第二百十九話:夕食前の運動
サイゾウと名乗った老人のエルフに案内されて、森の街を進む。
舗装はされているのだろうけど、土が柔らかい、なるほどここでは確かに馬よりも大きな虫の方が安定するのだろう。
「【転移者】にはこの光景は珍しいか?」
サイゾウさんが振り向く。ゆったりとした貫頭衣にナルミよりもやや濃い肌の色、真っ白な長髪が印象的だ。
虫や苔によるこの街独特の明かりのせいで、やたら絵になる。
細身の体は軽やかで、どのような戦い方かはわからないが、戦える人であることは間違いないだろう。
「えぇ、とてもおもしろいです。どんな文化か早く知りたいですね」
「だよね。はぁ~、最初の転移先がここならよかったのになぁ。あっあそこにもおっきな虫がいるよっ!」
叶さんはもうさっきから、湯気でも出ているんじゃないかってくらいにハイテンションだ。
「商人から聞いた話ではエルフは排他的と聞いたけんど、視線も感じねぇし、いい街だべ」
「いいえトア、先ほどからしっかりと監視されています。木々にまぎれて【隠密】の効果を上げているようです」
(コロス?)
(だめだぞフクちゃん)
「ほぅ……まずは流石と言っておこう。ヌシ等には悪いが、同じ冒険者といえど土が違えば、やり方が違うでな」
物騒なフクちゃんからの【念話】を止めつつ、周囲を観察する。
「……フッ」
全然わからん、思わず笑ってしまった。えっ? マジっ? 割と本気で気配を探ったけどまったくわからん。これでもフクちゃんの【隠密】に大分鍛えられたはずだけどなぁ。
そもそも、僕より遥かに索敵に優れたトアでもわからなかった時点で察するべきか。
森と街が一体化したここでは、匂いもごまかせそうだし、隠れる場所も多そうだ。
(左、土を被っています。もう一人右の後ろの木の中に一人)
「木の中? あっ」
ファスの念話に反応しちゃった。サイゾウさんはそのまま進んでいる。
どうやら、聞こえなかったのかな?
「着いたぞ」
「えっ?」
一同止まれ、ってわけじゃないが、サイゾウさんが向く方向には木造の建物が、木々と一体化するように建っていた。むしろ木の中に建物を無理やり挟み込んだようだ。
「ここがワシ等のギルドである。歓迎しよう人族」
威圧感を孕んだ低い声、明らかに歓迎という感じではない、それに――。
「フン、いつの間にか人が捌けているべな」
「こういう歓迎なら慣れてるよ」
どうやらギルド前で腕試しみたいだ。
むしろ安心するまであるな。
「バフまきするよっ【星女神の竜舞】」
叶さんを中心に広まった光が鱗のように手足に貼り付く。
「人族がぁ! 死ねっ【角連射】」
「失礼する。A級たる所以見せていただこう【魔木槍】」
道の脇にある木から弓を構えた狩人のエルフが、地面からギリースーツを着込んだエルフが飛び上がる。右と左で別角度からの攻撃。
「応っ! よろしくお願いします!」
【威圧】を発動。誘導するまでもなく攻撃は僕に向かっていた。
(ここは任せてくれ)
言葉では間に合わないので【念話】で後衛に伝える。せっかくだ、空での修行の成果を試すぞ。
魔力を読み取り、右足元から飛び出てくる木の杭を躱しつつ、タイミングと角度を合わせて足を乗せる。
【ふんばる】ことで木の杭の上に立ち、90度傾いた角度からブレる軌道の矢を指先のみで全部キャッチ。一度に8本まで射ることができるのか、すごいな。
さらに追撃の矢が来るが、全て躱せる。あの空で地獄(主にファスとフクちゃんによる)を潜り抜けた今、この程度の攻撃が当たるわけがない。
「ハァ! なんだそれ!」
「なるほど、A級は伊達ではないか【魔木壁】」
魔術師が防壁を張って、弓使いと合流。心臓がドキドキする。
これは殺し合いではないのだし、ちょっと試してみよう。
「隠れなくていいですよ。折角ですし、全力で来てください」
地面に下りて声を上げると、ファスがため息をついた。
「ハァ、まったく。本来なら今の防御後には終わっていましたよ。手の内を明かさなくてもよいでしょうに」
「まぁまぁ、ファス。夕飯前の軽い運動だべ」
「がんばれー真也君」
(たいくつ)
パーティーメンバー達の余裕の態度を受けて、弓使いが防壁から体を出した。
「この、人族がっ! 後悔させてやる。おい、やるぞ」
「了承した。全力で行かせていただく……【魔創樹木弾】」
母音を使った低い鼻歌、ファスは詠唱しないけど本来魔術師にはこのイメージを固める時間が必要なんだよな。
10秒ほど経っただろうか、周囲の木々から鋭い槍が突き出してこっちを狙っていた。
「死ねっ【重連射】」
魔力を込めた矢の発射と同時に、木々から槍が発射された。
隙間の無い弾幕……否。
スペースは自分で作る。
「【四方無尽投げ】」
これはスキルの組み合わせであって、スキルそのものではない。
レベルでは表示されない僕の技術。
左上空へ跳びあがる【空渡り】、もっとも勢いのある重さを持った矢を【掴む】ことで投げの姿勢。
空中での身体操作、移動しながら攻撃に攻撃を投げ返した。タイミングがずれた攻撃のうち、次の一手を掴み取る。
刃筋を立てる稽古で身に着けた、力の流れを読み取る感覚を研ぎ澄ませ、端から弾幕を投げ崩していく。
これまではヤケクソ気味に片っ端から投げていたが、今ならもっとギリギリの最小限の力で投げることができる。
【掴む】範囲を限界まで広げ、自分と周囲の人間に当たる攻撃のみを防ぎ切り、残りを相手に投げ返した。
やったことは弾幕に弾幕を投げ返したように見えたかも知れないけど、かなり成長を感じるな。
二人の襲撃者は木壁へ隠れることで矢と木々の投げ返しから身を守ったようだ。木壁は投げ返した矢と木々でハリネズミみたいだ。
「……おい、嘘だろ。なんだ今のは……スキルか?」
「フム、魔力がもう無いな」
そのまま木壁へ送り突きで壁を粉砕し、壁の向こうにいた二人へ手刀を突き付けた。
「勝ちってことでいいですか?」
魔術師はフードを脱いで杖を差しだしてきた。
弓使いは苦虫を嚙み潰した表情で、そっぽを向いているが弓は前に差し出している。
「無論だ。敗北を認める」
「……チッ、気に入らねぇ」
二人の言葉を聞いて、サイゾウさんが声を張り上げた。
「そこまでっ、無礼を詫びよう。我らアルタリゴノの冒険者ギルドは、特別A級冒険者シンヤ ヨシイとそのパーティーを迎え入れる」
その宣言と同時に木々の刺さったギルドの扉が開いたのだった。
防御だけなら、極めつつある真也君でした。
あてにならない次回予告:エルフの国のギルド。
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