第二百二十二話:大事な役目。
「……」
ここは、アルタリゴノの宿屋。この街で唯一人族が泊まることが許された場所。
狭い部屋に四人がすし詰めになっている。
サイゾウさんの提案を受けてから、烈火のごとく怒ったファスを落ち着かせるために依頼の内容も聞かずにここへ来たのだ。
「……」
そして、先程から正座した状態で涙目でファスが睨みつけてくる。
「えと、ファス。さっきの話だけど――」
「嫌です」
有無を言わさない語気。きっとファスにしかわからない感情があるのだと思う。
だけど、僕にだって伝えるべきことはある。
後ろを見ると、トアが苦笑しながら頷いた。フクちゃんに続いて奴隷仲間である彼女にはわかるのだろうけど、何も言わない。
あぁ、爺ちゃん。男って辛いよね。
「ファス聞いてほしい。僕がファスにして欲しいことがあるんだ」
「……何と言われようと、私は奴隷としてのふるまいを辞めません」
「僕は、フードを脱いだファスと街を歩きたい」
ちょっと、照れくさくて顔が赤くなる。
「ご主人様?」
「ほら、いつもファスは顔を隠していたろ。エルフは狙われやすいからって、でもこの街ならファスはただの女の子だろう。串焼きを食べる時も、フードを気にしなくてもいいんだ」
両手を伸ばして、ファスの髪を梳かして抱きしめる。
「髪もトアや叶さんに整えてもらってさ、耳だってそのままの、素顔のファスと街を歩きたい。ダメか?」
「でも私は一番奴隷です。これは私の初めての大事な役目なんです」
「うん。でも、他にもいっぱい役目はあるぞ。例えば、僕を……名前で呼ぶとかさ」
……顔から火が出る。思わずそらした視線の先には、両手を上げる叶さん。
めっちゃ笑顔なんだけど、どんな感情なんですかね?
フクちゃんは興味深そうにこっちを見ている。トアは……耳をペタンとしてちょっと恥ずかしそうにしている。やめてこっちも恥ずかしいから。
「ずるいです……ならば、私に命じてください。この街にいる間だけ、少しだけ、演技をしろと」
どこまでも、頑固なファスの頭を撫でる。
「少しだけ、僕を名前で呼ぶようなそんな関係である振りをして欲しい」
「仰せのままに、ご主人様。…………お腹が減りました。依頼を聞く前にご飯を食べに行きましょう………シンヤ」
「かしこまりました。ファス様」
「うー……ご主人様のバカぁ」
ポカポカと叩いてくる。ファスを受け止める。
「話はついただな。旦那様……じゃなくてヨシイ、だべな」
「トアさん。『真也』じゃなくていいの?」
「……オラにとってはこっちのがいいんだ。ダメか」
初めて、出会った時の呼び方。この辺のアピールが上手いよなぁ。
「ヨシイでいいよトア。叶さんもよろしく」
「うーん、じゃあ。ボクもシンヤーって呼ぶ」
人間状態のフクちゃんが飛び跳ねる。そういやフクちゃんに名前で呼ばれるのも初めてかもな。
抱き上げて肩車をする。
そういや、サイゾウさんに従者逆転の話をする前に元気が無いのは大丈夫になったのかな?
「ご……シンヤのおかげでどうでも良くなりました」
「……」
「どうしました?」
「ちょっと、感動してた」
いや、だって、金髪翆眼のエルフに名前呼びだぞ? そりゃ『ご主人様』もすごいんだろうけど、名前呼びの新鮮さもヤバイ。めっちゃ嬉しい。
「あれ、反則じゃない?」
「オラ達はオラ達の強みがあるべ」
「おっぱい?」
ファスとトアの胸を見て、フクちゃんが首を傾げる。
「……ちょっと、考えちゃっただ」
「むぅ、ボク、ない」
「フクちゃんは、ある意味一番ずるいから大丈夫だよ。改めて、私も頑張るからね」
このままだと話があらぬ方向へ転がりそうなので、話題を変える。
「じゃあ、ちょっとエルフについて話をしよう。ここに来るまでの商人とも少し話したわけだし」
「そうですね。ここでちょっと呼び方に慣れていないと、ボロが出そうです」
「と言っても、商人達も同じような、内容ばかりだったよね」
エルフという種族はとにかく差別的で、薄味な料理を好み、独特の精霊信仰を持っている。
種族間の関係性でいうならば、人族を嫌っており奴隷として傍に置くものも少ない、奴隷商はもっぱら獣人を売りに行くことが多く、国にも獣人がそれなりにいるとのこと。
そして、道中聞いた気になる噂が商人の中でささやかれていた。
「リザードマンに攻め込まれており、実質戦争のような状態にあるって話だよね」
叶さんが周囲を見ながら、小さくそう言った。
「真偽のほどはわかりませんが、複数の商人がそう言っていましたね。リザードマンは知能の高い魔物です。彼ら独自の言語と文化を持つため、人間社会に組み込む動きもありましたが、彼らの大半がオークやオーガと同じく人を襲い喰らうことがあるため、魔物とされています」
「リザードマンという魔物はラポーネ国ではあまりいないから、詳しいことはわかんねぇだ」
「コロス?」
「任務と関係あるなら、相手になるかもしれないな。街の様子も観察しつつ情報を集めよう」
ということで、話がまとまったので宿の外へでる。
いつも宿のカギは僕が持っているのだが、今日はファスが受付だ。
「おでかけですね……えっ、翆眼っ!」
受付のサルっぽい獣人が飛び跳ねる。
「問題ありますか?」
「い、いいえ、しかしこの宿は冒険者が利用するもので……エルフのましてや翆眼の方が利用するような場所では……」
「私は冒険者です。失礼します」
「行きますよ。シンヤ」
「はい。ファス様」
そう言うと、ちょっとジト目でファスがこっちを見る。
「意地悪ですご主人様」
顔を寄せそうささやく僕のご主人様なのだった。
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マジでうれしいです。これからも真也君達の冒険を頑張って書いていくのでよろしくお願いします。






