第百五十三話:特技は持久戦
渾身の一撃だった。
……ぶっちゃけ、殺しちゃったかもってちょっと焦るくらいいいのが入っちゃった。
叶さんとアナさんの浄化が行われる前に倒しちゃまずいんだっけ?
「ゴボォ……グブゥ……か、身体が……り、竜の力は感じない……まさか単純な腕力だと……」
「よかった。生きてるか、まぁ仮にもダンジョンマスターだし一発じゃ死なないって思ってたよ」
「後先考えぬ馬鹿がっ! この場所がどこだかわかるか? ここは――ゴバアアァアアアアア!!」
言い終わる前に、手刀横面打ちから背手打で蠍となったデルモの足を二本へし折り、崩れた体勢にブチかましでもう一度吹っ飛ばす。
「幸い僕は【拳士】だからな。武器持ちと違って手加減は得意なんだよ。ギリギリまで……お前がいっそ死にたいと乞い願うまで……しばき倒す」
仕切り直し、合掌して呼吸を整える。爪先での運足を止め、踵をつけてしっかりと地面を踏む。
両の開手を中段に置き、半身の構え。
こっからは僕の喧嘩だ。
流石にダンジョンマスターとなったデルモは再生力もあるようで、へし折った脚が一瞬で治り、八本の足で金貨がうず高く積まれた壁際まで走る。
そこは前に見た黒い砦の一部分が取り込まれた形になっていた。
「こ、この。ここはこの街の穢れが集う場所だ。そしてこの黒壁こそが主の封印を解く鍵であり、【スキル】を――話を聞けェエエエエエエ!!」
踏み込んで拳を叩きつけるも、先程の倍の以上の触手に阻まれる。
防御が成功したことで気を良くしたのかデルモが喋りはじめる。
「は、ハッハッハ。そうだとも、ここはカルドウス様の封印に干渉しているのだ。そしてこの黒壁はかつての転移者が作ったもの、これがどういうものかわかるか?」
纏わりつく触手を【手刀】で切り落としつつ【流歩】で移動しながら、デルモを見る。
殴りつけたいが、触手が邪魔だな。
「【狩り場】が転移者のスキルで作られたってんなら、スキルを再現する道具とか?」
しょうがないので、会話して隙を探ろう。
スキルを再現しているってのはぶっちゃけ適当に言ったけど、デルモは頷いた。
「当たらずも遠からずだな。三十年前、ここで見つけたこの壁は真っ白だった。カルドウス様を封じる星の女神の封印が【スキル】として保存されていた。私は神官と共に街にカジノを作り、娼館を作り、借金を背負う者を増やし、人々の欲望を駆り立て、集めた穢れを地脈の魔力と共にこの壁に染み込ませ続けた。そして黒く染め上げた壁は封印の【スキル】を失った」
「そこに、都合よく僕等【転移者】が現れたってか」
「そうとも。この場所の【スキル】が消えようとも、主の封印は別の土地にもある。この場所の封印を解くだけでは不完全だった。ならばこの場所から莫大な穢れを流し込み、風船に針をさすように全てを破壊すればよいとカルドウス様より託宣があってな。もしそれが叶えば、この街の全てを授けてくれると約束してくださった」
人々を欲望に駆り立てる【扇動者】、金を集め支配を広げるための【幻術士】、ダンジョン化した後に魔物化した住人を操るための【魔物使い】。まぁ、相性はいいな。
「それで、塗りつぶしたその壁に三人のスキルを彫り込んだってわけか」
「魔物集めとして伝承にあった転移者だったからな、儀式にはより多くの穢れが必要だった。薬で理性を失わせた観客に【闘技場】での奴隷共の死体はよい捧げものになった。余った死体は魔物を呼ぶ餌にすれば良い。良い考えだろう? 転移者が来る前から、この街に染み込ませていた薬により準備は整っていた。後はより高位の捧げものがあれば儀式はなる。今夜はそれが叶う夜だ。聖女と姫を生贄することで、封印全体を砕くほどの莫大な穢れを生み出せる」
うーん、話しながら色々仕掛けたが触手が邪魔で攻め手に欠ける。
「つまり、街の穢れはその黒い壁に集まっている。叶さんの浄化はそこに当てればいいわけだ」
「それを知ってどうする? お前はここで私に囚われ、生き死にに関わらず私に操られるのだ」
デルモが鋏を鳴らすと、闘技場で見た黒いオーガが十体ほど現れた。
「言っておくが、魔物はまだまだいるぞ。どこまで持つかな? さぁ焦ったか? 急げ急げ。早くしないと街のダンジョン化が完成するぞ」
勝ち誇っているデルモを見ていると、逆に冷静になってきた。
転移のこともあってパニックになりそうだったけど、外には頭の回転が速いトアにTRPGマニアの叶さんもいるはずだ。それなら、多分……僕と同じこと考えると思うんだよな。
触手を切り払い、足を止めて正面からデルモに問いかける。
「デルモ、聞いていいか?」
「なんだ、命乞いか?」
「ダンジョン化ってさ。例えば上の闘技場が浄化されたら、どんくらいかかる?」
