第百九十話:恋人の街の正体
ファニービー達は、今日もかいがいしく動き回り、恋人達を案内している。
花びらが軽やかに舞い、吹く風は蜜の匂いで甘ったるい。
「着いたな」
「そうだね。私もやっと、考えがまとまったよ。ところで、ここがトアさんと来たデートスポット? 元の世界でも、通用しそうなアクティビティだね」
(タノシソウ)
フクちゃんは牧場で人間状態になった後、すぐに子蜘蛛状態に戻っている。
「皆で参加するのも楽しそうです」
各々感想を述べる。さて、強盗達が狙っていたのは『ファニービーの巣の記録』か。
売店のおじさんに話を聞こうかな。さっきから、情報源がおじさんばかりってのはどうなんだ?
辺りを見渡すと、すぐに受付をしているおじさんを見つけた。
こちらに気付いて、向こうから話しかけてくれた。
「おう、また来たのか。一度攻略した巣は一か月経たないと攻略できないぞ。っていうか坊主、お前女をつれすぎじゃないか?」
「パーティーメンバーなんです。今日は巣の攻略じゃなくて、ちょっと聞きたいことがありまして、この巣の歴史についてなんですけど」
適当に切り出そうとすると、おじさんは顔をしかめる。
何か問題あるのか?
「わりぃが、巣については秘密なんだ。ファニーちゃん達の巣の攻略方法に繋がるからな」
「歴史でもダメなのでしょうか?」
ファスが問いかけるが、おじさんは首を横に振る。
「ダメなもんはダメだ。巣に関係することはスタッフからは話せないってのが昔からの決まりなんだ」
「……昔からだべか。よしおっちゃん、防具をつけて入る方のアクション向けのファニービーの巣の攻略は、参加できるだべか?」
トアが巣の攻略を提案してきた。まだ女王の蜜は残っているし、今は街の探索をした方がいいと思うんだけど。
「それも駄目だ。パーティーが入るのは禁止だし、違う入り口とはいえ、坊主はクリアしているからな」
「女王の蜜はいらないだ。それに参加するのは、ファスだべ」
「私ですか?」
トアがファスの肩に手を置いて、前に押し出す。
「ほう、こっちのお嬢さんとも恋人だってか……おーい! ファニーちゃーん」
おじさんの声を受けて、一匹のファニービーが寄ってくる。
首には『はんていいん』の札がかけられ丸っこい翅をパタパタと動かしている。……可愛い。
ファニービーは僕等の様子をみて、しばし考えるそぶりをした後に、グルグルと空中を回った。
これは……〇ってことか。
「ファニーちゃんが二人を恋人と認めたな。よし、違う入り口のダンジョンに入ってもいいぞ。だが、女王の蜜は数に限りがあるから渡せない。参加賞のみだぞ」
「僕はいいけど、ファスは……」
「……私が、恋人……やった」
横を見ると、小さくガッツポーズをするファスさんがいた。
「ちょ、私も判定してよ。ほら、お、お金なら払うから。ついでに撫でさせて」
叶さんが鼻息を荒くして、金貨を持ちファニービーに詰め寄っている。引いてるから止めてあげて。
「ボクもー」
フワリと人間状態に戻った、フクちゃんが両手を広げる。
「!?!?!?」
ファニービーがビュンと空に逃げて行った。心なしか涙目だった気がする。
まぁフクちゃん、同じ虫系の魔王種みたいなもんだし、ビビるのもわかる。
【隠密】無しなら、魔物達はパニックになっている可能性あるな。
「ええェ!! ちょ、何でっ!?」
「ん、しっぱい」
崩れ落ちる叶さんと、テヘペロするフクちゃん。
「納得できない。ファニービーの習性を確認するよ。ちょうど、真也君から貰った魔物図鑑あるし」
そう言って、アイテムボックスからプレゼントした虫型魔物図鑑を取り出した。
興味深そうに、フクちゃんも覗いている。
「ささ、旦那様、ファス、行ってくるだ。そんで巣の中身をファスに視て欲しいだ」
「わかりました。しかし、トア。意図を説明してくれても良いではありませんか?」
「確証がないだ。多分、ファスが巣を見ることで明らかになるべ」
ムムムと図鑑をめくっている、叶さんとフクちゃんを置いて、水着で蜜に挑戦するエリアとは違う入り口に入る。
地面は乾いて丈夫な作りだ、通路を進むと、吹き抜けになっていて螺旋状の通路にいくつも橋がかけられている。壁は全てハニカム構造の小さな部屋になっていて、カップルが前を通ると、ファニービー達が驚かせているようだ。通路を落ちると、下は柔らかなクッションと滑り台になっていて外に繋がっている。
「どうするファス。トアが何で中を見てこいっていったかわからないけど、普通に攻略するか?」
ファスの眼が光を反射して爛々と緑の光をたたえていた。遥か先を見るような、その横顔にちょっと見惚れる。
「……いいえ、必要ありません。トアの言わんとすることがわかりました。外へ戻りましょう。ご主人様」
「おっと、いや、別に、入り口からで、うぉおおお」
たっぷり三分ほど巣の内部を見た後、ファスは僕の腕をとってポーンと飛び降りる。
柔らかい滑り台に着地し、そのまま外へ。出口では、トア達が待っていた。
「おかえりなさいだ」
「ここは人が多いです。移動をしましょう」
「うん、これで色々はっきりしたね」
「あれ、僕以外わかってる感じ?」
(マスター、ニブチン)
くっ、TRPGプレイヤーとしてちょっと悔しい。答えが気になるなぁ。
と、僕はワクワクしていたが、皆の表情はちょっと冴えない。
蜜を洗い流すための個室を借りて、皆で顔を突き合わせる。
「じゃあ、整理しようか。まだわかっていないっぽい、真也君に説明するね。とりあえずこのページを見て」
叶さんが【虫型魔物図鑑】を前に置いた、そこにはファニービーが描かれている。
挿絵付きだから……あれ?
