第二百二話:A級冒険者の証明
「……それで、俺達としても気に食わねぇってわけ」
チラチラとファスを見ながら男が何度目かの同じ話をし始める。
数は四人、僕の前に座ったリーダーの男が一人、他の三人のうち二人は入り口に立ち、他の一人はウロウロと宿というよりメンバーをねめつけている。
「花茶ですだ」
「おっ、ありがとねー。というか、これマジ美味いねー」
トアが入れたお茶と、焼き菓子を鷲掴みにして乱暴に食べる。
明らかに挑発的な仕草、彼等は自称B級冒険者で、冒険者ギルドから派遣されているとのこと。
「つまりー。アンタ等が、っていうか、アンタだよ。テメェが本当にA級の強さっていう資格があるか疑問なんだよ」
「さっきも聞きました。それで、どうすればよいと?」
「……なんだテメェ、調子乗ってんのか、アァ”!」
「この下り二回目です」
話だけでも聞こうと思ったけど、どうやら会話する気がないようだ。
というか僕をイラつかせようとしている?
人前なのに、珍しく人型のフクちゃんに目線で合図を送る。
(何、マスター?)
すぐに念話が飛んできた。
(フクちゃん。全員に念話の糸は……)
(もう、巻いてるよー)
(はい、繋がっていますよ。先程から男達の様子を観察しましたが、どう見てもB級の冒険者とは思えません。そしてやっと見つけました。ここから600m先です。ギリギリ視線が通る位置からこちらをみている人がいます。【隠密】系統のスキルを保持しているのか非常に見つけづらかったです)
(ふぅん、おもしろいべ。そういや、オラ間違って花茶に酩酊作用のある調味料入れちゃったべ。そろそろ効くかもなぁ)
(えっ、僕も飲んだけど)
(旦那様のお茶には入れてねぇべ)
(そもそも魔物の毒を普通に消化して、フクちゃんの毒を日常的に喰らっている真也君が多少の毒でどうにかなるわけないじゃん)
それもそうか、そして、目の前の軽薄そうな男達四人は囮と。
(狙いはなんだろう?)
(私達を狙う貴族側の追手、もしくは……ギルドに試されているかもしれません)
毒を喰らわば皿までか、見れば目の前の男の眼はだんだんと据わってきている。
花茶の毒……じゃなかった、調味料が回ったのだろう。
「話を進めませんか、僕が力不足だと思っている。ならばどうするつもりですか」
「き……決まっている。だろうがぁ、俺達と勝負だぁ。この街の領主には話をつけているさっさと仕手の場所を移動するぞ」
「おい、大丈夫か? まだ早いだろ? 合図を……」
流石に、他の男が声をかけるが、リーダーの男は払いのける。
「大丈夫だぁ、さっさと行くぞ」
案内されるがままについて行くと、用意された馬車が二台。
各々のパーティーに別れ乗り込む。
「どこに行くんだろうな?」
「さぁ、さっぱりです」
「フフフ、腕がなるね」
(先程の人影も追って来ています。距離を保ちながら馬を使って移動しているようですね。人数は五人)
(わぁ、本当にドキドキするよ。冒険って感じだね。どうするバフをまいとく?)
(大丈夫だべカナエ。こういうのは下手に動かねぇ方がいいべ。それにそういうのは……)
(ボクの仕事、だよ)
「わーい、マスター。アレ何ー?」
「山だなー」
と窓の外を指さすフクちゃんの指先からは目に見えないほどの細い糸が絶えず出されている。
僕等を付けている奴らが糸を踏めば、糸を付けることができる。
フクちゃん……恐ろしい子。
(真也君、盗聴されているかもだから、せめてもう少しまともな演技しようよ)
(マスターのヘタクソー)
(ごめん、これが精いっぱい)
演技とか苦手なんだよっ!
程なく進んでいると、花畑から離れ岩肌が見える開けた場所で馬車が止まった。
(マスター、糸、つけれたよ)
どうしよう、フクちゃんとファスが有能過ぎて奇襲される気がしない。
(ご主人様、これからどうしますか?)
(警戒しつつ、相手の出方を見るかな。……怖いけど)
(了解だべ)
(仰せのままに、って感じ?)
