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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第一章:牢屋編【奴隷と蜘蛛と救われた夜】

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第二十三話:少しだけ。

 宙野が諸刃の剣を振りかぶる。僕が持つ魔力のイメージが彼の剣に集中する。ギースさんの『飛ぶ斬撃』とは比べ物にならない熱量を感じる。見て回避できないほど速い『飛ぶ斬撃』がくることも考えて、初っ端は剣の振り下ろしと同時に飛びのこうと【ふんばり】を発動させ準備する。


「オオォ、【地喰らい】!!」


 美しい剣身が示現の太刀のように力強く振り下ろされる。同時に『飛ぶ斬撃』が放たれる。

 横っ飛び、重し付きの具足が無い状態なので余裕をもって一歩で移動できた。

 【地喰らい】と呼ばれた『飛ぶ斬撃』はギースさんの【空刃】と速度はそれほど変わらないが、その大きさは四倍ほど(縦に6・7メートルほど、僕の家の高さくらいだ)横幅はわからないがそれほど太くはなさそうだ。そして【空刃】とは軌道が違う。そのでかい衝撃波は斜め下というか地面に向かってサメの背びれのように進み、地を割りながら潜ってゆく。あれを受け止めたらすり潰されるな。その軌道から射程はそれほどないと思いきや衝撃波がでかいので端の結界のところまで届いていた。流石勇者、大した威力に大した射程だ。


 ギャラリーも大いに盛り上がっている。ファスを見るとさっきまで隅っこにいたのに最前列まで来ていた。ローブで顔は見えないが、心配しているのかもしれないな。

 ……周りを見る余裕があるとは、ギースさんのおかげだな。


 よそ見をしているとさらにもう一発、斬撃が飛んできた。難なく躱し距離を保つ。

 このままひたすら躱すのもいいけど、せっかくだからこっちからも仕掛けたいな。体の感覚を確かめながら相手とリズムを合わせる。狙うのは振り下ろしのタイミング。今の脚力なら懐まで踏み込める。


 横切りの『飛ぶ斬撃』はしゃがむなり、跳ぶなどして躱す。


 稽古では躱すことが困難な剣技に押され距離をとると『飛ぶ斬撃』で追撃されるなど様々な選択肢の中の一つとして使われていたが、宙野はただ振りかぶってスキルを放つだけ、モーションにフェイントもなにもない。スキルの影響か振り下ろしの軌道は美しいがそれ以外はてんで素人だ。


「動くなぁ、【乱れ空刃】!!」


 げ、複数の【空刃】が飛んできた。さっきまでと違い動きが不規則で読めない。

 これは躱しきれない、衝撃波の側面を手の甲で【掴み】そらす。

 防がれたとはいえ当たったことに気を良くしたのかそこから数十秒はずっとそのスキルだった。

 少しでも当てようと距離をつめてくる、防ぎきれず一発被弾し吹っ飛ぶ。

 直撃ではないものの割と痛い。

 後ろ回り受け身、足がつき次第跳ねて距離をとるが、いやに正確な【空刃】がまとわりついてくる。

 拳骨を強めに発動、衝撃波を側面から弾く。続いてくるであろう【空刃】に備えるが次弾は飛んでこない。


「フゥ、ゴクゴクゴク」


 なんかポーション的なものを飲んでいた。


「ジャッジィイイイイイ。アレありか!?」


 ジャッジ的な立場の人間がわからなかったので大臣に叫ぶが、無視される(桜木さんはまだ抗議してくれているようだった)。

 まぁ最初からあてにしてないが、しかしこのままだとゴリ押しされるだけだ。ポーションを飲んで魔力を回復したのか、また【乱れ空刃】が飛んでくる。心なしかさっきより威力が上がっている気がする。

 必死で躱しながらどうするか考える。まぁ攻勢にでるしかないが、弾幕(斬撃幕?)を掻い潜れん。無理に進み下手に被弾したらその次が躱せなくなる。


——よし、決めた。


 飛んでくる【空刃】を受ける。正面からだと切られるので運足を用いて側面から延々と弾き続ける。一教の要領で諸手の手刀を当て弾く、力ずくで殴りつける、掴み逸らす、とにかく受けて受けて受けまくる。腕が悲鳴をあげるが、顔には余裕の笑み(引きつっているだろうけど)を浮かべさもこんなことできて当然と挑発する。


「軽いな、何発撃っても同じだ」

「黙れ!! これならどうだ!!」


 きたっ! 宙野が最初の斬撃のように剣を振りかぶる。あの【地喰らい】とかいう斬撃なら隙が大きいから懐まで踏み込める。そうなりゃこっちのもんだ。距離をつぶせば『飛ぶ斬撃』はただの大きな隙でしかない。

 ここがチャンスと、今度は入り身をするために地面を踏みしめ身体をやや前傾に。

 その時、不意に頭上に魔力を感じた。感じることができたのは日ごろ魔力の観察の仕方をファスに鍛えてもらったからだ。でなければ気づけなかっただろう。

 見上げた瞬間、視界が白く染められる。次の瞬間激痛が身体を襲う。

 痛い、熱い。様々な感覚が頭に浮かんでは消える。そして最後に感じたのは『痺れ』だった。


「電撃……だと」


 足の力が抜けて前のめりに倒れる。そして、正面の【勇者】の剣が振り下ろされるのを何もできず、ゆっくりと見つめた。


「【地喰らい】」


 無慈悲な宣言とともに巨大なサメの背びれのような衝撃波がガリガリと地面を削り飛んでくる。

 

