第百六十一話:新たな旅路と乙女の算段
果てしない砂海を船で渡り切り、砂港に到着した。
甲板から下を見ると、船から降りた人々を運ぶべく馬車や馬だのラクダだのなんかよくわからん魔物がごった返してやる。食料や水を売るキャラバンもいるようだ。数日ぶりの地上にテンションがあがる。
「僕等は教会の船に乗っていたわけだけど、これからはどうやって移動すればいいんだ?」
横にいるファスに質問する。船での移動のほぼ全てを鍛錬に費やしていたので今後の旅程のことを知らない。
いや、そのことを話そうとしたらはぐらかされたんだよなぁ。
「まず、ここで教会の用意された乗り物から完全に離れます。船旅の途中でアナ姫から伝書が届きましたが、忌々しい勇者がカナエを追っているようです。用意された乗り物では厳しいでしょう、まず宿がある村まではこの場所で乗り物を買って移動することになりました。今晩は野宿になりそうですね」
伸ばしている髪を耳に掛けながらファスはそう話した。
フクちゃん製の簡素な作りの長袖とズボン。そしてグランド・マロの職人が作ったフード付きのローブを身に着けている。
持っているスタッフ(長めの杖)は、起伏のない真っすぐな作りで武器としても使えるように重心に配慮されている。元は先端に水晶がついていたり魔術師らしい装飾がついた立派なものだったのだが……『この形状ではご主人様から教わった杖術が使えません。私は魔術の補助はいりませんのでとにかく丈夫なものにしてください』とのことで、その言葉にカチンときた地下の杖職人たちが意地になって魔術の補助もできつつ、本職の戦士が全力でぶん回してもびくともしないように工夫された結果、見かけはなんかめっちゃ地味な灰色の杖になっている。
魔力の補助としての機能は低いが、とにかく丈夫なのでファス的には気にいっているらしい。
「野宿か、僕等はいいけど叶さん達は大丈夫か?」
今まで教会の庇護の元、不自由ない生活をしていたはずだ。
野宿なんてできるのだろうか?
「フン、余計な心配ね」
「わ、私達は、それなりに野宿をしています。便利な道具もありますし」
「貴族から逃げる際にそれなりに苦労したからね。夜営の準備くらいは問題ないさ」
降りる準備をしていた小清水と日野さん、紬さんが後ろからやってくる。
小清水はいつものポニーテールにタイトな乗馬服と軽鎧を身に着け、日野さんは船旅で少し髪を切ったのか、前髪をパッツンしたボブの髪型に袖がダボッとした長めの服とズボンの上からスカートを履いていた。
【忍者】のジョブである彼女は、隠し武器を好むのでこういった服装のようだ。
紬さんはいつものジュストコール、今日もイケメンでビビるね。
ただ、デルモとの戦いの夜から髪型は少し女性らしく毛先を丸めていた。
「その辺の話もすでにしているだよ。まぁ今晩を楽しみにするべ」
「マスター。だっこしてー」
「やっと……やっと陸地。早く降りようよ真也君」
次に一緒にやってきたのはトアとフクちゃんと叶さん。
トアはファスと同じフクちゃん製の上下のシャツとズボン。ただしシャツの上に直接革製の胸当てを着けて、ポケットがたくさんついた丈の短いオレンジ色の上着を羽織っている、丈が短いのは斧を下げたベルトの邪魔にならないためだろう。髪型はセミロング位で、ピョンと飛び出たイヌミミが良く映えている。
フクちゃんが身に着けているワンピースは本人の意志によって形を変えることができるのだが、今日はシャツに短パンと子供らしい恰好だった。髪型も自由にできるフクちゃんだが、今日はお団子ヘアーだな。
叶さんは、聖女の証だった真っ白なローブは脱いで地味な色合いの魔術師のローブを着ている。
一見ただのローブだが、地下職人の執念がつまったローブで魔術耐性から物理的防御力までばっちりな代物だ。ローブの下はシャツに革製の軽鎧をつけズボンの上からスカートを履いていた。
髪型はちょっと伸びたようでフワッとしたセミロング。杖も聖女が扱う装備は持っておらず、先にエンチャントされた宝石がついた地味目な木製のロッド(60㎝ほどの短い杖)を腰に差している。
例によって地下職人による渾身の作品なわけで、元々使っていた豪奢なスタッフよりもむしろ扱いやすいと言っていた。
船旅の間、かなりの頻度で疲労を引き受けていたが船酔いはきつかったようで今日も青白い顔色だ。
飛びついてきた、フクちゃんを抱きとめて肩車をする。
「マスター、ペンダントにあってる」
「だろ? マイセルはいい職人になるな。さぁいくぞフクちゃん」
僕はジーパンのよう丈夫な黒のズボンにフクちゃん製のシャツ、地下職人に修理してもらった軽鎧に、手甲をつけている。アナさんと冒険者ギルドが手を回してくれたおかげですでにお尋ねものではなくなっているらしいが、もしもの為に顔を隠せるようにマントを羽織っている。とにかく丈夫で汚れにくく砂を防いでくれるので快適だ(水洗いも可能)。
マイセルからもらったペンダントを指で弾き、フクちゃんと笑い合った。
新しい冒険に胸を膨らませて、男の仕事である荷物持ちを引き受けようとしたのだが……。
「ご主人様は両手を空けていてください」
