第百六十八話:赤い紐を引いたのは?
悟志と馬鹿ップルと街を回り、結構な情報を得ることが出来た。
明日、誰とデートすることになるかわからないが、しっかりと準備できた。
悟志には「本当に、観光しかしないのか……」と呆れられていたが、まだこの街にはいるわけだしゆっくり会いに行けばいいと思う。
借りている家に戻るとすでに香ばしい匂いが漂っていた。
「おかりなさいだ。旦那様」
「お帰りなさいませご主人様。いま、丁度料理を並べている所です」
トアとファスが出迎えてくれる。
リビングの机には、何かのローストにデカいラッキョウやニンニクのような根っこ系のものが多く添えられている。
香ばしい匂いの原因はコイツのようだ。
「美味しそうだ。この白いのなんだ?」
「ヤルソっていう、花の根っこだな。試しにつまんでみるだ」
なるほど、百合根のような球根のようだ。促されるがままに、一つ口に放りこむ。
食感は良し、噛み応えがあって好きな感じ、肝心の味は味の薄いニンニクって感じかな?
確かに肉には合いそうだけど、正直パンチにかけ……パチンと口の中で何かが弾け、そして……。
「か、辛いっ!? いや、ちょ、辛らぁああああああああ」
何だこれ、辛い、いや、痺れる。尋常じゃないほど辛いぞ!!
「アッハッハ。ヤルソの根っこは香味が強いだよ。ほれ、蜂蜜を舐めるだ」
瓶に入った蜂蜜をスプーンですくって口に入れると、スッと辛みが引いて行く。
「やったなトア……」
「すみません。ご主人様、私は止めたのですが……」
「まぁ、ちょっとしたお遊びだべ。ヤルソの根っこは芯をそのまま噛むと、強い辛みが出るだ。それを……ほい、『花山羊』っていう魔物の肉を巻いて食べると」
さきほどのヤルソの球根にローストされた肉を巻いたものを、アーンと差し出される。
いや、無理だぞ。辛いのは嫌いじゃないけど、さっきのはちょっと耐えられるレベルじゃない。
「大丈夫だべ。美味しいから食べてみるだ、ほら、旦那様」
「……あーん」
こわごわ口を開けると、すっと肉巻きが入れられる。モグモグ……。
「……ウマイ」
さきほどの爆発する感じではなく弾けるような味の変化だ。
口の中に肉と香ばしい旨味がグングンと広がってくる。
肉はしっかりと味付けされ、瑞々しく、噛むほどに丁度良い辛みがやってくる。
「フフ、肉に花山羊の角の粉末とスパイスを振ってあるだ。そうしたら、不思議なことに、ヤルソの辛さが和らいで、ほどよく旨味が広がるだよ。まぁ根っこの芯を傷つけないように仕込みをするから、ちょっと面倒だけんどな」
「この地方の名物料理だそうです。花山羊は家畜化された魔物ですね。もとは飼われていた普通の山羊が地脈の魔力の影響を受けて魔物化したものだそうですよ。魔物を家畜として飼うのは危険性が高いのですが、この花山羊は元が家畜だから安全に飼育できるそうです」
「おもしろいな。でもそれなら、最初からこっちでよかったのでは?」
マジで辛かったぞ。どちらかと言うと辛い物好きな僕だけど、まだ口がひりつくほどだ。
睨み付けると、嬉しそうにトアが笑う。
「たまには、驚きも必要だべ」
「トア、やりすぎはダメですよ」
新しい食材にトアは浮かれているようだ。まぁこういう悪戯なら楽しいよな。
その後、僕の独断で叶さん達にも同様の悪戯をおこなう。
……そして無事に、ぶっ飛ばされました。久々に本気の【拳骨】による防御強化を使ったぜ。
食事の後にファスが紐でクジを作ってくれた。先の色が違う紐を引いた人が明日のデート相手らしい。
「では、皆さん。クジを引いてください。私はクジの先が視えてしまうので残ったものでよいです」
「じゃあ、せっかくだし皆で引こうよ」
「僕だけ手持無沙汰だなぁ」
「マスターはかけ声よろしくー」
「ドキドキするね。不思議なものだ。元いた世界でも不可能ではないことなのに、この世界でないと実現しなかった状況だ」
「わ、私は最後でもいいんだけどな」
「むしろ、最後がいいんじゃないかしら。べ、別に私はいつでもいいけど」
「オラも後の方がいいだなぁ。もうちょっと、準備したいだ」
叶さんの提案で、ファスが握っている紐の先を皆で摘まむ。
「じゃあ、いくぞ。せーの!」
一気に紐が引き抜かれる。
先の赤い紐を引き抜いたのは……。
「フン、一番手か。いいじゃないか」
紬さんが、こちらを見てほほ笑む。その手には当たりの紐が握られている。
「前にも言ったが、これが異性との初めてのデートなんだ。よろしく頼むよ真也」
身長的には僕とほぼ同じ彼女が僕の顎に手を当てる。
こ、これは俗に言うアゴくいってやつなのでは? ……いや、男女が逆な気もするが。
「こちらこそ、よろしく頼むよ。紬さん」
「ちょっと、デートは明日でしょ。というか明日になっても、そこまでするのはどうかと思うな」
「あんたもされるままになってるんじゃないわよ。この女の敵っ」
叶さんと小清水が間に入ってくる。
横を見ると、トアがファスに耳打ちしていた。
「……いいんだべかファス?」
「……むぅ。確かにちょっと、いえ、かなり思うことはありますが、一番奴隷として私はどっしり構えようと……やっぱりダメです。ご主人様、一緒に部屋に戻りますよっ!」
「ベッドはいっしょー」
ファスに腕を取られて部屋に引きずられる。なんて言うか、ゲームとかでは見知った状況ではあるが、自分がその立場になると本当に胃が痛くなるな。
明日からのデート大丈夫だろうか?
デートの順番は一名を除いて、全員ランダムです。
というわけで、厳正なるダイスによる結果。紬さんが一番になりました。
短くて申し訳ありませんが、ここで一旦区切ります。
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