第百六十五話:過去最高難易度ミッション『デート』
ファスの提案に無言で、周囲に助けを求めるが普通にスルーされる。
デートって……あれ? デートって何だ? 元いた世界ではそんなイベント一度もなかったぞ!?
一人頭を抱えている僕を置いて会議は進んでいく。
「次に【バレノシッポ】に飛行船が訪れるのは、雲の流れから見て二十日前後だそうです。この街で十日ほど滞在し、その間の過ごし方を話し合いましょう。一応言っておきますが、私はご主人様と一緒にいたいです。そして、できるなら滞在中に一日くらいは二人きりの日が欲しいです。皆はどう考えていますか? もし私と同じ考えなら、ご主人様と順番に過ごすというのはどうでしょう?」
その言葉に、フクちゃん、トア、叶さんが手を挙げた。
「当然ファスに乗るだ。旦那様と二人きりで過ごせる機会は少ないからな」
「ボクはずっとマスターといっしょなの」
「私も賛成だよ。なるほど、旅では皆一緒だけどこの街なら二人きりで過ごすことができるもんね」
叶さんがポンと手を打つ。えーと、なるほど。いつもパーティーで一緒だから滞在中に個別にデートするってことか、デート……デート、筋トレでもダンジョン探索でも肉壁でもなく『デート』な、何をすればいいんだ。マジで思い浮かばん。
助けて爺ちゃん!!
心の中で祖父に助けを求めると、笑顔でサムズアップする祖父が出てくる。
『ワシに聴くな』
そう言って心の中の空に消えていった。……役に立たん!
「吉井……あんた、何頭を抱えてんのよ」
「いや、デートって言われても正直この世界では牢屋とか戦いばかりだったし、元いた世界でも女の子とデートしたことないから、どうすればいいか迷ってる」
「そ、それなら。私が一緒にデートプランを考えてもいいわよ。何なら一緒に街を回ってそれっぽい場所を探すとか……」
指先で刀をいじりながら真っ赤な顔で小清水がそう提案する。
「コシミズ、抜け駆けは禁止ですよ」
半目でファスがビシっと小清水を指さす。いやぁ本当に感情豊かになったなぁファス。
「別にそんなんじゃないわよっ!」
「ずいぶんと回りくどいな千早、私は言わせてもらうぞ。ファスさん発言してもいいか?」
上着を脱いだ、ラフな格好の紬さんが手を挙げる。
「どうぞ。それと、私のことはファスと呼び捨てにしてください」
「わかった。では言わせてもらうファス。私と千早、そして留美はこの街で別れて一旦教会にいる転移者組と合流する予定だ。私達の拠点をバル神官と作り、元の世界に戻る為のダンジョン攻略を進めていく。正直な所……私は元の世界に帰るつもりだ」
真剣な表情で紬さんがそう言った。そうだ、地脈の暴走によりダンジョンが増えそのダンジョンから出てくるダンジョントレジャーの中に元の世界へ帰る為のアイテムがある。
僕のように元の世界に戻るつもりのない転移者なんて稀で、ほとんどの人は自分の家族がいる元の世界へ戻りたいと思っているはずだ。
「……私も戻るわ。小さい弟もいるしね」
「えと、私も戻るつもりです」
小清水と日野さんも続く。そりゃそうか。
「だからこそ……この世界での思い出を持って帰りたい。叶と、この世界で出会った人たちと、そして真也と一緒に過ごす時間を与えて欲しい。私にも、私達にも時間を与えて欲しい」
高らかにそう言い放つ姿はやはりかっこいい。生きているって感じだ。
「わかりました。では話を進めましょう。全員が一日ご主人様と過ごすとして、順番はどうしましょう?」
「ストップ。僕も発言していいか?」
ここで、止めなきゃこれからデートになりそうだ。
いや、嫌ではないんだけど、僕の人生とは縁遠いと思っていたイベントなんだしっかりと準備したいじゃないか。
「ご主人様? もしかして私達と個別に過ごすのは、その、嫌でしたか?」
先程まで、自信満々で会議を進行していたファスが唐突に不安そうな顔をする。
「いやいや、違うよ。全然OKどんとこいって感じだけどさ。正直僕って女子とまともにデートとかしたことないんだよ。そりゃあ、ファス達と買い物とか一緒に街を回ったことはあったけれど、それもデートって意識したわけじゃあないし。つまり何が言いたいかと言うと、ちゃんと準備したいんだ。これまでのお礼も兼ねて……その、喜んで欲しいんだ」
「「「…………」」」
……沈黙が部屋を支配する。顔を赤く染めていた血が落ちていく、やらかしたか?
そもそも、紬さん達は別に僕とデートしたいってわけじゃあないかもだし……よし、土下座しようか。
思考放棄の土下座に移行しようとすると、ファスに抱きしめられる。
「私はご主人様と一緒にいることが何よりの喜びです。でも、言葉が嬉しくて本当に……」
「ファス……」
「旦那様はたまに、耳がこそばゆくなること言うだな。そういうの嫌いじゃねぇべ」
「ボクもマスターにうれしいって思ってほしいのー」
「真也君。なんて言うか、素敵な人になったね。私も……頑張るからね」
グエッ、フクちゃんに飛び掛かられる。
「ちょ、フクちゃん。落ち着いて。ファスも離れて、ところで紬さんはともかく、小清水や日野さんも僕と……デートするのか? 正直流されているなら……」
紬さんは幼馴染だし、色恋は置いといて話したいこともある。
しかし、小清水と日野さんは別だ。特に小清水には嫌われている自覚があるのだが。
「別に、流されているわけじゃないわ。そうね……私も貴方と話したいことがあったの。二人きりでね」
「千早ちゃん、ガンバッ。えと、私も吉井君と話したいかな。一日中とかじゃなくてちょっと街をぶらつく程度で……」
「私は当然デートだと思っていくよ。男性とデートするのは人生初なんだ。楽しみにしてる」
というわけで、皆と一緒に観光することになった。
皆でわいわいと、ああでもない、こうでもない、と言いつつどのように過ごすか話し合う。
ある程度話し合って形になったものをファスがまとめた。
「では、決まったことを整理しますね。今日は旅の疲れもあるので、のんびり休み、明日は各自で街を散策しデートの準備をする。明日の夜にクジを引いて、順番を決めましょう」
「ファス、いいだべか? オラは群れの序列は守るべ。一番はファスでもいいだ」
トアの言葉に皆が頷くが、ファスが首を振った。
「いいえ、この場では順番は公平の方が良いと思います。だってその方が……ドキドキします」
ファスの翠緑の瞳が僕を見る、穏やかにほほ笑むその美しさに僕はいつも息を飲む。
デートか、もしかしたらこれってこれまでで一番難しいミッションなのではないだろうか?
異世界転移生活史上、最も難しいミッションが始まります。
次回:街を散策。
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