第百九十五話:花竜の祝福と恋人達の夜。
白い炎が弾け、花びらと共に舞っていく。
噴水を伝って降り注ぐのは月明かり。
「はぁ……はぁ……」
砕けた槍が粒子となって夜空を目指している。
月光が梯子のようだと思った。そして粒子は意思を持ち確かに上に昇っていく。
粒子は天井を突き抜け、どこかへと消えていった。
「母よ、さらば……」
花竜の低い唸り声のような呟きが響く、花畑を背負った巨体が鎌首をもたげ、月と花の中で槍を見送る光景は印象的で、なぜだか、泣きたくなるような綺麗な光景だった。
そんで、僕はそのまま倒れた。焼かれたはずの花の下からさらに草花が生え、クッションになってくれる。あぁ、このまま寝たいぜ。
「もう……無理……」
「ご、ご主人様。大丈夫ですか!?」
「ちょ、私も見とれている場合じゃなかった!【星涙大癒光】」
「マスター、だいじょぶ? ブクブクブク」
「なんで、いつも仲間の技で大ダメージなんだべ……」
過剰なほどの回復の光が体を包む。後フクちゃんの泡が両手を包んでくれた。
美肌効果も十分のフクちゃん泡だ。火傷も綺麗に治ってしまう。
あっという間に火傷と骨折が治った。マジ凄いな、この二人がいたら大抵のケガは心配ないな。
「よっしゃ、治った」
「いや、まだ発動しきってないから。ここからが本番だから。もはやギャグマンガみたいな回復じゃない!?」
叶さんの体から、魔力が放たれているけど……これ以上は過剰なんだよな。
「いやもう充分だけど……眩しいし」
僕がそう言うと、しぼむように光が収まり、叶さんがしゃがみ込んで花を撫で始めた。
「うぅ、せっかくの大回復魔術なのに……部位欠損すら治す女神の奇跡なのに……」
いじけてしまった。部位欠損まで治せるのか、凄いけどお世話にはなりたくない。
トアが背中を撫でて励ましている。うんうん、良い光景だ。
「ドンマイだべカナエ。旦那様は大体こんな感じだから慣れるしかねぇだよ」
「マスター、じょうぶ」
「流石ご主人様です」
フクちゃんが抱き着いて来るので、肩車。
花竜に向き直る。
「これでよかったのですか?」
「……かつては、母の躯を穢されたとすら感じたが。別れるとなると寂しくもある。しかしこれでよいのだ。やはりダンジョンは崩壊せなんだ。【ダンジョンマスター】としての役目はワシに引き継がれた……感謝するぞ【転移者】」
「いえ、光栄です、花竜。ここに来れてよかった」
美しい秘密の花園。そこにいたのは、恋人達を見守る、花を背負いし守り神だった。
たまには、こういう冒険も良いもんだ。
「いや、終わった雰囲気だしているけど、ここからが大変だからね」
花イジリから復活した叶さんが立ち上がってビシっと杖を突き付ける。
「そうだべな。旦那様が【竜の武具】を持っていると噂を広めねぇとな。さっそくアナ姫様と、バル神官にも連絡するべ。幸いコシミズ達への連絡は連絡用の【紋章】が書かれた紙があるから問題ねぇべ」
「この街に危険が及ばない為にも、早急に出て行った方がよいでしょう。旅の準備を進めなくてはいけません。A級冒険者の登録の連絡が来しだい移動しましょう」
「そうだな。やることはたくさんだ」
女子達が次々と予定を話し合っている。ここは任せるとしよう。
「マスター、ボクなにすればいい?」
「フクちゃんはこれまで通りでいいぞ」
「わかったー。コロスね」
「それはちょっと待って」
マジで、フクちゃんなら敵を全滅させそうで怖い。
「フム、礼をしたいが……その前に、先程の【息吹】、間違いなく母のものだった。そこのエルフ、顔を見せよ」
……そういや、白い息吹について全然考えてなかったな。
なんで砂漠で使えるようになったとか、色々疑問はあったけど、なんかめっちゃ綺麗な景色のせいで忘れてたわ。
ファスがフードを脱いで、顔布を外す。耳飾りも取ると、尖った耳が現れた。
一歩踏み出し、胸に手を当ててファスが花竜に問いかける。
「私は自分の出生を知りません。人生のほとんどを【竜の呪い】に蝕まれていました。恐らくは黒竜のものであったと思います。そして先日、自分がエルフの英雄と似ていると言われました。その英雄が【竜殺し】と呼ばれていたことも、その時知りました。花竜、教えてください。私は、なぜ私は呪われていたのですか? なぜ竜の魔術が使えるのですか?」
「……確かに、【竜の友】と呼ばれた賢者によく似ている。その翠眼、双眸……瓜二つよ」
ファスの震える手を取る。僕を見て少し微笑み、ファスは再び花竜に向き直った。
「私が、その賢者に縁のある者だとしたら、呪いの原因は……賢者が竜王達を裏切ったことで恨まれたから……」
「……母の躯で作られた槍は人を怨んではいなかった。少なくとも、母は……白竜姫は汝に怨みを抱いてはいない。そしてこの場にいる全てから、母の祝福を感じる。助け合う者に力を与える祝福だ」
『しゅ……く…ふく…を』
頭の中で、あの言葉が繰り返される。砂漠で聞いた老成した女性の声。カルドウスの力を退けたあの力の正体と、時を同じくして使えるようになったファスの白い息吹。
無関係だとは考えづらい。
「ご主人様……すみません。涙が……」
「ファス……」
涙を流すファスを抱きしめる。呪いと過ごしてきた日々、例え呪いが解けたとしても痛みの記憶がなくなったわけではない。
「すまぬ。汝が呪われていたこと、竜の魔術が使えること、そして【竜の後継】に関することは、ワシの口からは話せぬ。それは星の女神と竜の盟約なのだ。例え本物の【竜】でないとしても、ワシは【花竜】。母より【竜】の名を授けられた魔物。……答えは旅の中で見つけることができよう。恋人の夜は短い……さらばだ【竜の後継】と絆を持つ者達よ。ワシからも細やかな祝福を送ろう、幸多からんことを……」
「待ってください。まだ話は――」
花竜の身体から花びらが巻き起こり僕等を包む。
次の瞬間僕等は、時計塔の屋根の上にいた。
腕の中にいるファスを見ると、凛とした表情に戻っていた。
「……やはり、私の出生には何か秘密があるようです。アナスタシア姫が言うように【大森林:ニグナウーズ国】で賢者の残した真実を知る必要があります。協力してくださいますかご主人様?」
「もちろん。ファスが行くなら僕も行く」
「ふふ、逆ですよ。ご主人様が行く場所に私が行きます」
「皆いっしょー」
わっぷ、後ろからフクちゃんが抱きしめてくる。
「まったく、隙あらばイチャイチャするんだから、困ったもんだべ」
トアがため息を吐きながら、体を寄せ。
「ちょっと、私も奴隷仲間だし、一緒だからね」
叶さんが左側から肩に頭を乗せて来た。
「……ご主人様、いいですか? 私が一番奴隷ですよ?」
姦しく、恋人達の夜は更けていくのだった。
というわけで【アマウント編】が終わりです!!!!!!!!
あくまで本筋が終わりというだけで、もうしばらく街へ滞在はします。
いやぁ長かった。この後は数話ほど次の冒険に向けての準備をします。
閑話もかけたらいいなぁ。
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