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【コミック二巻4月15日発売!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第八章:空の旅編【風船鯨と暇な時間の過ごし方】

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第二百十一話:ミッション、風船鯨の腹を塞げ!

 『ゴンドラ』の中は、蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 客室を出ると、同じく三階にある管制室から出てきた船員達が、何とかしようと懸命に動き回っていた。


「急げ、着陸装置を起動しろ」


「無理です! 出港して格納したばかりです。再起動には数日かかります」


「不完全でもいいから動かせっ!」


「しかし、この揺れでは……」


 どう見てもパニックだ。おまけに揺れが激しくて、船員達も身動きが取れないようだ。

 【ふんばり】で動ける僕に糸を巻き付けることで、なんとかファス達も姿勢を保っていた。

 

「すみません、話を……」


「うるさいっ! 船員以外は、何かに掴まっていろっ!」


 ダメか。状況を確認したかったが、話を聞ける状態ではない。


「ご主人様、任せてください」


 ファスが揺れに翻弄される船員達に近づく。


『落ちついてください』


 静かな声。しかしそれは、この騒乱の只中でも、雨水が大地に染み込むように、船員達に伝播する。

 【慈愛】のスキルを発動させた状態での一声だった。

 間髪を入れず、青白い光が船員達を包む。叶さんが精神強化のバフを周囲に振り撒いている。


「私たちはA級冒険者のパーティーです。状況を教えてください」


「……こ、これは。まさか【聖女】の……いや、今はそれどころではないな」


 指示を出していた船員が僕らに向き直る。

 どうやら冷静になってくれたようだ。


「本来ありえないことだが、【風船鯨】が負傷したようだ。こんな事は、聞いたこともない。傷口から、鯨の体内に流れている雲が噴出している。何とかしようとはしているが、どうしようもない……万事休すだ」


「鯨の傷口を塞げばいいってことですね?」


「そうだが……外は雷雲と、噴出された雲による冷気で、地獄のような有様だ。そもそもどうやって傷口を塞ぐ?」


「私が塞ぐよ。生き物ならなんだって治して見せる」


 頼れる【聖女】が力強く宣言した。


「よし、行こう。時間がないぞ」


「待て、無理だっ」


「鯨は僕達に任せてくださいっ!」


 揺れに翻弄されながらも、なんとか階段を上がっていく。

 移動しながら、ゴーグルと防寒着を着るが、どこまで効果があるのやら。


「それにしても、あの鯨に傷を負わせるなんて、宙野の奴やっぱ強くなっているな」


「【竜の武具】とやらの力でしょう。確かに強力な【スキル】でした」


「こんな素敵な鯨さんを傷つけるなんて、信じられないよ。すぐに治療してあげなきゃ」


 階段を上り切り、厳重に閉められた扉を開けると、外の様子がわかった。

 雷雲が周囲を黒く染め上げ、稲光が明滅している。

 風が強く、周囲を観察できない。


「【魔氷壁】」


 ファスが氷の壁で風除けを作ってくれた。

 上を見上げると、鯨の腹部の傷がはっきりと見えた。

  

「あそこだ。雲が漏れてる」


「治せると思う……でも距離が遠い」


 話している間にも、腹部から雲が漏れ出している。心なしか高度も下がっているようだ。

 時間はないのかもしれない。どうにかして近づく方法はないか……。辺りをみると、【水飴雲】に繋がるロープが上まで伸びている。


「……叶さん。僕がロープを登るから負ぶさってくれ。フクちゃん、叶さんの固定をたのむ」


 ロープは100mほど上に伸び、そこから先は【水飴雲】が伸びている。

 どこまで登れるかわからないが、行くしかない。


(イエス、マスター)


