第百七十二話:ランデブーデート(桜木 叶①)
「すぴー」
「良く寝てるなぁ」
爆睡しているフクちゃんを背負って宿へ戻る道を進む。
まだ、夕暮れで暗くなるにはしばらくかかるだろうが、ファスもいないし夜道で迷いたくはない。
背中のフクちゃんは起きる様子はまったくなく、涎をたらしながらしがみついている。
あのアラクネの姿は相当体力を消耗するのだろう。
「それにしても……フクちゃんは凄いな」
あの日、森で迷い偶然出会った小さな子蜘蛛があんな姿を持つまでに成長したのだ。
そして、気持ちを懸命に伝えてくれた。
きっとフクちゃんはこれからも、凄い速度で進むのだろう。
「……負けないからな」
フクちゃんと一緒にいたいのは僕も一緒だ。
だから、守られるだけでなく、守れる男になりたい。
いや、マジで頑張らないと置いて行かれるぞ……フクちゃん、恐ろしい子。
※※※※※
「次こそは、絶対私がクジを引くからね」
「いや、叶。あなた明日も教会の用事があるでしょう?」
フクちゃんをベッドに運ぶと、明日のデートの為のくじ引きが準備されていた。
両手を握って気合を入れる叶さんに小清水が突っ込みを入れる。
そういえば、バルさんが来たんだっけか?
「叶さん、バルさんは来てるのか?」
「バルさん? 来てないよ。多分明日くらいにつくんじゃないかな? 今日は教会の子達と今後のことを話し合っただけだよ。……お忍びなのにめっちゃ追及されたけど……」
「あなたがノロけたことを言うからでしょう。まったく、さぁクジを引くわよ」
「オラもそろそろ引いておきたいだ」
「私も、アタリを引きたいですね」
「わ、私は後でもいいよ」
というわけで、ファスが準備したクジを一斉に皆で引き、結果を掲げた。
……先の赤い紐を引いたのは
「やったー」
ピョンピョンと跳ねる聖女様の姿がそこにあったのだった。
そして彼女は、こちらへ寄って来て。
「明日はよろしくね真也君っ!」
満面の笑みでそう言ったのだった。
※※※※※
そして翌朝、僕等の楽しいデートが……。
「「「聖女様ぁああああああああああああああああああああ」」」
「何で、こうなるの……」
「あいつら結構速いな。叶さん、背負うから妨害よろしく」
……うん、教会の騎士達に追われています。
宿を出て街へ二人で繰り出したところまでは良かった
叶さんは髪を纏めて、ふんわりしたエプロンのような、どこかの民族衣装のような恰好だ。
変装の為、眼鏡と帽子を着けていたのだが……。
『やっと見つけましたよ。聖女様っ!!』
めっちゃイケメンの、若い金髪の騎士が叶さんを見つけわらわらと湧いてきたのだ。
そこから先は鬼ごっこが勃発。
人々の間を縫いながら、必死で逃げて今にいたる。
「しつこいっ【星光壁】」
叶が光の壁を後方に展開し、追手の足が止まる。
その隙に人々の中に入って、視線を切って建物の影に隠れる。
「はぁ、撒いたかな?」
「教会は、私が真也君と一緒に行動することに許可を出しているはずなのに、なんでいるのよぉ」
しょんぼりする叶さん。
なんと声をかければよいのか迷っていると、純白の鎧を着たイケメンが角から出てくる。
「見つけましたよ。なぜ逃げるのです……そこの男は……貴様!? いつぞやの下賤な冒険者っ!!」
ビシっと指を突き付けてくる。えっ、どっかであったことあるのか?
全然心当たりがないぞ?
「えっと……どこかでお会いしましたっけ?」
「貴様っ! このルイス様を忘れたのか。アンデット討伐にも選ばれ、教会騎士にして聖女様の側近を務めるこの俺を!」
ルイス……名前を聞いても思い出せないが、アンデット討伐って温泉宿でのラッチモ戦の話だよな。
確かあの時、叶さんは騎士団の護衛を連れていたっけ?
叶さんが、耳元に頭を寄せる。
「……ラッチモのことを調べるために尋問した人だよ。……多分」
「あっ!?」
教会の狙いを探るために、ファスとフクちゃんによって尋問された、あの時のイケメン!?
「思い出したか間抜けな冒険者め。聖女様、お迎えに上がりました。教会から離れ布教をするその意思、我等『聖女親衛隊』一同感動いたしました。是非、我等も旅を共にしたいと、お探ししようやく見つけたのです。さぁ我らの元へお戻りください」
胸に手を当て、朗々と叫ぶ。なんていうかちょっと絵になっているのが悔しい。
イケメンって得だよな。周囲の人々もちょっと見とれていた。
だからといって、叶さんを渡すわけに行かない。
ここは、面倒事になる前にバルさんに連絡を取って……。
横をみると、叶さんの顔に笑みが浮かんでいた。
あぁ、この表情。図書室で時折見せた、悪戯っ子の顔だ。
叶さんが金髪イケメンに向き直る。
「ルイスさんだっけ?」
「はい、聖女様。教会より、貴女のお世話を仰せつかったいるルイスです。寝食を共にし、深く心を通わせた――」
「違うよ」
「はい? 何を言っているのです聖女様」
「私はただの桜木 叶だよ。君のことなんて知らない。教会の助けも、束縛ももう必要ないの。利害が一致している部分で協力はするけど、それだけだよ」
「いいえ、聖女様。貴女は私達と共に来るべきなのです。これは運命なのです」
「……なんで、私の周りってこんな人ばかり来るのかなぁ。よしっ決めた。真也君っ!」
叶さんが抱き着いてきた。咄嗟に抱えて、お姫様抱っこの形になる。
そのまま叶さんが僕の頬にキスをした。
「なっ……き、貴様ああああああああああ。聖女さまの口付けを、この俺が受けるべき祝福をっ!」
そんな声が聞こえるが、僕だってそれどころじゃない。心臓がバクバクしている。
叶さんが、ニンマリと笑う。
「こうなったら、例え何があってもデートを満喫するからね。だから……お願い、私を攫って」
いやいや、騎士団を相手にしながらデートっすか? まぁそれも僕等らしいか。
「ハハハ……了解。しっかり掴まってくれっ」
顔を真っ赤にして、向かってきたルイス君を置いて僕は飛び上がる。
そうして、僕等のランデブーデートが始まった。
というわけで、今回は叶さんです。
色々吹っ切れた叶さんと、振り回される吉井君です。
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