第百八十六話:宝探しはディナーの後で(ファス④)
強盗が狙っていたものは、かつて人間に裏切られ死んだ竜王達から作られた【竜の武具】だった。
転移者のみが装備でき、手にすれば魔王種すら圧倒できるという。
……【竜の後継】と呼ばれた僕、【竜殺しの英雄】に瓜二つなファス。
偶々立ち寄ったこの街で、さらにゆかりのある器物が眠っているかもしれないなんて、これで探さないという選択肢はないだろう。
「もしそれが本当なら、国が軍を派遣してでも探し回るじゃろうな。どえらいお宝じゃ」
目をキラキラさせて館長が髭を撫でる。
「わざわざ盗賊ギルドに依頼するほどです。真偽はともかく、何も無いってのは考えづらくないですか?」
「そうじゃの。して、強盗が奪おうとしたこの博物館の展示物と、そのお宝はどう関係している?」
「協力してくれるんですか?」
断られるかもしれないと思ったけどな。
あるいは【竜の武具】が欲しいのかもしれない。
僕は【武器装備不可】のスキルのせいで、装備できないし寄付してもいいけど。
ただ、こういう宝探しワクワクするじゃん。
「無論じゃ、こう見えてもワシはこの街の歴史の権威じゃぞ。ワシの知らない街の秘密なんぞ知りたいに決まっておるっ!」
「手に入れた武具は?」
「好きにするといい、こんな博物館にしまっておっても物騒なだけじゃ。のぉ、お主【転移者】じゃろ? それならば扱えるじゃろう」
ジロリと睨みつけられる。へぇ、気づくのか。
強盗の気を引いた胆力といい、大した人だ。
「ご主人様……」
ファスがどうするかと目で問いかけてくる。
なんなら、ここで口封じでもしそうだ。
「えと、どうしてわかったんですか?」
「認めるのですか!?」
「誤魔化してもしょうがないよ。腹の探り合いは苦手だし、協力してもらえるなら話したっていいじゃん」
「貴方……ご主人様のことを喋ったら。……わかっていますね」
【恐怖】を滲ませながら、ファスが牽制するも、館長は一歩下がってニヤリと笑う。
「わかっておるわい、信用せい。なぜワシが【転移者】だとわかったか聞いたな? 黒髪で嬢ちゃんのような凄腕の従者を従え、しかもその年でA級冒険者の内定が決まっておるなんぞ、普通じゃないわい。そして今この街には、サトシ ハヅキという転移者がいると領主からお達しが来ておる。それならば関係のある【転移者】が他にいてもおかしくはないじゃろ? 年寄りを舐めるでないわ。大方厄介ごとを抱えて身分を隠しているとかじゃろう?」
「……降参です。なるほど悟志がいたか」
館長はそれなりに、立場もありそうだし情報が来ていてもおかしくはないか。
「私が口を滑らせたせいです。申し訳ありませんご主人様」
「何、黒髪なんぞ。この街の観光客にもたくさんおる。前もって【転移者】の情報を知らんと気づく人間はおらんじゃろう。むしろ話が早くなったわい。さぁ、行くぞ」
「行くってどこに?」
「地下の倉庫に、強盗が狙っていた展示物を集めさせておるのじゃ」
手が早い。まぁ、何かあるって思うよな。
館長に案内されて、博物館のバックヤードに行くが、表の展示物なんて比べ物にならないほどに物で溢れていた。
無理やりにスペースを作ったような棚と棚の間の場所に、職員達がすでに展示物を集めていた。
「まずはこれじゃな、時計塔の図面。この街のシンボルじゃ」
「……図面を見ても何もわからないですね」
中身を見ても、さっぱりわからん。そもそも専門知識がないと読み取れないだろう。
「街の古地図、こっちはファニービーの巣の記録じゃ」
「へぇ、昔は本当に山そのものだったんですね」
開発される前の街の様子が、挿絵付きで説明されていた。
昔から花畑があったようだ。ファニービー達との和解の様子も描かれている。
一つ気になる挿絵を見つけた。
「これって、魔物ですか?」
そこにあったのは、背中に花畑を背負ったような巨大な蛇のような生き物だった。
角のようなものが二本あり、まるで……あれ? これどっかで見たような?
