第百九十一話:その髪型の名は
「なんで教えてくれなかったのさ、フクちゃん!?」
フクちゃんはファスの肩にチョコんと乗って、首(上半身?)を傾げた。
(ダッテ、デート、ダッタノ)
心なしか赤い眼がウルウルとしている。いや、そんな目で見られても……。
「それなら、しょうがないな」
「しょうがないねっ!」
一瞬で許します。なんなら叶さんも、食い気味に同意した。転移組はフクちゃんに弱いのです。
「気持ちはわかるだ。実際、黙っていても別段問題なかったかんな。状況が変わったのは昨日からだべ」
「その通りです。大事なのはこれからどうするか。フクちゃん、ダンジョンの範囲はどの程度なのでしょうか?」
(ホイッ)
肩から飛び降りたフクちゃんが人間状態になる。ちなみに今日の髪型はダブルお団子です。
「えーと、広くてよくわかんない。でも、地面の下がおおい」
かなりの広範囲のようだ。そして怪しいのは地下。街の下部にあるファニービーの巣が、ダンジョンとして機能していそうなことからも、やはりダンジョンは地下に広がっているのだろう。
「人が住んでいる上層部分は、ダンジョンっぽくないよな」
ファスが気づかなかったほどだ。
「どうでしょう? ダンジョンの特性として、例えば上層部分がセーフティーゾーンかもしれませんし。このようなダンジョンは聞いたこともないので、予想がつきません。もし盗賊ギルドや依頼した黒幕が【竜の武具】目当てで、ダンジョンマスターを殺せば、相当な被害がでるでしょう」
「だとしたら、僕等はどうすればいいと思う?」
メンバーを見渡すと、皆がこっちを見ている。無言で。
……決断は誰がする? 僕がするしかない。僕がこのハーレムの主人なのだから。
あぁ、胃が痛いよ。爺ちゃん、ギースさん、男って大変だ。
心の中に浮かぶ二人は、笑っている。チクショウ人の気も知らないで。
「……この街が危険に晒されているなら、どうにかしたい。皆、力を貸して欲しい」
「ご主人様の仰せのままに」
ファスが穏やかにほほ笑む。本当に厳しい女性だよ君は。
「まかせてー。みんな、コロス」
「承ったべ、旦那様。オラの全力を尽くすだ」
「頑張ろうね、真也君」
皆の同意を得て、準備を始める。何があるかわからないし、一応はダンジョン攻略だ。
全員が防具を取り出し装備する。街では武器を持てないので、とりあえず軽鎧だけはつけておこう。
さて、この後どうするかだ。
「次のリストは、街の古地図だべ。中心の噴水、ここに守り神のマークが描かれているだ」
「よし、そこへ行こう」
「待った、真也君。街へ行くなら、いくつか選択肢があるよ。まずはこの街がダンジョンであることについて博物館の館長に報告して、意見を求めること。もう一つは、この街の領主がパトロンの葉月君に応援を求めること。後者はおすすめしないけど」
「なんでだ? 悟志は信用できるよ」
「葉月君が信用できても、そのバックまでは信用できないよ。パトロンになる条件になにか【誓約】を結んでいる可能性もあるしね。……【紋章士】の紬がいれば、なんとかなったかもだけど、すでに街を出ているからね。黒幕が誰かわからない以上、現状を知る人は最小限が良いと思う。同じ理由で衛兵もバツ」
「……わかった。じゃあ、館長にだけ報告しよう。メンバーはどう別れる?」
「オラが一人で行くだ。旦那様を除けば、足が速いのはオラだかんな」
確かにそれが良さそうだ。
「では、他の四人で噴水に向かいましょう。トアは報告次第、フクちゃんの糸で連絡をお願いします。フクちゃん、トアとの【念話】は届きますか?」
「ギリ、ダイジョブ」
話がまとまり、すぐに小屋を出て街へ戻った。
関所で馬を返し、ファスの【闇衣】と【重力域】のスキルで住民から隠れつつ、二人を抱えて屋根の上を移動していく。
「フェ、わぁあああああああ。ウップ、私こういうの苦手……【星解呪】【星守歌】。このままじゃ、女子の尊厳が口から出ちゃう……」
「が、我慢ですカナエ」
「さらまんだー、より、はやーい」
二人には厳しいかもしれないが、我慢してもらおう。フクちゃんは子蜘蛛モードで楽しんでいた。
一直線に進んだおかげで、すぐに噴水まで到着できた。
「もう一回【星解呪】。ファスさんもどうぞ……」
「助かりますカナエ」
「二人とも、お疲れ様」
グッタリしている二人も回復を受けて、何とか復帰してくれたようだ。
「さて。ここが地図にある噴水だけど、何かあるかな?」
「少々お待ちください。カナエ、人払いを」
「了解【星方位結界】。これで良し」
青白い粒子が周囲に拡散していく。叶さんが結界を張ったのを確認して、ファスがフードを脱いだ。短いながらも金糸のような髪がふわりと流れる。
魔力を目に集中し、周囲を観察し始める。
「……微かですが、この下に、魔力の流れを感じます。見透すのは難しいですが……やはり、ここはセーフティーゾーンの中心です。そしてダンジョンマスターのエリアはこの下です」
「なら、穴でも掘るか?」
「……いえ、私達の目的は、ダンジョンの踏破ではありません。この街のダンジョンの実情を理解し、何者かから【ダンジョントレジャー】を守ることです。……もしかしたらこの街のダンジョンマスターは友好的なのかもしれません。正しい手順で会った方が良いと思うのです。……すみませんご主人様。なぜかそう言った確信があるのです。手順を守る必要があると……理由はわかりません」
「ボクも、そう思う」
ファス自身、困惑しているようだった。人と魔物が共存しているダンジョン……確かにダンジョンマスターは人間に友好的かもしれない。フクちゃんも同意しているし、力技は止めた方が良さそうだ。
と、その時、頭の中に声が流れる。
(旦那様、館長に報告しただ)
「おっと、トアどうだった?」
(実は、最初は理解できないと混乱していただが、何度か話したら、目が覚めたように納得しただ。考えすぎかもしれねぇけど、何かしらの影響下にあったかもしれないべ)
「あー、だから、誰も気づかなかったのか。実際、私達も全然疑わなかったもんね」
叶さんがポンと手を打つ。
(館長が言うには、街の開拓史が隠されたのは、竜に関係していたって可能性の他に、この街が冒険者達の標的から逃れるためだったかも知れねぇってことだべ。そんで、この街から記録が消えた時期について館長が色々覚えていたべ。今、資料を見直してるけんど、ちょうど噴水と時計塔が建てられた時期と一致するらしいだ)
「この街がダンジョンであることを、何者かが隠し、さらに噴水と時計塔を作った、と。一体誰が?」
(わかんねぇべ。記録によれば、奇妙な髪型の人物が、当時の職人と一緒に建造した、とだけ記録があるってことだけだ)
「奇妙な髪型ですか? 一体どのような髪型なのでしょう?」
ファスがフードを被り直して、顎に指を当てる。
(なんでも、髪の毛を頭頂部まで剃り上げ、残った髪を縛ったもんだべ。あんまりおかしな髪型なもんで記録に残っていただ)
「それはとても奇妙ですね。旅の芸人だったのでしょうか?」
「いや、それって……」
叶さんと顔を見合わせる。彼女の綺麗な瞳がパチクリと開かれていた。
「「ちょんまげ?」」
僕等の声がハモり、ファスがいっそう怪訝な顔をするのだった。
ちょんまげって田舎では昭和初期にもしていた人がいたそうです。意外と最近まで見られていたのですね。
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