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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第六章:砂漠の歓楽街編【竜の影と砂漠の首魁】

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閑話10:【勇者】宙野 翔太の焦燥

「どうなっているんだ!」


「ヒィ! お、落ち着きください、勇者様」


 鈍い音がして、高級そうな木彫の机が叩き割られる。

 鮮やかな藍色の衣裳で激昂しているのは、異世界より召喚された【勇者】宙野 翔太だった。

 王国の技術の粋を結集して作られた、砂漠船(サボロ・シープ)の中から忌々し気に窓の外を眺めている。その手には今しがた大臣が持って来た書簡が握りつぶされていた。

 

「なぜ、教会は叶の単独行動を許可しているっ!」


 怒鳴られているのはラポーネ国が大臣の要職についているベッカと呼ばれる男だった。

 でっぷりと肥えた腹を揺らし、脂汗を搔きながら身振り手振りを交え言い訳を並べるがその全てが宙野の望むものではなかった。

 

「で、ですから。白星教は聖女様が自らが転移者の集団を率い、布教に努めることは巡礼の旅であると認め、聖女様の意志を尊重すると……」


「その話は、マルマーシュ経由で潰したはずだ! ゆくゆくは叶の身柄をこちらへ渡すようになっていたはずだっ!」


「マルマーシュ第二王女は確かに勇者様のお言葉を受けて動かれましたが、ネリネスト第一王女が聖女様の想いに強く感銘を受けまして、支援をするということで、せっかくアナスタシア第三王女を【転移者】様の力で亡き者にすることで、ネリネスト王女の力を削いだのですが……今だネリネスト王女の発言力は強く……」


「クッ……叶はグランド・マロにいるということで間違いないんだな」


「ま、間違いはありません。グランド・マロから来た商人達が確かに聖女様を見たと……」


「なら、もっと情報を集めろ。ありったけの鳥を飛ばせっ!」


「ヒイィイイイイ!」


 贅肉を揺らしながらベッカ大臣は部屋を後にする。

 

「どこにいるんだ叶……」


 スタンピードにてカルドウスを()退()()()()()により、多くの支持を受けた宙野はラポーネ国の勇者としての地位を確固たるものにしていた。

 しかし、彼が最も欲しいと願った【聖女】桜木 叶はこれまでよりも露骨に宙野からのアプローチを無視し始める。

 貴族から逃げ出した女子の転移者を集め、動き始めた彼女は布教と称し自由に動き回るようになっていた。

 スタンピードの戦いの後、散々捜索した叶は何事も無かったかのように教会へ戻っていた。

 そして布教と称した地盤固めを行い、国の要請という名目の翔太からの誘いを断り、距離を置き始める。


 最後に会うことができたのは、スタンピードから二週間後のこと。

 王都に近い街で人々に【聖女】のスキルを披露している場面だった。吉井と一緒でないことに安堵し、教会のバルコニーから民衆へ姿を見せる叶を馬車から眺める。

 それまでとは規模の違う広範囲に光の粒を降らす彼女に翔太は息を飲んだ。

 黒髪をなびかせ、慈愛の笑みを浮かべる叶は彼が知っていた姿よりも、ずっとずっと魅力的になっていたから。


 ……実際の所、教会から離れる為の活動の一環であり演技丸出しの作り笑顔だったわけだが、恋する乙女はなんとやら、吉井の傍にいるために日々己を磨き続けている叶の女性としての魅力は確実に上昇しており、翔太に与えた衝撃は大きかった。

 スタンピードの件で叶が吉井に告白しキスしたことなんぞ無かったことにして、自分の女がよりふさわしくなったと歓びに震える。


 しかし、その場では人々が多く、翔太の所在を知った叶によってすぐに逃げられてしまう。

 それを最後に足取りが掴めなくなり噂を聞いては叶を追いかける日々、転移者の中でも【契約】に秀でたジョブ持ちを連れて叶を追いかけるが【勇者】としての仕事もある為、中々追いつくことができない。


