第二百十八話:大森林の街:アルタリゴノ
空を泳ぎ、雲を食む【風船鯨】から離れ『ゴンドラ』はゆっくりと降下していく。
二階の共同スペースへ行き、窓から外を見るが一面緑の木々で到底街なんぞ見えない。
「これどこに降りるんだ?」
「多分あれじゃない。なんかめっちゃ伸びてきてるよ」
叶さんがが指さす先には、急速に枝を伸ばし纏まっていく枝が見える。
まるでこの『ゴンドラ』を迎えに来ているようだ。
木々が、早回しの映像のように編み上がり森の上に網状の飛行場が出現した。
「どういう仕組みか、まるでわかんねぇべ」
「このまま着陸するみたいだぞ」
驚きを越えて呆れはてるほどの、とんでもない光景だ。
そして『ゴンドラ』はその上に着陸する。
激しく揺れるが次第に揺れは収まり、商人や他の冒険者達が慣れた様子で、荷物を持ち上げた。
僕らも遅れないように、まとめた荷物を持って外へ出る。
『ゴンドラ』の一階部分はすでに収納されており、外から見ると三階建ての白い建物にしか見えない。
振り返ると、はるか先まで見える大森林。映画でもこんなデカい森見たことがない。
「木がデカすぎる。というか、ここからどうやって降りるんだ?」
葉っぱに邪魔されて、地面が全く見えないぞ。
案内してくれた、船員達は『ゴンドラ』の中から出てこない。
商人達を見ると、どうやら編みこまれた枝の間に出入口があるようだ。
「よぉ、A級冒険者殿。お困りか?」
キョロキョロしている僕達を見かねたのか、商人さんが声をかけてくれた。
「えぇ、正直さっぱりです。どうして皆迷わず動けているのでしょうか?」
「エルフの国なんて行くのは、大抵決まった奴らだけだからなぁ。なんせ『森の人』ってのはとにかく差別的だ。俺だって儲けがなけりゃ、進んでいかねぇさ。金のある貴族なら観光にはいいかもしれねぇがな。この飛行場を降りればアルタリゴノの街に出れる、少し待っていれば荷物を運ぶための芋虫が来るが、商人と違って荷物の少ない冒険者なら通路が渋滞する前に自分で降りればいい」
顎で出入口を差し、商人さんは隊商へ戻っていった。
パーティーで顔を見合わせる。フクちゃんはファスのローブの中だけど。
「じゃあ、行くか」
「はい。ご主人様」
(れっつごー)
「楽しみだね、真也君」
「とりかえず、宿を見つけるべ」
今回はラマも馬もいないので、僕も荷物を持って螺旋状の通路を下っていく。
通路はトラックくらいは余裕で通れそうな広さであり、薄暗く少しジメジメしている。
三十分程歩くと、前から何かが出てきた。
「うわぁ何だあれ」
「さっき商人のおっちゃんが言っていた『芋虫』だと思うだ。あんなの初めてみただ」
前から来たのは真っ白な体に、黒い斑点、うねうねと蠢きながら進んでくる。
巨大な芋虫が荷台を引きながら、坂道を登って行った。
「……」
「叶? どうしたのですか?」
芋虫をみて硬直し、プルプルと震える叶さん。
……あぁ、これは不味い。普通の女子なら嫌悪感に悲鳴でもあげるだろうが、叶さんの場合は……。
「か、可愛いいいいいいいいいいいい。何アレ!? カイコ、蚕に似てた。でも足が太くてちょっと違うかも、でも見た目は巨大な蚕だよ。それが家畜みたいに背中に人が乗ってたし。体もぷにぷにしてて、ふわぁ、ちょっと、乗せてもらえないか交渉してくる!」
「あれ、登りだから。僕等下っているから!」
走りだそうとする叶さんを止める。虫が大好きな彼女がこうなることはわかっていたとはいえ、流石にもう一度上に上がるのはごめんだ。興奮する叶さんを宥める。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「落ちついて叶さん。下に行ったらもっといるかもよ」
「はっ……そうだね。急ごう真也君」
「やはり、転移者は変わっている人が多いのでしょうか?」
(カナエ、コワイ)
ファスとフクちゃんがちょっと引いていた。
「叶さんはちょっと特殊な例だと思うぞ」
まるで、僕まで変わっているみたいじゃないか。
「道中の商人からちらっと聞いたけんど【ニグナウーズ国】は大森林と言うだけあって、虫型の魔物が多く、家畜化されているものもいるらしいだ」
「へぇ、楽しみが増えたよ。来てよかった。他の転移者の女子達も虫が苦手な子が多かったから、真也君となら存分に見れるしね」
「懐かしいね。図書館を思い出すよ」
元の世界でも、叶さんには散々スマフォや図鑑で虫を紹介されたものだ。
「ご主人様の世界にも大きな虫がいたのですか?」
「あそこまで大きい種はいないよ。でも、宝石みたいに綺麗な虫がいたりはした」
「蜘蛛とか綺麗な種が多いよねー」
(ボクも可愛い?)
