第一話:雲行きがあやしいようです
思わず叫んでしまったが、落ち着いて耳鳴りが収まってくると声が聞こえてくる。
「やったぞ、これで家の面子がたつ! なにをしている、すぐに鑑定紙を持ってこい一番いいやつだ! それと伯爵にも連絡だ。転移者支援のための援助を訴えろ! 今すぐにだ!」
とりあえず日本語で助かった。露骨に異世界だけどどういう状況だろうか、魔王がいるから勇者になれって言われるのだろうか? まだボンヤリする頭でそんなことを思考していると、おそらく僕を呼び出したであろう大変に恰幅のよい、平たく言えばデブで禿げ上がった頭に、金髪が申し訳なさそうにチョロンと乗っている男が仰々しく礼をしてきた。
「お初にお目にかかります。私はオークデン・グランデ・アグーと申します。子爵の位をモント王より頂戴しております」
「はぁ、えっと吉井 真也です。それでここはいったいどこで、どういう状況でしょうか?」
子爵ってどのくらい偉いんだっけ? 男爵より上だっけ?
「ここはラポーネ国のコスタ伯爵領にある私の屋敷です。そしてあなたはこの国の英雄となるべき存在として呼ばれた転移者の一人ですな。今この国は危機に瀕しております。活発化するダンジョンにモンスター、侵略を企む他国の存在、それに対抗するために大いなる神の力を使い呼び出したのが貴方たち転移者となります」
「まぁ、言わんとしていることはわかりました。とりあえずいくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」
大体テンプレートだけど(いまだヒロインがでないこと以外)チートがあるのかどうか、言葉は通じるけど文字は読めるのか、その英雄ってのは転移者でなければならないのか、帰り方はあるのか、転移者って複数いるっぽい説明だったけど具体的にはどのくらいなのか、どういう基準で呼ばれているのか、大体そのあたりのことを聞いてみると。
「大いなる神の力で転移者様には言葉と文字を読むことができます。それと転移者の力については、おお、私としたことが、まずはヨシイ様の能力を確認しましょう。
転移者には特別なクラスが確定でついており、さらに凄まじい速度で成長し、成長した転移者は一つの軍隊に例えられるほどであります。ヨシイ様にも特別な力があることでしょう、もしかしたら勇者のクラスを持っているかもしれません」
アグーさんはソワソワと体を揺らしローブの男が持ってきた羊皮紙?の巻物を渡した。
「それは最高級の鑑定紙であります。ヨシイ様に差し上げましょう。当家ではさらに様々な装備や珍しい道具を取り揃えております。さぁヨシイ様ご自身を鑑定なさってください」
「あのすみません、どうやって?」
「おおぅすみませんな、転移者様は鑑定紙を使われるのは初めてでしたか、まず広げて魔力を通していただいて、そのあと対象を指定して『鑑定』と言うか思うだけで鑑定できますな」
いきなり魔力とかいう単語が飛び出るあたり流石異世界だな、とりあえず魔力魔力と念じてみると手からモヤモヤした熱のようなものがしみだして紙に染み渡っていった。
「ええっと、対象を僕にして『鑑定』」
すると文字がジワっとしみだしてきた。
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名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:16
クラス▼
【拳士LV.1】
【愚道者LV.1】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.1】【掴むLV.1】【ふんばりLV.1】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.1】【クラス経験値増加LV.1】
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ここに来る前、趣味程度に武道をしていたからか、ゲームでいうところのモンクみたいな格闘職っぽいクラスだな。
『拳士』はよしとして、それで問題はこの『愚道者』だよなぁ。
耐性系のスキルは優秀だし経験値増加も良い、だけど武器装備不可って大丈夫なのか? クラスとスキルについても説明が欲しいな。
「あの、ヨシイ様? 結果を見せてもらってよろしいですかな、それによって当家の支援するものが変わりますので、もし勇者のクラスがあるのであれば最高の剣を用意しましょうぞ」
そう言ってアグーさんがすりよってきて少し気持ち悪かったので、鑑定紙を見せた。
「当家としては賢者や聖者というのもありなのですが…………拳士? まさか!? 武器を買えない町のチンピラがなるという職業ではないか!! それに、愚道者だと、転移者の職業でそんなもの聞いたことないぞ!! どういうことだ!!」
いやどういうことと言われても、そこからの流れは見るに堪えないもので省略して話そう。
まず僕がした他の質問は全部スルーだ。そして召喚の責任者であろう魔術師(召喚士というクラスがあればそっちかもしれない)が呼ばれ、散々怒鳴りつけられていた。
聞こえた限りで分かりやすく説明すると、クラスというのはゲームなどでよくいうキャラクタークラス、いわゆる能力的特性を示すものらしい。スキルはクラスに付随する技のようなものだと思う。
この世界で生まれた人間は通常、ある程度クラスは選べるようだ。生まれ持っての素養もあるが、後天的に修行することで新しいクラスは習得できるらしい。
付け替えも可能で、例えば『剣士』を選んだ後にやっぱり止めて『狩人』のクラスになるというのはできるらしい。しかし、僕ら転生者はもともとついていたクラスを変えることができない。
そのかわり通常だと一つしか選べないはずのクラスが二つあり、そのうちの一つが特別なクラスであるとのこと。
……そして僕の『愚道者』がその特別なクラスなわけだが。
まぁうん。わかってたよ。ぶっちゃけ弱いよねこれ、とてもじゃないが兵器と比肩されるような内容に見えない。武器装備不可とかいうデメリットまであるし、怒鳴り声の内容によれば勇者のスキルは斬撃を飛ばして山を両断できるものもあるとか、ほかにも大規模な爆発を起こす魔術であったりまさにチートと呼ぶにふさわしいものだった。
ちなみに『拳士』についても散々な評価でいろいろ言われていたが、ようは武器を身に着けられない身分の人間が仕方なくつくクラスらしい。
呼び出された責任者が悲痛な叫びを挙げる。
「ヒィイイイ。まだ、わかりません。もしかしたら万が一使えるクラスかもしれません」
それを聞き、血圧の上がったアグーさんは僕を豚をみるような目で一瞥し部屋を出ていった。
僕はそのままえらい簡素な部屋に半ば強制的に案内された。
晩飯はでてこなかった。
ヒロインがでてないやん、はぁーつっかえ