第二百七話:飛行船は雲を泳ぐ。
【アマウント】よりも標高の高い場所にある【バレノシッポ】は、雲よりも高い場所にある街だ。
砦のような白い石材の建物の間を皆と歩いて回っているが、やはり飛行船のようなものは見えない。
地形を利用し、山肌と壁で囲まれたこの場所は、どこか息苦しい。
あくまで飛行船に乗り降りするだけの場所と、割り切った方がいいのかもしれない。
ただ、逗留所としての娯楽施設は、それなりにあるようだ。
僕等が案内された建物から少し歩いた場所で、街の宿は見つけた。旅の疲れを癒しているのか、中で宴会をしているようだ。
「やっと、制服以外の人達に会えたな」
「ええ。ここから先は宿が多く、酒場もあるようですね」
ファスは【精霊眼】で、街の全容をすでに把握しているようだ。
一方、トアと叶さんは、制服達の堅苦しい雰囲気にうんざりしていたのか、宴会の声を聞いて嬉しそうにしている。
「オラとしては、あの息が詰まる屋敷よりもこっちのほうがいいべな」
「私も同感かな。あの部屋、どこか見張られているような感じなんだよね」
フクちゃんはファスのローブから出てこない。最近はわりと顔を出したのにな。
街に入ってからも警戒しているようだし、気になる。指に巻き付けた糸から【念話】をしてみた。
(大丈夫かフクちゃん? 敵がいるとか、調子が悪いとか、何かあったら言ってくれ)
(ダイジョブ。少しだけ、おちついた)
人間の姿に成れるようになってから【念話】もかなり流暢になったなぁ。
ともかく。フクちゃんが大丈夫というなら、今はそっとしておこう。
「宿か酒場に入って、話を聞こうか」
「ええ。せっかくですし、少しご飯が食べたいです」
ファスがそう言って、他の皆も同意したので、近くの酒場に入る。
明るい雰囲気だった。宿では隊商が宴会してるが、ここは冒険者が多いようだ。
うーん、どうやって情報を集めようか。悩んでいると、トアがテーブル席を用意してくれた。
「どうぞだべ、旦那様」
「ありがとう、せっかくだしここで話を聞くか」
「飛行船のことですね。答えは秘密にしておきます」
「だべな。きっと驚くだ」
飛行船についての答えを知識としては知っているファスとトアは、ニヤニヤと笑っている。
「うんうん、こういうの冒険だよね」
「でも、誰に話しかけるか迷うな。上手いこときっかけがあればいいんだけど」
(わかったー)
「フクちゃん、出てきても大丈夫なのですか?」
「落ちついたの」
ローブから子蜘蛛の姿で出てきたフクちゃんが少女の姿になる。今日の髪型は前髪パッツンのロングヘアのようだ。
袖付きのワンピースという薄着の格好なので寒そうだけど、本人は平気なようだ。
そして、一瞬目をつぶり、もう一度口を開いた。
「……聞きたいことがあるの」
小さな声は不思議と酒場の隅々まで通る。それは女王の号令だった。
フクちゃんの存在感が膨れ上がる。
「うぉっ!」
「これは……すごいです」
一瞬で騒いでいた冒険者達がこちらに振り向く。フクちゃんが真っ白な髪をかき上げると小さな複眼があるのがわかる。紅い瞳、異形の少女。その美しさに、一度見てしまえば糸で縛られたように視線を逸らせない。
フクちゃんが【隠密】を解除して、【魅了】を発動したのだ。
慣れている僕ですら、一気に注意を惹かれてしまう。他の冒険者には効果はてきめんで、すでにフクちゃんの次の言葉を待っている状態だった。
流石にこれはやりすぎだ。街の制服たちに見られれば、どう思われるかわからないぞ。
「フクちゃん、ストップストップ」
「うん? どしたのマスター?」
急いで止めるが、すでに周囲の冒険者の眼はトロンとしている。
「一旦ここを出るだ。カナエ、頼むべ」
「わかったよ【星守歌】」
叶さんが杖を振ると、青白い光の粒が弾ける様に酒場を満たす。精神強化のバフだ。
光を受けた冒険者達は目が覚めたように、頭を振る。
その隙に僕等は、酒場から外に出た。フクちゃんは不思議そうにこちらを見ている。
「フクちゃん。あんまり目立つようなことをしたらダメだよ」
「わかった。次からは、もっと上手くやるね」
そういうわけじゃ……まぁ、今言っても理解は難しいだろう。
「すごいね。装備かスキルで対策してない人は、フクちゃんの敵にすらならないわけだ」
「カナエがいてくれて助かったべ」
ちょっと飛行船のことを聞こうと思っただけなのに、肝が冷えた。
フクちゃんには後でしっかりと言い聞かせとこう。
「改めて、どこかで人と話そうか」
その場からそそくさと立ち去る。その後少し街を散策し、ちょうど暇そうな冒険者を見つけることができた。どうやらパーティーの荷物番をしているようだ。この場所は標高の高いこの街の中でも特に高い場所で、壁の向こうにある雲海が良く見える。
「すみません。ちょっといいですか?」
「あぁ、なんだ坊主? 丁稚か?」
「いいえ、冒険者です」
「おいおい、子供のくせに。この街に入れるほどの冒険者ってか? 見かけによらねぇな。なんの用だよ? 後ろには随分綺麗どころを連れているじゃねぇか」
「パーティーメンバーです。それで、聞きたいことがあるんですけどよろしいですか?」
「まぁいいぜ。暇だったしな」
よほど暇だったのか、すんなり会話に応じてくれた。
「飛行船なんですけど、この街でまだ見当たらなくて」
「は? そりゃあそうだろう。今はまだ餌を食べているんだろうぜ」
餌? 叶さんと顔を見合わせる。やはり魔物を利用する乗り物なのだろうか?
興味深いな。他にも質問しようとしたら、男が街から離れた場所を指さした。
その部分の雲海が、うねり始めた。
「ほら、潮を吹き始めたな。あと3日程って話だが、あの調子なら明後日には、街に来てくれるかもな」
ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
何キロも先から響く咆哮に、宇宙まで届きそうな雲の潮。巨体な体躯が雲の海から飛び出し、優雅に跳躍する。
「あれが、飛行船かよ。異世界って最高だ!」
思わず、叫んでしまう。だって、こんな光景、夢だってあり得ない。
「すごい、すごい、すごい。アハハハハ」
「オラも初めてみたべ!」
「むー、あれ、強い」
それは、雲を泳ぐ巨大な鯨だった。日の光を受けながら、高くゆっくりと跳び上がった鯨は雲海へと沈んでいった。
「あれがこの世界で空を移動する手段になります。竜無き空の支配者達、【風船鯨】です!」
というわけで、今年最後の投稿になります。
本年も大変お世話になりました。来年も真也君達をどうぞよろしくお願いいたします。
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