第二百二十一話:主従逆転!?
ギルドを案内されてわかったが、やっぱりこのギルドは広い。
そしてわかりづらい。道が入り組んでいるし、内側からしか出れないドアに外側からは見えない窓。
とにかく、何かを隠しているような印象だ。
「……ファス、ここまでの道をおぼえてるか?」
「はい、キチンと記憶できています」
事も無げに答えられた。マジかー、僕はギブアップしよう。
せめて地図でもあれば何とかなりそうだけど、とにかく曲がり角が多すぎる。
ファスかフクちゃんと一緒じゃないと、壁を壊さないと外に出られないぞ。
「うぅ、私も7割ほどしかわからないよ」
「ん? オラは普通におぼえたべ」
(ヨユウ)
あれー? もしかして僕が一番道がわかっていないのか……。
うん、ギルドにいる間はパーティーの誰かから絶対に離れないぞ。
うんざりしている僕の顔をみて案内役の冒険者が苦笑いをしている。
「ハハ、まぁ最初はそんなもんだ。俺もここに来てすぐは、ダンジョンよりも複雑だと思ったもんだ。あっ、ここを進んだら解体場だ。曲がれば巨人用の洗体場があるぞ。この国の良いところは、水に困らないことだな。森が機能しているから綺麗な湧き水がいたるころからでてくる。あと酒が美味い、エルフのワインは名産だぞ」
獣人の冒険者が親し気に案内してくれる。小人族がいればもう一つ浴場がひつようになりそうだ。
「それはちょっと楽しみだべ」
「まぁエルフの飯はちょっといただけないがな、あいつら俺たちと味覚が違うのさ」
「だよな。エルフは肉が苦手なんだよ。こればっかりは食堂が分かれていて正解だな」
「そうなのですか?」
ファスが首を捻る。まぁ、ファスはエルフだけど肉とかもりもり食べるもんな。
「そうそう、エルフは高尚だからな。俺たち下々とは違うんだよ」
「……お肉は美味しいです」
「ファスさん……真也君。ちょっと、私達だけで話した方がいいかも」
「僕もそう思う」
納得できないとファスがうつ向くので、フード越しに頭を撫でておく。
叶さんのいう通りちょっと休憩した方がいい。
エルフの文化については今一度勉強した方がいいかもな。
ファスは無言で服の袖を掴んでくる。やはり『エルフ』という種族と自分との乖離がしんどいらしい。
「すみません。ちょっと休憩したいのですが」
「おっと、そうか。ギルドの休憩室は人族は許されねぇのさ。外の宿を紹介するよ」
「助かります」
どんなルートかいまいち理解できていないが、元の受付部屋に戻ってきた。
イグラさんが手を上げる。頭を下げて挨拶を返すと、何人かの冒険者とエルフがこちらを睨みつけ、部屋を出て行った。
「歓迎ばかりではないか」
「まぁ、あんたの実力を軽んじている奴はもういねぇさ」
「そうそう、一緒に仕事するときは頼りにしているぜ『リトルオーガ』」
名前を聞こうとすると、背後に気配。振り返るとサイゾウさんが天井を歩いていた。
【ふんばり】ってわけじゃなさそうだ。何かのパッシブスキルか?
「思ったより、早く回ったようじゃな」
ストンと目の前に下りる。興味深いけど、今はファスを休ませてあげたい。
「切り上げてもらったんです。旅の影響か連れが疲れてしまったので、これから宿を探そうと思います」
「フム、ならば。先に用事を済ませておく必要があるな。執務室へ来てくれぬか?」
ちらりとファスを見る。
「私は大丈夫です。別になんともありません」
「いや、やっぱり休んだ方が……」
「なんともありませんっ」
梃子でも動かないという勢い、翠眼から見えるの意思は鋼よりも固い。
そうだ、最近はなかったから忘れていた。ファスはこうなると絶対に譲らないんだよな。
「わかった。サイゾウさん手短にお願いできますか」
「約束しよう」
案内された部屋は執務机に山盛りの書類。それと茶器を置くだけの小さな棚があった。
どうやら、床に直接座るらしい。準備されていたのか、すぐにお茶が床に置かれたスタンドに並べられる。ハーブティーのような香りだ。
「椅子がいるか?」
「僕はこの方が落ち着きます」
「そもそも、私たちは冒険者です。この方が慣れています」
「そうだね。机もいいけど、こういうのも素敵」
一応僕が座り、他のメンバーも座る。
「まずは、改めて先程の非礼を詫びよう」
胡坐の状態からサイゾウさんが頭を下げる。
「いえ、ここの冒険者の信頼を得るには手っ取り早いと思います」
「そういうことだけではない、ヌシ等の力に疑問を呈することは、推薦した他の者の面子を潰すことになる。引いてはギルドに所属していながら、ギルドの決定に反しているともいえる。本来ありえないことだ」
なるほど、そういう見方もあるのか。面子の問題ってのは確かに複雑だが、それでもあの歓迎は僕らも了承した結果だ。
「頭を上げてください。エルフの差別にはここに来るまでの道程で商人に少し聞いています。他国の人族が来ることに反感があるのは理解できますし、僕としてもあのやり方の方がやりやすかったです。その上で必要があるなら謝罪を受け取ります」
うんうんと皆も頷いている。悔しいけど、立ちふるまいや言葉で信頼を勝ち取るには僕らはあまりに未熟だ。
