第百七十八話:ハチミツと水着(トア②)
気合を入れて巨大蜂の巣に突入して30分後……。
「うえぇ、ドロドロ……」
「耳に、蜂蜜が……鼻が、鼻が甘い匂いで……役に立たないだ~」
はい、全身蜂蜜まみれで巣から放りだされた現役C級冒険者の姿がそこにありました。
「ガハハハハ、ファニーちゃん達にやられたようだな。シャワー室と衣類の高速洗濯乾燥室は、一回白銀貨一枚だ」
「……はい」
「……だべ」
無言で案内された個室に入り装備を脱ぐと、備えつけの蜂蜜取り専用の洗剤で洗う。
ついで、何かの錬金機械なのか、木製の箱がありこれが乾燥機のようだ。
「とりあえず、反省をしようか」
「だべな。何があったか、よくわかんなかったべ」
というわけで、以下反省会。
※※※※※
前の挑戦者が入ってから数分後に入り口が開かれ、僕等の挑戦が始まった。
巣の内部は、濁った黄色で壁や床の材質はそれなりに丈夫なようそうだ。
ファニー・ビーの巣に挑戦するにあたってはルールがあり、事前に説明されている。
「ルールは簡単だな」
「巣の内部にも看板が時々あって、わかりやすくなってるべな」
・カップルで挑戦すること。
・巣の中に武器を持ち込まないこと。荷物は受付に預ける。
・順路に沿って進み、ステージをクリアすること。
・ファニー・ビーへの攻撃は禁止。
以上となる。あくまでアクティビティという役割なので誰でも楽しめる感じになっているようだ。
巣の内部は複雑な作りになってはいるが、ご丁寧にも看板があり迷う心配はもない。
「まぁ、砂漠でもダンジョンに結構潜ったし、流石に大丈夫だろ」
「レベル上げをしているオラ達なら余裕だべ」
なんて油断しながら進んでいくと、最初の部屋に到着。
小学校の体育館ほどの広さで蜂蜜のプールが敷き詰められており、蜜蝋でできた浮石のような足場がプカプカと浮かんでいた。
「おぉ、これは……」
「蜂蜜のプールだべ。なんて贅沢な……」
部屋のあちこちで悲鳴があがっており、カップルが抱き合った体勢で蜂蜜で流されていた。
予め用意していたのか、水着を着ているカップルも何組かいた。
どうやら落ちると、そのまま外へ流れているようだ。
浮石の先には出口があり、あそこまで行けばこの部屋はクリアのようだ。
浮石も大きいし、これは余裕だな。
「よし、どっちが先に向こうに行くか競争するか」
「ニヒッ、わかっただ旦那様。じゃあせーの……」
バフンっ。
「わっぷ」
「キャン!?」
二人の顔面に花粉団子が炸裂した。見れば帽子を被って『しんぱんいん』と書かれたプレートを下げたファニー・ビーが手を✕にして飛んでいる。
そのまま、赤いロープを渡された。
「えっ、どういうことだ?」
「旦那様、あそこに看板があるだ」
なるほど、渡るにもルールがあったのか。看板にはこの部屋でのルールが書かれていた。
『ラブラブ☆ハニー・ジャンプ。恋人と息を合わせましょう。二人の足にロープを結んで一緒にジャンプ♪』
「フムフム」
「ようは二人三脚で、浮石に挑戦すればいいべな」
とりあえず、赤いロープを足に結んでトアと肩を組む。
ムニュリ。
「……」
「旦那様、どうしただ?」
……いや、あの、トアが軽鎧だからって密着することでここまで、その、わかるもんなのか。
明確に分かるわけではないが、トアの豊かな胸が押しつぶされる感触が伝わって無言になる。
くっそ、なんて素敵なイベントなんだ。ありがとうファニー・ビー!!
