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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第六章:砂漠の歓楽街編【竜の影と砂漠の首魁】

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第百五十八話:聖女の朝とエルフの謎

 ハンモックに揺られながらぼんやりと目を覚ますと、遠くに笑い声が聞こえる。


「まだ騒いでいるのか……」


 日頃からうるさいギルドではあったが、宴会は今だ継続中の模様だ。

 薬(呪い)の効果が無くなり、意識がはっきりした冒険者はデルモがいなくなったことで、勝手にカジノが無くなると思っているようだ。

 つまり借金が無くなると勘違いして騒いでいる人がほとんど……。

 まぁ【狩り場】がなくなって、自由にダンジョンに挑戦できるようになったから頑張れば借金も返せるようになるだろう。アナさんとヒットさんが上手くやるだろうし。


 そんなことを考えながら、横を見るといつもの位置にファスがいた。

 フクちゃんは人混みが苦手なので、子蜘蛛姿で僕のお腹の上だ。


「スピー、スピー」


「めっちゃ寝てる……お疲れ様ファス」


 頭を撫でると、甘えるように顔を擦り付けてくる。

 牢屋生活からずっと一緒だから、これが日常というか、こうじゃないと落ち着かない僕がいる。

 心底惚れているんだなぁ。


 普段は逆サイドにトアもいるのだが……ハンモックから落ちたようで下で転がっていた。

 昨日、料理を作りながら浴びるほど酒を飲んでいたし仕方ないか。

 豪快に大の字で眠っている。


 さて、問題はこっちだ。普段トアがいる場所に黒髪の聖女様が寝ていた。

 ……なんでだ? 確か【自己快癒】のスキルのおかげで酒に酔いにくい僕を酔わそうと、ヒットさんが砂蛇と呼ばれる大蛇を樽に漬けこんだヤバイ酒を持ってきたところまではしっかり覚えている。

 それを飲んでからの記憶が曖昧だ。


「確か、小清水が絡み酒をしてきて、叶さんが間に入って来て……ファスとフクちゃんも交じって……小清水を日野さんと紬さんが介抱して、設置した【紋章】でホテルへ帰って……その後は……思い出せない」


 過程はもう置いておこう、問題は隣に叶さんがいるということだ。

 いや、今回の件で正式にパーティーに入ったというか、奴隷となってしまったわけだけど流石に同級生を奴隷にするというのはどうなんだ。

 叶さんのことは、ラッチモ戦での夜とか宙野への宣言とかで覚悟を決めたつもりだが、いざ隣で眠る彼女を見ると、色々考えてしまう。


 僕のことを好きだと言ってくれて、元居た世界には帰らずここに残ると真っすぐに宣言した。さらにデルモの屋敷で見せた覚悟、正直彼女の気持ちがこれほどまでに大きいとは思っていなかった。

 元いた世界では彼女は高嶺の花で、勝手に距離を感じてしまっていたのか。

 TRPGをしている時、スマフォの虫画像を見せてくれた時、都市伝説について語っていた時、図書館での時間を思い出す。

 僕は叶さんの気持ちにどう答えたらよいのだろう?


「……私は撫ででくれないの?」


 片目を開けて、悪戯した後の猫のような表情で叶さんがこっちを見た。


「……いつから起きてた?」


「ずっと起きてた」


「マジ?」


「マジです。ドキドキしてた」


 叶さんは目を閉じて、僕の首元へ体を深く寄せる。

 何分間か時間が流れ、耳元にファスと叶さん二人の呼吸音だけが響く(あとトアのいびき)。


「叶さん」


「なんでしょう、真也君」


「僕さ、ファスがいてフクちゃんがいてトアがいるのだけど……」


「フムフム、知ってる。それで?」


 彼女が目を開けて僕を見上げる。

 ……それでもいいの? なんて聞くのは彼女に甘えすぎだ。


「それでも、叶さんが好きだから。僕と一緒に居て欲しい」


「……顔赤いね」

 

