第百五十四話:VS三馬鹿
【煽動者・指揮官】のレアジョブを持つ張本 清人は、集団を操ることに長けたジョブだった。
【幻術士・魔術師】を持つ鹿島 陽介、【魔物使い・狩人】の吉田 直人と合わさることで、人間と魔物を交えたパーティーを作れば、ダンジョン攻略もスムーズに行うことができる。
過去にこのジョブを持った転移者はダンジョン内での効率的なレベリングを行い、大いに活躍したこともあり、今代の貴族達からも重宝されていた。
元の世界でも女癖が悪く犯罪スレスレの行為をしていた三人は、貴族達によって金と女を貢がれた結果、元の世界の倫理観をあっさりと捨てた。
パワーレベリングにより【クラス】の力が増すごとにその力に酔いしれ命を軽視するようになり、グランド・マロに来てデルモより特権を与えられ、人の尊厳すら玩具として扱うようになってしまう。
そして魔人化した今、三人は人間であることすら捨てた。そのことに自覚はなく、ただ目の前にいる極上の女達を自由にできる興奮に歓喜していた。
「【死の行軍】ダメージ無視だ。数で圧殺しろ、遠距離持ちは積極的に前衛を潰せ。一定の距離を持って疲労させ続けろ」
「【炎弾】【幻影弾】ホラホラ、囲め囲め。背後から襲え」
「ハハハ、力がいくらでも湧いて来るぜ、さっさとヤリてぇぜ【千軍万馬】速度上げていけぇ。バフ持ちのオーガとボスクラスのヴェノム・スコルピオを行かせるか?」
三人がスキルを使いながら、スキルで魔物を向かわせる。遠距離攻撃に関しては相手が見えないので適当だが、魔物化により飛躍的に魔力量が上昇した三人は、消耗戦を仕掛ける。さきほど屋敷で散々やられたという敗北感はすっかり忘れてしまったようだ。
彼等にとってはこれはゲームの延長、自分達は何をやっても許されるといったなんの根拠もない自信があった。
この世界に来て貴族から教えられた戦術を使い、張本を中心に三人のスキルを合わせ、魔物に組織だった行動をさせている。
「まだ早いジャン、桜木のバフを抜けて【煽動】にかけ、大技使わせて消耗させてからだ。屋敷でも相当大技を使っていたはずだ、たかが数時間休んだだけで回復はできていないはずだからよぉ。金貨の壁の前後左右にボスクラスを配置しろ、機会を見て一気に襲わせる。それまで数で絶え間なく押し込め」
三人は真也を確実に【煽動】にかけるために接近し、罠に嵌めた後はすぐに下がり金貨の壁の後ろから魔物を操りじっくりと嬲っているつもりだった。
ファス達の姿は直接見えていないが【魔物使い】のスキルで操っていた魔物達を伝達役にして情報は把握していた。
「へへ、いい感じじゃねぇか。あと何時間かすれば、アイツらを薬漬けにして……グヘヘ」
金貨の壁から出現しファスが展開した氷の壁を乗り越え少しずつ魔物が上がっていく、前線が上がっているということを魔物越しの情報で知らされた張本が下卑た笑みを浮かべ、他の二人も目を爛々と輝かせた。
張本の指示を受け【魔物使い】吉田が自身のスキルで強化した、ボスクラスの魔物を配置しようと指示をするが、魔力が空振り、スキルが発動した実感がなかった。
イラついた吉田が茶髪をかき上げ、【幻術士】鹿島に声をかける。
「ナオ(鹿島 直人)、ちょっと金貨の壁の【幻術】をどけてくれ、俺の魔物に指示が通んねぇ」
「了解ヨーチン。まぁ、たまにテイムが解けることあるから……アン? なんだアレ?」
デルモが作り出したダンジョンに溢れる金貨の【幻術】は鹿島の【幻術士】のスキルで操ることができるため、鹿島が目眩ましとなっていた金貨の壁をどかすと、こちらへ向かって突進するヴェノム・スコルピオが見えた。
「ハァアアアア!? 【魔物従属】【魔物従属】……ダメだ。キヨ、ボスモンスターがこっちくるぞ。俺のテイムが解けて暴走してる!」
「ハァ、なにやってんだよ。オーガを回すわ」
突如逆走を始めた、ヴェノム・スコルピオを強化されたオーガで食い止める。
そろそろ詰めに入ったかと思ったのに、勝利を目前に足止めを喰らったことに張本が舌打ちをする。
イラつき、無意識に爪を噛もうと手を口元に持って行くとぬるりとした感触。
「エッ? お、俺の手が……」
護衛の為に、周囲に置いていた蜂型の魔物の針が刺さり出血していた。
痛みを感じないのは麻痺毒のせい、そこまで他人事のように思考が進んでから張本はパニックになる。
