第百六十二話:命を大事に
昔、叶さんお気にいりの本をコーヒーで汚してしまった時と同じ笑顔……助けを求めようとファスを見ると。
ストンと僕の前にファスが正座して、そのままこっちを見ている。
「お座りくださいご主人様」
どうやら逃げ場はないようだ。トアが座布団を差し出してくれたので正座する。
叶さんもファスの隣に座った。
「……」→ファス。
「……」→叶さん。
「えと、僕何か悪いことをしたでしょうか?」
ただ【鍛冶の街クレイブルズ】へ行くのではと言っただけだと思うが……。
それ以外に何か叶さんとファスを怒らせることをしたかな?
ファスの翠緑の瞳がこちらを見据える。
「デルモと戦った夜のことです。ご主人様の戦い方についてです」
「……い、今その話をしなくても……」
穢れの浄化が終わるまで倒してはいけないデルモを全力で殴り続けるために、デルモが死にそうになるたびにダメージを引き受けたことだ。
あの後色々あってなぁなぁになっていたが、皆めっちゃ怒っていたっけなぁ。
「あの時、救えなかった人の為に真也君が全力で戦ったことはわかっているよ。でもそんなことをしてほしくはなかった。死んじゃうかもしれない所まで私の大事な人を、大好きな貴方を、真也君自身に傷つけて欲しくなかった」
「旦那様が自分を責める前にオラ達にもその辛さを背負わせて欲しいだ」
「マスター、アホー、敵も悪いヤツも全部ボクがコロスのにー」
「ゴメン。反省してる」
素直に頭を下げる、僕だってファス達が自分を傷つけるようなことをしたら辛い。
自分の痛みを誤魔化すために短絡的な選択をしてしまった。
「許しません。そんなご主人様は私達にすることがあると思います」
「僕ができることならなんでもする」
その言葉を僕が言った瞬間に、女性陣達がハイタッチをした。
「はい、言質とったよ」
ニンマリと叶さんが笑う。
「まぁ、旦那様ならそう言うと思っただ」
ウンウンとトアが頷く。
「これでいいの?」
フクちゃんが周りに確認している。
「では、してもらいたいことがあります」
してやったりとドヤ顔でファスが宣言し、小清水達も強く頷いている。
「……嵌めたなファス」
「まさか、私はご主人様の為を思って行動しているだけです」
しれっとそう言いながら、再びファスが地図を取り出して【クレイブルズ】の街を指さす。
「話を戻しますね。この【鍛冶の街:クレイブルズ】の街を通った方が幾分か早く、目的の【バレノシッポ】へ行くことができますが、それほど大きな差はありません」
「なるほど、ところでそろそろ正座止めていい?」
「ダメです。まず【クレイブルズ】ですが、鉱山の傍にある街で鍛冶が盛んです。鉱山にはダンジョンもあり冒険者ギルドもあります。荒くれ者が多く、腕自慢が集う街であり、武闘大会も開かれているそうです。鉱山を利用した訓練施設も多数あると評判です」
「めっちゃいいじゃん。そこでいいと思うけど【アマウント】はどんな街なんだ?」
「【恋人の街】です」
めっちゃ真剣な表情で、なんか言われた。
「えと……」
「【恋人の街】ですっ! 山間の観光地で今がシーズンなんですっ!」
「……つまり、そこに行きたいと?」
コクコクとファス、叶さん、トア、フクちゃんが頷く。紬さんもなんか頷いてる。
「ファスの出生の秘密とか、冒険者としての依頼とか……」
「なんでもするって言いましたよねっ。スタンピードからご主人様は戦いばかりでした。ここで一度のんびりするのもありだと思います。最近戦いとか遭難ばかりではありませんか!!」
両手を胸の前で組んで、すごく説得される。いや、いくら僕がトレーニング馬鹿だからって皆が言うなら普通に【アマウント】に行くけど……どういう風に思われてんだ?
「宙野が追いつくかもしれないし……」
「そのときはボクがコロスからだいじょぶ」
フクちゃんが両手を挙げて元気に宣言する。いや一応僕のリベンジ相手なんだけどね。
観光の邪魔で倒されたら流石に可哀想だ。フクちゃんなら本当に倒しかねんしな。
「翔太君(宙野のこと)は私達の目的地が【ニグナウーズ国】だと知らないから、教会から離れた私達を追跡できないから大丈夫だよ」
「幸い、冒険者としての依頼も期限があるものでもないべ。ここは骨を休めてもいいでねぇか?」
「いや、うん。わかった。皆がそう言うなら【アマウント】へ行こう。……別にこんなことしなくても提案してくれれば賛成するのに」
「……いえ、ご主人様。私達が怒っているという話は終わっていないですよ」
ファスが杖を取り出す。うん、魔力を練っているね。正座から跪坐へ姿勢を変える。
あれ? これ僕死ぬんじゃね?
「真也君は一度しっかりと、私達の想いを受け止める必要があるね」
ピンと周囲に結界が張られる。逃げ出そうと咄嗟に跳び上がろうとするが、トアの斧に阻まれる。
「しっかり反省するだよ旦那様」
「マスターのあほー」
フクちゃんが糸を展開。
「なんか、話すタイミングを逃したわね。せっかくだし私の剣を受けて見ない? 女の敵」
「あはは、流石に復興した街では暴れられないもんね。千早ちゃん、私も加勢するよ」
「馬たちは避難させたよ、すでに【紋章】は展開済みだ。真也、【アマウント】でのデート楽しみにしているよ」
凄まじい勢いで、場が固められていく。
「ちょ、ちょっと待って。さっき傷つけるのは許さないって……」
言ってる事とやってることが違うじゃん、アゼルバイジャン。
ファスの氷柱に備え、構えを取りつつ必死の説得を試みるも、言い切る前にファスが一歩前へ出た。
「はい、ご主人様を傷つけるものは例えそれがご主人様自身であっても許しません。二度とそんなことを考えないように。話し合いたいだけです」
「話す気ないだろっおおおおおおおお」
そこからの記憶はほとんどない。ただ今後考えなしに捨て身の行動をする際はその後により厳しい状況があることは魂に刻まれたのだった。
爺ちゃん、女性って怖いよ。
というわけで、お叱りを受けた回でしたが今後も吉井君は自分を犠牲にするんだろうなぁ。
次回はアマウントに到着します。
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