第二百二十八話:反抗作戦は屋台より始まる
「【竜殺しの鎖】、【竜殺しの英雄】。確かに、僕等に関係がありそうな単語が並んでいるな」
「状況は揃っている。であるならば、やはりエルフ達による偏見は仕組まれていると、イワクラ家は判断した」
もし、仮にグランド・マロやスタンピードの時のように、カルドウスが絡んでいるのならば……ギースさんの仇だ。戦いを避ける選択肢は無い。
『逃げたっていい』ギースさんならそう言うだろうけど、やっぱこの手で倒したい。
「おい、待て待て。なんだか知らないが、私達を忘れてねぇか。それに、周りにも聞かれてるぞ」
「……面白い話だった。断片的ではあるが、それが逆に良い。向こうでこちらの様子を伺っているエルフ達にも聞かせよう。我らの差別は仕組まれたものであるとな」
僕等の話を聞いて焦るイグラさんを他所に、レイセンさんは立ち上がると、エルフ専用の受付がある部屋へと行ってしまった。
「あのエルフは話がわかるな」
ナルミがニヤリと笑う。男装した状態だと、褐色のイケメンにしか見えないな。
「いいのかよ? レイセンの奴行っちまうぞ。よくわかんねぇけど、国宝がどうとかって話だろ?」
「織り込み済みなのでしょう? 私達は構いません。ただし相応の報酬はもらいます」
ファスがナルミを睨みつける。
うん、今回は僕もどういう状況かわかったぞ。
「オラ達は餌ってわけだか」
「うんうん。冒険だねっ」
いくら僕がバカでも、なぜナルミがこの場所でこんな話をしたのかくらいはわかる。
冒険者と職人の街だったグランド・マロを、金で縛り付け歓楽の都に変えた時の様に、何者かが悪意を持ってエルフ達の、偏見を助長させている。
しかし現状、今回はデルモのようにわかりやすい敵が見えない。だからこそ、ナルミはこの場所でエルフ達を刺激するようなことを言っているのだろう。
「まぁ、A級ともなれば、派手な任務だってあるけどよ。それにしたって【竜殺しの鎖】なんぞに関係あるってお前等、一体なんなんだ?」
考え込んでいると、イグラさんが頬杖をつきながら机を指先で叩いていた。
傍から聞けば変な話だとは思う。どこから話すかなぁとか考えていたら、ナルミが首を振った。ここでは十分ってことかな? 正直【竜殺しの鎖】について詳しく聞きたかったのだが。
まぁ、周囲の獣人や巨人族からの視線もあるし、頃合いかもしれない。
「すまない、この話はここまでだ。代わりといっては何だが、今日の支払いは全部持とう。そこの男がな」
「えっ”、おい!? ナルミ?」
聞いてないぞ。しかし、訂正を入れる前にイグラさんが体を乗り出してくる。
「へぇ、豪儀じゃないかい。そうこなくっちゃ、でもいいのかい? 『巨人族には酒を奢るな』ってのはこのあたりじゃあ常識なもんだが」
目をキラキラさせてそう言われても……ここまで来たら引くわけにいかないってのは、短期間ながら冒険者をしていたらわかる。
「……いいですよ。挨拶がわりです。どうせならこの部屋や隣部屋のエルフまでケツ持ちますよ。ファス」
「かしこまりました」
ファスが懐から金貨の入った袋を机の上に置くと、周囲から歓声が上がった。
巨人族たちが次々に樽を開けていくのはちょっと恐怖だったけど、果実酒はかなり飲みやすくその日の宴は夜遅くまで続いた。
しかし、結局エルフ達は僕が出した酒を飲むことはなかった。
翌日。喉が渇き目が覚める。
「水……」
耐性スキルのおかげで、酔いつぶれることは無いが限度という物はある。
巨人族と張り合って、酒を飲むのは今後は控えよう。
ファス達はまだ眠っているようだ。たまには一人で起きるのもいいもんだ。
ふと、外が気になり、部屋着のまま宿から外へ出てみた。
「おぉ、早朝の森はこんな感じなのか」
青白く発光する苔や、木々を這う虫たちの光が、霧に溶け込み不思議な雰囲気を醸し出している。
周囲には誰もいないはずなのに、生き物がひしめく感じがどうしてだか落ち着く。
「ここは、霧が深いからな」
(オハヨー、マスター)
振り返ると、男装姿のナルミと子蜘蛛状態のフクちゃんがいた。
フクちゃんは気配に敏感だから、僕が起きたことに気付いたとしてナルミも起きたのか。
「おはようフクちゃん、ナルミ。僕はこの景色好きだよ、幻想的で、落ち着く」
「人族は怖がる者がほとんどだがな。……今日は鉱山砦へ行くための準備をするぞ」
「うーん。そうなんだけど……」
「どうした?」
「結局、昨日の飲み会にエルフは参加してもらえなかったなぁって思って」
「私の考えが正しければ、作られた偏見だが、もともとエルフに選民思想があったことも確かだ。気に障ったのなら、エルフとして謝罪しよう」
「違うんだナルミ。なんて言えばいいんだろ? そもそも、アナさんが僕らに具体的な指示を出していないことが、ちょっと気になってたんだ。ギルドからの依頼をこなして『結晶竜』を倒す、どうしてそう僕らに言わなかったんだろうってね」
どこまで現状を把握していたか知らないが、アナさんならもっとわかりやすく、どうすれば良いのかわかりそうなものだ。
それにも関わらず、ここまでの旅は自由というかやりたいようにできた。
今もそうだ。情報だけ手渡してきて、後は好きにやれとでもいうような感じ。
『しがらみなんて関係なく誰かを助けるヒーローに、【クラス】でも【スキル】でもない、ヨシイ シンヤに期待しているの』
砂漠で言われた台詞が思い浮かぶ、自由に生きたいと言ったお姫様は、頭は良いのだろうけど多分どこまでも不器用だ。きっと、僕等が自分で選んで行動できるように、こんな回りくどいことをしているのだろう。
(ミトコウモン、ダネ)
「そうだなフクちゃん。ナルミ、鉱山砦へ行くまで時間に猶予はあるか?」
「無い。と言いたいが、数日はあるだろう。イワクラ家が鉱山砦攻略に関わることに、難色を示している貴族達がいるからな。といっても数日後には出発する予定だが。何か用事でもあるのか?」
そう問いかけてくるナルミの表情は挑発的で、僕がしようとしていることを、知っているかのようだ。そもそも、昨日『都合が良い』とか言ってたしな。どこまでも掌の上かもしれないな。
でも、自由にやりたいようにやる。胸を張って生きるってのは難しいよ爺ちゃん。
【竜殺しの鎖】も『結晶竜』も後回しだ。
まずは、エルフも巨人族も獣人も人族も皆がテーブルを囲んで、美味しく酒を飲めるようにしないとな。
「よしっ、やることは決まった」
頬を叩いて気合充填。フクちゃんを肩に乗せ、部屋へ戻る。
寝ぼけているトアの体を強く揺すった。
「ワフッ、な、なんだべ!?」
「トアっ、屋台をやろう。皆が食べて美味しいご飯を作るんだ」
こうして、僕等がA級冒険者になって初めての作戦は、屋台より始まるのだった。
更新遅れてすみません。仕事が忙しく体調を崩してしまいました。
おかしいな、鉱山砦へ行くつもりなのにどうして屋台やる話に……。
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