第百八十五話:宝探し?(ファス④)
「ところでファス」
「なんでしょうご主人様?」
強盗を捕まえた僕等は、街の衛兵が来るまで博物館を見学することにしていた。
街の歴史が描かれたタペストリーを見ながら、先程の戦いで気になったことをファスに尋ねる。
「強盗の狙いがわからない。天井裏から会話を聞いていたけど、確かにこの博物館には大したものは無さそうに見えるんだ。その割にはあの強盗はそれなりに強かった」
「強かったですか? とてもそのようには見ませんが……。どのような会話があったのでしょう?」
ファスは壁越しに視てただけだもんな。というわけで、強盗のリーダー格の男と館長の会話をファスに伝える。
「……なるほど、確かに何か裏がありそうですね。彼らが欲しがっていた展示品のリストを見れば何かわかるかもしれません」
「そうだな。っと、せっかくのデートなのにそんなことを気にするのは良くないかな?」
「フフ、今更です。それにご主人様が楽しそうなのに、私がそれを止めるはずがありません。何か考えがあるのでは?」
口元に手を当てて笑う仕草にドキっとする。アナさんに上流階級の立ち振る舞いを教わってから、なんか色気が増しているんだよなぁ。
「えと、うん。こういうの叶さんなら『お約束』って言うだろうけど。……『宝探し』じゃないかなって」
強盗が突き付けたリストの内容は『時計塔の図面、街の古地図、ファニービーの巣の記録、街の開拓史、花山羊の置物』他にもあるかもしれないが、どれも情報を得ようとしていた。
そのもの自体ではなく、物に秘められた情報が必要だったんじゃなかろうか?
もしかしたら、大規模な犯罪とかテロとかの前準備に必要なだけかもしれないが、それなら歴史なんて必要はないだろう。それならば、彼等の狙いはもしかしたらこの街に何か秘密のアイテムとかあるんじゃないだろうか?
考えを話すと、ファスは頷いた。
「わかりました。やはり、リストを見る必要がありそうですね。あの強盗達にも話を聞いてみましょう。しかし、ご主人様気を付けてくださいね」
「あぁ、厄介ごとかもしれないから……ムグゥ」
唇にファスの指先が当てられる。
「いいえ、これも私とのデートだってことですよ」
パチリとされたウインクを直視できなくて、僕は目を逸らす。
とりあえず、さくっと展示物を見て回り二階の事務室へ戻る。
「おぉ、丁度呼ぼうと思っていた所じゃ」
館長が手を広げて迎えてくれる。
衛兵はすでに来ていたらしく、机で聴きとったことを書いていた。
衛兵はこちらを確認すると、立ち上がり胸に手を当てた。
多分、敬礼なのかな? この世界、所が変わると敬礼とかも変わるのでその辺が結構ややこしい。
「館長からお話は聞きました。この街を守る者を代表してお礼を言わせてください。C級冒険者シンヤ ヨシイ様。その奴隷ファス様」
ファスが一歩下がる、この辺は奴隷としての所作らしいけど。
ちゃんと受け答えできるのか不安なので、むしろ前に出て欲しいもんだ。
「いえ、偶々居合わせただけですので。ところで、どうして僕等の名前を?」
「現在この街にいる冒険者は貴方達だけですので」
「僕等だけなんですか?」
流石にそれは少なすぎでは?
「流石に普段は観光に何組かはいたりするのですが、ここの近くのクレイブルズという街で、転移者達がダンジョンを攻略しておりまして、今はそちらに冒険者は集まっているのです」
おこぼれを狙ったり、冒険者の意地もあるのだろう。
しかし、転移者ねぇ……。宙野達が何かしているのだろうか?
気にはなるが、今は強盗のことを聞くのが先だな。
「わかりました。強盗達はどうなっています?」
こういう時のファスは、基本的に僕に会話を任せてくる。本人曰く、奴隷としてのマナーだそうだ。
「フム、だんまりですな。黙秘をされては、例え嘘を見抜く魔法陣があったとしても意味を成しませんし。このまま近くの街へ移送するしかないでしょう。この街の留置所はせいぜい、荒っぽい若者を入れる程度の規模ですからね」
「少し気になることがあって、僕等も話をしたいのですがよろしいですか?」
「もちろんです。C級の冒険者ならば、断る理由も無いでしょう」
へぇ、C級の冒険者は社会的にも信用が高いのか。特に意識したことなかったけど、便利だな。
衛兵に案内されて、隣の部屋へ入る。他の衛兵達が強盗を見張っており、僕等をみて敬礼をした。
見張りの方に会釈をして、強盗の前に立つ。
「話をしたいことがあるんだ」
「……」
やはり無言。さてどうしようかな?