「私も行きます。【重力域】で負担を減らせるはずですし、【闇斥】で雲を吹き飛ばせます。何よりご主人様の足場を作ることができます」


「僕一人じゃ、この嵐の中で二人を連れて上がるのは無理だ」


「オラがファスを負ぶってロープを登るだ。どこまで行けるかわかんねぇけど、いけるとこまでファスを送るだよ。旦那様が上から糸で引っ張ってくれるなら、大丈夫だべ」


 身体能力に優れた獣人とはいえ、雷と風が吹き荒れるロープをトアが登ることには反対だ。でも僕一人じゃ、ファスを連れていけない。

 ファスとトアを連れて行っていいのか、一瞬悩む。何かあった時のフォローが必要なのも事実だけど……。


「……わかった。絶対に無理しないでくれ」


「ご主人様が言う言葉ではないと思います」


「僕はいいんだよ」


「よくねぇべ。皆で、無事に帰るだよ」


 そうだな。僕は死にたくないんだ。絶対に生きて帰るぞ。


 叶さんを背負ってロープに飛びついた。トアに背負われたファスが風よけを氷で作ってくれている。

 【ふんばり】と【掴む】で登っていくが、かなりきついぞ。下を見ると、トアもかなり苦戦しているようだ。手袋をしているが、指先の感覚がいつまで続くかわからない。

 手を滑らせたら、一巻の終わりだ。

 フクちゃんは、僕とトアの間を行ったり来たりしながら、絶えず糸の調整をしてくれた。

 流石フクちゃん……頼りになる子。

 近づくにつれて、漏れ出している雲の勢いが強くなり、ロープに捕まるのが困難になる。

 下を見ると、霜にまみれたトアとファスが見える。きっと僕らもそうだろう。


「グッ、まだ。いけるべ……」


「無理です。私は冷気に耐性がありますが……ご主人様っ! トアが限界です!」

 

「叶さんっ、【スキル】の射程まであとどのくらい?」


「あと……もうちょっと」


「オラは大丈夫だ。上るだよ旦那様っ!」


 背中で叶さんが杖を懸命に伸ばすも、効果範囲外。ついにはロープの先端にたどり着いてしまう。

 限界とファスが叫んでからもトアは必死にロープに捕まっていた。

 ロープから鯨の口元まで伸びている【水飴雲】に触れるが、ぬるぬるして掴みづらい。さらに指先の感覚がなくなってきた。

 この雲をトアが登るのは不可能だ。

 吹き付ける冷気は、屋上にいた時の比ではなく、【呼吸】のスキルがあり、日頃からファスの氷に鍛えられている僕は無事だが……。


「コホッ……カヒュー」


 叶さんは冷たい空気に耐え切れず、咳き込んでいる。


「叶さん、大丈夫か?」


「だい……ゴホッ、もうちょっとなのに……」


(マスター、どうする?)


 時間は無い、回復の効果範囲まではあと少し……。


「真也君……ゴホッ……私を投げて」

 

 ゴーグルを外し、叶さんがそう言った。危ない、やめるべきだ、そんな言葉が頭をよぎる。

 しかし、弱音を吐いている暇なんてない。


「わかった。かならずキャッチする」


「信じてる」


 チュ……。霜まみれの状態で短い口づけを合図に、僕らを固定した糸が解かれた。


「ファス! トア! 叶さんを上に投げるからフォローを頼むっ! フクちゃん【糸繰り】だっ!」


(わかった。カナエ、ガンバレ)


 フクちゃんが僕の背中に張り付き、糸を腕に巻き付け、展開の準備をする。

 ロープを蹴り、反作用で下に行かないように空を【ふんばり】で一歩蹴りつける。


「行くぞっ!」


「うん」


 漏れ出す雲を避けるように調整しながら、鯨の腹部に向けて、叶さんを全力で投擲した。


 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 その直後、【風船鯨】が身じろぎをした。吹きだす雲が叶さんに迫る。


