閑話15:竜の後継を殺す為に③
真也が空でリアル360度3Dシューティング地獄な修行をしていたころ、【風船鯨】の雷を喰らった宙野はマルマーシュ派の貴族の別荘で治療を受けていた。
「うわぁあああああああああああああああああ」
悪夢でも見たかのかのように、宙野が跳ね起きる。
「こ、ここは……俺は、鯨に攻撃して……」
脳裏によぎるのは、空を埋め尽くした雷雲と真っ白な光、そして激痛。
横を見れば、国宝でもあり彼のトレードマークとなっていた青い鎧が飾られている。
錬金術の粋を集めて作られたその鎧は、今は無残なもので、ところどころが焦げ付いた、ひどい損傷具合だった。
勇者自身の防御【スキル】に加え、鎧に仕込まれた防御の魔法陣の全てを使った防御は、確かに彼の命を救った。だが、ダメージの全てを防ぐことは、できなかった。
娼婦が10人は乗れそうなベッドの脇には、大量の高級ポーションの空瓶が。そして疲労で休む数人の回復術士がおり、その内の一人が体を起こす。
「目覚めたようですね。今日の明け方まで治療を続けようやく回復できました」
「……俺はどうなった」
「三日ほど眠っておられました。ご安心ください。鎧と【スキル】によって勇者様の体は守られておりました。ここに来たときはひどい火傷でしたが、ヒーリングサーペントを一体潰して作った最高級の皮膚薬を用いました。痕も残らないでしょう。しかし、勇者様ほどの強さを持ったものがどうしてあのような傷を……まるで雷の渦にでも突っ込んだかのような……」
「うるさいっ! 寝ている奴らも連れて、さっさと出ていけっ!」
「ヒィ、た、ただちに」
回復術士達が部屋を出ていく。宙野が立ち上がり、部屋にある姿鏡の前に立つ。
鍛えられた細見の体。整った顔立ち。わずかに火傷の痕が、胸から下腹部まで残っているが、確かに薬を使っていれば消えそうだ。
まずは安堵する。完璧な勇者である自分に、わずかでも傷痕が残ってはならないのだ。
用意されていた手触りの良い服に着替えていると、扉がノックされた。
応じる前にドアが開き、白星教会の騎士ルイスが入ってきた。
「起きたか、【風船鯨】に向かって生き残るとは……。流石勇者と言いたいところだが、アレは各国の間を行き来するために、危害を加えた場合は死罪となる。もみ消すしかないな……しかし、すでに教会から独立した女性転移者のみの一団【ブラン・ロゼ】が、追及の動きを見せている。しばらくは派手な身動きはとれんぞ」
「おい、どういうことだ。なぜ転移者の一団である【ブラン・ロゼ】が、勇者である俺を追及することになる!?」
「……聖女様があの冒険者についている以上、聖女様を筆頭に据えている【ブラン・ロゼ】も、すでにあの穢れた男の手に落ちている可能性がある」
実際は、叶から連絡を受けた小清水達が【ブラン・ロゼ】を主導し、宙野への妨害をしているのだが、ルイス自身、耳に心地よい情報と妄想を、事実のように語っていた。
この部屋にいる二人には、もう現実は見えておらず、また真実も必要がない。
そして、そのまま都合の良い、実態の伴わない空虚な言葉のみを信じるのだ。
「また、真也か。あいつは女性を【魅了】するスキルでも持っているのかっ! 女は優れた俺を装飾する為にあるんだろうがっ!」
「【魅了】か、可能性はあるだろう。一刻も早く【竜殺しの鎖】を手に入れて、奴から聖女様を救わなければっ! 幸い教会の連中でも何人かは協力をしてくれるようだ」
「しかし【竜殺しの鎖】はエルフの国にあるんだろ? 次に鯨に乗れるのはいつになる?」
ラポーネ国とニグナウーズ国の間には、大山脈が横たわっている。それを越える唯一の手段が、飛行船だった。
もちろん山脈を越える道も、無いわけではないが、時間がかかることを宙野は知っていた。
