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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第九章:ニグナウーズ国編【ツルハシと攻城戦】

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第二百二十七話:穢れと封印

 切れたサイゾウさんによる室内でのチャクラム投擲という、ちょっとした事案を潜り抜け一息つく。

 いやマジで、怖かったな。それもこれも、この褐色エルフが適当なことを言うからだ。


「恨むぞ、ナルミ」


「そう見るな。ちょっとした意趣返しだ。何せ人が必死に実家に帰る途中に、あのお転婆姫に無理難題を押し付けられたからな。おっと、内容は聞いてくれるなよ。まだ、秘密だそうだ」


 出されたお茶を上品に飲む、ナルミの姿はエルフの民族衣装も相まって様になっている。

 やっぱいいとこのお嬢様だったか。


「話は終わっておらんぞ。それにしても、人族の冒険者が本当にイワクラ家と繋がりがあったとはな。驚いたわい」


「それにしても、早かったのですね。【風船鯨】で移動した私達がついてから翌日にこの場所に来るなんて。一体どのような手段を使ったのですか?」


 ファスがナルミに問いかける。確かに、あの山々を越えての移動だともっと時間がかかっても良いはずだ。


「すまぬが……この国のエルフとしてそれは言えん。良いですなナルミ嬢?」


 サイゾウさんが、横からピシャリと言い放つ。そういえば、砂漠でも移動は秘密って言っていたな。


「そうだな。まぁ、今回の任務を達成すれば知ることになるさ。サイゾウ、ここからの話は私が引き継ぐぞ。予定通り、餌を巻く」


「そうしてくだされ。ワシはギルドの動きをまとめておきます。やはり不穏な気配を感じますからな」


「気を付けてくれ。よしっ、さっさと出るぞヨシイ」


「真也でいいよ。一緒に戦った仲間だしね」


「わかった。シンヤ」


 部屋を出ると、ナルミの姿が男性へと変わる。貫頭着にズボンというデザインなので、男性が着ても違和感は少なくなっている。


「わぁ、本当に【変容】って姿が変わるんだね。転移者でも使えるって人を、聞いたことないよ」


 叶さんが、興味深そうにナルミを観察する。


「人込みを歩く時は、こっちのほうが便利だからな。女性の姿は良くも悪くも目立つ……まぁ、顔を出したファスほどではないが」


「私もフードを被りましょうか?」


「折角だし、そのままでいいと思うぞ。ファスまで顔を隠したら、いよいよ怪しい集団になっちゃうし」


 個人的には森の街を歩くファスの姿を、もう少し網膜に焼き付けておきたい。

 ギルドではフードはしていないが、外では僕と叶さんは顔を隠すしな。

 ナルミはこの複雑なアルタリゴノのギルドの構造を良く知っているのか、ズンズンと進んでいく。


「それにしてもシンヤ、街で話題になっていたぞ。どの種族が食べても旨いメシを出す屋台があったとな。どうせお前等なんだろ?」


「そうだべ。魔力を感じる舌ってのに、料理人として挑戦しただ」


 トアが胸を張る。うんうん、暴動が起きそうなくらい人気がでたからな。料理人としては成功したと見て間違いないだろう。


「【野風】の料理人の話題は、砂漠でも尽きなかったからな。……好都合だ」


「好都合?」


 問い返すが、返答はない。気が付けばギルドの広場に戻っていた。

 うーん、何回訪れても、どうやってこの場所に来れるのかわからないな。

 ファスは把握しているようだし、トアもわかっているっぽい。フクちゃんとかは、普通に道を把握とかできそうだ。叶さんもマッピングしているみたいだし、僕ってもしかして方向音痴なのだろうか?


「おーい、待ってたぜ」


 広場ではイグラさんが、バケツのような樽コップを片手に持って迎えてくれた、レイセンさんがいた。

 よく見ると、巨人族のイグラさんに隠れるように、昨日戦った……確か、ナナセさんだっけ? もいるようだ。


「任務を受けたんだってな。アタシらも『結晶竜』の攻略へは行くんだ、貴族共のいさかいなんぞ捨て置いといて、現場では助け合おうぜ」


「うむ。『結晶竜』の相手は魔術師では務まらないが、雑魚は魔術で相手しよう。といっても、この期に及んでいまだ、国とギルドの足並みはそろわないがな。まるで妨害されているようだ」


「はい、よろしくお願いします。レイセンさんは昨日の料理でもお世話になりました」


「気にするな。役得だった。街で話題の料理を先に食えたのだからな」


 何このイケメンエルフ、顔も良いのに人格者とか隙が無いぞ。

 そんなレイセンの後ろから、睨みつけてくるのは弓使いのナナセさんだ。


「……俺は、認めねぇ」

 

 そう言って去っていった。えぇ、何しに来たんだ?


「悪いなリトルオーガ。あいつ、あれでもお前等のこと認めてるんだぜ」


「こちらの広場を使うのは、エルフでは私だけだからな。この場所で待っていたことが、ナナセなりの筋の通し方なのだろう」


 ……なんて不器用な人なんだ。でも、ちょっとわからなくもない。

 エルフ独特の選民意識はあるが、悪い人ではないのだろう。でなければ、イグラさんやレイセンさんがフォローを入れないだろうし。


「エルフのツンデレとか、需要しかないね」


「悪い人では無さそうだべな」


「うん。僕もそう思うよ」


「ご主人様に失礼な態度を……許せません」


(コロス?)