「しまっ――」


 次の一歩を踏み出そうとするが、空中での【ふんばり】は数歩しかできない上に、風に翻弄される。

 スローモーションのように、ゆっくりと白い刃のように噴き出る雲が叶さんに近づく――


「ガァアルルル【飛竜斧】!」


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 背中越しに黒い火球と風を纏う手斧が通り過ぎる。

 叶さんに迫った雲を弾き飛ばし、叶さんが鯨の腹部まで近づけた。


「ぐうぅうううう【星涙大癒光】っ!」


 稲光にも負けない、青白い光が広がる。

 噴出していた雲が消え、広がる視界の先には、塞がった鯨の白い腹部が見えた。


「よっしゃあああああ」


 思わず、ガッツポーズ。ってそんなことしている場合じゃない。


「フクちゃああああああああああん、叶さんを回収しに行くぞおおお」


(まかせて。ファス、イイヨー)

 

「はいっ。【氷華:ホウセンカ】」


 氷弾が複数発射される。速度が調整されたそれに指先を伝った糸が巻き付き、糸で結ばれている二人も一緒に叶さんの方へ飛ばされていく。


「うにゃあああああ。だ、旦那様、し、死んじゃうだああああ」


「ふんばれトアっ!」


 氷弾からの糸を引っ張る腕の筋肉が、千切れそうだ。

 振り返る余裕は無いが、ファスを背負い、僕と糸で繋がっているトアも悲惨だろう。

 叶さんは、意識が無いのか、脱力した様子で落下している。

 『ゴンドラ』から離れすぎたら、戻れなくなってしまう。


「……ファス、もう一発!」


「はいっ。任せてください」


「はい、じゃないだああああああああああ」


 さらに加速された氷弾が叶さんの方向へ発射され、糸を巻き付けて僕らも一緒に飛んでいく。


「グゥウウウウウウウウウ」


「うにゃああああああああ」


(トドイタ)


 フクちゃんも余裕が無いのか、片言の【念話】だ。

 糸が何とか叶さんに届き、腕の悲鳴を無視して引き寄せる。

 

 雷雲の隙間から暖かな日の光が差し込む中で、叶さんが抱き着いてきた。

 気を失っていたわけではなかったようだ。


「待ってた。遅いんじゃない?」


「全速力で来たんだけどね。よし、トアっ。こっちへ」


「し、死ぬかと思っただ……」


 逆の腕でトアも引き寄せる。ヘロヘロになっているが、何とか無事なようだ。

 さて、一応ゴンドラよりも高い位置にいるが、どうやって戻るか……。


「……ファス、頼む」


「わかりました。それと、一番奴隷は私です。後で私にもキスしてくださいね。【氷華:ホウセンカ】」


「もういやだべえええええええええええええ」


 今度は、四人抱き合いながらゴンドラに飛ばされ、叩きつけられるように屋上に着地……というか不時着する飛行機のように滑りこんだ。


 『ゴンドラ』の揺れは収まり、雷雲は霧散し青空が広がっている。四人で仰向けになり、フクちゃんは僕のお腹に乗って青空を眺める。


「ハハッ、疲れた……」


 先程までの嵐なんてなかったかのように、【風船鯨】は悠然と空を泳いでいるのだった。

というわけで、空の旅のアクシデントでした。

次回:風船鯨からのお礼?

後、空の旅がちょっと長くなってしまったので、章として分けようと思います。


ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がります。

感想&ご指摘いつも助かっています。感想は一言でも、作者の燃料になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 空飛ぶ鯨、これは映像でみたい!笑 これはまさしくミッションインポッシブルですね… [一言] トアがうにゃうにゃ言ってるのがかわいい。
[良い点] 戦闘ではない、レスキュー系ミッションは初めてだったはず。過酷ではあっても救うことが目的のミッションは倫理的に素晴らしいと思います。 あっ、ラッチモ戦も結果的に彼を救ったのか。てへ。
[一言] トアがネコ化した(´ω`*) ガッツリ死にかけてるけどトアの叫び声でほっこり
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