宙野の問いを聞いて、ルイスが手を鳴らす。すると、ローブを着た小人族ほどの身長の者達が入ってきた。表情は見えず、またどのような種族なのかもわからない。
「彼らは?……グッ…」
「どうした?」
「いや、少し頭痛が……」
「まだ、回復できていないのだろう。こいつらは協力者だ。山脈には抜け道がある。【大洞穴】と呼ばれるダンジョンだ。そこを経由すれば【風船鯨】よりは遅いが、エルフの国へ行ける。彼らはその道を案内できる。もういいぞ、出ろ」
ローブの集団が礼をして、部屋を後にする。
「……その話は俺も貴族から聞いたことがあるが、ダンジョンの魔物が邪魔をして道を見つけるどころではないと……」
「彼らがいれば問題はない」
「どうやって、そんな人材を手配したんだ?」
「教会の協力者だ。それ以上は言えない。それと、もう一人協力を申し出たものがいる。【転移者】ソウジ マガネだ」
「磨金? あいつは、獣人かレアジョブ集めにしか興味が無いと言っていたが」
「さぁな。興味を引くものがあったのかもしれん。ただ、今は人手が足りない。奴が持っている【人形】達は役に立つだろう。でなければ、裏道だったとしても【大洞穴】を抜けるのは無理だ」
「装備はどうする? 剣は無事なようだが、鎧がこの有り様だ」
「飛行船は一つじゃあない。後で届けさせればいい。彼の国に住んでいるエルフの中には、白星教の人間も稀にだがいる。そこにも協力をとりつけた」
ここまでの会話で宙野は眉をしかめる。どうにも段取りが良すぎるのだ。
「随分用意がいいな。お前の背後には誰がいる。教皇か? それとも貴族か?」
「俺はただ【聖女】様を取り返したいだけだ。数日休養を挟んで【大洞穴】でマガネと合流する」
ルイスが踵を返し部屋からでると、そこには修道服に身を包んだ妖艶な女性がいた。
露出の少ない服にも関わらず、その肉感的な肉体ゆえにむしろ背徳感が増していた。
「伝えるべきことは言ったぞ」
「流石でございます。清廉なる騎士ルイス・セイオッゾ様。このセルペンティヌ敬服いたしました」
大仰な口ぶりでルイスに近づきその腕を胸に挟む。その周りに立つ先程のローブの小人達の輪郭が、徐々に崩れていく。そして現れたのは、カエルの頭を持つ魔物だった。
「さぁ、部屋に参りましょう。今後のことをゆっくりベッドで話し合わなくては……」
「あ、あぁ。それにしてもセルティ、どうして君が自ら言わないのだ? その方が勇者も信用しそうなものだが……」
魔物に囲まれても、ルイスの目には目の前のセルペンティヌしか見えない。鼻の下を伸ばし股間を膨らませながら。
「私なぞよりも、ルイス様の方が華がありますもの、ウフフ。勇者様の前でなんて私、緊張して何も話せませんわ。大丈夫……私に任せておけば良いのです。私達にはたくさんの協力者がいます。すぐに【竜殺しの鎖】のもとへ勇者様を連れていけますわ」
グニャリと影が歪み、蛇の形に伸びていく。この屋敷の住人も、別室で酒と女を与えられている勇者お付きの【転移者】や護衛達も、誰も怪しいとは思っていない。この屋敷そのものが都合よく用意されていようとも、怪しむことができない。
勇者のベッドの横に散乱していた、ポーションの空き瓶。そのうちのいくつかは、強力な幻覚剤であり、その効果で勇者の魔を見抜く【スキル】が鈍くなるようになっていることも、誰も知らない。
彼女の歩いた後には、むせかえるような甘い香りが漂っているのだった。
そのころの真也君達
「見える、僕にも見えるぞっ!」
「まだ行けそうですね、フクちゃん追加で」
「あいあいさー」
「あー、やめっ、無理いいいいいいいいいいいい」
というわけで、宙野視点でした。宙野君にざまぁは訪れるのか、真也君はいくつ冤罪を背負えばいいのか。次回新章に……入れたらいいなぁ。
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