第百八十九話:秘せられた開拓史
というわけで、フクちゃんとデートした牧場近くを目指すことに。
街の関所で外乗り用の馬が貸し出されていたので、ファスと叶さんは馬を使い、僕とトアは走って移動する。
ちなみにフクちゃんは子蜘蛛モードでファスの肩でくつろいでいる。
丘を越えると、柵の向こうに花山羊が見え、あっという間に牧場に到着した。
「ご主人様とフクちゃんが行った木はどこでしょうか?」
(アッチー)
フクちゃんが示す方向には、ポツポツと木々が見える。
その中でも一際大きな木を目指す。
その途中、木々が遠近法で重なる場所で僕等は足を止めた。
「この場所ですね。確かに、地形は一致します」
「来てみたはいいけんど、これで何がわかるわけでもねぇべな」
「どうだろ? この場所って街からかなり近いよね。そこで魔物と開拓始めた人間は争っていた……」
叶さんが馬上で器用に腕を組む。馬に乗るのも慣れたもんだな。
見渡すと、今は舗装された道が続いているだけだ、向こうには林もあるが別段変わったことは無い。
「今は仲良しだよな」
(……ソウダネ)
花山羊達の乳やファニービーの蜜が名産になるほどだ。
「何か、ずっと引っかかってるんだよね。喉元まで出ているんだけどなあ」
「わかんねぇなら、次の場所に行くべ。確か次は『ファニービーの巣の記録』だべな。オラと旦那様がデートに行った場所だべ。馬の脚ならそう遠くねぇべ」
トアが提案し、皆が踵を返す。その時、ファスの頭にいるフクちゃんの体がどこか楽しそうに揺れていた。そう言えば、この街ではデートの時以外は子蜘蛛状態でいることが多いな。
……まぁ、アマウントは人通りが多いからな。
ファニービーの巣へ向かうために再び牧場の横を通ると、前にあったおじさんに出会った。
「おおう、また会ったな。今日はあの真っ白な、お嬢ちゃんはいねぇのか?」
「こんにちは。えーと……」
ピョンとフクちゃんが人間の状態になって飛び降り、手を上げる。
「こんちわー」
「おっと、見えなかったぜ。今日は大所帯だな」
「えぇ。あそこの木蔭に行っていたんです。そうだ、ミルクを売ってくれませんか? ここのは格別なので」
何の気なしに注文する。ここいらで一服いれてもいいだろう。
「よっしゃ。まけて銀貨三枚でいいぜ、待ってな冷えたの持ってきてやる」
おじさんは、大股で牧場内の建物からすぐに瓶に入った山羊乳を持って来てくれた。
「わーい」
「……これは美味しいべな。ほんのり蜂蜜の香りだべ」
「山羊乳なのに、臭味がないね。ホント美味しい」
「美味です」
皆で山羊乳を褒めると、相好を崩したおじさんが髭を撫でながら胸を張る。
「ここのミルクは最高だかんな。魔物も来ねぇし、花山羊ものびのびできるってもんだ」
「本当に大人しい魔物ですね。これだけ有用なら、他の場所でも見られそうなもんですけど」
のんびりと、花冠を揺らす花山羊はのどかそのものだ。
「あぁ、花山羊はこの辺でしか生息しない魔物だからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。前に誰かが別の街へ輸出しようとしたら、調子を崩してな。どうやらこの辺りでないと住めないらしい」
「……なるほど」
「フム」
なぜか、トアと叶さんがおじさんの会話を聞いて首を捻っている。
「おっちゃん、質問してもいいだか?」
「もちろんだ。なんでも聞いてくれ」
「街の博物館で見た資料では、この辺では昔人間と魔物が争っていたらしいんだけんど、その頃の話を知らないだか?」
「なんでまたそんなことを? ……爺様に聞いたことがあるな。昔はこの辺は深い森で、魔物も多く危険な場所だったが、爺様の爺様のそのまた何代か前の代で森を切り開き、山肌を整えて街を作ったとか」
「過酷だったんだべな。どうしてそんな場所に、街なんてこさえたんだ?」
「そりゃあ、その時代はあれだ、昔話の【三大竜王戦争】よ。魔王を倒した後に起きた竜との戦争で住む場所を失った難民が、俺らのご先祖ってわけだ」
全員(フクちゃん以外)がピクリと反応する。ここでその話が出てくるとは。
話の続きをファスが引き継ぐ。
「過酷な開拓時代があったことはわかりましたが、なぜ今は魔物と友好関係にあり、また敵対的な魔物は現れないのでしょうか?」
「現れないってことはないぞ、たまにどこぞから来た魔物が来たりするからな。でも確かに基本はわかねぇな。爺様は花山羊やファニービー達が魔物を追っ払ったって言っているが、大人しいこいつらにそんなことできるとは思わねぇな。それに、開拓史の話はあんまりしちゃいけねぇって話だ」
「なぜですか?」
「そりゃあ、魔物との戦いなんて『恋人の街』の話題にそぐわねぇだろ」
なるほど。ミルクの礼を言って、牧場を後にする。
叶さんは長考モードに入っているし、トアも何か思いついた顔をしている。
せっかくだし僕も考えてみるか。
・竜王戦争の難民が山を切り開いてこの街を作った。
・過去にこの土地では人と魔物が争っていた。
・花山羊達はこの土地から離れると調子を崩す。
・いつしか危険な魔物は少なくなった。
・今は人と魔物は基本的に友好関係にある。
・開拓時代の話は、秘密になっている。
魔物がいたってことは、この土地は魔力が豊かなんだろうなぁ。
とかその程度の感想しか思い浮かばないな。
開拓史には過酷な魔物との戦いは書いてあるが、結局どうやって魔物を退けたのかまでは書かれていない。もしかしたら、意図的に書いてないのだろうか?
「皆、何かわかったか?」
早々にお手上げをして、他のメンバーに答えを求める。
「……フクちゃん、やっぱりそういうことだべな?」
(ソダヨー)
「あぁー。えー、となると……うーん。ちょっと待ってね」
「ご主人様……わかりません」
トアは答えがあると。叶さんも思い当たってはいるようだ。
ファスはこっちを涙目で見ている。僕等は理解できていない、と。
というか、どうしてトアはフクちゃんに聞いたんだ?
まるで、フクちゃんならわかっていて当然、みたいに……。
「まぁ、すぐにわかるだ。ほらファニービーの巣だべ」
花畑が現れ、アクティビティに参加する恋人達を乗せた馬車が見えてくる。
崖に密着するような、巨大なファニービーの巣が姿を現した。
主人公、理解力C 頑張って欲しいです。
次回:図鑑を読めばわかること。
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