 ウリウリとほっぺを指で突かれる。いやマジで恥ずかしい。

 ファスに思いを告げるのとはちょっと違う感じ。なんだコレ、うぅ。

 叶さんは、ニヤニヤ笑みを浮かべながら話を続ける。


「例え真也君が帰れって言っても帰らないし。一緒に居て欲しいって言われたらもう絶対に離れない。真也君が大好きだし、それ以上に真也君を好きな私のことが私は好きなの。一緒にこの世界を冒険しようね」


 ……なんていうか、初めから勝ち目の無い戦いだったような気がする。


「話は終わりましたか、カナエ」


「!?」→僕


 隣でファスが体を起こす。ローブを脱いだシャツと下着のみの姿は、あまりに白く蠱惑的だ。


「うん、終わったよファスさん」


「ファス、いつから……」


「頭を撫でてくれたときからですね。二つ目の貸しですよカナエ」


「わかってるって、これからよろしく」


「マスター、ボクもなでてー」


 人の姿になったフクちゃんが抱き着いてくる。いや君も起きてたんかいっ!

 心で突っ込みを入れながら頭を撫でてあげる。下を見ると、寝たふりとは縁遠いトアが爆睡を続けていた。

 

 もう、完全に起きてしまったので、ハンモックからおりてトアを起こす。

 何回か、身体を揺さぶると。「おはようだ……なんで床に?」と言いながら二度寝しようとしていたのでチョップで阻止。

 全員で朝のストレッチを行う。叶さんの体は結構固いようだ。


「痛気持ちいいね、私もこれ日課にするよ」


「フフフ、私は結構曲がるようになりましたよ。まぁご主人様とトアにはかないませんが……」


「レベルアップのせいか、めちゃくちゃ柔らかくなったべ」


 ドヤ顔で屈伸をみせるファス、実際体力も結構ついてきたよな。

 ちなみにトアと僕はI字バランスとか、逆立ちから海老ぞりに体を丸めたりとヨガみたいな柔軟をしている。やっぱ柔らかさって大事だしな。

 フクちゃんは、今日は柔軟に興味ないらしく糸を編んで遊んでいた。

 

 柔軟が終わり、各自が服装を整え食堂へ向かうと、アナさんがメイド姿で料理を運んでいた。

 何やってんだお姫様。

 ちなみに宴会勢はメインのエントランスで騒いでいるのでここにいるのは、僕等だけだ。

 厨房と食堂は分離しており、どちらへも食事が運べるように通路が確保されている。

 そして、その横には執事のスーツを着た蠢く砂塵セテカーさんが立っていた。


「あら、おはよう。今日から色々仕事があるから、朝のうちにメイドらしいことをしたくってね。お座りください、ご主人様」


 赤い髪に白いカチューシャ、スカートを掴み優雅に礼をする様子はなかなか堂に入っていた。

 だてにメイド鎧まで装備していたわけではないようだ。


「ご主人様のことをご主人様と呼んでよいのは、奴隷である私達だけです」


「それよりも【セテカー】さん。なんで執事服を?」


 僕の問いかけにセテカーさんが動作で椅子を示し、頭(頭部に見える)を下げる。


「人手が足りなくて試しに執事として仕事をさせたら普通にこなしていたから、お願いしているの。胃に優しいスープを持ってくるから、座って待っててね」


 それでいいのか砂漠の精霊……。


 鼻唄を謳いながらアナさんが配膳をする。トアが代わろうとするが、セテカーさんが優しく制止していた。アナさんの意志を尊重させたいようだ、本当にメイドが好きなんだな。

 ほどなくスープが配られ全員で会話しながらご飯を食べていると、背後から誰かが走ってくる足音が聞こえた。


「ナルミですね」


 いち早くファスが反応する。


「ハァ……ハァ…ここに居たのかヨシイ。見てもらいたいものがある」


 鎧をつけて弓も背負ったままだ。息を切らしているがその表情は明るい。


「その様子だと、探し物は見つかったんだな」


「そうだ。金貨の中をかき分けてやっと見つけた。これが私が探していたものだ」


 差し出されたのは、水晶を切り出したような材質の瓶だった。蓋に組み木のような細工がされており、ナルミはそれを金庫のダイアルを回すようになんどか左右に捻り、慎重に開けた。

