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第二十一話:料理に毒を入れてもいいが味は壊すな

 半分ほどメニューを食べていて確信したが、この世界の飯は抜群に美味い。肉はもちろん野菜が旨いのだ。葉物、根菜、豆類と一通り食べたがどれも味がしっかりと主張しており、歯ざわりも抜群だった。これだけの味付けができるということは香辛料も発展しているのだろうか? かなり高い技術を感じる。

 そもそも牢屋の粗末な料理ですらわりと美味しかったしな。


 もうこうなっては恥だのなんだの言っていられない。頭でもなんでも下げて言うべきことがある。近くにいた料理を取り分けているコック風の服装をしている方に話しかける。


「すみません。どうしてもここのおいしい料理を食べさせたい人がいるんです。あの……少しでよいので持ち帰らせてはもらえないでしょか」


 深く頭を下げてお願いすると、コックさんは驚いたようだったがすぐに柔和な笑みを浮かべ、手早く料理を革でできた弁当箱のようなものにつめてくれた。ありがたいありがたい。


 ホクホクしながら、歩いてくると前から見知った顔があきれた様子で見ていた。


「真也、お前。食べ放題で持ち帰りとかおきて破りにもほどがあるだろ?」

「うるさいよ。こっちにも事情があるんだ。……久しぶりだな悟志。やっぱり来てたか」


 もと世界で唯一親友(改めて言うと恥ずかしいな)と呼べる間柄だった、葉月 悟志がそこにいた。

 相変わらず、立ち姿が絵になるやつだ。強面に高身長と燕尾服風の衣装が相まってゴッドファーザーに出てくるマーロン・ブロンドみたいに見える。


「あぁ、あの日の学校帰りにな。そっちもだろ? というかお前、痩せたか」

「鍛えたんだ。そっちもえらい姿勢がいいようだけど、鍛えたな?」


 悟志はガタイはよかったが猫背だった。今はそれが解消されている、腹筋と背筋が鍛えられて体幹がしっかりしていると見た。


 その後お互いの近況を伝えた。悟志は【魔弓士】のクラスを持っているとのこと、呼ばれた家がゴリゴリの武家らしく弓を正しく扱えるように鍛えられたらしい。僕が【愚道者】のクラスだということもどういう扱いを受けているかも伝えた。もちろん厳しく箝口令を強いたけど。


 あと衝撃の事実が二点あった。悟志のレベルはすでに28レベルだった。最近見てないが僕のレベルはまだ十台後半に届くかどうかってところだと思う。いったいどんな地獄を潜り抜けてきたのか聞くと、予想外の答えが返ってきた。


「パワーレベリングだよ。経験値ってのは戦闘に参加さえすればいいわけで、俺の場合は騎士に守られながらなんとかっていうダンジョンに入ったけど。離れた位置から何発か矢をモンスターに射ればあとは騎士たちが倒すから勝手に経験値が入ってくるわけだ。それを繰り返せばすぐにレベルが上がったぞ? というかそれ以外にレベルのあげ方あるのか?」

「……何も聞かないでくれ」

 

 ギースさああああああん!! 僕にもそれやってよ!! 毎日ズタボロになるよりも絶対早いよ!!

 まぁ立場上無理なのかもしれないし、そもそも僕は遠距離の攻撃方法をなにも持ってないからなぁ。


 続いてもう一点の衝撃の事実は、帰り方が存在するということ。


「えっ? もとの世界に戻れるの?」

「なんで知らないんだよ……俺も詳しく説明できるわけじゃないが、この世界のダンジョンの定義ってのは地脈の流れに異常が起こると発生する局地的な異界なんだが、そのダンジョンの最奥にいるダンジョンマスターっていうつまりボスを倒すとダンジョントレジャーっていう地脈の魔力が形作られたお宝がでるらしい。内容はランダムだがそのうちの一つに元の世界に帰るアイテムがあるらしいぞ。というか俺達、転移者が呼ばれた理由の一つが地脈に溜まった魔力の消費らしいしな」


 暴走する地脈の魔力で召喚でき、強力な力をもっていて(訂正しよう、持っている可能性が高いだ。僕のような例外がいるので)、さらにダンジョンを攻略する動機があると。この地脈が活発になる年に転移者は呼ばれ各地のダンジョンを攻略するわけだ。ちなみにダンジョンは恒常的に発生するらしくそのダンジョンの副産物で生計を立てているものもいるとのこと。あくまで活発になる年にダンジョンが多発するだけでそれがなくてもダンジョンはあるってわけね。

 うーん、帰っても借金地獄だし。もし帰還用のアイテムがでたら悟志にあげるか。正直この世界に骨をうずめるつもりだったので帰り方にはあまり興味ないな、ダンジョン攻略には大いに興味があるが。