「問題ない、行くぞ。せーの」
二人で浮石にジャンプする。流石にジャンプ力が足りないということもなく、普通に着地……できたと思っていた。
バシャンと浮石から蜂蜜が飛び上がり、二人に降りかかる。
ただの浮石かと思ったそれは、下から蜂蜜が噴き出す作りだった。しかもめっちゃ滑る。
「わわ、滑るべ」
「大丈夫だ【ふんばり】で、固定するから。僕に掴まればいい」
「わかっただ。旦那様が一緒で助かっただ」
レベル上がり水の上だって立てる【ふんばり】なら、この程度余裕……。
ムニュムニュり。
えっ、さっきより感触がすごいんですけど。
「蜂蜜で滑って胸当てが……ヌルヌルするべ」
はい、蜂蜜でヌルヌルでしかも密着状態のトアさんが、抱き着いてくるってそういうことです。
いままで体験したことない、新触感に思考が停止する。
「や、柔らか。っていうかトア。服が!?」
「旦那様、動くとダメだべ。ああ~」
脱げていくトアの服を直そうと【ふんばり】を解くとバランスが崩れ、そのまま蜂蜜プールへダイブし外へウォータースライダーのように飛ばされたのだった。
※※※※※
振り返り終了。
あっという間に乾いた装備に異常がないか点検し、とりあえず服のみ着る。
「大体こんな感じか」
「巣に入るってんで、防具を装備したのが間違いだったべ」
「蜂蜜程度で壊れるものでもないけど、汚れるのはいやだし、装備はアイテムボックスに入れておくか」
「うんうん。それと、さっき見たんだけんど、売店に水着が売ってる理由もわかっただ。買ってくるべ」
「いや、待て、トアそれはヤバイ!!」
止めてはみたが、トアはさっさと水着を買ってきてしまった。
男性用のはタダのトランクスのようなタイプだが、女性用は少しデザインが凝っている。
生地は木綿だろうか、フリルのついたエプロンのような前面に、後ろはそのまま厚手の下着のようだ。カップルであることを意識しているのか可愛らしい作りになっている。
内側にも生地があり、透けることは無さそうだが……。
「う…ん。ちょっと胸がキツイけんど、行けるべ」
無理やりに詰め込まれた胸部装甲に、鍛えられた腹筋、しなやかな太もも。
ピンと伸びた犬耳、高身長で切れ目のクールな相貌、可愛らしい水着とのギャップ……。
「……」
「旦那様? もう一回いくだ。次は絶対大丈夫だべ」
「無理だ……もう攻略は不可能に近い」
膝をついて絶望する。だってこんなの無理に決まっている。
「ど、どうしただ旦那様。大丈夫だべ、この格好なら脱げることは無いし、旦那様の【ふんばり】があれば、浮石なんて余裕だべ」
「トアがエロすぎるんだよ!」
「へっ?」
「防具を付けてもあんな状態なのに、その恰好のトアとか、集中できるか! 今も鼻血が出そうなんだよ!」
「えぇ……旦那様はオラの裸だって何度も見てるし、もっとすごいことだって夜にやっているべ」
「それはそれ、これはこれ!」
「かつてないほどに言い切られたべ」
なんで、トアにしてもファスにしても自分の容姿に無頓着なんだっ。
「とにかく、それの上からでもいいからシャツは着て欲しいかな。でないと攻略に集中できない」
「旦那様がそう言うなら。そうするけんど……そうだっ」
ポンっとトアが手を打ち、僕の耳に顔を寄せる。
「……もし、上手く行ったら。この格好で、色々奉仕してあげるだよ。ヨシイ」
……そのまま、受付に向かい。挑戦料を払う。
そして、件の蜂蜜プールの部屋へ。
「掴まれトア。【流歩】」
進むと、花粉団子が発射されるが手刀で切り落とす。
蜂蜜だろうが、花粉団子だろうが、今の僕を止められると思うな。
【ふんばり】と砂漠で培った歩法を駆使し浮島を一瞬で攻略した。
いい速さでしょう? 余裕のスキルだ。集中力が違いますよ。
「……凄まじい集中力だけんど……そんなに、この水着がいいんだべか? ファスとフクちゃんとカナエの分も買っとくべ……」
トアが何か言ったようだけど、集中していて聞いていなかった。
さぁ次のステージも攻略してやるぜ!!
その後も、肩車してファニー・ビーが設置した迷路の中を突っ切ったり、蜂蜜でヌルヌルの坂を二人で登ったりとそれなりに精神(理性)を削る部屋が続いたが、最後の部屋に辿り突き、ちっちゃな王冠を被っている。クイーンから明らかに特別そうなキラキラの蜂蜜をバケツ一杯にもらった
難易度の高いステージもあった為、途中からは本気で集中できたな。
ゴールから外へ出るとファンファーレが鳴り響く。
「ガッハッハ、おめでとう。今月に入って唯一の合格者だ。流石冒険者を名乗るだけのことはあるな。……うん? お前等、防具を着けて来たのにわざわざ水着コースへ行ってんのか?」
「えっ、コースなんてあるんですか?」
「防具を着るアクションコースと、蜂蜜まみれになるハニーコースの二種類があるぞ」
隣を見ると、トアが下手くそな口笛を吹いていた。
「トア? もしかしてわざと?」
「さ、最初は普通の防具を着るコースにしようと思ったんだけど、こっちの方が旦那様好きかなって思って……デートだし、街でこういうアプローチが流行っているって聞いたんだ」
「……その通りすぎて言い返せない」
「素直な旦那様、素敵だべ」
我ながらちょろすぎるような気がするけど、実際役得だし。
「ガッハッハ、仲が良くて何よりだぜ。蜂蜜は銀貨三枚でビン入れしているからな」
「それも、金取るんですね……」
琥珀のような蜂蜜を瓶に詰めて、馬車に乗り込む。時間は夕方だった。
「これで、今晩はデザートに蜂蜜が付けれるだ」
「楽しみだ。トアはいつも新しい料理に挑戦してて凄いな」
「食べる人がいてのことだべ。旦那様がいるから、色んな料理を作りたいってなるんだ。この世界の料理とか旦那様の世界の料理とか、色んな料理を作っていくだ。だから、これからもよろしくな旦那様」
「ああ、これかもよろしく」
……ちなみにその夜。
「なるほど、これは可愛いですね。さっそくプールで楽しみましょう」
「わーい、ふりふりー。泡だすねー」
「今日は、オラが一番だかんな」
「えと、私まだ二回目なのに、こんな格好させられるの? しかも泡プールで……これがハーレムなんだね」
小清水達がバルさんと教会へ行っていることを良い事に、素敵なことがありました。
トアの真面目な話は閑話でやったばかりなので、ギャグになりました。
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