第二百五話:雲の先へ
「手紙はよこせよ、真也」
「わかったよ悟志。とりあえず今一通渡す。そっちも気をつけてな」
早朝のアマウントの関所、薄らと霧がかかり、少しだけ湿っぽい。
昨晩書いた手紙を手渡す。スマフォのないこの世界で手紙を書く機会が増えたな。
手紙の内容は、僕が転移してすぐの内容と、これまでに経験したこと……まぁおおまかだけど。
「じゃあ……行って来るよ」
「あぁ、また一緒に……エロゲの話でもしようぜ」
「アハハ、弓矢を引っさげて言う言葉じゃあないな」
拳を合わせる。僕等は多分ずっとこんな感じなのだと思うと、鼻の奥がツンと痺れた。
背を向けて歩きだす。関所は悟志が開けてくれていた。
少し進むと、パーティーのメンバーが待機している。
「話は終わりましたか?」
ローブを着て、手袋をつけたファスがこちらを見る。
そのフード下にはフクちゃんもいて、クリクリと紅い目を動かしていた。
「ファス、フクちゃん。待たせてゴメン、行こうか」
「はい、ご主人様」
(れっつごー)
「ここからは、コイツに荷物を運んでもらうべ」
「魔物じゃなくて、リャマっていう動物みたいだね。私達の世界にいた『リャマ』と違うかもだけど」
トアが手綱を引くのは、白黒のラクダみたいな動物だった。
体長はウマよりも大分小柄で、特にラクダに似た口元がちょっと間抜けに見える。
すでに僕等の荷物を背中に乗せているようで、見た目よりも力はあるみたいだ。
「リャマか、よろしく。……僕は走るからいいけど、ファスと叶さんは大丈夫?」
「私達もここからは基本歩きだよ。急いで移動するわけでもないしね」
「レベルアップのおかげで体力もついていますし、大丈夫でしょう」
街からでて山肌を回り込むように少し降りていくと、太い道に合流する。
ファスが言うには、飛行船のある【雲港】がある【バレノシッポ】という街は、ここからさらに標高の高い場所にあるらしい。そんな場所でありながら、飛行船を利用しようと商人達や冒険者が利用するため、交通路が存在するとか。
今日はその交通路へ合流するのが目的だ。二頭のリャマ達は、ファスとトアが手綱を引いている。大人しく、しっかりと歩いてくれているようだ。
「旦那様、霧が出ているけどこまめに水は飲んでおくだ。湿気ているからって水を飲まねえと、脱水症状になるべ」
「わかった。皆も大丈夫?」
僕はマントと帽子を被っていて、他の皆もそれぞれ湿気対策をしているようだが、この気候は意外と体力と言うか精神力を使う。
特に叶さんはこういう旅はあまり慣れてないと思う。砂漠で遭難生活を送った他のメンバーよりも経験がないはずだ。
「私は大丈夫。しっかり準備しているし、『バレノシッポ』は雲よりも高い場所にあるって言うから。この程度で弱音は吐かないよ」
「不調があれば、すぐに報告するようにしましょう。旅の基本です」
(ダイジョブ、だよ)
「うん、皆心配しないで。私だって真也君の四番奴隷なんだから」
「そこがモチベーションなんだ……とにかく気づいたことがあったら、遠慮はしない。まぁ叶さんなら大丈夫か」
ファスがしっかりとメンバーをまとめてくれるので、その辺助かるな。
その日の内に、交通路に到着でき、夜が近づいて来ているので、さっさとテントを張ってしまう。
僕の眼には見えないが、ファスが言うには数キロ先ではいくつかの隊商も夜に備えているようだ。
砂漠の夜よりは寒くはないが、それでも少し冷えてくる。
魔力を流すと発熱する『発火石』を使って、トアが焚火を準備してくれた。
「火の仕度ができたべ」
「ありがとうトア。今日は冷えるな」
「でも、楽しいね。空気が澄んでいて、空がめちゃ綺麗だよ。あっ、リャマ達に回復かけとくね」
叶さんがリャマ達にスキルをかけている。うーん、多分白星教会の人間がみたら卒倒しそうな光景だ。
「今日は、干し肉と簡単なスープだべ。次の街までは普通の足で10日前後、オラ達のペースなら8日でつくだ」
「順調ですね。途中、隊商とすれ違ったら物資を買うこともできるでしょうし」
