第百六十六話:街の散策と再会
朝起きると、すでにファスがストレッチをしていた。
横を見ると、トアがイビキをかき、フクちゃんは僕の上に乗っている。
「おはようございます。ご主人様」
「おはようファス。早起きだな」
姿勢を正したファスが顔を上げ、金髪が微かに揺れる。
その声に反応したフクちゃんが、猫のように伸びをした。
「んー。おはようマスター、トアもおきろー」
そのままフクちゃんによるフライングプレスがトアに炸裂した。
「ワフッ! ……もうちょっとだけ眠らせて欲しいだ……」
「おはようフクちゃん。そんでトア。朝稽古するぞ」
「……ふわぁ~わかったべ」
大欠伸をしながらトアも起きる。
昨晩は叶さんも同じ部屋で寝ようとしたが、小清水に連れられて向こうの部屋へ行っていた。
この家には芝生の中庭もあるようで、そこでストレッチと僕とトアは簡単な組手を行う。
叶さん達はまだ眠っているだろうから静かにね。
ファスは杖術の型を練習中、基本の16の型を左右両方、さらに仕手と受けで4パターン、計64種類の動きを淀みなく動けるように繰り返す。受け身がちゃんとできてきたので、グランドマロからここまでの旅で教えたのだが記憶力が良いのですぐに覚えたようだ。今はまだぎこちないがすぐにスムーズに動けるようになるだろう。
一時間ほど運動して、ファスが魔術で水を降らせてくれたのでフクちゃんの泡も浴びながら皆で朝シャンをしてみる。
皆、普通に服を脱いでいるので……うん眼福を超えて目に毒だわ。
フクちゃんは起伏の無い体だが、物語に出てくる妖精の様な均整のとれた手足に透けるような現実離れした白い肌。
人を魅了するテントゥアラクネの性質故か無邪気と妖艶さの相反する性質が一つになっている。
……なんかカジノで魅力のコントロールを知ったらしく、最近僕の新しい扉が開きそうなんで勘弁してもらいたい。
トアは鍛えられた筋肉質で女性らしい丸みもあり、主張の激しい胸部装甲が今日も元気に揺れている。
出会った頃はボロボロだった体は、フクちゃんの泡とちゃんとした栄養のおかげか肌も瑞々しく健康的な魅力に溢れていた。ファスやフクちゃんがファンタジー的な現実感のない美しさなら、トアは理想的な女性の魅力とでも言うのだろうか、顔立ちは凛とした鋭い印象なので、ふとした瞬間に見惚れてしまう。
ファスは細い体躯に長い手足であることは変わらないが、トアの食事や適度な運動のおかげで痩せているという印象はもう無く、本人が気にしている胸の膨らみもつつましくもしっかりと主張し、引き締まりつつも女性的な魅力をしっかりと纏っていた。
少し伸びた金髪と尖った耳、普段はフードや顔布で隠しているその器量は人間離れしすぎていて本当に生き物であるのかすら不安になる。神様が作った芸術品とか言われても納得しそうなほどだ。
うん、これ以上はマジで思考が不味いことになりそうだから、目線を逸らそう。
体を洗い、服を着替えていると、昨日の旅の服装からちょっとおしゃれな街歩き用の服を決めた叶さんが部屋にやってきた。
「起こそうと思ったのに……というか朝の運動なら呼んでくれたらよかったのに……」
「流石に女子の部屋に行くのは難しいよ、叶さん」
ちょっといじけた叶さんを慰めつつ、リビングに行くと他の面子も準備はできていた。
トアが作った朝ご飯を食べた後にデートの準備の為に各自で街に繰り出す。
ファスや叶さんは、エルフと聖女ということもあり一人で行動すると何かあっても困るので(主に僕が心配して)二人はフクちゃんと一緒に街を散策することになった。
何かあった時の為にフクちゃんの糸と紬さんの【念話の紋章】入りの石を持ち運んでいるので、すぐに助けを呼べるようにしている。
僕は手甲にフクちゃん製のシャツとズボンという、街歩き(僕的には)の格好でとりあえずメインストリートに向かった。
「人が凄いな」
来るときは気づかなかったが、他の入り口には団体で観光に来ている人もいるようで、カップルとか子供連れの家族なんかも見られていた。
しばらく歩いていると街の広場につく。芸人達が各々の芸を披露しており、ここだけでも楽しそうだ。フクちゃんとかなら喜ぶと思う。
ファスは本とか好きだし、本屋も探してみるかな。
トアは消耗品とか生活必需品とか見るのが好きそうだし、意外と住民が利用する場所を調べるのもありそうだ……。
叶さんは、異世界独特のものというか珍しいものが好きそうだな。
虫とか蜥蜴とかあればなお良し、後はこの辺りの魔物についてわかる場所とかあれば喜んでくれるかも。
紬さん、小清水、日野さんに関しては正直どんな場所が良いかわからないなぁ。
むしろ相手に任せて行く先々で動くとかか? うーん、難しい。
とりあえず、選択肢を増やすためにひたすら街を歩き回る。色んな場所に飲食店があって、多少値段が高い感じもするが、甘いお菓子とか食べ歩くのに便利なパンとかが至る所にあり、もっとよく探せば美味しい店もありそうだ。
中に蜂蜜と豆の餡が入ったパンを食べながらカラフルなメインストリートから街の高台へ行ってみると、少し趣の違う歴史がありそうな建物が増えて来た。
「モグモグ……個人的には、こういうの好きだなぁ。パンフレットとか欲しいや」
落ち着いた雰囲気でのんびりしたいならこういうのもありかな。
時計塔を見つけた。中に入ることもできるようだ。
入場料を払って中に入ると、錬金術を使った時計の機構とか見れた。
メカメカしくていいね。展望室まであがり風景を楽しんでいると、後ろから騒がしい声が上がって来た。
「ナナの【直感】のせいで迷っちまったぞ」
「何よ。マー君だって、こっちのがいいって言ったじゃない。でも確かにここに来れば楽しいことが……」
「喧嘩するな。まったく、これなら俺は屋敷にいた方が良かったな……えっ?」
目が合う。そこにいたのはグランドマロで出会った、【魔剣士】の転移者二人、島田 将司と七瀬 菜々緒。そして元居た世界の親友、葉月 悟志がそこにいた。
「おぉ、びっくりした。悟志、久しぶ――ぬわぁ!?」
普通に蹴りが飛んできた。結構鋭いじゃないか。
「お前、この、今まで何してたんだ馬鹿野郎!! あれから連絡の一つも寄越さず、桜木も行方がしれないし、将司から砂漠でのことを聞いて本当に心配したんだぞっ!!」
「色々あったんだよ。ちょ、止めろって」
「悟志、落ち着け、他の人もいるんだぞ」
「フッフッフ、流石私の【直感】。面白そうなことになったね」
割と本気で怒っている悟志を将司と協力して、なんとか話せる状態にまで落ち着かせるまでにたっぷり30分はかかった。
……いや、マジでごめんて。
めっちゃ久しぶりに悟志との再会です。
次回:今はデートが優先。
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