第百五十六話:VSデルモ
パーティーメンバー達の冷やかな視線を誤魔化しながら正面に構える。
人面の巨大な獅子となったデルモは、顔中の孔という孔から金貨を垂らしている。
それは涙か血か、どちらにせよデルモを構成していた何かだろうと思う。
「ワダシガ、オウ! コノマチノアルジィイイ、ヨコゼェエエエエエ、ゼンブゥ、ゼンブブウウウウウウウ、ワタシィイイイノオオオオモノオオオオォオオオ!!」
辛うじて聞き取れる叫び声は、自分が欲しているものもわからず、ただ求めるだけの訴え。
叶さんのことも見えていないようだ。カルドウスの力に飲まれたのか、もはや限界だったのかはわからない。
「決着をつけようデルモ。皆、用意はいいか?」
ギチギチと手甲を締めなおす。振り返ると、ファス達は武器を構えすでに戦闘態勢を整えていた。
「問題なく、いつでもどうぞ」
「マスター、がったいわざやろー」
「オラ達が全力で援護するだよ」
「大丈夫、私が絶対真也君を守るからっ!」
合掌、息を吐き、両の手を中段へ。
崩壊するダンジョン、落ちてくる砂は束になり、柱の様だったそれが至る所に見られる。
崩壊の時は近いのだろう。
悶えていたデルモがピタリと止まり、こちらを見る。
その眼窩は金貨で埋まり、眼球はない。
「ヨコゼエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「悪いが譲れない」
こちらへ敵意を向けたデルモに対し、合図無しで接近する。
「いくよー、マスター」
「頼んだフクちゃんっ!」
すぐに意図を察してくれたフクちゃんが子蜘蛛の姿で僕に張り付く、背後から光の兎と氷の弾の援護が入った。
「合わせ技【糸繰り】」
追い抜いていく氷弾のいくつかに、糸が張り突き、その先は僕の腕に巻きつけられた。
手甲を滑らせ、糸を【掴む】スキルによって手繰る。
分銅のように氷弾が軌道を変え、デルモに直撃した。
「オォオオオオオオオオ!」
まったく、意に介さずデルモが前足を振り上げる。
「フクちゃんっ!」
(マカセロー)
子蜘蛛状態のフクちゃんからの応答、すぐに僕の腕をつたい糸が展開される。
砂漠の遭難中に編み出したこの技は、フクちゃんが展開した糸を、僕が【掴む】ことで操るという単純なものだ。
しかし、単純だからこそ、技の応用できる範囲は非常に広い。
「四方投げ」
振り上げられた前足を入り身で躱す。右手の糸を獅子の足に巻きつけ、左手の糸を首に巻き付ける。【ふんばり】で体を固定、糸を引くことでデルモの体勢を崩し頭から地面に叩きつける。
「ゴブォォオオ」
すかさず、ファスの氷弾とトアの斧が、デルモに追撃。
一旦糸を解き、周囲に糸を張りながら移動し、後ろ脚二本へ糸を巻き付ける。
「天地投げ」
右手を上、左手を下に後退しながら引く。
足を引かれ腹を地面に打ち付けたデルモにさらに数本の糸を巻きつけ、糸を組むことで、巨大な身体の体勢を崩し続ける。
単純な力ではなく、押さば引き、引かば押す、【流歩】で最適な距離を取りながら、つねに糸の張りを維持したまま複数の糸を組み合わせ、相手の動きの幅を少しずつ制限していく。
参考にしているのは捕縛術と呼ばれる古武道の流れを汲む技であり、フクちゃんの糸の操作と【掴む】を合わせることで、獲物を絡めとる蜘蛛の巣の様に確実に相手を制する。
満足に起き上がることすらできないデルモに、ファス、トア、叶さんの遠距離攻撃が命中していく。
「……うわぁ、地味だけどめちゃくちゃ効率的に攻略している……『糸』って強力な武器ってわかっているけど……攻撃は後衛に任せてひたすら相手の動きを妨害し続けて動きを封じるとか……真也君らしいけどさぁ」
「元々、ご主人様は攻撃よりも回避や防御を得意としています。ご主人様の武術の効果範囲をフクちゃんが広げるあの技は、高速で動き回りながら糸を展開することで攻防において有利状況を作り、いざ捕まってしまえば糸の組み合わせやご主人様の剛力で、何もできなくなります。【スキル】などで力づくで解こうとしても、絶妙に弛むせいか解き切れません」