「お任せください」
下がっていたファスが前に出る。
……まぁそうなると思ったけど、最後に粘ろう。
「ちょっと話がしたいだけなんだ。今話したほうがいいぞ? これは君らの為に言ってるんだ」
いやマジで、ファスの尋問は苛烈だぞ。
「ペッ」
リーダー格の男が僕に唾を吐き、それを躱したところで、ファスが静かに宣言した。
「……衛兵の方々は、少し外してもらえないでしょうか?」
「あっ、大丈夫ですよ。荒っぽいことはしませんので」
フォロー(嘘)を入れると、衛兵たちが目配せをして静かに退室する。
なんなら僕も外へ出たいぜ。
「ご主人様【鈍麻】を」
「……はい」
冷気と恐怖を纏うファスに誰が逆らえようか、いや誰も逆らえない。
というわけで、サクッと【呪拳:鈍麻】で身体と思考を鈍らせる。
そこから先は……うん、まぁ何も言うまい。
一分ほどで、強盗はゲロった。何人かは物理的にゲロった。
いやぁホント、あまりにスムーズな尋問(拷問?)に足の震えが止まらない。
水分を片付けつつ、見た目だけ整えてファスと部屋を出る。
待機していた衛兵さんが、すぐに質問をしてきた。
「何か喋りましたかな?」
「少しだけ……彼らは、盗賊ギルドの者らしいです」
「なんとっ!?」
その場にいた館長も交え、とりあえずの説明を衛兵さんに行う。
強盗達は盗賊ギルドの人間だった。
盗賊ギルドがどういうものか、詳しく知らなかったのだが、依頼を受けて盗みや強盗を行う非合法のギルドのようだ。
ギルドを仲介することで、例え盗賊たちが捕まったとしても依頼人のことはバレることがない。
盗賊たちもギルドを裏切れば殺される為、よっぽどのことがない限り、自分達が盗賊ギルドの人間であることは喋ることはないそうだ。
ファスが言うには、ギルドの内情について喋ろうとすると、奴隷紋のような契約紋により自害するようになっているそうだ。
今回も、彼等には断片的な情報しか与えられていなかったようだ。
「盗賊ギルドの人間は、腕利きばかりです。まさか捕まえた上に、その情報を引き出すとは……お見逸れいたしました」
「ご主人様はA級冒険者への内定も決まっています。この程度は当然です」
どや顔で胸を張るファス。いやファスさん、情報引き出したの君じゃん。
「A級……こ、これは失礼を。すぐに上の者を呼んでまいります」
「あぁ、いいです。僕等はあくまで観光に来ただけですので」
ほら、なんか話が大きくなりそうだ。ここは断っておこう。
なんなら後で悟志に連絡して、手を回してもらった方がいいかもな。
「そうですか、わかりました。しかしこのことはしっかりと冒険者ギルドへも知らせておきます。それでは、盗賊ギルドの人間とわかればすぐに動く必要があります。彼等を移送しますのでこれにて失礼」
すぐに、強盗達は連れられて行った。
衛兵がいなくなると、職員たちも慌ただしく仕事へ戻って行く。
さて、ここからが本番だ。幸いにもこの部屋には館長と僕等しかいない。
「館長、話したいことがあります」
「ワハハ、わかっておる。強盗共の狙いじゃな。あのリストを見れば、他に狙いがあることくらいはわかる。他に何かあるのじゃろう?」
髭を撫でながら、館長がニンマリと笑う。
「その通りです。彼等への依頼は博物館のリストの強盗だけじゃありません。この街にあるという『ある物』を狙っていたようです」
「ほほう、やはりか。しかし、ワシはこの街に来て長いが、そんな話は聞いたことがない」
「強盗達も詳しく知らされてなかったようです。ただ彼等に依頼した者は、この街には特別なアイテムが隠されていると思っているようです」
ファスが行った尋問にわかったことはとても興味深いものだった。
リーダーの男はこう言った。
『……『それが』何なのか俺達も知らない。どうしてそんなものがあるかわかったかも知らねぇ。ただこの街には『それが』あるそうだ。……本来、国が国宝として管理している伝説の武具……【竜の武具】、そのうちの一つがあるってんだ』
……そりゃあ、気になるってもんでしょ。
ファスさんの尋問は……うん、またの機会に描写します。
次回:花の街の宝探し。
ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。更新ちょっと遅れ気味ですが挽回していこうと思います。
感想&ご指摘いつも助かっています。モチベーションがあがります。






