第百五十一話:玉座の守り人
振り切られた左拳、レオーネは火炎に焼かれながら壁まで吹っ飛び停止した。
ヒットが無言で拳を掲げる。
一瞬の静寂、そして夕立のような激しい喝采が降り注ぐ。
レオーネはヒットの姿を眩しそうに眺めた。
その背中に憧れ、指先まで模倣した闘士は憧れのままに強かった。
「薬よりキマるぜ」
自身を焼く炎が消え、それと同時に己を炙っていた焦燥も責任も消えるのを感じた。
そして限界が訪れる。
それまで抑え込んでいた。薬が身体を侵していく。
レオーネの身体は赤黒く染まり、角が頭から生える。
「レオーネっ!!」
異変に気付いたヒットが、走り出すが上空より降ってきた何かに阻まれる。
登場したのは華美な装飾をした中年の男だった。
「ホッホ、これは意外。まさか魔物化にここまで抗うとは……まったく、このまま死なれるのかとヒヤヒヤしましたぞ。ホラホラ、皆集合ですぞっ」
男のその声に、曲刀使いの双子、大バサミ使いの細男、戦斧のバルモが反応し関節を無視した動きで集合した。
魔人達は劣勢だったようで、至る所に致命傷と言えるほどの怪我を負っていたが筋肉が不気味に蠢き傷を塞いでいた。
ヒットに合流する形で他の千早、留美子、アナスタシアも合流する。
真っ先に反応したのは千早と留美子だった。
「あの男、確かこの街の司祭とか言っていた奴ね」
「え、えと、オレオ・ポルって名前だったよ【上級鑑定】……ジョブは……【悪魔司祭】っ!? 」
中年の男は、聖女一行がこの街を訪れた際に出迎えをしたオレオ・ポルと名乗る白星教会の司祭だった。
指で四角を作りそこからオレオ・ポルを覗いた留美子はこれまで見たことの無い【ジョブ】に驚愕する。
「これはこれは、聖女様のお付きのお嬢さん。本日も美しい、改めて名乗りましょう。私の名前はオレオ・ポル、偉大なる魔王【災厄の悪魔】を信奉する者にございます」
大仰に礼をした後に上げた面は、人のそれではなく豚の鼻に垂れた頬の醜いものだった。
「あんたがデルモの言ったもっとも信頼する者ってわけ?」
「左様です。アナスタシア姫、私こそが一介の商人だったデルモをカルドウス様に引き合わせ、この街のダンジョン化を提案した張本人ということですな」
自慢気にそう言っている間にもオレオ・ポルの身体はブクブクと膨らみ、人の姿で着ていた服を褌のように股間に巻きつけた巨大なオークに化ける。
その変貌に呼応するかのように【紋章】により停止していた魔法陣が再び明滅し始める。
「まったく、大した出力だ。すまない姫様、これ以上はセテカー殿による浄化が必要なようだ」
「この豚と周りの魔人をどうにかしないことには、どうしようもないというわけか」
ジュストコールを翻しながら中森 紬が前に出る。
その隣には弓を携えたナルミも立っていた。
「ホッホッホ、恐ろしい、恐ろしい。しかし敗北した王者は魔人となりました。下手なプライドが邪魔して今の今まで魔人化に抵抗していたようですな」
壁に持たれていたレオーネはゆっくりと立ち上がる。
その髪は逆立ち眼は紅く染まっている。
「レオーネ……」
ヒットが悲痛な顔で名前を呼ぶも、レオーネの返答はない。
魔人と化したレオーネが構えを取り、ステップを刻み始めた。
それに呼応するように回復した周囲の闘士達も構えを取る。
「ホッホッホ【魔獣使い】の転移者様によるバフがかかっていますぞ。さらにこの場所はカルドウス様の加護を受けたダンジョンと言っても過言ではありませぬ。例え【砂漠の精霊】がいようとも皆様には勝ち目は薄いですぞ」
「果たしてそうかしら、そのダンジョン化は大分弱まっているようだけど」
アナスタシア姫がアーチ状の観客席を指さすと、歓声を挙げていたはずの観客は正気に戻ったかのようにオレオ・ポルや他の闘士を見て悲鳴を上げ逃げようとしていた。