「荷物を持つのは奴隷の仕事だべ」
「これは私も持つべきだよねっ! だって奴隷だしっ」
「当然です。叶は私達のパーティーの一員なのですから」
「……私やっと、異世界で冒険できるんだね」
「……」→僕
「よしよし、マスター」
ガッツポーズする叶さんとファス、トアに荷物を運ばれ、いじけていた所をフクちゃんに慰められたとさ。
というわけで、さくっと船を降りて、船員達と別れを惜しみ(主に叶さんと離れたがらない信者達が)馬を買います。
「こういう場合はご主人様が買うのが普通です」
とファスに言われたので、ついでに小清水達の分も含めて馬を買うことに……。
「それで、何頭つごうすればよろしいので?」
店員にそう聞かれる。……僕等全員で八人だからつまり……。
数時間後、まばらに草が生える地帯を走る馬が七頭とひたすら走る男が一人いた。。
「自分の馬を買わないとは思いませんでした。外で待っていた私が馬鹿でした」
ジト目でファスに睨まれる。はい、久しぶりに砂でない場所を走りたかった僕です。
「だって、砂漠船生活でなまったからなぁ」
「いや、旦那様普通に船から降りて砂河を走っていたでねぇか」
「船員達に、あれは聖女様の奇跡ですか? って聞かれたからね……」
「まぁ、たまにフクちゃんも一緒に走っていたしね。実際あれは奇妙な光景だった」
他の面子にも色々言われたが、久しぶりの普通の地面での走り込みを堪能したのだった。
馬の疲労も考え夕暮れ前に止まり。野宿の準備をする。
といっても、テントは例によって骨組みだけで簡単に設営できるし、中は異世界製の広々となっているものだ。
カジノの件でお金に余裕があったので、今回僕等もこの便利テントを購入しています。
見かけはファミリーサイズのテントにも関わらず、中は三倍は広く、寝具も整っている。
マジで便利だな異世界。
設営が終わると、トアが人数分の料理を作る。
始めは他のメンバーも手伝おうとするが、この人数相手の調理だと素人が手伝うよりトア一人で調理する方が早い。
【高速調理】のスキルにグランド・マロでの修行で鍛えたその動きは、演武のように無駄なく合理性に満ちた美しい動きとなっていた。
用意されたのは、スパイスの効いたスープに兎肉を蒸した野菜と一緒に焼いたオーブン焼きのような料理だった。
「いいとこは旦那様にだべ」
「ありがとう……うま、なんだこの野菜」
味は言うまでもなく、めっちゃうまかったです。
隠し包丁が入っているのか、口に入れた瞬間ほろりとほどける。兎肉には野菜の甘味と肉汁が溶け込んでいて、米が、米が喰いたくなる。なんで、この食感なのに肉汁はとどまっているのか、魔術じゃん、【料理人】は魔術師なのか。
パプリカみたいな肉厚の野菜の食感も抜群で、スープと一緒にいくらでも食べられそうだ。
というか、むしろ野菜メインな気すらする。
女性陣からも好評で。
「トアさんの料理を食べだしてから、身体の調子がいいのよね……」
「栄養バランスはもちろん、食材の保存まで考えてこのクオリティ……【料理人】のジョブはこの世界ではあまり重要視されていないらしいが、いや、これはトアさん自身の技量を褒めるべきか」
「……獣臭さもまったくありません。短時間で下準備から完璧です。ジビエ料理とは思えないほど食べやすいです」
と小清水、紬さん、日野さんの感想。なんだか僕も嬉しくなるな。
「トアの料理は最高です。それにしても、腕をあげましたね」
「まいうー。おかわりー」
「砂漠では、消化しやすい料理を、飽きがこないようにいろんな形でだしてくれたからね。本当に恩人だよ」
「それがオラの仕事だべな。カナエはまだ、胃腸の調子が良くねぇからゆっくり食べるだよ」
後片付けを終え、焚火を囲みながら順路の話をする。
砂漠のように冷えることはないが、まだ少し冷えるな。
アイテムボックスから取り出した折り畳み式の机の上にファスが地図を置く。
「コホン……【大森林:ニグナウーズ国】へ行くためには飛行船が必要です。それにはまず『バレノシッポ』という街にある『雲港』へ行く必要があります。そこへ向かうためにはまず、この乾燥地帯を過ぎて山間の街【アマウント】へ向かうのが良いでしょう」
ファスが地図上の道を指でなぞる。
「なんだか、随分遠回りだな。船で船員さんから聞いたんだけどバレノシッポへ行くなら【鍛冶の街クレイブルズ】へ行くんだろうって言ってたんだけど?」
行き先の話をはぐらかされていたから、船の人に話したんだよなぁ。
実際地図にも、真っすぐ進んだところに大きな街があるように描かれていた。
……ん? なんか、急にフクちゃん以外の皆がアイコンタクトし始めたけど。
あれ、なんか急に悪寒が……冷気が強まったような……。
「真也君、ちょっと正座しよっか?」
「えっ」
叶さんが目が全く笑っていない怖い笑顔で、そう宣言した。
次回、正座させられる吉井君。誤魔化しというなの理不尽が吉井君を襲う。
というわけで新章です。よろしくおねがいします。
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