすぐに見破れるようになるじゃろう。して、何に気づいた?」
全員が椅子に腰かけ、ファスの言葉を待つ。
「この森の住人のことです。特にエルフに関して、納得がいかないことがあります」
「ほう、一体何かの?」
「エルフ達の反応です。……彼らに対して私の【慈愛】と叶の【女神の祝福】を使って、エルフの食事について訴えを行いました。結果、劇的にエルフ達の反応は変わりました。しかし、積み重なった悪感情がそう簡単に覆るとは思えません。効果がありすぎるのです」
「なるほど、確かに下層のエルフ達はすでに、巨人族や獣人に対しての差別的な感情が消えておるものも多いかもしれんな。それが納得いかんと……嬢ちゃん達の料理が素晴らしいだけではないのか?」
「冗談はやめるべ、オラの料理に対する反応から見ても、エルフ達は元々ちゃんとした飯を食べることができていたと思うだ。それが、おかしな食べ方をするほどに強く操られていた。そんで、オラ達が来たとたんに、はい、万事解決ってのはおかしいだ。それならば、グランド・マロの惨劇だって回避できていたべ。A級冒険者への依頼、一筋縄でいかねぇと思っていたけんど、やはり何か引っかかるだ」
街の住民が魔物化した風景が頭をよぎる。確かに何かが変だ。
というか、ファスもトアも気づいたなら教えてくれればいいのに、完全に僕置いてけぼりじゃん。
「フム。なるほど、流石に露骨であったか。屋台など突拍子もないことを始めた時は、何をしているのかと思ったが、街の様子を見ていたと」
「えっと、私も普通に楽しんでいたんだけど、待って、確かにおかしいよね。もうちょいでわかるから答え言わないで」
いえ、ただ皆で美味しいご飯が食べれたらいいなぁって思ったからです。ファスとトアが色々考えていたことにびっくりだ。叶さんを見てみると、頭を抱えている。多分、必死になぞ解きをしているのだろう。
「ご主人様の深謀遠慮は私達には計り知れません」
「……えっ? ああ、うん、そだね」
あの、ファスさん? 訂正しづらい雰囲気作るの止めてくれません?
あなた、普通に僕が思い付きで提案したって知っていますよね?
目線で訴えるが、ファスはこちらを見て強く頷くだけだった。
ダメだわ、この子。また暴走しているわ。
じゃあ、真面目に考えてみるか、僕等の屋台がなぜ劇的な効果を発揮したか、うーん……。
「この街の差別についてとか、まだよくわかっていませんが、少なくとも『結晶竜』の砦制圧っていうわかりやすい事件が起きているし、それと関わりがあるとかどうだろう? この街への洗脳が弱まっている時にたまたま、ファス達のスキルが刺さったとか」
「「「……」」」
全員が無言になる。こういうの、この世界では精霊が通るって言うらしいです。
沈黙を破ったのはサイゾウさんだった。
「グワッハッハ。一本取られたわい、おいイワクラの、これは隠し通せんぞ」
「……チッ、脳筋上裸変態野郎にしては、知恵を使うじゃないか」
「誰が変態だっ」
「脳筋上裸については否定しないんだべな……」
「それっ! あー、悔しい。エルフの王族の依頼ってのも変だと思ったんだよね!」
ナルミがため息をついて、椅子に座りなおした。
「気づかれなければ、そのまま隠し通したかったのだがな。お前等の言う通りだ。『結晶竜』騒動には裏がある。少し話を整理するが、グランド・マロの魔物化の儀式についてだ。カルドウス封印を解くための儀式はおそらく『穢れを封印に注ぎ込む』『特別な生贄を捧げる』のどちらかで達成できると冒険者ギルドは結論づけた。この国においては、穢れはエルフ達による他種族への差別を助長することで、儀式を進めていたと考えられる。しかし、状況が変わった」
「はい、そこまで、ヒントが出れば私でもわかるよ!」
叶さんが手を挙げたので、ナルミが話を促す。
「えーとね。仮にカルドウスの封印を解こうとする一派がいたとして、のんびりと各地の封印を解いていたら、私たちがグランド・マロの穢れを浄化しちゃったと。なので時間がかかる『穢れを封印に注ぎ込む』方法に危機感をカルドウスの一派が持ったんじゃない? だから、もう一つの『特別な生贄捧げる』方法にチェンジしたと。それによって『穢れを封印に注ぎ込む』儀式が手薄になって、それで私とファスさんのスキルが大きく効果を発揮したんじゃない?」
「……カルドウス一派という者共が、どう考えていたかまではわからないが概ね正しいだろう」
「やった。TRPGプレイヤーの面目躍如だね。じゃあもう一つの『特別な生贄』を捧げることにしたと……えと、待ってね。それって……一体誰なのかな? さっきも言ったけど、これって王族の依頼なんだよね?」
「砂漠ではアナ姫か叶さんが狙われたよな?」
嫌な予感がするぞ。
僕等が顔を見合わせていると、ナルミが大きくため息をついた。
「砦は国宝を収める聖地だった。その為極秘で、定期的に王族が視察に入ることがあったんだ。そして、運悪く奇襲された日に砦にいたのが……ミナ・コルヴィ・ニグライト様、我が国の王女だ」
今一度パーティー全員で顔を見合わせる。
代表して僕が口を開いた。
「屋台している場合じゃなくない?」
屋台している場合じゃねぇ! というわけで、やっとこさ物語が動き始めます。
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