第二百二十三話:エルフの料理は……
宿から出て。四人で街を歩く、A級への依頼は気になるがギルドへ行くのは明日に回そう。
「それで、ご主っ……シンヤはどこへ行きたいですか?」
ファスが杖を抱えながら、クルリと振り向いてくる。
森の不思議な明かりに照らされたその素顔は可愛くて、ちょっと、なんていうか……。
「シンヤ? どうしたのですか?」
「……いや、うん」
直視できねぇえええええええええええええ。
そんな僕を見て、トア、フクちゃん(少女モード)、叶さんがジト目をしていた。
「トアさん。あれどう思う?」
「ファスは多分無自覚だべ。あの子は引きこもって暮らしていたから、基本的に自分の容姿に無頓着なんだよなぁ」
「髪の毛、整えてた」
「砂漠で、アナスタシア姫が身だしなみや化粧のことも教えたみたいだよ。……でも今はナチュラルだよね。……なんで【聖女】のスキルには【魅了】がないんだろう……」
「スキルに頼るのは雌として負けた気分にならないだか? まぁ、オラがこんなこと言うのもちょっと不思議だけんどな」
「グッ……そうだね。頑張るよ、ほら皆で行くよ」
「わーい。シンヤー」
フクちゃんが後ろから抱き着いてくる。
「フクちゃんは何が食べたいですか?」
「おにくー」
「大森林の飯とか興味あるな」
トア達が寄ってくる。ファスも楽しそうだ。僕もいつまでも話もできないってのは問題あるぞ。
「僕は、穀類だな。パンとかでもいいかも」
「フム、じゃあ街を散策しがてら飯屋を探すべ」
「賛成。可愛い虫たちは全部メモするからねっ!」
叶さんはもう、当分この感じだろうなぁ。楽しそうで何よりです。
というわけで、まずは遅めの昼ごはんを食べに街を散策することになった。
「今までの街と違って屋台が集まってもいないな、木々を使った立派な建物が多いな」
「木材が豊かで、巨人族の優れた建築技術が発展したのです。木々との共存を念頭に置かれた建造物が多いことでも有名なのです。お婆さんの部屋にはこの国の本もあったので読みました」
もしかしたら、ファスを育てたという魔術師のお婆さんはファスの故郷がこの国かもしれないことをしっていたのかもしれないな。
「人通りも今までの街では一番少ないかもしれねぇだ。そんでも、ほら、あそこに飯屋の看板があるだ」
枝に引っ掛けられた看板には食器が描がかれている。
「おなかへったー」
「私も、ペコペコだよ。それにしても、『飛行船』に乗っていた商人さん達も見かけないね」
「何はともあれご飯だ」
バオバブの木のように巨大な幹をもつ樹木の中が店のようだ。暖簾がかけられている。
サイゾウさんの名前といい、ちょっと和風なんだよな。
店に入ると、果物の香りがした。
カウンターとテーブルがあり、何人かのエルフが干しブドウのような乾燥した果物を食べていた。
店に入ると、栗色の髪のエルフが出迎えてくれた。
というか、割烹着みたいな服なんだな。いよいよ、懐かしくなってきたぞ。
「あっ、いらっしゃ……」
なんか、フリーズしている。出迎えた姿勢のまま静止状態で目線だけがキョロキョロと僕とファスをいったり来たりしている。
いつもなら、主人だからと僕が前に出されるのだが、今日の僕は従者なのでファスに任せよう。
目線で「がんばれー」と送ると、ジト目で睨みつけられた。
「あの、食事をしたいのですが?」
「あっ、は、はいっ。翠眼だぁ、き、貴族の方ですか?」
ファスが話しかけると、魔法が解けたように店員さんが飛び跳ねる。
そして僕を指さした。
「で、でもエルフ以外の立ち入りは禁止ですよ。じ、人族なんて、ダメです」
「……シンヤは私の、その、従者なのですが、それでもダメですか?」
「うーん。それならいいのかも」
おっ、意外と許可がでそうだ。押しに弱そうな店員さんだもんな。
「ダメに決まっている! 人族と同じ場所で飯を食えと言うのか!」
先に飲んでいたエルフが立ち上がり、ファスに詰め寄った。
「ンっ……まさか、本物の翠眼か? どうして君のような生粋の……美しいエルフが人族なんか連れている。そこの白い娘は人族ではないようだが……」
「この方が私にとって大事な人だからです。不快です。出ましょうシンヤ」
「待つだっ」
以外にもトアが止めに入る。普段冷静な彼女らしくもなく、愕然とした表情だ。
「どうしたのですかトア?」
ファスも心配そうにしている。
「クンクン、この匂い。……あんた、店主だべか? 料理はあんたが作ってるだな?」
「えと、はいそうです。今の時間は私しかいませんよ」
「そこのエルフさんが食べているのは、乾燥果物だべな。メシは何を?」
