第百八十話:告白(小清水 千早&日野 留美子②)
小清水と日野さん……じゃなかった。千早と留美子さんと街を歩く。
山肌をなぞるような風は花びらを運び、アマウントの街は今日も観光客で賑わっていた。
「それで、どこに行くの?」
ポニーテールを揺らし上着を肩に羽織る千早が横目でこちらを見る。
留美子さんは、後ろからニコニコと付いてきていた。
「このメインストリートを、店を見ながらブラブラって感じにしようかなって思ってる。色んな店あるから楽しそうだし。それで昼は、千早と留美子さんと会ったレストランにしようかなって……どうでしょう?」
何だろうこの緊張感、デートってこんな感じなのだろうか? そもそも千早との距離感がよくわからん。
「わ、私はいいと思うよ。うん」
「……」
小刻みに頷く留美子さんに安堵するが、千早は黙っている。
「あー、他だったら――」
沈黙に耐えきれず、別の案を出そうとすると、人差し指に柔らかな感触。
千早が僕の指を挟んでいた。
思考ストップ。なんだこれ?
目線で問いかけようとするも、そっぽを向かれている。
また沈黙、ただ千早の頬が赤に染まっていることだけがわかった。
「……名前」
「えっ?」
「叶も紬も留美子も『さん』付けじゃない。どうして私は呼び捨てなの?」
人差し指ニギニギと弄ばれている。
手の柔らかさが、僕の喉をカラカラにする。
「あぁえーと、どうしてだろ? 多分、元々『小清水』って呼び捨てだったから、自然にそう呼んでた。嫌だったか?」
「……行きましょう。時間がもったいないわ」
背筋をピンと伸ばし、千早が踏み出す。
……僕の指を握ったままで。留美子さん無言でニコニコとその様子を見ていた。
色んな店や出し物の中を三人で歩く。
ピエロの大道芸、ガラス細工の店、猫の従魔の出し物。
「へぇ、これ可愛いわね。多分カエルね」
「確かに可愛いね千早ちゃん。でもこれ猫じゃない?」
「僕はこっちのキラキラのほうがいいな。それどう見てもナメクジじゃないか?」
元の世界と似ているものや、全く知らない異世界の商品。変な置物のモチーフを言い合う。
次第に僕らの口数も増えて、笑いながらあっちこっち指差してメインストリートを上がっていく。
鎧も刀もない格好で話していると、まるでただの高校生みたいだ。
実際ただの高校生だったんだ。
転移したあの時の僕だって、こうして過ごす未来があったのかもしれない。
……流石に千早や留美子さんとデートってのは出来すぎだろうけど。
なんやかんや楽しんでいると、悟志達と訪れたレストランに着いたのは昼をだいぶ過ぎてからだった。
「結構遅れたな、どうする?」
「入ればいいじゃない。ちょうど人が減っていい感じだわ」
「そうだね、私もそう思う」
店に入るとバルコニーになっている席に案内された。この店は街の少し高い場所にあるため、景観がいい。騒がしい街と、広がる高原の風景が良く見えた。
「良い席ね」
「うん、僕等は運が良いみたいだ」
「……千早ちゃん、真也君。私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
留美子さんが席を外し、二人とも無言になる。
何を食べようかとメニューに手を伸ばそうとすると――
「本当に帰らないの?」
不意にそう言われた。驚いて小清水を見ると真剣な表情でこっちを見ている。
「帰る気はないよ」
元の世界へ戻る。何度か考えてそうしないと決断した。
「もし、帰るなら。私、あんたの彼女になってもいいわ」
「えっ?」
「あんたと付き合ってもいいって言ったの」
右ストレート。オーガのパンチよりも真っ直ぐな千早からの言葉に思考が真っ白になって。
……最初に浮かんだのはファスの姿だった。
「……僕は、ファスと一緒にいたいんだ。だから帰れない」
自分の想いを確認するようにそう言うと、千早は小さな声でポツポツと話し始める。
「……私、今日生まれて初めて男子とデートするために服を選んだの……」
膝の上に手を置いて、あの千早が、砂漠の戦いの時だって涙は流さなかった、あの千早がボロボロと泣いていた。
「似合ってる。上手く言えなくてゴメン」
「ホントに……いつだったかわからないの、いつの間にか、真也のことが……私が強かったら、もっと、もっと強かったら、貴方を叩きのめして無理やり連れて帰るのに……なんで、あんた私より強いのよ。ファスさんも叶もなんで、そんなに……」
「ゴメン」
うつむいて泣く千早の横で、なにも出来ずただ謝った。
「頑張ったね、千早ちゃん」
いつの間にか戻っていた留美子さんが千早を後ろから抱き締める。
コトンと前に前菜がおかれ、店員がすぐに去っていく。
いたたまれず、どうしようかと迷っているとおもむろに千早がフォークを握って前菜を食べ始める。
留美子さんも席に座り食べ始めたので、僕も食べる。味なんてわからなかった。
コースを食べて、店を出る。
これ以上デートを続けるのは難しいだろう。
そう考えていると、千早が。
「高い所へ行きたい」
と言ったので、時計台へ行くと、周囲には誰もおらず、夕陽が僕らに影を落とした。
声をかけることも出来ず、僕は千早をただ見て、彼女は街を見ていた。
「留美子、お願いがあるの」
「うん」
「私を応援して」
「……ファイトだよ、千早ちゃん」
親友の言葉を受けて千早が振り返る。
泣き腫らした目に決意をたたえ彼女はかっこよく笑った。
「やっぱり、諦められないわ」
「へっ?」
「これが元の世界なら、悪いことだけど。異世界ならまだ私にもチャンスはある」
「千早……さん? ちょっと待とう。暴走してない?」
「いけいけ千早ちゃん!!」
留美子さんより燃料投下、先程の雰囲気が切って捨てられる。
「振られることは折り込み済みよ。それでも、私の今の気持ちを確かめたかったの。つ、辛かったけど、泣くほど辛かったけど……辛くて泣くほどの想いに気づけたわ」
「千早のことは、その、」
ダメだちゃんと言おう。恋愛感情は無いと、友人として付き合おうと。
「あんたが私を付き合う対象として見ていないことわかってた」
剣士は先を逃さない。先に言われ口をつぐんでしまう。
「叶は元の世界から、こっちの世界に来てもずっと真也を想っていた。私は今からスタートするから。あんたが今の私を見ていなくても、これからの私が、真也を振り向かせる」
「帰るんだろ、それなら千早が辛いだけだ」
「ギリギリまで粘るわ。場合によってはあんたの……ハ……ハーレムに入ることも……考える……」
「えぇ……」
どうした風紀委員? まるでいつかの叶さんのようだ。
「出かける前に叶に言われたの。後悔だけはしないようにって、この異世界で今諦めたら後悔するから。今日、振られて初めて確信できた」
真っ直ぐにブレの無い剣筋のような言葉で。
「私、真也が好き」
彼女は僕を切りつけた。
ここに来てまさかの小清水さん暴走。
彼女視点も書きたいですね。
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