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第十七話:できるまでやりましょう。

「はい、それでは『第一回。飛ぶ斬撃をかわそう』会議を始めます」


 フクちゃんの泡にくるまれてから全身拭かれるという介護を受けて、その後ご飯を食べて二人(めんどくさいのでフクちゃんも一人とカウントします)に呼びかけた。


「ええと、はい。頑張ります」

(オー)


 いまいちわかってない二人にギースさんに何されたかを説明する。


「……というわけで、マジでどうにかしないと死ぬ」

「うーん、ご主人様。何度か攻撃を受けて他に気付いたことはないですか?」

「気づいたことか、まぁわかりやすいところでは『飛ぶ斬撃』を出すときは技名を叫んでたな」


 【空刃】【疾風刃】だっけ? 他にもあった気がするが、覚えてないな。


「えと、ご主人様の持つスキルは常時発動していて強弱を調整できる、いわゆるパッシブタイプのスキルですが、意識して発動させるアクティブタイプのスキルはスキル名を言う必要が原則あります。魔術になるとさらに複雑な詠唱が必要になりますので時間もよりかかります。もちろん例外もあるようですが」

「技名を叫ぶ時間がかかるってわけか、確かに欠点だな」

(ボク、ワザノナマエ、イワナイヨ?)

「魔物は技名を言いませんが独特のタメや鳴き声があるらしいです」

(ナルホドー)


 可愛いのでフクちゃんを膝に乗せてなでなでする。あぁ癒される。


「あと、ある程度軌道が固定されるらしいのですがどうでしたか?」

「えーと、あぁそうだな。同じ軌道だったな、だから普通の剣技に織り交ぜたのか」


 縦斬り、横切りと決まっていたな。ファスの話を聞いてると欠点がわかってきたな。


「あとは、技自体が見えないのが問題だな、空気が歪むというような感じはするんだけど」


 ジェスチャーでこんな感じと説明する。


(マリョク、ミタライイ)


「魔力? そりゃそれが見えたらいいけど」

「すみません。魔力を可視化する方法は知りません」


(ミエナイケド、ミエル)


 そう言うとなでているフクちゃんの毛がピリっとする。しかし目を凝らせど何も見えない。


「確かに、なんとなくわかります」

「えっ!? 全然見えないんだけど」

「えと、こうでしょうか?」

(ソウソウ)


 ファスが祈るように両手を上向きにする、凝視するが何もわからない。


「全然わからないのだけど……」

「どうすれば伝えられるのでしょうか? そうだ、ご主人様失礼します」


 ファスが僕の両手を掴んで胸元に引き寄せる。痩せているとはいえ、微かに柔らかい感触に集中力が研ぎ澄まされる。なるほどそれが狙いか(違う)。


「わかりますか? 私の中の魔力の流れです。見るのではなく感じたものを心の中でイメージしてください」

(カンガエルナ、カンジロ)


 どこかの伝説的アクション俳優のセリフを異世界で蜘蛛から聞くとは思わなかった。

 しばらく、集中してみたが結局わからなかった。


「だめだわからん、才能がないんだよ」


 武術にしてもなんにしても僕には才能が無い、異世界に来ても結局ダメなものはダメだ。


「では、できるまでやりましょう。そうすれば才能なんて関係ありません。やっと私が役にたてる機会がやってきました。もちろん役立たせてくれますよね」


 笑みを浮かべてファスが言ってくる。諦めさせてくれないのか、僕ができるようになると無条件で信じているようだ。


「アッハッハ、ずるいな。そう言われたら言い訳もできない」

「はい、私ずるい女なんです」

(???)


 フクちゃんはきょとんとしていた。その夜から新たに魔力を感知する稽古が日課に追加された。とりあえず、自分の中の魔力を感じるところから始める。


「【拳骨】」


 とりあえず、すでに実践していた【拳骨】を魔力で増強させる動作を行う。別に言葉に出す必要はないがこういうのは気分の問題だ。

 

「はい、自身の魔力がわかりますか? その流れをイメージしてください。色でも水の流れでも炎でもご主人様の好きなイメージです」


 ファスもついさっきまで、僕と同じで魔力の流れがわからなかったはずだが、もう完全に自分のものにしているようで先生になってもらっている。担任ファス、特別講師フクちゃんといった様子だ。


「うーん、イメージか。なんかモヤモヤした感じだからなぁ、しいて言うなら『熱』かなぁ」

「では魔力を動かしてください、その魔力と一緒にイメージを動かしてください」

「動かす感覚がわからないんだが」

「では強弱ではどうですか?」


 それならわかる。熱せられるイメージで強弱をつける。その日は自分の魔力のコントロールで終了した。


 


 次の日、ギースさんに昨日と同様の稽古をつけられる。とりあえず、スキルを叫ぶそのタイミングを読んで躱してみる。

 単発なら問題なく躱せるようになったが、普通の剣技の合間にスキルを使われると対応が遅れる。

 というか叫んでから技がでるときと叫びながら出る時があり、タイミングがとれない。スキルが放たれてから躱そうとしても間に合わず。声を聴いて躱そうとすると早く動いてしまい、動いた先に飛ぶ斬撃がやってくる。


 熱のイメージをもって見てみるが、まったくわからない。やっぱり僕では無理なのではないかと思ってしまうが、できるまで付き合ってくれる人がいるもんだからやるしかない。


「なに、ニヤニヤしてる!! オラァ【一閃】」

 