「おい、獣人が図々しいぞ。……しかし、見ればなかなかの器量ではないか、こういう奴隷なら箔もつくだろう」
エルフから見ても、ファスはもちろん、トアも魅力的なようだ。しかし、トアは男を無視してカウンターの奥を見つめている。
あっ、これあれですわ。虫を見た時の叶さんと同じ反応だわ。
何かが、トアの料理人としてのスイッチを押してしまったようだ。
いい感じに話が紛れているし、今がチャンスかもしれん。
トアに店員と客が、注意を向けている隙にフクちゃんに耳打ちをする。
「今のうちに【魅了】で何とかなんない?」
「わかったー」
「叶さんは人払いの結界をよろしく」
「わかったよ」
フクちゃんの【魅了】のせいで街が混乱しないように、人払いもお願いしておこう。
というわけで、叶さんが結界を張り、フクちゃんの存在感が膨れ上がる。
「わっ……かわいい……」
「なんと、こちらの娘も美しい……」
「ごはん、食べてもいいよね?」
「はい……こちらの席へどうぞ」
ということで、上手くいったようだ。流石フクちゃん……恐ろしい子。
「む、まずは、食べてから確認してみるだ」
「私は納得できませんが……先にご飯を食べてからですね」
「まぁまぁファス、細かいことは気にしなくてもいいよ」
というわけで、他の数人のエルフも含めて軽い【魅了】状態にして、やっとこさお昼ご飯にありつけた。さぁ、エルフの料理ってのはどうなる? 虫料理でもなんでもこい。
店員にはおすすめをお願いしてみた。そうして出てきたのが……。
「「「……」」」
なんとも、薄い色合いのスープとおむすび。潰した豆にサラダがついていた。
そしてイチジクのような果物が添えられている。
「なんというか……」
「質素というか」
「朝ごはんでも少ないよね」
「これ、ご飯?」
「食べてみるだ」
まずは実食。不味そうではないし、米はやっぱりありがたい。
というわけで、いざ実食。
「薄い、スープがお湯みたいだ。そのくせおにぎりは甘いぞ……」
「サラダもなんていうか、下処理でさらに味を薄くしているようです」
「果物も食べれるけど。めちゃくちゃ甘くて、ご飯とのギャップが凄い」
「まずいー」
「やっぱりだべ。この匂い【旨味抽出】に似たスキルか、効果が付与された調理器具を使って味と香りを抜いているだ。そのくせ、無駄に甘味だけ強めているだ。どうしてそんなことをしてるだ!?」
トアが愕然とした表情を浮かべていた。フクちゃんが店員さんを呼んでくれたので、料理について聞いてみると。
「えっ、だって、そうしないと刺激が強くて食べられません。エルフは他種族と違って特別なので、味覚が鋭敏で匂いにも敏感なので、そうしないと食べれたものじゃありません。あっ、でも果物は美味しいでしょ。甘味はいくらあってもいいですからね」
とのこと。ちなみに、トアはわなわなと震えている。
店員さんに下がってもらってから、トアが口を開いた。
「旦那様。オラが言ってもいいだべか?」
「あぁ、【料理人】から言って欲しい」
「商人がこの辺にいないもう一つの理由がわかったべ。どうやらエルフは特定の例えば甘味だけには鈍感で、他の苦みや辛味には過剰に反応しているべ。そんで自分たちが他の種族よりも特別だから仕方ないと思っているべ。でも、同じエルフであるファスはしっかりとオラ達と同じ味覚だ。つまりエルフは……」
全員が顔を見合わせる。
「「「味オンチ『だべ』『なのか』『だよね』」」」
全員の声が重なる。
「……私、もうエルフじゃなくていいです。生まれとかいいので帰りましょう」
「……この街でやっていく自信がなくなった」
「狩りするー」
「ちょ、真也君とファスさんが絶望してる!?」
旅の楽しみの半分は食事だってのに、味オンチな国とか魅力がない。
いっそ、そこら辺の虫を捕まえて塩振って食べた方が美味しいレベルだぞ。
フクちゃんは自分で食材を調達するつもりになっているし、マジで最大の危機かもしれん。
しかし、トアの目には炎が宿っている。
「オラが、オラがやってやるだ。この街にちゃんとした料理を広めるだっ! こんなものを料理とは認めないべっ!」
「なるほど、これが僕らの任務か。確かに大任だ」
「難しいです。まずは情報収集を徹底しましょう」
「多分違うと思うよ。えっ? 皆マジなの?」
何言ってんだ叶さん。美味しいは正義だろ?
まずは、街で手に入る食材を探しに行かなくては。
というわけで、使命を得た僕らは困惑する叶さんをつれて街の商店へ向かうのだった。
多分違うと思うよ……。更新遅れてすみません。もうちょい早く投稿できるようにします・
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