第百八十八話:消えた守り神
翌朝。まぁ、その、ホテルでの夜を過ごした次の日になるわけだけど。
「~♪」
隣にいるファスは、満足気に鼻唄なんて歌っている。
まだ薄暗い早朝の風は少し冷たく、だからこそ、腕に感じるファスの温もりを強く感じられる。
「……」
昨晩は……うん、危ない所だった。体力面では圧倒的に有利な僕に対して、まさかあそこまで食い下がり、最終的に主導権まで取ろうとするとは……。
弱点である耳を攻めなければ、あのままどうなっていたかわからない。
……フクちゃん、トア、叶さんも交じった場合、もはや僕に勝ち目は無いだろう。
色んな意味で強くなりたいよ爺ちゃん。
昨晩の激闘を振り返っているうちに、他のメンバーが泊っている宿に着く。
「マスター、おかえりー。昨晩はおたのしみでしたね」
扉が開いて、フクちゃんが迎えてくれる。
「フクちゃん……まさか、見てなかったよな?」
【隠密】のスキルを持つフクちゃんだから、こっそり小蜘蛛状態で視ていても気づかないだろうし。
「見てないよー。タブン?」
多分って何だよ。……なんか怖いので。この辺で止めて真実には蓋をしておこうか。
「ふぁ……おかえりなさいだべ。旦那様、ファス」
「おかえり、二人共」
犬耳をペタンと下げ、まだ眠そうなトアがシャツだけの姿で部屋からでてくる。
叶さんは、きちんと着替えてお茶を飲んでいた。
朝ご飯は、胃に優しいスープとパンのようだ。
朝の仕度が済んだら、これからのことを話し合う。
本来なら、旅の仕度だが僕とファスには心残りがあった。
昨日博物館であったことを、皆に話す。
「そんな、おもしろイベント絶対楽しまなきゃダメだよ。宝探しなんて、冒険者のテッパンじゃん」
一番に反応したのは叶さんだった。目をキラキラさせている。
まぁ、好きだよなぁ。TRPGプレイヤーとしては外せないイベントだよね。
「オラとしては、旅の仕度や、他の転移者の情報を集めたいけんど……宝探しには、鼻が効く犬がいた方がいいだ。久しぶりに皆で動くだよ」
「ボクもオタカラ探しするー」
というわけで、旅の仕度と情報集めは明日に回して皆で宝探しをすることになった。
トアもフクちゃんも探索に優れているし、叶さんは僕よりも異世界的な発想に優れている。
僕は……ほら、なんか障害物あったら壊すから……。荷物持ちとか得意ですよ?
考えると悲しくなってきたところで博物館についた。
昨日のことがあったので本日は閉館のようだ。
どうやって入ろうか悩んでいると、二階の窓から館長がこっちを見つけてくれたようで、すぐに正面の扉が開く。
「おおっ、待っておったぞ。後ろの女子は誰じゃ?」
「僕のパーティーの三人です」
「フクだよー」
「三番奴隷のトアだべ」
「えっと、四番奴隷の叶です」
ついに叶さんが奴隷を名乗り始めてしまった。こればっかりはどうにかして止めよう。
他の転移者に聞かれたら、色々終わる。
「……お主、実は転移者ではなくて、どこぞの富豪じゃったのか?」
「何も言わないでください」
まだ、開き直れる精神力はない。
館長室に案内されると、部屋中に資料が散らばっていた。
あれから、一睡もせずに調べ物をしたのではないだろうか?
「お主らが、気にしていたこの街の守り神についてまとめておる。過去にほとんどの資料が無くなったとはいえ、挿絵の一部のように残っているものは無いかと、職員総出で調べたのじゃ。そうするとおもしろいことがわかった」
ブラックじゃん。大丈夫かそれ?