「なんか、めっちゃ怖いな。あんなに可愛い魔物なのに」
図鑑に描かれていたファニービーは目はつり上がり、羽もトゲトゲしく、あの可愛げのある姿とは、かけ離れていた。
「私もそう思ったよ。作者の主観が入っているのかと思ったけど、説明を読むとそうでもないみたい」
異世界の字か、ジーっと見ていると、意味が頭に流れてくる。
『ファニービー:蜂型魔物
魔力豊かな高原に現れる。種として女王蜂が存在するが、魔王種ではなく、あくまで集団の一匹である。性格は非常に凶暴で、巣に近づく者は人間、魔物問わず襲い掛かる。毒系統のスキルを保有している個体が多い』
「めっちゃ、凶暴そうな説明だな。この街のファニービーのことじゃないみたいだ」
「そうだよ。多分この街のファニービーが特別なの。まぁここまでは別に他の人も気づいているだろうけど」
「ここからは、オラが引き継ぐべ。まず最初に引っかかったのは、花山羊の話の時だ。『アマウントの近くにのみ生息』と『ここから離れると体調を崩した』ってところだ。これだけなら、まぁそういう性質だって思うけんど、ここに街の特徴が重なるだ。『この辺りには魔物が湧かない』『ダンジョンも近くにはない』それでも、魔物が出る以上は地脈の魔力はあるはずだべ。魔物は元々魔力を持たない動物が変異したもんだかんな。そんなら、おかしいとは思わないだか旦那様?」
魔力が豊富にも関わらず、魔物もダンジョンも無い。元からいる魔物はこの地域から離れられない。
『離れられない』……あれ? 確かになんか当てはまるものがある。
最後にファスが僕を見て口を開く。
「街に隠された宝。そして守り神がそれを守っているとしたら? 思い出すのはラッチモとの戦いです。あの戦いで私達は見ました。夢が仮初の現実になる瞬間を……」
ラッチモとの戦い、地脈の魔力を引き受け彼等が起こしたこと。
だとしたら、まさか……。
「……この街が『アマウント』そのものが【ダンジョン】なのか」
竜の武器が【ダンジョントレジャー】で守り神が【ダンジョンマスター】。
近くにダンジョンなんてあるはずがない、だってここがダンジョンなのだから。
花山羊もファニービーもダンジョンの影響下にある魔物だった。だから離れられず、ダンジョンマスターの影響を受けている。
パチパチとピースが嵌まっていく。
「街だけをみてもわかりませんでしたが、ファニービーの巣を見て魔力を読むと確かにダンジョンのそれです。おそらくは【偽装】に長けたダンジョンなのでしょう」
ファスがその眼で見た者は、ダンジョンを流れる魔力。
だとしたら……。
「ちょっと待ってくれ。仮にそうだとしたら、もし宝の為に【ダンジョンマスター】が倒されたらどうなる?」
「ダンジョンは崩壊します。規模はわかりませんが、街そのものが無くなるかもしれません」
ダンジョントレジャーかもしれない【竜の武具】が、盗賊ギルドなんて物騒な奴らに狙われているんだぞ。
「ヤバいじゃん」
(ソダネ)
フクちゃんの間延びした声が、頭に響いた。
というわけで、答え合わせです。気づけた人はすごい(こなみかん)
次回:時間がない。
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