 さらに、翔太のパトロンである第二王女のマルマーシュの存在も翔太の動きを邪魔していた。

 金と権力はあるが、その容姿はお世辞にも良いものとは言えない第二王女は甘いマスクを持つ宙野に強い興味を持ちアプローチをかけていた。

 最初は適当にあしらっていたものの、多額の金を出資していることや、今後叶を教会から引き抜く為の後ろ盾が必要だと思った為に、寝屋への誘いを断り切れず翔太は何度か望まぬ夜を共にしていた。


 口直しに何人かの美女を抱くが一向に心は晴れない。

 全てが悪い方向へ向かっている。

 それもこれも全て、あの男のせいだ。

 美しいエルフを従え、俺の大事な女を横取りしようとしているあの冴えない【宴会芸人】。

 軽い罪状で指名手配するも、一向に足取りがつかめない(遭難中だった為に誰も行方を知らなかった)。

 スタンピードでの奴の功績は全て無かったことにし、冒険者ギルドへも圧力をかけている。

 今頃は野垂れ死んでいればいいが……ファスという名のエルフを始めとして、奴の仲間の女性は優秀だった。

 

 翔太の頭の中では、仲間にオンブにダッコの情けない奴とレッテルを貼られている吉井が、今ものうのうとしていると思うとハラワタが煮えくり返る。

 そしてこれが一番考えたくないことだったのだが……。


「まさか、叶のヤツ吉井と一緒にいるんじゃないだろうなっ!」


 自分の大事な幼馴染が、あの男と共にいるかもしれないと考えると気が狂いそうになる。

 叶を目撃したという情報を辿り、砂漠船を走らせるも歓楽の都まではあと数日はかかる。


 【転移者】を優遇していると貴族側の転移者の間で噂だった街だ。

 叶もしばらくはいるだろうと思い、船に乗った他の貴族側の【転移者】と享楽に浸りながら砂漠船での日々を過ごしていた。



 ――グランド・マロまで後数日といった頃に信じられないことを知る。


 それは、死んだと思っていた第三王女アナスタシア姫が生きており、現在グランド・マロの実質的な支配者になっているというニュース。

 鳥型の魔物より届けられたそれは活版印刷で刷られた大衆紙で知らされた。

 これは元の世界の新聞のようなもので、どのような原理なのか描かれている画像は写真のように細部までわかるものだった。

 記事には街の前領主の罪がツラツラと並べられ、その悪行を第一王女、第三王女の命を受け、見事打ち破り街を救った英雄の一人として【聖女】サクラギ カナエが賞賛されていた。

 それ以外にも、小清水、中森、日野と叶に近しい女性があからさまに取り上げられている。


 ……そして


「おい、翔太これ? あの【宴会芸人】じゃないか?」


 同乗していた【転移者】が指さした大衆紙の一角。

 精巧に描画されたその絵に描かれている冒険者達の中に半裸にバンデージの翔太が最も認めたくなかった男が映っていた。


「……吉井ぃ、お前そこでなにやってる!」


 怒り狂った翔太に急かされた船が、さらに数日をかけグランド・マロにつくころには吉井達は街を出ており、勇者達の接近を前以て知っていたアナスタシアによって当分の間、翔太はグランド・マロにて足止めをくらうこととなる。 

というわけで、宙野は大分こじらせているようです。

次回から新章です。といっても次はイチャイチャメインの短い章なので、のんびりした感じになると思います。


ブックマーク&評価ありがとうございます。嬉しいです、モチベーションがあがります。

感想&ご指摘いつも助かります。更新頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 煮詰まって鍋底が焦げ付くのを通り越して鍋底に大穴が開く感じで良し。 いやぁ、転がり落ちる様がトップ・ギアだぜ!
[気になる点] 第三王女が生きていた!ってニュースのとこ、第二王女になっていますよ。(被り)
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