「動けぇ!」


 痺れている体に活を入れ、うつ伏せのまま顔をあげ右手で衝撃波の側面を叩いて身体を衝撃波の正面からずらす。それが精いっぱいだった。

 そのまま衝撃波に巻き込まれ引きずられる。それはさながら大根おろしのようで(あるいは紅葉おろし)、自分の左半身が削れていくのを感じながら結界がある闘技場の端まで運ばれた。



————————————————————————————————————————————————————————————————



 ……歓声が聞こえる。皆が声をあげて熱狂している。片目は血で見えないが宙野が剣を掲げ勝鬨を挙げていた。

 誰かがやってきた。昨日のからんできた魔術師を自称していた茶髪だ。動けない僕の首から【鑑定防止】のネックレスを引きちぎり、紙を当てて鑑定をした。


「なんだお前、本当にクソ雑魚じゃん。【愚道者】に【拳士】しかも武器が装備できないのかよ」


「大丈夫か真也!! おい桜木早く治療を」

「吉井君!! すぐに治すからね【星癒光】」


 悟志と桜木さんが息を切らせて走ってきて、桜木さんがスキルを発動させた。回復術か? あたたかな光で体の痛みが癒えてゆく。


「ご主人様!!」

(マスター! マスター!)


 ファスとフクちゃん(フクちゃんは声だけだ。ファスのローブの中に隠れているのだろう。他の人には声は聞こえてないようだ)も来た。

また、カッコ悪いところ見られたな。


「えっ、吉井君、ご主人様って!? と、とりあえず今は治療を……」

「あん? なんだお前の従者か、おいお前どこの家の付き人か知らねぇけど、コイツのクラス知ってんの?超ダセェから、コイツに価値なんてねぇぞ」

「黙りなさい!! 結界越しでわからないようにしたようですが、あなたが電撃を放ったことは私にはわかります。よくもご主人様を……恥を知りなさい!」

(マスター、コイツ、コロスネ)

「信じらんない、本当なの?」


 えっ、そうなの? 全然気づかなかった。てっきり宙野のスキルなのかと思ったが。あとフクちゃん落ち着いて。悟志は無言で矢をつがえていたのでそれも足首を掴んで止めさせる。

 体の感覚が戻り意識が鮮明になってくる。桜木さんのスキルはすさまじくかなり重傷だったはずだが。すでに血は止まり、【自己快癒】も相まって大分楽になった。


「誰かがチクったか、言っとくけど追及しても無駄だからな。なんせ大臣直々のお願いでな、お前が善戦すると【勇者】の価値が下がるんだとよ。じゃあな【宴会芸人】お前のクラスは俺が晒しといてやるよ」


 そう言って、鑑定紙をピラピラ振りながら勇者を取り巻く人垣の中に消えていった。


「止めてくる」

「やめとけ悟志、お前の立場まで悪くなるぞ、ここであいつをしばいても何にもならん」 

「吉井君、まだ動いちゃダメだよ。安静にしないと、もう一回、回復を」

「ありがとう、桜木さん。でももう大丈夫だ。ファスとフクちゃんは落ち着け、カッコ悪いところみせたな。あー悔しい、ファス行くぞ」


 そう言って立ち上がる。正直まだだるいけど、今はこの場を離れたかった。


「吉井君!? 動いちゃダメだよ、」

「真也、大丈夫なんだな?……桜木、そっとしておいてやってくれ。真也、後で屋敷に行くからな」

「ほ、本当に大丈夫なの? わ、私も絶対お邪魔するから。治療もしたいし、あとそちらの方を紹介してもらいたいしね」


 とファスをみて言った。そのまま二人に見送られて闘技場の通路に戻る。

 ファスに肩を貸してもらい通路をゆっくり歩く。


「なぁファス」

「はい、ご主人様」

「僕さ、この一カ月でちょっとは強くなってた気がしたんだ」

「ご主人様は強くなりました」

「でも負けた」

「あれは、敵の不意打ちです。それが無ければご主人様は勝っていました」

「そうかな」

「そうです」

「でも悔しいよ。こんなに悔しいのは初めてだ、勝てないとは思ったけどもうちょっとできることがあったと思うんだ。ギースさんに教えてもらったこと全然活かせなかった」

「私も悔しいです。また何もできませんでした」

「なぁファス」

「はい、ご主人様」

「抱きしめてもいい?」

「どうぞご主人様」


 ローブに顔をうずめるとファスは抱き返してくれてローブの隙間からは心配そうにフクちゃんが僕を見ていた。そのままフクちゃんとファスを抱きしめ、少しだけ泣いた。

ここまでがあらかじめ考えていた一章というか序となる部分です。

次章からタイトル回収してゆきます。

ここまでかけたのはブックマークと評価、感想のおかげですありがとうございます。

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