「戻ったよ。物資? 当分買わなくても大丈夫だと思うけど?」
「旅に必要なもの以外にも、嗜好品とか他の街の珍しい品物があるから、見るだけでも楽しいんだよ。なぁフクちゃん」
「マスターと一緒に買い物ー」
「無駄遣いはダメですよ。ですが、有用なものもあります」
「知らない土地の喰いモンとか、情報とかも取引されるべ」
「へぇ、楽しみ。旅っていいね」
その日は3人と2人にわかれて見張りを行い、次の日を迎えた。
交通路は歩きやすいので、テンポは上がっていく。リャマ達も叶さんのバフを受けて、スイスイ進む。というか、ちょっと張り切りすぎな気もするけど。
グッと坂道が増え、標高も高くなってきたので、天気を気にしながら進んでいくことにしよう。
二日後。
中々のハイペースで進んでいた僕等は、先にいた隊商を見つけた。
丁度昼時なので、休憩するついでに話ができそうだ。
トアが話をつけてきてくれた。
「海がある街の品物を運んでいるらしいだ。ちょっと見せてもらうべ」
「海かぁ。干物とかあるかな?」
「私は海を見たことがないです。一度見てみたいですね」
ファスは海に憧れがあるようだ。何かの物語の舞台なのかもしれない。
フクちゃんもピョンと出てきて人間の姿になる。
「ボクも見たことない」
「フクちゃん。海には大きな魚や魔物がいるらしいです。きっといっぱい食べれますよ」
「ホント? マスター、海、いきたい!」
「それもいいな。砂漠の海もすごかったけど、ちゃんとした船旅ってのも憧れだよな」
「私は教会の布教で、なんどか船旅したことあるけど……船酔いが嫌だなぁ」
「美味いもんがたくさんあるだ。料理人として、一度は海辺の街にも行きたいべ」
なんて話していたら、商人さんがやってきた。
……なんかトアを見ているようだったけど、フクちゃんや叶さんを見て目を丸くしている。
「おいおい、こんな辺鄙な場所で美人に話しかけられたと思ったら、他の面子まで美女揃いとは……羨ましいな坊主」
ファスが、無言でこっちを見ている。多分、こういう時は主人がどうとかってことなんだろうな。
「えと、こんにちは。冒険者をしているシンヤ ヨシイと言います。せっかくなので何か面白い品物があれば、見せてもらいたいと思いまして」
商人だけあって、話しやすそうな中年の男性だ。ニヤリと笑って手を広げる。
「勿論だ。その前に相談なんだが……聞けばそこの獣人の姉ちゃんは料理人なんだろ? ここ数日、不味い男飯ばかりで嫌気がさしていたんだ。いや本当に困っていてな……」
おっちゃんの言いたいことはわかった。トアを見ると、サムズアップが返って来る。カッコイイぜトア姐さん。
「わかった。トアの料理は最高だから。旨かったら安く売ってくれ」
「そうこなくちゃ。食材は奢るぜ。その代わり、俺達は割とグルメだからな。姉ちゃんが美人でも、忖度は無しだ。おーい、野郎共。食材を持ってこい……馬鹿野郎! 商品は出すんじゃねぇ!」
「だって旦那、【料理人】のジョブ持ちがこんなところにいるってんですよ? 不味い内臓肉じゃあ勿体ねぇでしょ」
トアが尻尾を振り、袖をまくる。
「その内臓肉とやらでいいだ。さっさと食材を持ってくるだ」
「トア、頑張ってくださいね。道具と水は手伝います」
「ボクは食べる」
「アハハ、面白いね。こういうの大好きかも。私も準備手伝うよ」
「僕も手伝おう」
ドカドカと食材が並べられ、竈やら調理台を作り、トアが腕を振るう。
端から見ると、何かの内臓や野菜が多そうだ。スキルを使いながらあっという間にトアが調理を進めていく。
スパイスを多く使っているのか、内臓が焼かれていくと香ばしい匂いが辺りに漂う。
「ほい、できたべ」
大皿に盛られているのは細かく刻まれた野菜のようだ。隊商と僕等の人数分に緑のポタージュ? が入った小鉢が配られる。
そして、メインの内臓と皮の串焼きがドカドカと並べられる。
タレ焼きのようで、いい匂いだ。
「姉ちゃん、この緑のはなんだ?」