 すると、瓶から優しい青白い光を放つ綿毛の塊のようなものがフワフワと浮かび上がった。


「へぇ、それってウィスプ? 珍しくはあるけど、エルフの秘宝ってほどでもないんじゃない?」


 僕等への配膳が終わり、宴会場へ料理を持って行こうとしていたアナさんが感想を述べる。

 よくわからないのでファスを見ると、待ってましたとばかりに解説してくれた。


「本で読んだところ。ウィスプは光そのものが意思を持った存在だそうです。光の精霊の残滓とも言われています。白星教では魔物ではなく、女神の使いとして信仰されています。非常に希少で魔力が豊かな土地にしかいません」


「へぇ~。ファンタジーだな」


「物語ではわりとポピュラーな存在だけど、こうしてみると確かに神秘的だね。光の色が【星魔法】に近いから白星教に信仰されているってのも頷けるね」


「宝はこいつらではない、このウィスプ達は私の故郷に住んでいる者たちでな、この水晶の瓶に秘められた光を取り出し映像として映し出せる。それこそが私達の宝だ。父からこれを騙し取った奴はただ単にウィスプを売りさばこうとしただけだっただろうが……その記憶を是非見て欲しいんだ」


「エルフの宝だろ、僕等が見ていいのか?」


「あぁ、どうしても見てほしい」


 真剣な表情でナルミが僕等を見る……というよりファスを見ているような、ほとんど寝ずにウィスプを探していたのはそれを見せる為か、いったいどういうことなんだろう?


「カナエ、人払いはできますか」


「了解、結界を張るね」


 叶さんが、食堂の入り口に結界を張る。

 それを確認してから、ナルミがウィスプ達に語り掛けた。


「……森の友よ。歴史を刻む賢者よ、その記憶の一端を水晶の書庫から取り出しておくれ」


 ナルミの言葉を受けたウィスプ達が、瓶に入り込み瓶が内側から光が漏れだすように広がり空中に映像が浮かび上がる。


「エッ!?」


「驚いたべ」


「これは……私?」


 そこに映し出されたのは、緑のローブを纏ったエルフ。その髪は短髪であるファスと違いかなりの長髪だが光を受けた蜂蜜のような美しい金色は同じで、その瞳もファスと同じ翠緑の瞳だった。

 その顔立ちはあまりにファスに似通っている。

 ナルミはファスの様子を見て、ゆっくりと口を開く。


「その反応、やはり貴女はエルフなのだな? 聞かせてくれ、どうしてこれほどまでに似ることがある?……我らの偉大なる女王にして、英雄【竜殺し】のリヴィル・モナト・ニグライト様の姿に」


 その言葉が食堂へ響き、ファスは僕の腕を強く握った。

ファスの姿と竜殺しの英雄、その謎と吉井君への試練、物語は進みます。


ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がっています! 更新頑張ります。

感想&ご指摘いつも助かっています。感想は真摯に受け止め、何度も読み返します。よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ウィスプ(wisp)が途中からウィプスになって、最後までウィプス(間違い)になっている。
2023/07/08 17:14 退会済み
管理
[一言] あれっ、無茶苦茶した真也君にヒロインズがお灸を据えるシーンは? 正座させられて、長々とお説教されて、その後イチャイチャという鉄板な展開をちょっと期待してたり。
[一言] ここまで一気読みしました! 大変面白かったです。 今どれくらいまでレベルアップしてるんですかね〜
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