「ホッホッホ、そこの【紋章士】様のせいで一時的に正気に戻っているに過ぎません。そうですな……アナスタシア姫。貴女を生贄にでも捧げれば価値あるものの堕落をもってダンジョン化はすぐにでも再開するでしょうなホッホッホッ」
腹の肉を揺らしゲラゲラと笑うオレオ・ポル。
その後ろでレオーネが膝を曲げ、一歩踏み出した。
「【烈火飛燕】」
牽制するように千早が炎の飛ぶ斬撃を放つ、翼を広げた鳥のような斬撃がレオーネに迫るも打ち下ろしの右で砕かれる。
「チッ、強いわよ」
「彼は私に任せて、皆はさっきと同じように他の闘士をお願い」
「させませんぞ」
ヒットが前に出ようとするも、オレオ・ポルが掌を掲げると滝のように金貨が溢れ濁流のごとくパーティーを飲みこもうとする。
ヒットのみが咄嗟に【ステップ】で飛び上がるも、その先には同じく【ステップ】で飛び上がったレオーネが目の前で拳を構えていた。
他のメンバーがサポートに入ろうとするも、金貨の流れに邪魔されて一手遅れ、左拳を振りかぶったレオーネが空中でさらに一歩前に出て――。
そのまま空中でヒットをすり抜け、オレオ・ポルの豚面に拳を突き刺した。
「ブヒィイイイイイイイイ!!」
無様に叫び声を上げなら倒れるオレオ・ポルを見て、レオーネは笑った。
「ハッ、残念だったな。クソ豚野郎」
「な、ぜ……魔物化によって転移者様のスキルで隷属させられていたはずだぁ!」
逆巻く髪をかき上げ、レオーネが着地する。
その身体はヒビが入り少しずつ入り、崩れつつあった。
「あぁ、今にも死にそうだぜ。でも俺はまだ他の奴らみたいに完全に魔物化しているわけじゃねぇんだよ、ギリギリで踏みとどまっている。なら多少は抗えるだろ? ずっと、薬に逆らってきたからよぉ。もうちょっとなら……行けるぜヒットっ!!」
少年のようにレオーネは笑う。闘技場では決して在りえない共闘の提案を受けたヒットはマスクを脱いでそれを差し出した。
「最後の試合よ、チャンピオンがこのマスクを着けなさい」
「あぁ?……俺は負けたろ、コイツは受け取れねぇ」
「いいえ、レオーネ。貴方は勝利者だわ。闘技場を、王座を守り続けた」
レオーネがマスクを受け取り、静かに被る。
その様子をみてオレオ・ポルが叫んだ。
「……貴様は堕落していなかったのか……観客が正気に戻ったのは……この街のダンジョン化が遅れた本当の原因は……おまえかレオーネェエエエエエエエ!!」
それまでの余裕の表情が消えたオレオ・ポルが起き上がり、金貨の濁流を生み出しながら魔人に指示を出す。
しかし、アナスタシアが砂を操り金貨の流れを塞き止め、千早と留美子が紬とナルミの援護を受けながら魔人に肉迫し膠着。
そして、二つの足音が重なる。
二人の王者が、跳び上がり左の拳を振りかぶった。
「やめ、この、こんな、馬鹿な……ことがァアアアアアア」
オレオ・ポルが掌から金貨を出しながら必死で距離を取ろうとするも、すでに二人は間合いに入っていた。
「「【炎【衝拳】】」」
風船が割れるように欲望を詰め込んだオレオ・ポルの上半身が爆散する。
「……いいもんだな、王様ってのは」
「レオーネッ!」
消え入るようなその言葉にヒットが横を向くが、そこにレオーネはいない。
ただ、黒い灰とマスクがそこにあるのみだった。
次回は吉井君の視点に戻ります。
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主人公……出てないんですけどね……キリ番の150話をオカマに取られた男、吉井君の運命や如何に。
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砂漠編も佳境です。更新頑張ります!!