ファスの胸元からフクちゃんが顔を出す。
「「フクちゃんは世界一可愛い」」
僕と叶さんの声がハモる。いや、フクちゃんが最高ってことは(僕の)世界共通の認識だから。
(エッヘン、でもカナエこわい)
「なんで!?」
そんなやり取りをしている間に、螺旋状の通路に終わりが訪れる。
薄暗い通路から抜けた先の光景はこれまで見たことが無いものだった。
「ハハッ、マジで新しい文化圏って感じでテンション上がるな」
「エルフがいますね。ナルミ以外のエルフを見たのは初めてですが……少しおかしな感覚です」
「虫、虫が一杯! モフモフの虫もいるよ、ここは天国だよ」
「飯の匂いもするべな。どんな料理や食材があるのか楽しみだべ。巨人族もちらほらいるべな」
(ボクの方がツヨイ、エッヘン)
ビルのような大木が立ち並んでいて、意外にも地面に草は生えておらず、道にはところどころ光る苔が生えている。
木々の間には橋がかけられており、大木の中には店があるようだ。
枝葉に遮られ薄暗いと思いきや、蛍のような虫や人魂のような発光体が街を照らしている。
一定の光量ではないが故の不思議な明暗が独特の雰囲気を出していて、少し怪しげだ。
道行く人々は人間が半分ほどで、エルフが四割、そして一割ほどが巨人族なのだろうか、体調が二メートル後半から三メートルほどの大柄な人達だ。
巨大な虫を家畜のように扱っており、甲虫や芋虫が荷台を引いているのがいかにも異世界って感じだ。
気温は防寒着を着ていると暑い位か? やや湿気ていて、不思議な香りがする。
特徴を上げるときりがないが、ここで立っていても始まらない。
「よし、街を散策しながら宿を探そう。その後にアナ姫が言っていた冒険者ギルドでA級冒険者の依頼ってのを受けるぞ」
「はい、お腹も減りました」
「屋台も探すべ」
「めっちゃテンション上がってきた。私の冒険が始まったよ真也君!」
(ごはんー)
「待ちな!」
横から大声がかけられる。見ると、白髪で色黒の細身の……エルフが立っていた。
「よく来たな。俺がこの街の冒険者ギルドのマスター。サイゾウだ」
「「「えっ?」」」
フクちゃん以外の全員が、硬直する。
「あん? なんだ? 驚くことはないじゃろ。おヌシ等が飛行船に乗ることはわかっていたし、黒髪が二人もいれば見当はつく。事前に連絡が来ていることくらいはわかっていただろうが? ははぁ、さてはワシがエルフってことに驚いて……」
いや、だって驚くでしょ。
「いや、いままでのパターンだとおカマが出てくると思っていたので」
「私もです」
「砂漠のギルドでヒットを見た後だと普通過ぎてビビるべ」
「正直インパクトに欠けるよね」
(個性がない)
ハイヒールモヒカンおカマでチャンピオンだったヒットさんと比べると、偉丈夫のエルフのおじさんはあまりに普通すぎた。
「……おヌシ等、ギルドマスターを何だと思ってるのじゃ!」
「す、すみませんっ!?」
素で失礼なことを言ってしまいどやされたのだった。
最近おっさん成分が不足していたので補給します。
次回:街の散策とエルフの文化。
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