 その後は、他愛ない話をした。悟志も自分を庇護している家に来ないかと誘ってくれたがなんとなく引け目を感じてあいまいな返答を返した。そうしていると何人かの女子がやってくる、狙いは悟志のようだ。異世界に飛ばされたってのに凹んでいる様子はないようだ、すごいな。


「ねぇ、あなた何組の人? 背高いね、あっと私B組の——」

「伯爵の家にいるんでしょ? やっぱりお金持ちなの? というか【魔弓士】って超強いって聞いたんだけど」


 悟志が目で助けを求めてきたので、サムズアップして逃げとく。向こうじゃモテない仲間だったのに遠くへ行っちまったな。さらば友よ。

 人は噂に敏感だ、異世界のバイキングで持ち帰りをした貧困極まる男として周りから見られたらしく(+勇者に目をつけられた男)あからさまに浮いてしまった。


 そしてそういう浮いた人間を貶める輩はどの世界にもいる。


「おい、お前【クラス】何が出た?」


 ニヤニヤ笑いを浮かべている、4人ほどの集団の先頭に話しかけられる。

 悟志には女子が、僕にこいつらか、フリーハンドになって戦闘に備えたいがこのお土産を手放すわけにいかない。いつでも逃走できるように【ふんばり】をゆるく発動しておく。


「さっきみてなかった? 【宴会芸人】だよ」

「そうかよ、俺は【天道魔導士】と【魔術士】だ。この世界では【天道魔導士】ってのは超レアなクラスらしいぜ、こいつらもレアなクラスばっかでな、ちょっと貴族のパーティーに呼ばれただけで引く手あまたで困ってるぜ」


【愚道者】だって希少なクラスだぞ。【拳士】はまぁ僕に合ってるから……。と心の中で自分に言い訳をしてみる。


「そうか、良かったな。じゃあこれで」

「待てよ、お前マジで弱いクラスなのか?」


 ニヤニヤしながら、距離を詰めてくる。僕が格下だと確信したようだ。というかこんな人が多い場所でなにするつもりなんだよ。しかし目がマジだ、なんていうか小学生のときプロレス技を人に試そうとしたいじめっ子を想起させる。うっすらと魔力のイメージを両手から感じた。と同じに周囲の給仕からも魔力を感じる。


 ここは逃げの一手と判断して、バックステップで一歩、反転して二歩目を踏み出し逃げる。


「おい!! 待てっ!!」


 後ろで声が聞こえるが知ったこっちゃない。グンっと加速する。速っ!? そう言えば具足なしで本気で踏み込んだのは初めてか、自分でも驚く速度で離れることができた。

 というか速すぎて自分でも制御が難しい、これは早いこと慣れなきゃな。

 後方を確認するが彼らが追いかけてくることはないようだ。あっ名前聞いてなかった。まぁいいか。

 このままいても厄介ごとしか起こらない気がしたので、案内に帰りたいというとすんなり馬車を手配してくれた。そのまま医者がいた屋敷に戻る。


「ご主人様、おかえりなさい」

(マスター、オカエリー、ナンカイイニオイー)


 ファスとフクちゃんに出迎えられる。特に問題はなかったようだ。

 確認するとまだご飯は食べてないらしい。


「あぁ、二人にお土産があるんだ」


 懐からお土産を取り出す。中身は崩れてないようだ。


「これは、美味しそうです!!」

(タベテイイノー?)

「あぁいいぞ、二人で分けてくれ」

「こんなご馳走を奴隷が食べるわけには……」

「いいから、僕はもう食べたんだ。すごくおいしかったから二人に食べてほしくて貰ってきたんだぞ」

(マスター、アリガトー)

「フクちゃん、まったく。わかりました、ありがたく頂戴します」


 そう言ってファスが手を出そうとすると、フクちゃんがそれを止めた。少し食べてこっちを見る。


(ドク、アル)

「えっ!?」

「マジか!?」

(ヨワイドク、マスターとファスナラ、ダイジョブ)


 まったく警戒していなかった。というか転移者に毒なんて食べさせる意味なんてあるのか?


「どんな毒かわかるか?」

(ワカンナイ)


 そうか、こんな美味しい料理なのにもったいないな。


「問題ないなら食べます。せっかくご主人様がもらってきてもらったものですし」

(イタダキマース)


 そのまま、二人はモグモグと食べ始めた。流石、日頃毒料理を食べ続けているだけのことはある。


「お、美味しいです、私こんな柔らかいお肉食べたことないです、グスッ」

(マイウー)


 フクちゃんの語彙はいったいどこから来るんだ。ファスは感動して泣いていた、気持ちは良くわかるぞ。さて、ご飯が食べ終わったら。吸呪をしよう、今日で呪いとはおさらばだ。

あてにならない次回予告です。

次回、勇者とタイマンします。


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― 新着の感想 ―
そもそもクラスが二つあるのがイレギュラーか、これ。
[一言] フクちゃん次元の壁こえてる説w
[良い点] なんだ~まとめて転移したらスクールラブコメのまんまじゃんww
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