第百六十四話:山間の街:アマウント
食料を補給し、馬を走らせることさらに数日。
人通りが増え始めたころを見計らい、大きな道へ合流し僕等は【山間の街:アマウント】へ到着した。
それまで山しか見えない道を進んでいたが、ある場所を境に唐突に街が現れた。
アーチのような山壁の間に、無理やりに建物が入り込んだような違和感。
建物は赤や黄色の明るい色が散りばめられ、石畳の道が遠くまで伸びているその光景にため息がでる。日本ではまずありえない景色だ。
「すごいな。急にカラフルな街が現れたぞ」
「山肌に沿っているので、こちら側の道からはある程度近づくまで街が見えないようです。あまり大きくない街と聞いていたのですが、それなりの規模みたいですね」
ちなみに今はファスと一緒に馬に乗っています。人通りが多い場所でスピード出して走るわけに行かないし、皆から恥ずかしいから馬に乗れと言われました。
「まずは宿を探すべ」
(ヒトガイッパイ、アト、ナンカヘン)
「普通に人混みを進める楽しさだよ。護衛付きでずっと窮屈だったから、この感じめっちゃ新鮮っ!」
トアと一緒に馬に乗っているフクちゃんがペアで横に並び、ほかの面子も足並みを合わせる。
フクちゃんは人見知りが発動して、子蜘蛛モードでトアの頭に乗っているようだ。
「ずいぶん、おしゃれな街ね。気温も涼しくて避暑地として人気なのも頷けるわね」
「ひ、人が多くて落ちつかないよ」
「フム、服飾の店も多いようだ。たまには女性らしい恰好もしてみるかね」
さっそく、街に入ろうとすると。検問のようなものがあり、複数の入り口に分かれているようだ。
列に並び順番を迎えると、獣人のお姉さんに身分証の提示を要求された。
「えと、冒険者証でいいですか?」
「もちろんです。冒険者がこの街に来るのは珍しいですね」
「そうなんですか?」
「ええ、この街の近くにはダンジョンは無く。周りを山と川に囲まれているので、魔物が来ることもほとんどありませんしね。この辺りだと、【クレイブルズ】の方が冒険者には好まれています」
冒険者の仕事が無いってわけだ。
「僕等は観光に立ち寄ったんですよ。はい冒険者証です」
「ヨシイ シンヤ様 C級冒険者証!? へぇ、まだお若いのに一端の冒険者さんなんですね」
お姉さんが尻尾を立てる。
C級の冒険者証をギルド以外で見せたのは初めてだけど、結構いい反応されるんだな。
「ご主人様はすでにA級冒険者への内定が決まっています。この街での滞在中に、A級冒険者証が届くでしょう」
横でファスが胸を張る。いや、確かにアナさんは貰えるっていったけど実際どうなんだろう?
「A級!? 流石にそれは言い過ぎでは……と、とにかくシンヤ様は通過できますね。他の方も冒険者であるなら、冒険者証の提示をお願いします」
「私はご主人様の奴隷なので、奴隷紋でいいですか?」
そんなことをファスが言う。奴隷紋って身分証になるのか?