「恩に着る。して、ここから本題に入る。ヌシ等はこの国のギルドが発行したA級の依頼を受けてもらいたい」
「そのために山脈を越えました。A級の依頼を達成して、ファスのルーツを知るために」
ファスの出生の謎、あと別にそこまでこだわってないけど、何かとまとわりついてくる【竜の後継】についてもおまけ程度に知りたい。なんかアナさんは知る必要があるとか言っているけどね。
「いえ、ご主人様のことの方が大事なのでは?」
「どうだろう? 意外とそれほど大したことじゃないかもよ?」
「でも、未知は冒険だよねっ」
「旦那様もファスも、オラから見たら疑問だらけだけんどもな」
(ミンナがいれば、それでいいのだ)
結局フクちゃんが言うことが正しい、僕らにとって大事なのは皆で冒険することで、そのために強くならなきゃならないってことだ。
「依頼についてはおいおい話そう、他に参加する者もいるでな。次は……ファス嬢。顔を見せてくれんか」
ファスがこっちをみる、無言で頷くことで返答した。ここで隠しても意味はないだろう。
このエルフの国で、自分が何かわからない怖さと向き合うファスを思うと胸が痛む。
無言で脱いだフード、幻覚の術が掛けられているイヤリングを外すと丸い耳が本来のとがった三角耳に戻る。
この国に来て、結構な数のエルフを見たがそれでもファスは別格に綺麗だと、こんな時なのに思ってしまった。
「……」
サイゾウさんが息をのみ、ファスを見つめる。
「翆眼……よもや、本物を見ることができるとはな」
「この眼を持つ他のエルフがいるのでは? 貴族には稀に発現すると噂があります」
「……大抵が見栄を張るためのデマにすぎん。翆眼の持ち主は短命だからじゃ。その病弱なはずの翆眼のエルフが冒険者をしているだと、エルフの貴族連中が聞いたら、ひっくり返るわい。して、ジョブは【魔術師】で間違いないか? 他に出現したジョブがあれば教えていただきたい」
そういや、教会でファスのジョブを取得するときに他にも選択肢があったような?
「質問の意図を教えて欲しいです」
叶さんが言葉を差し込む。確かに、聞くからに理由があるはずだ。
「翆眼は王族に連なる血筋に極稀に発現する。なべて短命で体が弱いが……そして王族に連なるならば特殊なジョブが発現するはずだ」
「例えば?」
つまり、ファスがエルフの王族ではないかと思っているわけだ。
「王族が持つジョブには政治に関係する職業として【王女】【王】があるが、これは実際にその立場にならなければ得られない。通常、男性であれば【将軍】などの支配階級のジョブ。女性であれば【呪術師】や【巫女】の精神性を重視する特殊なジョブに目覚めやすいとされている。【転移者】以外でこういったジョブが発現する可能性は非常に低いと言える」
「私が教会で見てもらった時、選択肢は【魔術師】と【巫女】でした」
「……信じられないことだが、やはりファスさんは王族に関係ある可能性が高いだろう」
その言葉に僕は胸が痛む、ファスが遠い存在になってしまたらという不安。
しかし、皆はあっけらかんとしたようすだ。
「まぁ、そんな気はしてたよね」
「ですね。ナルミの発言からも推測できたことです。今更驚くことではありません」
「うーん、アナスタシア姫が砂漠で上流階級の立ち振る舞いを仕込んだことといい、何かキナ臭いべ」
(ファス、おひめさま?)
「私はご主人様の一番奴隷です」
フクちゃんに返答するように、ファスが宣言する。
ファスがそう言ってくれるから、僕は胸を張ってファスと一緒にいたいと言える。
「僕はファスがどんな立場であろうと、一緒にいるつもりです。だけど、それは真実を知らないと選ぶことだってできない。だから知りたいんです」
「頭が痛いのぉ……翆眼のエルフ、この街で活動する以上素性を隠すにはなにか策がいるじゃろう。それが転移者とはいえ、一冒険者の奴隷ともなれば、大変な騒ぎになる。……実はすでにファス嬢が翆眼のエルフであるという噂があっての……そのことについてナノウ婆さんからひとつ考えを受け取っている」
噂になっているか、まぁ交易の街でファスのことは見られているし、箝口令が敷かれたとは言え時間が経てば少しずつ噂は流れるか? 宙野もファスの素顔を見たことがあるらしいし。
「ナノウさんから……どんな策ですか?」
「なぁに、簡単じゃよ。つまりじゃな、エルフであるファス嬢の奴隷がヨシイ殿であれば、なんの問題もない。立場を偽って、主従を逆転させれば良いのじゃ。A級冒険者を従えているとなれば、相応の箔はつくじゃろう。立場はなんとでも――」
なるほど、それはとても良い考え――。
「ぜっっっっったいに、嫌です!」
……まぁ、ファスはそうだよな。怒りのあまり【恐怖】を発動して怒るファスを皆で宥めたのだった。
普段からファスに頭あがらない真也君が従者になるとどうなるのか……。
【巫女】のジョブは、転移者以外には、特殊な血筋にしか発現しません。
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