第二百八話:奴隷達が怖すぎる件について
「これより、乗船の際の注意点を説明します」
高台から【風船鯨】を見た翌日、早朝から【バレノシッポ】では職員……いや船員達が忙しく準備を始めていた。
どうやら、予定より鯨が早く到着するようだ。アナさんのメダルのおかげか、個別に説明を受けることをもできるようだが、せっかくなので他の商人や冒険者と一緒の説明を受けることにした。
ファスと叶さんが言うには、僕らだけ偏った情報を与えられるのを避けたいそうだ。
白い鳥が鳴き声をあげながら街を飛び回ると、乗客達は慣れた様子で砦のような中央の建物に集まり、士官服を着た船員の説明が始まった。
「乗客の代表者は集まっていますね? この説明を聞いていない方とその隊は、船に乗ることはできません。また、我々による荷物のチェックがあります。アイテムボックスなども、すべて開示してください。予定では、鯨は明日の昼にこの街の上空を通過します。『ゴンドラ』の取り付け時間は7分。遅れた方はもちろん、乗船不可です。朝、鳥が知らせた時間から『ゴンドラ』に乗るように。それでは、荷物のチェックをいたします。冒険者は冒険者証、隊商は許可証を、奴隷商は特別売買許可証を準備してください」
船員達が、簡易の窓口を部屋に作っているようだ。僕らも行こうとすると、昨日お世話になったアエリオさんがやってきた。ピシっとした士官服に白い軍帽を着こなす姿は正直かっこいい。
「シンヤ様達は私が担当します。アナスタシア王女の直属に無礼があってはいけません」
ファスを見ると、特に異論はないようなので、別室にて荷物を開示する。
非常食からポーション、ダンジョントレジャーのアイテムボックスの中身も出した。
ただし、紬さん謹製の体に取り付けている非常用のアイテムボックスについては、叶さんとトアから【念話】で忠告が入った。
(ストップだよ真也君。紬のアイテムボックスは【隠蔽】の効果がついているから、見せなくてもいいよ。特別に探りを入れられている感じが、ちょっと気になるの)
(オラも同感だべ。様子を見て欲しいだ)
とのことなので、秘密にしている。
アエリオさんは、かなり神経質に荷物を確認している。キャンプ用の鍋の中まで蓋を開けて荷物を確認している様子は、やや病的にすら見える。
「あの、僕らの荷物に何か問題でも?」
「……いえ、ゴンドラで何か問題があってもいけませんので、しっかりと見させていただいているだけです。ところで荷物はこれで全てですか?」
えぇ……なんだその台詞。絶対何か探しているじゃん。
「これで全てですが?」
「そうですか……では、失礼ですが、奴隷の方々の身体検査を行ってもよろしいですか?」
アエリオさんの身長は、僕より一回り大きい。その高い身長から、見下ろすように睨みつけられる。
「他の方々は、そこまでのチェックはないようですが?」
ファスが目線を鋭くして問いかける。別室の様子を覗いたのだろう。
「……A級冒険者にのみ行う特別な検査です。能力のある方は、それだけで危険なので」
苦しい言い訳なのはわかっているのだろう、目線がかすかに揺れている。
(旦那様、【威圧】を。それと隙があれば【鈍麻】を頼むべ。おそらくアエリオは、オラたちが持っていると噂を流した【竜の武具】を狙ってるんじゃねぇか?)