「しかも、フクちゃんの【毒】に旦那様の【呪拳】付きだかんな。オラとファスで組んで旦那様とフクちゃんペアと模擬戦をした時は、あまりの嫌らしさに心が折れそうになっただ……」
……なんか後ろで、好き勝手言われている気がする。
まぁ、いいか。デルモは完全に糸が絡みつき、動くことはできていない。
氷柱が何本か体に刺さり、回転する手斧に切り裂かれ、血まみれとなっている。
相手の動きを糸から探ろうとするも、抵抗すらされていない。
(マスター、おかしいよ)
「僕もそう思う。あれだけ感情的だった奴が、この程度で諦めるもんか」
しかし、動きがないならその分拘束を強めればいいだけだ。糸を飛ばしてより巻きつけようとすると、チリチリと火の粉が周囲に浮かぶ。
「ヴォォオオオオオオオオオオオオオオ!」
デルモの体を火柱が包む、拘束していた糸が焼かれ、火柱の中からデルモが飛び出してきた。
咄嗟に張っていた糸を引っ張ることで飛び上がり回避する。
「危ねェ!! 大丈夫かフクちゃん」
「だいじょぶ」
少女の姿になったフクちゃんが、返事を返す。
飛び出してきたデルモの姿はさらに変わっていた。人面に獅子の体は変わらないが、炎の翼と蠍の尾がついている。
「いよいよ、なんの化け物かわからないな」
「くるよー、マスター」
「ボォオオオオオオオオオオオオオ!!」
完全に人間の言葉を忘れたデルモが、眼窩より金貨を垂らしながら炎を吹いてくる。
近づこうにも、可動域の広い炎の翼が邪魔して近づけない。
こちらを攻撃するのではなく、闇雲に暴れているようで次の攻撃が読みづらく攻めあぐねる。
「ご主人様一度こちらへ」
ファスが、氷の壁を張ってくれていたので一旦戻り、叶さんの回復を受ける。
幸いデルモは暴れ回っているせいで、こちらへは攻撃してきていない。
というわけで、作戦会議を始める。
「うーん、どうすっかなぁ」
「私が氷の壁を張りながら接近するというのはどうでしょう?」
「一瞬なら防げても、巨体による攻撃を防げないだ。炎の翼が来る前に、近づいて一撃で仕留める必要があるべ」
「というか、あのままほっといても暴れまわってダンジョンと一緒に沈みそうだし、放置するとかどうかな?」
「ダメだ。儀式の反転があるとしても、ダンジョンマスターを倒さないと街にどんな影響があるかわからない。何よりも、そんな方法じゃあ納得できない」
「火には火をぶつければいいと思う」
地面に座り、足をパタパタさせながら、フクちゃんがそう言った。
火には火、僕等のパーティーで炎を使うことができるのは……。
一同の視線がファスに集まった。
「――では、手はず通りに行きましょうご主人様」
「ファス、本当にやる気かマジで危ないし、他に方法が……」
「止めるだけ無駄だべ旦那様。というか旦那様の方が遥かに危ない作戦だべな」
「ふわぁ、緊張してきた。タイミングが命だね」
(マスターいくよー)
本当に大丈夫だろうか? 巨大蜘蛛状態のフクちゃんが糸を吐き出し焼かれずに残っていた糸に引っ掛けることで空中に糸の道ができあがった。
ファスを背負い、糸に足をかける。
イメージするのはヒットさんの空を跳ねる【ステップ】。
「捕まっていろよ、ファス」
「はい。信じていますご主人様」
息を吸って、一歩踏み出す。
糸を駆け上りながら、フクちゃんが作ってくれた足場を走り抜ける。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
デルモがこちらに気付き、顔を向ける。
「ファスっ!」
「はいっ!」
合図を受けて、ファスが氷塊を作り出し視線を遮る。
どうしてもファスが近付く必要があったのだ、吐き出された炎が氷塊に当たり、空中で炎が広がる。
炎の翼が広げられ、そのまま叩きつけられようとするが、フクちゃんに乗った叶さんがカバーに入る。
