第二十二話:VS勇者
今日も今日とて吸呪を行い、動けなくなりファスに膝枕されていた。
フクちゃんはお腹に乗っている。
「ご主人様は無理をしすぎです」
また怒られてしまった。しかし男にはやらねばならないことがあるのだよ。
そしてこれがその成果です。
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名前:ファス
性別:女性 年齢:16
状態
【専属奴隷】▼
【経験値共有】【命令順守】【位置捕捉】
【竜の呪い(侵食度5)】▼
【】【ク※ス封※】【】【】
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また、だめだったよ……。侵食度が下がれば下がるほど【吸呪】しにくくなっていくような気がする。
あと【専属奴隷】の【位置捕捉】のスキルが解禁されたらしく、ファスのいる場所がなんとなく感覚でわかるようになった。ファスも僕の居場所をなんとなくだがわかるようになったらしい。
呪いに関してはさすがに次こそは終わるだろう。ファスのステータスをみたついでに僕とフクちゃんのステータスも確認してみようか。
膝枕をされながらフクちゃんを鑑定する。
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名前:フク
クラス▼
【オリジン・スパイダーLV.24】
スキル▼
【捕食】▼
【大食LV.16】【簒奪LV.14】
【蜘蛛】▼
【毒牙LV.20】【蜘蛛糸LV.22】【薬毒生成LV.11】【回復泡LV.9】
【隠密LV.5】
【原初】▼
【自在進化LV.8】【念話LV.5】【戦闘形態LV.3】
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(エッヘン)
わかっていたけど、強いな。パワーレベリングしたはずの悟志のレベルに迫る勢いとか……フクちゃん恐ろしい子。新しく【隠密】というスキルが追加されていた。アグーの従魔から簒奪したものかわからないが蜘蛛のイメージに合っていると思う。
紙を傾けてファスにもみせる。
「うーん、レベルというものは徐々に上がりにくくなるものです。それなのにこの成長速度は、いくら変異種といっても異常です。もしかするとご主人様の【クラス経験値増加】が影響しているでは?」
「【クラス経験値増加】が仲間に作用するってことか?」
「転移者のクラスやスキルは秘匿されていることが多いので、推測でしかありませんが。だとしたら恐ろしいほど有用なスキルであると思います」
そりゃそうだろう。パワーレベリングすれば転移者本人と周りの人間もどんどん強くなるのだから。だとしたらたとえ他の能力が悪くても転移者ってだけで有用なのではないだろうか? なんで僕はあんな扱いを受けたんだ?
考えてみよう。転移者は成長が早いとかアグーが言っていた気がするから、他の転移者も同じか、似たようなスキルは持っているはずだ。
アグーからしてみたら、経験値増加なんて貴重なクラスのおまけみたいなものだからたとえ有用でも、他の転移者と比較して使えなければいらない転移者になるのか、もったいないぞアグー。
「ご主人様?」
「あぁ悪い、考え事してた」
さて次は自身を鑑定する。
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名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:16
クラス▼
【拳士LV.16】
【愚道者LV.14】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.13】【掴むLV.12】【ふんばりLV.15】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.10】【クラス経験値増加LV.8】
【吸呪LV.14】【吸傷LV.8】【自己解呪LV.12】【自己快癒LV.13】
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うん、リアクションがとりづらい。全体的にあがった感じ、それのみだ。
まぁこれから魔物を倒したりすればレベルは上がるはず。今後に期待しよう。
そうこうしているうちに眠たくなり、そのまま眠ってしまった。
次の日、フクちゃんの警報で起きると、すぐに給仕がやってきた。昨日とは違う動きやすい服に着替えさせられると、朝食だと言われた。ファスは(とフクちゃん)部屋で待機だそうだ。案内された場所は広い場所に白いテーブルクロスがかけられたでかいテーブルがあり、量が少なそうなご飯が皿に盛り付けられている。
「ヨシイ様、お待ちしておりました」
そこにいたのは伯爵(ヤバイ名前忘れた。あとでファスに聞こう)だった。
挨拶もそこそこに、朝食を食べていると今日の予定を聞かされた。どうやらこの後、闘技場で転移者と王様とが謁見するらしい。なんで闘技場? と聞くと勇者と聖女のスキルを披露するためらしい。
それが終わったら僕は伯爵の家で厄介になるとのこと。
「ところでヨシイ様。体調は良いですか?」
「はい、おかげさまで快調ですよ」
「そうですか、それはよかった。医者が言うには問題ないとのことだったのですがやはり心配でして」
そんな話をした後、馬車に乗って闘技場へ。ローマの闘技場をイメージしていたがどちらかと言うと競馬場のような建物だった。中に入ると石畳の広場がありそれを観客席が囲む、まさに闘技場という感じの光景が広がっていてなんか安心する。そうそうこれでいいんだよ。
闘技場に入ると観客席には質の良い服装をした、いかにもな貴族達がいた。アグーも伯爵もいるな。
アグーは忌々しそうにこちらをみていた。並ぶ順番は決まっているらしく、一列に二十人ほどが横並びでさらに僕は真ん中だった。
ちょんちょんと肩を触られる。昨日もあったな。振り返るとやっぱり桜木さんだった。小声で話しかけてくる。
「昨日はゴメンね。なんか勇者と聖女は一緒にいたほうが盛り上がるからって、なんていうか露骨にくっつけようと大臣さんがうるさくって、翔太君もそのほうがいいって思っているみたいで……」
「いやなの? 勇者だし、イケメンじゃん」
「昔から、一緒にいて大事なお友達だけど、そういうのはないかなぁ。それにこっちの世界に来てから様子がおかしくて、なんだかちょっと攻撃的になっちゃってるの」
哀れ翔太、僕は君に同情するぞ。大事な友達ならまだチャンスはあるだろう。彼の今後に期待したい。
いやまぁ実際桜木さんと翔太がひっついたらそれはショックではあるが。
「それで僕をダシにしたと」
「違うよ! 本当に会えて嬉しかったから話しかけてみただけで」
ちょっと大きな声で桜木さんが反論する。列の端っこにいる宙野君に気付かれるから静かにしてほしい、と思ったら、宙野はすでにこっちを見ていたらしくばっちり僕と目が合ってしまった。
桜木さんもそれに気づいたらしく、とりあえずその場は二人とも沈黙した。
しばらくすると、王様らしい立派な衣装をまとった壮齢の男性が現れた。伯爵といいこの世界の貴族はかっこいい人が多いなぁ(アグー? 知らんな)。
そして、その横には三人の女性がいた。お姫様ってわけか、その中に見覚えのある赤毛がいた。
目が合うとウィンクされた。なるほど、あのメイドは思ったよりもずっと高貴な方だったらしい。なんでメイドなんかやってたんだ?
