第二百六話:雲の街【バレノシッポ】
【雲港】があるという【バレノシッポ】。アナさんに言われるままに、この場所を目指してきたわけだけど……。
山頂の街、バレノシッポはなんというか、石造りの砦のような場所だった。
眼下に雲を望むこの場所では、紺色を基調とした士官服のような服装の人達が、何人も行ったり来たりしている。
「少し前に大きい隊商が着いていたようです。荷物の仕分けで忙しそうですね」
「オラ達も受付をするだ。すでにアナスタシア様が連絡を入れているはずだべ」
軍の施設じみた、セメントのような材質の塀の前に並ぶ。この先に関所があるそうだ。
列に並びながら、叶さんがキョロキョロと周囲を見渡す。
「ねぇねぇ、ここって港なんだよね。飛行船はどこにあるの? スチームパンクみたいな蒸気船なのかな?」
言われてみれば確かに。やたら四角い建物がたくさんあるだけで、滑走路もなければ船らしいものも無い。
「僕はてっきり、でっかい鳥が運んでくれるものかと思っていたよ」
「そういえば、ご主人様はこの世界の飛行船について知らなかったのですね。飛行船とは――ムグッ」
ファスが説明しようと口を開くが、それを叶さんが止めた。
「ちょっと待ったファスさん。せっかくだから、説明は無しで見てみたいよ。その方が面白そうだし」
「そうですか。実は私も本で読んだことしかないので、楽しみなのです」
「オラも話しか聞いてねぇべな」
(ナニカ、イル)
フクちゃんは何かの気配を感じ取ったのか、ファスのローブに隠れている。
魔王種ほどの力を持っているのに、フクちゃんは相変わらず人見知りで警戒心も強いようだ。
人間ならば驕りそうなものだけど、フクちゃんは決して自身の力を過信しない。
その姿勢は僕も見習うべきだろう。
「ご主人様?」
僕の表情を見て、ファスが声をかけてくる。変なこと考えちゃったな。
「……じゃあ、僕も楽しみにしておくよ。あと何日かで飛行船がここを訪れるんだっけ?」
「アマウントで聞いた話では、後3日ほどらしいです」
「じゃあ、まず宿を探さなきゃな」
「そうだべな。この辺のことはわかんねぇだ。まぁテントで過ごしてもいいべ」
列が進んでいき、僕等の番となった。
制服姿の人間の男性が、こちらに目を向ける。
「次、さっさとしろ」
「はい」
前に出ると、ジロリと睨まれる。怖いな。
「身分証を見せろ。通行証がなければ、金貨二枚で発行する」
「えと、冒険者証でよろしいですか?」
「冒険者か。罪状があれば、飛行船は利用できんぞ」
ドキっ。罪状という言葉に鼓動が早くなる。アナさんが言うには、すでに指名手配は解けているはずだけど。
「大丈夫です。はい、これが僕の冒険者証です」
金色の冒険者証を呈示する。
「金色? ……おい……いえ、少々お待ちください」
丁寧にお辞儀をされ、受付の男性が奥に引っ込む、すぐ大柄の士官服を着た男性が早足で現れた。士官服に、軍帽に似たものを被っており、まるで水兵のようだ。
……重心の移動が滑らかで、腰にサーベルを下げている。ついクセで身構えてしまう。
やってきた男性は僕の前で止まり、片手を上げた。これは騎士の敬礼に似ているな。
「アナスタシア第三王女よりお話は伺っております。特別A級冒険者シンヤ殿。私はアエリオと申します。よろしければ、アナスタシア様より預かっている直属の証も示していただけないのでしょうか?」
直属の証? あぁ、そういや砂漠を出る時に、アナさんからなんか預かったっけ。
『えっへん。デルモの屋敷で見つけた貴金属を使って、地下の職人に作らせた特製のメダルよ。デザインも一新しているんだからね。これが私の直属の証だから、いつぞやのバッヂみたいに叩き割ったら許さないわよ?』
とか言われたっけ? ファス達の奴隷紋に似た紋章が彫られた、鉛色のメダルを見せる。
「これでいいですか?」
「正しく……失礼いたしました。王女の直参を騙る者はどこにもいるものでして」
「そうですか。ここは国が管理しているのですか?」
「どちらともとれますな。国境を跨ぐ以上公務として扱われますが、そうでない仕事もあります。私達は国より委託を受けて飛行船を運営しているのです。ところで宿は決まっていますかな?」
「いえ、ここに着いてから見つけるつもりでした」
「でしたら賓客用の館があります。どうぞお使いください」
ここで断るのも変な話か。一応他のメンバーに目線で聞いてみるが、特に反対はないようだ。
「では、お言葉に甘えます」
「ええ、街の宿よりはマシであることを保証します」
うーん、信用していいかわかんないな。まぁ警戒はしておこう。
アエリオさんが部下を呼びつけた。
「おい、この方々は第三王女の命を受け、冒険者ギルドを代表して【大森林国:ニグナウーズ】へ向かう御一行だ。万が一にも失礼の無いように館に案内しろ」
「はい。それでは皆様方、こちらへどうぞ」
案内されるがままに関所を抜けて、いくつかある白い建物のうち、最も大きな建物に案内される。
普通の洋館みたいな外観だな。ただ湿気の多いこの気候では、維持コストがかかりそうだ。
「こちらの二階を丸々お使いください。一階には使用人も常駐させておりますので、何か御用がありましたら、ベルを鳴らしてください。外出はご自由にしていただいて構いません」
と言って、さっさと案内はいなくなってしまった。
一番でかい部屋に四人で集まり、荷物を降ろす。
「えーと、唐突でされるがままになってしまったな」
「先程の、アエリオさんの動きに、おかしな点はなかったと思います」
「オラはさっさと街を見て回りたいだ」
(ボクは、隠れとく)
フクちゃんはローブに隠れているようだ。エルフであるファスのこともあるし、もしもの時頼りになるフクちゃんがそこにいるのは、正しいだろう。
「じゃあ荷物の整理をして、街を見て回ろうか」
「賛成。『飛行船』がどんなものなのか、街でヒントを見つけるよ」
「では、全員で街へ繰り出すことにしましょう」
というわけで、荷物を整理してこの街を観光することにしたのだった。
バレノシッポ到着です。次回は宙野君視点の閑話になると思います(予定は未定)
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