「【破邪の星壁】行けるよっ!」
夜空に散る星々のように光の粒が集合し、炎を防ぐ。
その隙に、ファスをデルモの頭上に投げる。【重力域】でファスは浮かび停止する。
それを見届け氷塊を足場に、僕は地面に落下。
「こっちを見ろぉおオオオオオオオオオオ!」
【威圧】で注意を引く、デルモがこっちを見て再び口を開けた。
回避しようとするが、金貨の壁が左右に展開される。
「ヴォオオオオオオオオオオオ!」
ダンジョンマスターとしての最後の力がここで発揮されてしまった。
逃げ道が消え、冷や汗が背中を伝う。
「旦那様っ! ガァルウルルルルルルル【飛斧】!」
小さな竜巻のような、二つの斧がトアより投げられる。
「合わせ技【虎落笛】!」
覚悟を決め、正面から炎の中に突撃。
全力で腕を振り【手刀】と斧で制空権を展開しながら、炎の渦を突破し跳び上がり射線を合わせる。
「ファアアアアス、叶さぁあああん!」
火傷まみれの両手を広げ、展開された魔力を掴み合わせる。
「【重力域】」「【流星雫】」
重さを伴う光弾を作り上げ。デルモに叩きつける。
「魔術合わせ【流星重撃】」
炸裂した一撃、デルモを吹っ飛ばす。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
炎の翼を使ってデルモが姿勢を直し、四肢を踏みしめ翼を広げ口を広げた。
この間合いなら、行ける。フクちゃんが張ってくれた糸を足場に高度を保ちながら前へ跳ぶ。
「オォオオオオオオオオオオオ」
雄叫びを挙げながら前へ、前へ。ひたすら前進。
目の前にはデルモが開けた口とその中の渦巻く炎が見える。
次の攻撃で決めなければ、僕は炎に焼かれるだろう。
両手を頭上にかざし、相棒の一撃を待つ。
僕の覚悟はすでにできていた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「いつもと、炎の色が違うだ……」
「がんばれマスター」
絶叫と共に吐き出されるファスの【息吹】。
必殺の炎弾はいつもの黒色ではなく、眩いほど白く輝いていた。
炎弾を【掴む】で固定、手刀を振り降ろす形で吐き出されるデルモの火炎に叩きつけた。
「ヴィオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「アァアアアアアアアアアアアアアア!!」
拮抗する炎と炎、しかし、少しずつ白い炎が広がり始めた。
対象に当たると炸裂するいつもの黒炎とは違い、白い炎は、燃え広がる性質を持っているのか。
拡散し広がる炎を咄嗟に掴み上げ、両手に纏わせる。
炎を掴んだために、手の形は【手刀】ではなく、自然と拳になっていた。
空中で【ふんばり】前へ進む。
右の拳でデルモの炎を砕き、次の左拳を振りかぶると白い炎は後方に展開し翼のように広がり、僕の背中を前へ押す。
「喰らえっ!!」
左フックと共に、ぶつけられた白い炎は相手を包み込むように広がり。
僕の視界を白く染め上げた。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
溢れる金貨も、炎の翼も白く染め上げながらデルモが吹っ飛ぶ。
そのまま、炎が壁を伝い凄まじい火力でデルモを燃やし尽くしていく。
数秒後、灰すら残らずデルモは消滅した。
「やったぞっ……ハハハッ、疲れた……」
力が入らず、落ちていく僕の速度がゆっくりになる。
下を見ると、すでにフクちゃんに回収されたファスが両手を広げていた。
そのままファスに受け止められ。僕はそこで意識を失った。
デルモ戦決着です!!
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで書けたのは皆さんのおかげです。
感想&ご指摘いつも助かっています。何度も読み直しています。更新頑張ります。