僕の質問の意図がわからないのかデルモが怪訝な顔をする。
「例えば叶さんもアナさんも一向に捧げものにできずに、上の闘技場が浄化されたらダンジョン化は遅れるよな」
「……」
「外の戦力に不安があるっていったのはそっちだろ? 浄化が終わるまでお前を倒せない。だけど攻撃はできる。遅延が得意なのはフクちゃんだけじゃない。……僕は別にこの状況を打破しなくてもいいわけだ。ファス達が来るのをゆっくり待てばいい。その後お前を倒す」
「……ダンジョンマスターとなったこの私、そして転移者の【スキル】とカルドウス様の力によって強化された魔物、そして触手で満ちるこの空間でただ耐えるだと? そんなことができるとでも思っているのか」
デルモが、鋏を鳴らし尾を振り上げ威嚇する。
「【呪拳:鈍麻】【呪拳:沈黙】。さぁ、どっちが音を上げるか確かめようか」
空間そのものが殺しに来るような氷の魔術、蜘蛛の女王の無邪気な殺意。
彼女達の攻撃相手に己を鍛え続けた日々が思い出され、自然と笑えて来る(ちょっと涙もでる)。
両の手に呪いを乗せ、僕は再び加速した。
※※※※※
「ご主人様がっ!!」
「マスター、どこー」
ファスが氷弾を撃ちながら、必死にその眼で真也を探すが、魔力に満ちた金貨の壁により阻まれる。
フクが正面の魔物を細切れにするも、すぐに別の魔物がやってくる。
「ギャハハ、あの【宴会芸人】なら化け物になったデルモの前だ。散々デバフの結界張って、強化した魔物も死ぬほど置いてるぜ。即死だろ即死」
「宙野が言ってたぜ、あの雑魚はどうしようもない人間で、元の世界でも価値が無かったってなぁ」
「あいつの粗末な物より、俺達の方が最高だって教えてやるよぉ!」
おおよそ人間を捨てた姿の張本が【煽動】に乗せた挑発と、同調するその他二人の罵詈雑言。頭に血が上ったファスが広範囲の大魔術を放とうと杖を掲げるがトアが制止する。
「落ち着くだファス。フクちゃん」
「【星守歌】トアさんの言う通りだよ。二人とも【煽動】は厄介だけど、落ち着いたら見えるものもあるよ」
トアが斧を投げ、魔物を牽制しながらファスとフクに合流する。
「……トア、私にだってわかっています。これが悪くない展開であることは……でも心配なのです」
「うん? マスターだいじょぶなの?」
「フクちゃん、よく考えるだ。オラ達の旦那様があの不味そうな蠍に負けると思うだか?」
「うーん……ぜんぜん思わないっ! あっ、なるほどー」
フクがポンと手を打つ。ちなみにこれは真也の真似である。
「そういうこと。真也君の打たれ強さは折り紙付きだからね。ほら、さっきから金貨の流れが一定で、鈍いと思わない? 多分真也君がデルモの注意を引いているんじゃない?」
「焦る必要はないだ。あの【転移者】達を倒して、旦那様を迎えに行けばいいだよ。時間が無いのはデルモも同じだべ」
「わかっています。ただ……ご主人様を侮辱したあの人達は許せません」
「私もだよファスさん。私って精神攻撃ほぼ無効にできるんだけど、やっぱブチ切れそう」
青筋を浮かべた、叶とファスが腕まくりをしてゆっくりと前に出る。
後衛二人が前にでたので前衛をしていたトアとフクと合流し横並びとなってゆっくりと前へ歩き出す。
「カナエ的には同郷の人間を殺してもいいだか?」
「同郷だろうが、異世界人だろうが人を殺すのは反対だよ。……でもね、あの人達は手遅れだよ。真也君は別の考えかもしれないけど、私はそう思う。丁度この場に真也君はいないしね」
「カナエはご主人様より、この世界に馴染んでいます」
ファスは広範囲の魔術ではなく。水の蛇たちを呼び出し。
必要最小限の魔力で、魔物達の攻撃を食い止める。
「よーし、コロス、誰が一番にマスターの所にいけるかキョウソウだー」
武器や魔術を構えながら、歩み寄ってくる女性陣に張本達は眉を顰める。
「チッ……【煽動】が入ってねぇな。聖女のバフか」
「【幻術】系のスキルもほとんど看破されてるっぽいぞ」
「ま、大丈夫だろ。いざとなったら、謝れば許してくれるって。まさか同級生を殺すなんてことは桜木みたいな女子には無理無理」
「なんなら、謝ってそこからだまし討ちとか」
「いいなそれ、ヨーチン冴えてる。まぁ適当に時間を稼げればデルモが吉井を殺してアンデッドにするか、生け捕りにして人質として寄越すっしょ。そうなりゃ余裕余裕」
その認識がどれほど甘かったか、三人は嫌と言うほど思い知ることとなる。
ボス戦でデバフを巻きながら、躊躇なく消耗戦をしかけ応援を待つ主人公がいるらしいっすよ。
次回:三馬鹿達VSヒロインズ
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