(マスター、ゴー)
(見張りは任せてください。今周囲に人はいません)
OKフクちゃん。バッチリハッタリかましてやろうじゃん。
無言で【威圧】をかけながら、糊の効いた士官服の胸倉を掴む。
と同時に【鈍麻】を強め、思考力を奪う。
「いくらなんでもおかしいな。何を探しているんですか?」
目線を僕の下まで下げさせ、握りこんだ服のボタンが弾け飛んだ。
身動きできずに、アエリオさんは呻く。
視線がそれた隙に、ファスの【恐怖】がアエリオさんにまとわりつく。
「ヒっ……」
「質問に答えてね。貴方は何を探しているんですか?」
「わ、私は、マルマーシュ様の命令で、勇者様が来るまでの足止めと……【竜の武具】の在りかを調べるように……」
叶さんの問いかけに、すぐにアエリオさんがゲロった。……手慣れてきている自分が怖い。それ以上に、速やかに尋問の連携をとった奴隷達が何よりも怖い。
絶対に敵にしたらダメだ。
心の中で震えていると、とどめとばかりにフクちゃんが毒を注入。
こうして、アエリオさんはガタガタと震えながら、うずくまるようになった。
「えと、これって不味くないか? この状態のアエリオさんが見つかれば、僕らは飛行船に乗れないんじゃ……」
「なぁに、手はあるだ」
「その通りです。まずは情報整理ですね」
「だね。むしろこれはチャンスだと思うよ。なんせこの場には【魅了】スキル持ちのフクちゃん、【恐怖】と【慈愛】スキルがあるファスさん。そして、【聖女】の私がいるからね。多少無茶しても治すから大丈夫だよ」
(マカセロー、バリバリ)
ニッコリとほほ笑む叶さんを見て冷や汗が止まらない。
心の中で十字を切る。気づかない内に僕らのパーティーは、そっち方向へも成長を遂げていたらしい。
十数分後。知りうる情報の全てを吐き出しフクちゃんの前に土下座する、かっこよかったはずのナイスガイがいた。
「フク様、ファス様、カナエ様。この私が他にお役に立てることはあるでしょうか?」
この様である。先ほどまで結構かっこよかっただけに涙を禁じ得ない。
というか、転移者にも同様のスキル持ちはいるだろうし、マジで精神系の耐性は上げておこう。
「一通り、情報は教えてもらったね」
「そうですね。それにしても、カナエは【魅了】系スキルはないようですが、見事なものです」
「フクちゃんの【魅了】が対象を選べるからだけどね。それと、多分なんだけど、【転移者】には隠しパラメーターっぽいのがあると思うんだよね。宙野君は【カリスマ】ってスキルがあるんだけど、それ以外にも民衆に好印象を与える効果がありそうだし。仮説だけど、【忍者】のジョブを持っている留美ちゃんは、隠れやすくなっているとか。私は民衆に崇拝されやすいとか? もっとも、スキルに比べると影響は微々たるものだけどね。後は日頃の努力です」
「興味深いべな。旦那様はどんな効果があるんだべな。っと、今は今後のことを考えるのが先だべ」
「……そうだな。アエリオさんが言うには、マルマーシュ様を始めとする貴族の一派が、【竜の武具】と叶さんと一緒にいる僕らを追っていると」
「そして、なぜか行き先を知っていて、【バレノシッポ】へ自身の息がかかった人間に連絡が来ていると」
「そんで、検査にかこつけてイチャモンをつけて、オラ達の足止めを狙っていたと」
「ならば、勇者もこの場所へ来るでしょうね。幸い、予定よりも出発が早まっているので、明日に出発すれば追いつかれることはないでしょう。ということで……」
「ボク達を鯨にのせてね?」
フクちゃんが小首を傾げながらお願いすると、アエリオさんはそれはもう見事な敬礼を見せてくれた。
「お任せをフク様!」
「出来れば、私たちがこの場所に来たことを偽装したいのですが……」
「お任せをファス様!」
「……ひどいもんだ。この状態っていつまで続くの?」
「わりとたくさん」
「そりゃ、真也君の【呪拳:鈍麻】で鈍らせてから、フクちゃんの毒物も使って、二重三重に【魅了】をかけているからね、数日どころか最低でも数週間は持つと思うよ」
「すごすぎないっ!?」
外道すぎる有り様だった。……このパーティーが道を踏み外さないように僕がしっかりしないと、砂漠で出会った他の【転移者】と変わらんことになってしまう。
倫理と人道は僕の肩に掛かっているのだ。
「おーい、真也君。あと数人【魅了】で仲間に引き込むから手伝ってー」
「円滑に乗船する為に運転手と、後は他の貴族側の船員を引き込みましょう」
「『ゴンドラ』の仕組みや、飛行船のことも調べるだ」
「しばる? さらう? ひきずりこむ?」
「皆……一回、話し合おうか?」
新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
というわけで……叶さん加入によって斜め上にに強化されたパーティーでした。
頑張れ真也君、パーティーの道徳は君に掛かっているぞ!
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