 パーティーでは評価が分かれている。うん、後半二人はちょっと落ち着こうか。

 二人を宥めていると、話題は一緒にいたナルミ(男性バージョン)へと移った。


「ところで、そちらのエルフの旦那は見覚えがあるぜ。確か数か月前にここに立ち寄った。ええと……」


「ナルミと名乗っていたな。数日間この街へ滞在していたはずだ」


 イグラさんとレイセンさんは、男性の姿のナルミを知っているようだ。


「砂漠へ行く前に、旅の途中で立ち寄らせてもらった。ギルドマスターに用があってな。改めて名乗ろう、ナルミだ。今日はイワクラ家の使者として来ている。ちょうどこの街の住人と話したかった所だ」


「イワクラの……居住まいを正すべきかな?」


「あたしは無理だぞ。そういうのは苦手なんだ」


 イグラさんが、頭をポリポリとかく。


「大丈夫だ。こちらとしても、堅苦しいのは苦手だ」


 ナルミがそう言うと、明らかに二人は安堵する。もしかしたら、僕が思っているよりもナルミの実家は影響が大きいのかもしれない。でもそこの褐色エルフ。空腹で【変容】が解けて、奴隷として売られるところだったりと割と間抜けなんだぞ。

 それにしても……。


「なーんか。僕等置いてけぼりだな」


「結局、これからのことを話せていませんからね」


(ヒマ)


「そろそろ、昼飯の準備でもするだか? 外食はこりごりだから、オラが調理するだ」


「手伝うよ。なんなら、午後からも屋台しようか。楽しかったんだよねっ」


 それもいいなぁ。モツ煮以外にもなんかできそうだし。


「話したいことってのはその屋台とも関係あるんだ。勝手に暴走するなっ! いいから座れ」


「屋台と関係ある話ってなんだ?」


 促されるままに座ると、ナルミが口を開いた。


「あくまで間接的にはなるがな。この街、いや、この街だけじゃない。エルフ族全体の他種族への差別についてだ。この差別というのは、いつから始まったと思う?」


 エルフの差別? なんで今そんなことを?


「何百年前とかじゃないか?」


「あっ、わかった。竜王戦争と関係あるとか」


「わかんねぇべな。でも根深い印象だべ」


(スピー)


「おとぎ話では、エルフが差別的なことを言う場面はなかったので、意外と近代なのでしょうか?」


 各々答えを並べてみる。ちなみにフクちゃんは寝ている振りです。


「フム。昔からあったらしいが、激しくなったのはここ数十年じゃないか?」


「あたしもそう思うぜ。いつだったか、記憶にねぇなぁ。でも昔はもっと雑にパーティーとか組んでたもんだぜ」


 イグラさんとレイセンさんの答えだと意外と最近のようだ。あれ、だとしたらなんで差別が激しくなったんだ?


「イワクラ家が、森の記憶を保存していることは知っているだろう。我々は他のエルフよりも客観的に物事を見ることができる。だからこそ、王家に助言をする立場にある。そして、今の問の答えだが、他種族と明確に……特に人族への差別意識が高まったのは三十年ほど前だ。不思議なほどに違和感がないがな。事実、私もあの姫に指摘されるまで意識できなかった」


「意外だ。もっと昔からなのかと思っていたよ。どうしてなんだ?」


 ナルミが返答するより早く、ファスとトアが何かに気づいたように顔を上げた。


「三十年前ですか……デルモが砂漠の街の領主になったのが二十年前ということを考えると、何か関係があるのかもしれませんね」


「だべな。領主になる準備期間を考えるとちょうど同じ時期にデルモが動き始めたとも言えるだ。街を歓楽の都へ変え、地下の封印へ穢れを流し続けるには相応の時間が必要だべ」


「ちょっと待ってくれよ。偶然ってこともあるんじゃないか?」


 どうしてこうも行く先々で、カルドウスの奴が出てくる。

 ナルミは浅く頷き、僕等を見た。


「もちろん偶然ということもあるだろう。私自身、砂漠でのことがなければ、この国の差別に対して疑問すら持っていないだろうからな。だが、もう一つ気になることがある。この国のエルフなら多くの者が知っていることだが。『結晶竜』が制圧した砦には、ある伝説の宝が置かれていた。どういうわけかそれを動かすことができないために、王家は砦を聖地とし、もともと住んでいた友好的なコボルト族に管理を任せていた。もし、宝を動かせなかった理由が、何かを封印するために固定されていたとしたら? 時期といい、あの黒い壁と合致するとは考えられないか?」


「やけに含みのある言い方だな。それが砂漠の時と同じようにカルドウスの封印かもしれないと? ちなみにその宝ってのは?」


 ナルミはニヤリと笑い、僕とファスを見た。


「……かつて【竜殺し】の英雄、リヴィル・モナト・ニグライト様が使ったという宝具。【竜殺しの鎖(ドラゴダム・シィーノ)】だ」

更新遅れてすみません。もっと街の描写が書きたいなぁ。


ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がります。嬉しいです。

感想&ご指摘いつも助かっています。活動報告でも書きましたが、最近多くのご指摘や訂正をもらっています。全て目を通し、全体のバランスを整えて訂正をしています。今後とも頑張りますのでよろしくお願いします。

本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
> 「三十年前というと、砂漠でデルモが街を作り替え始めた時期と符号します」 ここで違和感を覚えて確認しました。 108話で > 不思議なのはデルモがこの街の領主になってからすでに20年は経っている…
[気になる点] 主人公流され過ぎじゃない? 少なくとも2つ他人のせいで不都合食らわせられてるんやから、依頼受けないっていう選択肢、またはある程度ごねないと 今後も無理難題を押し付けれると思われるし、ハ…
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