 初めて聞くスキルだった。重心を後ろにおいて躱す準備をする。

 ギースさんがロケットで飛ばされたように突っ込んできた。突き技のスキルか。

 これまで見た飛ぶ斬撃に比べてタメがほとんどない。

 

「応っ!!」

 

 何とか、棒の側面に手の甲を当てて軌道をずらそうとするが勢いが強くて弾かれそうになる。とっさ(というかほぼ無意識)に【掴む】を発動させて固定する。まるで透明な指が掴んでいるようだ、そのまま転身して捌く。


「いいじゃねぇか!!」


 ギースさんが珍しく褒めてくれた。指で触れなくても、腕のどこかが当たっていれば掴めるのか、便利だな。そこからは具足で防御しながら【掴む】を発動させ相手の体勢を崩すことに集中した。

 そうなると当然、向こうがしてくるのはこっちが刀身を掴めない『飛ぶ斬撃』だ。


「【空刃】」


 縦斬りの『飛ぶ斬撃』が飛んでくる。……もしかしてコレ『掴む』ことできるんじゃないか?


「白刃取りィ!!」


 全力で【掴む】を発動、そして衝撃を掴もうとして。


「ヘブッ」


 ……タイミングがずれてそのまま直撃を喰らった。

 まぁそううまくいかないよな、やっぱり魔力を感じられるようにならないと無理か、飛ばされた先に容赦なく襲ってくる『飛ぶ斬撃』を飛び跳ねて躱す。その日はなんとか気を失わずに稽古を終われた。耐久力だけは成長している実感があるな。


 今日は騎士団の人に見張られながら帰っていると、本館の方でバタバタと人が出たりはいったりしてる。


「なにかあったんですかね?」

「あー、なんか子爵のペットが奇病で死んだらしいっす」

 

 おや、無視されるかと思ったのだけど返してくれた。というかペット?


「へぇ、怖いですね」

「そうっすね、なんか中身がなくて皮だけのカラカラの状態で見つかったらしいっす。まるで体の内側を溶かされて全部啜られたような状態らしくって、昨日からてんやわんやですよ」

「……ちなみにそのペットって魔物ですか?」

「そうっすよ、噂によるとヒールサーペントらしいっす」


 フクちゃあああああん、何やってんの!! というか溶かして啜るって……確かに蜘蛛ってそういう風に獲物を食べるらしいけどさ。冷や汗がダラダラでてきた。


「最近、屋敷のネズミとかも見なくなっているってんで、もしかしたら厄介な魔物が入り込んでるって噂もありますねー」

「こ、怖い話ですねー」

「まぁ噂ですからね、そんな魔物そうそういないっすよ、多分病気持ちの状態で売られたとかが真相でしょう」


 いえ、噂が全部正解だと思います。


「子爵は他のペットに病気が移ってないか全部調べるってんで人が何人も来てるみたいっす。あっ、俺が喋ったこと秘密っすよ」


 やけに優しい騎士のおにいさんと別れて牢屋に戻るとフクちゃんがピョンと頭に乗ってきた。


(オカエリー)

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 うーん、フクちゃんになんか言うべきか。でも実際【回復泡】にはお世話になっているしな、まぁこのままでいいか。


「さぁ、今日も魔力を感じる特訓です。ご主人様がいないあいだずっとフクちゃんと魔力の操作をしていました」

(アタラシイワザ、デキソウ)


 まだ強くなるんすか、そのうちフクさんと呼ばなければならなくなりそうだ。

 というわけでその日も適度に吸呪をしつつ、魔力の特訓が始まった。二日目にしてようやくファスが魔力を発現しているときに『熱』があるようなイメージを持つことができた。

 そのまま、三日目、四日目、五日目と日が進み。どうやらフクちゃんが二匹目のアグーの従魔を狩ることに成功した六日目の夜にファスの魔力を離れた位置から感じることができた。


「……はい、今発動してる」

「部位はどこですか?」

「ええと右足と左肩、右足の方が強い」

「正解です、ご主人様」

「おっしゃ!」

(パチパチー)


 魔力の発動部位とタイミング、そして強弱を感じることに成功した。いやぁ難しかった、正直今もなんとなくだがそれでも進歩したという実感はあった。今日の分の吸呪も行なったし、集中力を使って疲れたからゆっくり寝ようか。


「よし、今日はもう寝るか」

「いえ、まだです」

「え?」

「次は魔力を移動させますから、それを観察してください」

「え、いやそれはまだ難しい……」

「えぇ、そうだと思います。ですから、できるまでやりましょう」

 

 満面の笑みでそう言ってくる。


「……はい」

(マスター、ファイト)


 フクちゃんの応援がむなしく響く中、今夜も眠れないと覚悟する。というかファスさんエルフだからなのか魔力の操作が異常に上手くない? 僕が下手なだけ? そんなことを思いながら夜は更けていった。

ファスさんがようやくその片鱗を見せ始めました。フクちゃんは順調に成長してます。

評価ありがとうございます。恐縮です。ブックマークもありがとうございます励みになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう界隈ではワンヒ○ース由来の『飛ぶ斬撃』読みが流行ってるんだろうかw 何でもかんでも『飛ぶ斬撃』呼びでお腹いっぱいw まぁ作者さんたちの年齢から、仕方ないか。 モロに影響受けてる世代だろ…
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