他の二人は母親が違うのかそれぞれ髪の色が違っていた。一人は金髪で動物に例えると鷹のような鋭さをもったスレンダーな美人さんだった。次にいるのはパーマがかかったブラウンの髪で動物に例えるなら……マナティ? つまり、その、いささかふくよかな女性だった。
そんなことを考えている間に王様のありがたい話は終わっていたらしい。完全に聞いてなかった。
その後にお姫様たちの話が続くと思っていたが大臣が前にでてきて、美麗な文句を並べた後に勇者による演武を行うと宣言した。まわりの貴族たちもどよめいている。
僕としても勇者のスキルがどんなものか見てみたかったし。少し楽しみだ。
「それでは勇者による演武を行いますので、ソラノ様とその相手を務めるヨシイ様以外は観客席に移動してください。勇者のスキルは大変強力ですので魔術による結界をはります」
観客席に移動か、魔術による結界ってすごいな。……今なんて言った。ヨシイって言ったか? 同姓の人間がいたのか知らなかったな。
そう思って周囲を見渡すが、誰も残っていない。やっぱり僕しかいないか、こんなの聞いてないぞ。
「決着をつけよう吉井。僕と勝負だ」
そう言って宙野が剣を突きつけ宣言した。周りで黄色い声援が上がる。これだからイケメンは。
「拒否したいんだけど、というか昨日僕のクラスが弱いって知ったよな」
「そういう問題じゃない。これは男の戦いだ。闘技場の武器を好きに使っていいらしいから好きな武器を選んでこい」
ちくしょう、話が通じない。というかそっちが持っている剣は鞘からして細やかな意匠がこらされており明らかに特別製っぽいんだけど。
「その剣は?」
「勇者のスキルに耐えうる特別な武器だ。この武器じゃないと俺のスキルに武器が耐えられないんだ」
「僕の武器は闘技場にあるものなのに不公平じゃないか?」
「武器をもらっているのなら遠慮なく使えばいい」
準備してないよ、というか武器を持てないんだよ!! なんとかならないか、観客席をみると桜木さんが大臣に抗議しているらしいが聞く耳を持っていない様子だ。こうなったらやるしかないか。
「籠手があるならそれでいい」
「籠手? 防具じゃないか、武器はいいのか?」
「必要ないな」
「……昨日お前のことを聞いたんだが、どんなクラスか知られていなかった。普通はどの家も召喚に成功したらどんなクラスを持った転移者を召喚したか周囲に自慢するというのに」
「だから自慢されないクラスだったんだよ」
「本当か? 実は俺を油断させようとしているんじゃないか?」
なに勝手に警戒してるんだ。
「そう思うなら戦わなければいいだろ」
「わかった。勝負だ」
控室に行き用意されていた防具から、動きやすそうな皮の胸当てと手甲を選ぶ。手甲は上腕から手の甲まで覆うもので関節部分は伸びる素材の為(なにかの皮だと思う)それほど動きを阻害されないものを選んだ。丈夫な指ぬきグローブみたいなもんだ。防御力はそれほど期待できないが攻撃にも使う以上ある程度自由に動かせるようにしたかった。
さて、思えばこれが初めての本気の戦いだな。逃げたいし勝てないだろうけど同時に少し楽しみだ。
眼を閉じて、息を鼻からすって口からゆっくり吐き出す。合掌し精神統一。稽古前の決まり事だった。
通路を歩き闘技場へ戻ると、なんとなく予感がして【位置捕捉】で調べると、見慣れたローブが観客席の隅にいた。ファス、来ていたのか。どうやって来たのかしらないが、これは頑張らなくっちゃな。
前をみると、頭部以外がフルアーマーの【勇者】宙野が仁王立ちしている。どうせそれも特別な鎧なんだろうな。僕が闘技場に入ると周囲に魔力が張り詰め結界が張られる。逃げるのも無理そうだ。
喧嘩の時はどんなに怖くても笑えという祖父の言葉が頭をよぎる。まるで走馬灯みたいだからやめてもらいたい。
開手を中段に置き右足を前にだし半身に構える。そして強がりの笑みを顔に張り付け、開始の合図を待つ。
さぁ勝負だ。
前回勇者と戦うと言ったな、あれは嘘だ!!
すみませんステータス書いたせいでまたしても予告通り進みませんでした。
次回こそはバトルになります。
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