「ギャアアアアアアア、針が刺さってる。痛くねぇ、何も感じねぇ! おいっ! ヨーチンどうなってんだ」
横を見ると、尾をガラガラと鳴らす蛇型の魔物が鹿島と吉田を襲っている。
辛うじて操れる魔物達を集めるが、どの魔物が襲ってくるかわからない状況に三人が悲鳴を上げる。
「キヨ、こっちへ来い【魔物従属】【陣形指示:鉄壁】とりあえず、完璧に操れる奴を周りに集めた」
「クッソ、足が思うように動かねぇ」
「金貨が邪魔で、周りが見えねぇよ【幻術解除】。何が起きてんだっ!」
三人が合流し降り注ぐ金貨の幻を鹿島が消し去ると、それまで順調に見えていた自分たちの状況が露わになった。金貨の壁がなくなると、同じタイミングで遠目に見えていた氷の壁も砕ける。叶達がいると思った場所には誰もおらずただ氷の塊を魔物達が殴っているだけだった。
そして、切り札として温存していたはずの魔物達が無残にも死体になって転がっている。
「バレたかー」
舌ったらずな幼い声、その声の主は魔物の影からピョンと飛び出した。
雪の精霊のような美しい少女の指先からは何百本もの糸が伸び、魔物達に繋がれていた。
「攻撃しちゃった。まだ、うまく操れないや。トアー、バレたー」
「十分だべ、フクちゃん。宮殿周りまでの動線は確保できただ。一匹ヴェノム・スコルピオが逃げたけんどもな」
二本の斧に魔物達の血をつけた、トアがフクに応じる。
そして、フクが指先の糸をほとんど解き、残った一本の糸を引くと。
糸の先に繋がれた蛇型の魔物に乗ってファスとカナエがやってくる。
三馬鹿はその様子を茫然と眺めているだけだった。
ファス達がやって来た方角を見ると、デルモがいる宮殿までに魔物の死体が積み上がり、氷柱が至る所から生え一本の道が出来上がっているのがわかる。
「トアさんの言う通り、魔物達が指示に従って一方向ばかりに進んでいるから余裕で倒せたね。自分が襲われているのに、操られているせいで防御もせずに囮へ向かって移動しているってのは可哀想だったよ」
「魔物達の誘導ご苦労様でした。貴方達は用済みなのでもう死んでもいいです」
ファスとカナエが蛇の魔物から降りると、フクが手を振り蛇の頭が落ちる。
「ば、馬鹿な。俺は魔物越しにお前等のことは把握していたはずだ」
張本が泣き叫ぶように叫ぶ。
「伝達役の魔物を見つけるまでは、ちゃんとそこにいただよ。見つけたらフクちゃんが【魅了】して偽の情報を渡し続けていたんだべ。その間にオラ達は囮に向かって進む、でくの坊になった魔物を後ろから殺して、宮殿までの道を作ってたんだべ。結界を壊しながら魔物の相手はしんどいからな。急がば回れだ。さて、悪いけんどもアンタ等に構っている時間はねぇだ」
トアが斧を構え、フク、ファス、叶が横に並ぶ。
「ハッ、馬鹿共が、まだまだ魔物はいるんだよ。【転移者】である俺達に勝てるわけねぇだろ!」
「あぁ! 【従属】できている魔物は腐るほどいる。雑魚共もこっちへ戻してるし余裕だ」
「……やばいじゃん。……【蜃気楼】」
スキル下にある魔物を操ろうとする張本に吉田。
鹿島は幻術で姿をくらまそうとしていた。
それを許す四人ではない。
「【氷華:ホウセンカ】」
「【星兎】」
氷弾と光の兎が三人に突撃する。
「ブヘェ」
「ギャア」
「ゲブッ、あの氷弾、なんで俺が見えるんだよ」
無様に転がる三人、にトアとファスが歩み寄る。
必死に周囲の魔物に助けを求めようとするが、恐怖により指示が上手くだせない。
辛うじて、襲いかからせた魔物は斧と糸によって切断される。
ここに来て、三人は自分達が死ぬかも知れないと本気で考えた。
「「「ヒィイイイイイイイイイイイ」」」
叫びながら、立ち上がる三人。魔人化したその身体は運悪くダメージを回復させ、立ち上がらせる。
【スキル】を発動させ、持ちうる全ての技を放つ。【転移者】かつ、魔人化された三人の攻撃はそれなりに強化されているが、恐怖に追い立てられた攻撃は簡単に躱されジリジリと詰められる。
とっておきだと思っていた、オーガの変異種三頭が倒され、雑魚共も氷と光の壁で阻まれこちらへ来ることができない……いわゆる詰みの状況になった時、三人はその場に土下座した。
「わ、悪かった。ほら、俺達デルモに無理やりさ。こんな体にされて、どうしようもなくってさ」
「そうだ、そうだ。俺達は悪くねぇ。わかるだろ、異世界に来てさ、ちょっと遊んだだけだ」