「おおぅ、そいつか。そいつはこの街の守り神じゃ。古い街の絵には時折描かれるが、創作にすぎん」
「そうですか、ちなみに名前とかあるんですか?」
「それも知られておらん。意図的にこの守り神のことについては記録が消されておるのじゃ。実は、その昔に国の検閲があり、【翼のある竜】に対する文書はそのほとんどが規制されたらしい。もしかすると、この花を背負う守り神は竜に縁があったのかもしれん……」
「であるなら【竜の武具】に対する信憑性もありますね」
その後も、街の開拓史を始め色んな資料を漁ったが、期待に反して有益な情報を得られなかった。
花山羊の置物に至っては、過去に盗まれたらしくこの場所にはないらしい。
強盗達だって、これを見てもわかることはないだろう。
「うーん、強盗は他にも何か、隠しておったんじゃないか?」
「ご主人様と一緒に彼等を良く観察しましたが、あれ以上知っていることはなさそうでした。もしかしたら、展示物を持って依頼人の下に帰ってから追加の指令があったのかもしれません」
あのファスの尋問で嘘を貫き通すのは無理だと思う。
僕の【鈍麻】もあったしな。
「ふむ……ならば一つ心当たりがある。明日もう一度ここへ来てくれんか?」
「うーん。確かに手詰まりですもんね。わかりました」
何か考えがありそうな館長に任せて博物館を出た。
周囲はすっかりと暗くなり、街の明かりがはっきりと見える。
「気になるけど。まぁしょうがないか」
「それなら、街を探索しますか? 私の【精霊眼】があれば多少わかることもあると思います」
「いや、せっかくだし楽しみは明日に取っておこう。今日はファスとのデートだしな」
「気にしなくても、よろしかったですのに」
ワンピースを揺らしたファスに向き直ると、ファスが首を傾げる。
「僕が気にするんだ。それにちょっとやりたいこともあったし」
「なんでしょう?」
「あぁ、いや。別にそんな特別でもないかもしれないんだけど……」
ファスがクスリと笑って、僕の手を取る。
「私にとって、ご主人様といる時間の全ては特別です。どうぞ話してください」
「一緒にディナーを食べないか? 静かなレストランで」
あぁ、顔が赤くなっているのがわかる。
「……もちろん、ご主人様となら嬉しいのですが。どうしてそこまで照れてらっしゃるのですか?」
「いや、なんていうか。こういうの僕の世界では、大人っぽいことなんだよ。つまり好きな女性をディナーに誘って……その後もファスと一緒にいたいってことなんだけど」
うぉおおおお、やべぇ、何言ってんだ。テンションの上下が激しい、さっきまで宝探しテンションだったのに、なんか変なこと言ってる自覚がある。
「えと、はい。私も……そのつもりでした。トア達にも前もって伝えています」
「そうか……」
「はい、でも誘ってもらえて。本当に嬉しかったです。どこへ行きましょうご主人様」
「実は、レストランについては調べているんだ。確かメインストリートの方にいい感じ店が多いとか」
「予約とかしなくても大丈夫でしょうか?」
「だったら、人があんまり入らなそうな高い店に行こう。金ならあるからな」
「……ご主人様。ムードがありません」
「それはごめん」
「フフっ、では参りましょう」
二人どちらともなく、腕を組んで。僕等はちょっと背伸びをして恋人の街へ進んでいく。
強盗のことでうやむやになったけど、結局ファスへの思いを上手く伝える方法は思いつかない。
でも、言葉にしなくちゃいけないこともあると思う。
うしっ、がんばるぞ。
ファスとのデートは次でラストです。
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