「あっ、奴隷の方だったんですね。大丈夫ですよ、こちらの魔法陣に手を置いてください。奴隷紋が表示されます」
お姉さんが羊皮紙を取り出し促すと、トアと叶さんも前に出る。
「オラもだべ。そんで従魔のフクちゃんだ」
(ボクモ、イルヨー)
「私もだよ。便利なんだねー」
「ど、奴隷が三人に従魔まで……まさか本当に高位の冒険者だったりするのでしょうか?」
ファスが羊皮紙に手を置くと、描かれた魔法陣が動きファスの胸元に浮かぶ紋章と同じ形となる。
体に浮き出た奴隷紋を一々見せるのは面倒だし、これは便利だな。
描かれた奴隷紋はデルモとの戦いで白い竜の影が現れた際に、なぜかデザインが少し変化している。
あの後紬さんにどういうものか確認してもらったが、読み解くことはできなかった。
続いて、トア、叶さんと手を置いて奴隷紋を浮かび上がらせる。
フクちゃんは、特に証明はいらないようだ。
最後に僕の前にも紙が置かれる。
「最後に主人の方の紋を確認できれば、所有物であるという確認ができます」
「えと、手を置けばいいんですね」
紙に手を置くと、ファス達と同じ紋が浮かぶ。羽と爪みたいな形だけど、はっきりとはわからないな。
「はい、これで大丈夫です。後ろの三人の方もどうぞー」
小清水、紬さん、日野さんは教会の関係者用の証明書があるはずだが、今回はお忍びなのでアナさんが用意した別の書類を使用していた。
つつがなく検問を突破し、街へ入るとすぐに大通りが目に入る。
交易の町と違い露店は少なく、店先で飲食をしたり、テイクアウトするタイプも店が多いようだ。
色々見て回りたいがまずは馬を預けて荷物を降ろしたいし宿を探すかな。
「お金ならあるし、この街で一番いい宿に行こう」
カジノで荒稼ぎをしたおかげでちょっとした小金持ちなのだ。観光というなら少しくらいハメを外しても良いだろう。
「正直、高い宿というのが私にはわからないです」
「ならオラに任せるだ。これでも宿で働いていたからな。直接は店先にはでてねぇけんど、色々話は聞いているべ」
トアが胸を叩く。こういう時は本当に頼りになるな。
「私達も泊まれるところで頼むよ。これから別行動になるかもしれないんだ。一緒にいても良いだろう?」
「私は……そこの女の敵がハレンチなことをしないか見張る必要があるっていうか……」
「千早ちゃんファイトだよっ!」
小清水達も一緒の宿を取る流れか、まぁ叶さんが僕等と一緒に旅をするというなら確かに別行動になるしな。
「この手の街なら多分、アレがあるはずだべ。ファス、案内所を探してほしいだよ」
「……2時の方角にそれらしい建物があるのが視えますね」
ファスが【精霊眼】で遠見をして案内所を見つけてくれたので、そこへ向かう。
観光が主な産業というだけあって、道中には大道芸人とだとかちょっとしたアクティビティ的な催しもあるようで、キョロキョロと周りを見ながら尻尾を振るトアについて行くとすぐに案内所についた。
トアが慣れた様子で、受付に何かを聞きだし地図を貰っていた。
「こっちらしいべ」
なんか楽しそうなので、あえてどんな宿なのかは聞かないことにしよう。
皆と話しながら坂道を登っていくと、少し人通りの落ち着いた場所へ出た。
カラフルな建物は相変わらずだが、一軒一軒に庭があり、ちょっと高級そうな雰囲気だ。
「ここが宿? どっちかというと高級団地みたいな……」
「そうだべ、ここでは部屋の代わりに家を一軒かりるべな。この区画は衛兵が常駐していて警備されているし、頼めば宿に専属の使用人を呼べるべ。家の使用人や奴隷をつれている人は下手に宿を使うよりこうした建物を丸々借りた方が自由に過ごせるべな。オラ達がいる旦那様にはこっちのがいいと思うだ」
「避暑地のコテージって感じだね。コテージにしては大きいけど。真也君、プール付きの家もあるみたいだよ。すごいねっ」
めっちゃはしゃいでいる聖女様のこともあるし、確かにこっちの方がのんびりできる。
うん、良さそうだ。
皆も気に入った様子なので、受付を探してトアに契約してもらう。
馬小屋もついているというその家は、平屋だが石造りの立派なもので中央にキッチン付きのリビングがあり個室も十分にあるものだった。
もちろんプール付きで、使い方がよくわからん家具もたくさん置かれていた。
「とりあえず十日は押さえただ。ワフー、ここはプロ仕様の厨房がついているって聞いたけんど、かなり良さげだべ」
トアはさっそくキッチンのチェックをしていた。ここでの料理も楽しみだな。
小清水達は久しぶりに個室で荷物を整理できると、部屋に籠っている。
僕はファス、トア、フクちゃん、叶さんと同じ部屋で荷物を置いた。
どういう意図の部屋なのか、めちゃくちゃでかいベッドが置かれていてちょっとビビる。
リビングへ戻ると、ファスが冷たい水を出し。トアが果汁をいれて即席のジュースを作ってくれた。
フカフカのソファーに座りながら、フクちゃんとあやとりをして遊んでいると、他のメンバーも集まって来た。
部屋着に着替えたファスが周囲を見渡すと、一同に緊張が走る。
なんでだ? 不意に始まった空気感に困惑していると、ファスがゆっくりと口を開いた。
「それでは『第一回、ご主人様とどんなデートをするか会議』を始めます」
……何それ?
会議が始まります。コテージを貸し切って外泊とかやってみたいものです。
次回:個別デート一番手は?
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