「あの雑魚……吉井のことは悪かった。もう死んでいるかもしれないけど、デルモの指示なんだ俺達は悪くねぇ!」
下から媚びるように見上げるその姿を前に、叶は背を向けた。
その仕草を見て、許されたと三人は歓喜の表情で顔を上げる。
なんなら、ここから不意打ちをすれば上手くいけるかもしれないとほくそ笑んでいた。
「……ねぇ、三人は自分がどうなっているかわかる?」
静かな叶の問いかけ。ファス達はそれを無言で見ていた。
「あぁ、自分が? ええっと、これかなんかわからないけど、力が溢れてんだ。へへ紅い眼なんてカッコいいだろ?」
「あぁ、筋肉もムキムキだしな。それに……魔力もいくらでも使える」
「この胸の玉のおかげだろ、魔物を数百単位で操るとか、一帯に幻術かけるとか、俺達勇者として覚醒したとかじゃね?」
隙を伺いながら、必死にで氷の壁を壊し雑魚魔物を呼び込もうと指示を出し。
背中を向けた叶に飛び掛かり人質にでもしようと三人で機を図る。
そんな心持ちで時間稼ぎをしている三人の頭上から青い光が降り注ぐ、港でも見た聖女による浄化の光。
「お、回復スキルか。サンキュな桜木。助かるぜ」
「ま、まぁ俺達、同じ学校の友達だもんな。当り前ってカンジじゃん」
「回復が済んだらさっさと上に行こうぜ、吉井のことは残念だけど。なんなら慰めてやるよ。一緒に飯でも……ん?」
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア」」」
光が強くなり、雨粒のような粒子が三人に触れた瞬間、三人は絶叫した。
日光に焼かれる吸血鬼のようにもだえ苦しむ。
「【星涙光の浄化域】ゲーム風に言うなら、ターンアンデッドだけど……このスキルが効くってことは三人はもうアンデッドになっているの、せめて、浄化してあげるよ」
「ヤメロオオオォオオオオ」
誰のものかわからない叫び声、展開された光のサークルから逃げることもできず三人は叫ぶ。
元が転移者だからか、人間の部分があるからか、他のアンデッドよりも浄化が遅れているようだ。
その分、三人は苦しみ、叶の背中に助けを求める。
「ふざけんな! 俺達は言われただけなんだよっ」
「いいじゃん、アンデッドでも、助けろよ。助けろっ!!」
「嫌だ、死にたくない。せっかく異世界に来て自由に遊べるってのに……嫌だあああああ」
叶は振り返らない。無言で歩き出しファス達もそれについて行く。
「おい、無視すんなっ!! この光を止めろぉ、フザケンナ。女のくせに、俺達のオモチャだろうガァ」
「調子に乗んな、殺すぞっ……なぁ助けろ、助けろってぇ!」
「金なら出す、吉井が生きてたら俺達からデルモに頼むから。俺達がいないと吉井も死ぬぞ、聞いてんのかっ! おい待て、待てよぉおおおおお!!」
後ろから響いていた叫びが消えると、周囲の魔物は宮殿の方へ移動を始めた。
そのうちの一匹である、ラクダのような魔物に四人は飛び乗って、宮殿へ向かう。
「カナエ、大丈夫ですか」
「無理はしなくていいべ」
心配そうにファスが叶の顔を覗き込む。魔物化したとは言え命乞いをした者を手にかけたのだ、これが吉井なら相当な負担になるだろうとファスとトアは考えた。
「ん? 私? 全然大丈夫だよ。というかあの三人もう死んでたし、むしろ浄化して弔ってあげた分、感謝して欲しいくらいかな。それよりも、この辺の魔物って超かわいいよね。虫型の魔物って大きいから普段見えない部分もしっかり見えるって感じ。この辺真也君と感想言い合いたいなぁ。早くデルモの所に行かなきゃ。急ぐよ皆っ!!」
叶は周囲の虫型の魔物を見て目をキラキラさせながら、吉井の元へ向かうことしか考えていないといった様子。
「……ファス。あれ、強がっているだけだと思うべか?」
「いえ、本気でそう思っているように見えます。ご主人様なら軽く三日は悶々とするはずですが……一口に転移者と言ってもさきほどの三人の例にあるように、様々な人がいるのかもしれません」
「にんげんだものー」
のんきなフクちゃんの声が響き、四人はデルモと戦う吉井の元へ急いで行くのだった。
というわけで、ヒロインズでした。叶さんはこの辺の倫理観に関しては結構ドライみたいです。
次回は吉井君視点に戻ります。逃げに徹した吉井君のしぶとさはデルモに通用しているのか!?
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