「今日は皆に休みをやったわい」
ホワイトじゃん。いや、そうでもないか。
執務机の上の物を横に落とし、ドサリと館長が資料を並べる。
大体が何かの挿絵で、どの絵も花の絨毯を背負ったナメクジとか蛇のような姿をしている。
一番全体像がわかる絵を見ると、花冠に木の枝のような角が生えているようだ。
「これが、この街の守り神だね。確かに竜に見えるかも」
「……タブン、ちがうよ」
叶さんが身を乗り出して言った言葉にフクちゃんが否定をする。
「フクちゃん。どうしてそう思うんだ?」
「わかんない」
わかんないか、しかし、こういう時のフクちゃんの言葉大体正しいのだ。
覚えておこう。
「そんで、館長さんの見立てはどうなんだべ?」
「フム、結論から言うと。これらの挿絵があった資料は、強盗共が狙っていた物品に関係していたのじゃ。順を追って話すぞ、奴らはこの街の変遷にまつわる品を探していたと思われる。奴らのリストは『時計塔の図面、街の古地図、ファニービーの巣の記録、街の開拓史』じゃ。花山羊の置物については唯一の紙面でないものじゃが……価値が無いものとして過去に売りにだしてしまったようで目録にないのじゃ。今はどこにあるかわからん」
「なるほど、奇妙な符合です」
「そうだね。偶然じゃないと思う」
「露骨だべな」
……あれ? 今の館長の説明でなんか皆わかった風だけど、僕わかんないぞ。
とりあえず、わかった感じで無言で頷いとこう。
「どゆこと?」
フクちゃんが首を傾げる。いいぞ、フクちゃん。マジありがとう。
「強盗共が探していた資料を集めると、大抵、街の守り神に行きつくのじゃ。街の歴史から消されたこの守り神こそが、何かの鍵になっているのは間違いなかろう」
そういうことか、それは気づいてたぞ。
「そういうことなら、まず資料を時系列順にならべませんか? 少しでも情報を整理しましょう」
「だね。最初は……」
資料は『街の開拓史』から始まる。魔物と激しく戦いながら山間部を開拓した物語だ。
人と魔物の戦いの挿絵に守り神が描かれている。抽象的にかつ、特徴的な木々の間に描かれているので、少し見ただけではこれがなんの絵かわかりづらいだろう。
次に『ファニービーの巣の記録』。人と魔物が仲良く暮らしている様子が描かれている。特にファニービーは当初人と争っていたが、しだいに友好的になり、当時のアマウントの人々も巣作りに協力していたようだ。守り神は心なしか穏やかで優しいタッチで描かれている。
その次が『街の古地図』、拡張されて変わっていく前の街並みが記録されていた。
この街の水路の中心には、噴水が置かれ人々の憩いの場所になっていたとのこと。
わかりにくいが、地図の縁ににょろにょろと守り神が描かれ、街を囲っているようだった。
最後が時計台の図面。よくよく観察すると、文字盤の裏側に守り神が描かれているようだ。まるで街を見渡すように配置されている。
「これ以外にも、守り神について何かわかることはないか、調べたが、焚書扱いで国に没収されたようじゃ。ワシも気づかんかったが、これらの資料はまるで守り神を隠そうとしているようじゃ」
「時系列はリストを逆に並べただけだったんだな」
「これ以上はここではわかりそうにないね。実際に行って調べようよ真也君」
「カナエに賛成です。時系列順にわかる限りの場所を回ってみませんか?」
「そうだな。何かわかるかもしれないし、全部回ってみるか」
「わーい。おさんぽー」
「お弁当は用意しているだ」
カナエさんとファスが資料をメモしてくれた。
資料探しで寝不足の館長は休むということなので、まずは『街の開拓史』……挿絵で描かれている場所はどこだ?
「牧場だよ。マスター」
「フクちゃんと一緒に行った所か?」
「うん、この木。マスターとおべんと、食べたところ」
なるほど、確かにあそこにあったそこそこ大きな木に似てなくもない。
場所はちょっと遠いし、急ぐ必要がありそうだ。
というわけで、宝探しです。
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