明らかに罠っぽいんですけど、どうして叶さんはワクワクしているんですかね。
先程の男達も、馬車から降りて来た。
「おい、これから。B級冒険者様であるこの俺達が相手してやる。感謝するんだな」
「わかった。相手しよう」
手甲を締めようとするとトアが一歩前に出た。尻尾が楽し気に揺れる。
「旦那様、ここはオラが行くだ」
「……わかった。気を付けて」
頭の良いトアがわざわざそう言うんだ。何かあるのだろう。
いっとくけど、僕は周囲の警戒とかめっちゃ苦手だかんな。
(つけている五人はここから100mほど後方です。【隠密】を使っているのか、装備品の効果か上手く隠れていますね)
(アイツら、近いよ。マスター)
(緊張してきたね)
深く息を吐いて内臓を下に落ろすイメージ、集中して意識を研ぎ澄ます。
「ひゃはは、オネェさーん。ちょっと、お相手――ブフォオ」
「ひゃはは何やって、ガハァ」
「おいおい、お前等、前金分の仕事は、ギャアアアア」
「ちょ、話しとちがっグヘェ!」
男達は、即落ち二コマみたいな速度でトアにボコボコにされていた。
あいつ等絶対にB級冒険者じゃないな、冒険者かどうかも怪しい。
「終わったべ。いくら何でも弱すぎだと思うけんど」
斧をクルクルと回しながらトアが戻ってくる。
「お疲れ様。さて、ここからどうなる?」
トアがこちらへ戻った瞬間。足元から魔力を感じる。
「ご主人様! 下です」
周囲に広がる魔力、これは【魔術】の予兆。
「キャンセル、です!」
発動前の魔術にファスが魔力で干渉、割り込む形でマジックキャンセル。
僕が地面を【掴む】で掘り起こすと、何枚もの巻物が発光していた。
「スクロールだね。来たよっ! 【星女神の竜舞】!」
背後から、強い気配。叶さんのバフがかかるのを確認して、敵の前へ。
【威圧】を発動。真っ先に視認できたのは真っ赤な鎧と装飾された斧槍。
「ハッハッハ【剛閃】」
「来いっ!」
持ち上げた土くれを放り捨て、突撃してくる男に諸手取りで柄を取って、頭突きをぶつけ合う。
乱雑な髪に、顎髭。槍から伝う力は先程の優男達とは違う猛者であることを示している。
僕が鎧の男とぶつかるのと同時に複数の矢が降ってくるが、全てファスが水流で受け止める。
隙をついて側面に回り込んだ、ローブの小柄な女性がスクロールを構えるが、巻き付いていた糸が締め上げ転倒。すぐに火柱があがり、女性は脱出して後衛に戻る。
トアが、右で両手剣の剣士を弾き飛ばし、叶さんが細剣の剣士に牽制をかけていた。
一瞬場面が硬直し、すぐに離れてお互い構えなおした。
僕等に奇襲をしかけたパーティーは男性が三人に女性が二人。内訳は重装備の斧槍使いが一人、両手剣と細剣の剣士で二人、弓使い一人、スクロールを持っていた魔術師のような女性が一人。
「挨拶は終わったかな?」
皮肉を言ったつもりだったが、赤い鎧の男は豪快に笑った。
「ガッハッハ。なるほど、やるもんだ。おいシーア、お前のスクロール不発じゃねぇか」
「うるさい、ダントン。あのタイミングで多重に発動した魔術全てにキャンセルをかけるなんて化け物、想定外。後、糸が巻き付いてスクロールが取り出せないんだけど……」
「私の弓も、打ち落とされたし。なんか糸が巻き付いて動けなかったし……」
「ここまで、お膳立てして、こうまで外されると悔しさを通り越して恥ずかしいぞダントン」
「ダントンの兄貴も【剛閃】止められましたしね」
「あぁ、やはり。伊達ではないな。おい、お前が【リトルオーガ】シンヤ ヨシイだな」
正面から見据えられる。
「そうです。【リトルオーガ】ってのは、あんまり同意したくありませんけど」
「【デッドライン】の方が良かったか? 俺はダントン。他の面子も紹介するか。剣士がジンガとカイン、弓使いがレーゼ、魔術師がシーアだ」
「どうして、こんなことを?」
ダントンはバツが悪そうに頭をポリポリと掻く。
「こんなことってのは、今完全に失敗した奇襲のことか? わざわざ安い小遣いでチンピラまで雇ったってのにな。……まぁ、なんだ。俺達についてはさっきのチンピラに説明させた通りなんだわ」
「……つまり、僕がA級になるのが納得できないと」
「そうだな。俺達はA級になる為に何年も努力していたってのに、どうしてポッとでの若造がA級で、しかも推薦したのが第三王女にギルドマスター【小兵】ナノウ、【猛火の剣闘士】ヒットと錚々たる面子だ。コネだけで実力はあるんだろうなって言ったら、じゃあ見てこいってA級ギルドカード押し付けられてな」
「言いたいことはわかりました。じゃあ、せっかくだしやりますか?」
ギチギチと手甲を締め直す。先程の【剛閃】といった突撃、中々のものだった。
正直、火がついている。
「別に今の奇襲で、そっちの強さはわかった。途中で勝手に解けた糸と言い、パーティーとしてもアンタらの方が上だ。A級クラスの力はあるだろう……がっ!」
ダントンが斧槍を地面に叩きつける。そしてニヤリと笑い髪をかき上げた。
他の面子も獲物を構えやる気は十分のよう。
「理解に気持ちが追いついたわけじゃねぇ。せっかくだ、胸を借りようじゃねぇか。俺達を後ろからぶち抜いた新しいA級冒険者とその仲間の力、見せてくれ。名乗ってもらおうかっ!」
「ギース・グラヴォが弟子、吉井 真也。推して参る」
「シンヤ ヨシイ様が一番奴隷【氷華】ファス」
「二番奴隷、フクだよー」
「同じく三番奴隷【野風】トアだべ」
「私も二つ名欲しいな。四番奴隷、叶です。よろしく」
……メンバーの名乗りで心が乱れそうだっ!
次回、対人戦の鬼とかした真也君。
そして、なんと!!
のらふぉっくす様より、この作品にレビューをもらえました。ひゃっほおおおおおおおおお。
嬉しい、嬉しい。油断すると泣くところでした。この作品をわかりやすくまとめてくれた、とっても素敵なレビューです。本当にありがとうございました。
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