「内臓焼きの付け合わせだべ。ベシ・ソースってんで、野菜をたっぷりいれて混ぜるだよ。辛いから気を付けるべ」
僕も初めてみる料理だった。緑のポタージュに野菜を入れて、タレが滴る串焼きと一緒に食べてみる。
「……旨い」
ピリ辛? 否、かなり辛い。でもそれと同時に鳥皮の濃い脂の味とタレが、ガッツリ後を追ってくる。
肌寒いはずなのに汗をかいてしまうほどの辛旨な串焼きだ。
細かく刻まれたたっぷりの野菜を緑のポタージュに入れてから、口に入れるとザクザクとした触感に酢の酸味と、串焼きとは違うジワジワくる辛さが食欲を引き出してくる。これがまた肉に合う、口の中の脂を荒い流し、酢の爽やかさがさらに肉を進めてくるようだ。
「旨いぞ! 酒だ、酒持ってこい!」
「いや、リーダー。これは売り物っていったじゃねぇですかい」
「馬鹿野郎。こんなもん出されて、酒がないとやってられねぇだろうが飲みたいやつは自腹切れ!」
隊商の人達は本当に料理に飢えていたのか、恐ろしい勢いで食べている。
……僕等も負けてられない。すでに空っぽの串と小鉢をもったフクちゃんと前に出る。
「いくぞ、フクちゃん。トア、串焼きと野菜をおかわり」
「トア。お肉、もっとちょうだい」
「ハフハフ、おいひいれす。私もおかわりです。野菜の付け合わせを追加です」
「辛い、辛いよ。でも美味しい。そうだ回復スキルをかけて辛さを軽減とか?」
「ちょ、皆落ち着くだ。ちゃんとおかわりもあるべ」
すっかり宴会の様相となったが、隊商の人達は大喜びだった。
食事の後、リーダーの商人も笑顔で品物を並べてくれている。
「マジで旨かったぜ。魔物の肉は腐りにくいからって、安い内臓ばかり仕入れてうんざりしてたんだ。ただ焼いても臭いだけだしな」
「内臓はタレが命だべ。臭味は旨味だし、脂は寒いときには大事な栄養だな。ところでおっちゃん、この海藻の乾物はなんだべ?」
「そいつか、よくわからんが。北では重宝されているんだ。どうにも料理に使うらしいぞ」
「僕等の国にも似たようなものがあったよ。『昆布』っていうんだけどそれで出汁をとるのが国の一般的な料理だった」
「へぇ、ご主人様の国は海があるのですか?」
「あぁ。島国だからね。魚や海藻は身近な食材だったんだ」
「まだ半年くらいなのに、懐かしいね。お味噌とかあれば、味噌汁が飲みたいかも」
「後で詳しく話して欲しいだ。あっと、そこの塩も見たいだ。それと、干物も買うだよ」
食材はトアが買い込んでくれるし、他の物も見てみるか。貝殻や真珠を使った装飾品もあるようだ。
「マスター、これ欲しいー」
「ハハハ、嬢ちゃん。これは見せるだけだ。真珠は『森の民』にエライ高値で売れるからな」
気になる単語が出て来たな。
「『森の民』、エルフのことですか?」
「あぁそうだ。彼らは人間に対して強い差別意識を持っているが、交易は積極的に行ってくれるからな。海の物を売って、逆に森の幸を持って帰れば儲けになるんだよ。多少危ない旅になるがね」
「よかったら、『森の民』について情報を売ってくれませんか? 内容によっては金貨も出せます」
「そりゃあ、景気の良い話だ。料理人なんて非戦闘職を連れてるってのも、冒険者にしては不思議だし。坊主、あんた何者だ?」
「ただの、冒険者ですよ。ただ、僕等のことは黙ってもらえると助かります。それで、情報は売ってもらえますか?」
「……わかったよ。俺の知っていることならできるだけ教えてやる。最近ちょっとヤバイ噂も流れているしな」
「よろしくお願いします。ファス、叶さん」
「はい、私も聞きたいです」
「ここで、エルフ達の文化や様子が聞けるのはありがたいね。よろしくお願いします」
こうして、『森の民』ことエルフの話を聞いて隊商から離れて数日後。
雲から顔を出すように、そびえる山の頂に近い場所にある街【バレノシッポ】へ到着したのだった。
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